文教大学国際学部

国際ニュースの読み方

国際ニュースの読み方

「新聞を読んで」 2008年12月6日(録音版はこちら
 

1. 12月です。この師走はいつもとはかなり様相が違います。さまざまな国内、国際情勢から来る不安感と不信感、そして一種絶望感にも近い重苦しさが年の瀬を満たしているように感じます。
 

2. 不安感は、この一週間の新聞紙面からも明らかです。ひとつはインドのムンバイで起きた同時テロです。今週初め、ホテルを占拠していたテロ実行犯たちは完全に制圧されましたが、その確かな正体は不明のままです。日本人は今どこにいてもテロに遭遇する危険があることを改めて知らされました。ビジネスであれ、観光であれ、人道的な国際協力活動であれ、いつ事件に巻き込まれるかも知れないという緊張感と不安感の中で、旅をしなければなりません。
 

3. タイの反政府市民グループによる国際空港占拠事件もそうでした。予期せぬ足止めに、持病のための薬や乳児のためのミルクが欠乏して困っている旅行者の姿が報道されましたが、年末年始の海外旅行を考えている人たちには、決して他人事とは思えないでしょう。
 

4. 連日報道されている国際金融危機はもとより、アメリカの自動車業界の危機も大きな問題です。ゼネラル・モーターズという世界の巨人企業の中でもまたその巨人であった大会社が、わずか2,3カ月間のうちに、このままでは年越しができないと政府や議会に泣きつく姿は、何という光景でしょうか。超大国ソ連の崩壊という歴史を世界は目撃しましたが、「超大国アメリカの終焉か」という思いが、報道から伝わってきます。800年以上も前の日本で生まれた平家物語は、「盛者必衰」つまり栄える者は必ず滅ぶと説きましたが、まさにそれをGMに見る思いです。
 

5. かなりの年月アメリカに住み、どちらかと言えば親米派の一人と感じている私でさえ、「アメリカはこんな国だったのか」という唖然とした思いにさせられたのは、3日付各紙が伝えたブッシュ大統領のABC放送とのインタビューです。朝日新聞は一面で目立つ形で扱っていましたが、これは十分その価値のあるショッキングなニュースだと思いました。
 

6. 大統領は在任8年間の最大の痛恨事として、「イラクに大量破壊兵器があるとしたアメリカの情報機関の誤った情報で、イラク戦争を始めたことだ」と述べたそうです。イラクの大量破壊兵器に関するアメリカのイラク情報が誤っていたことは、攻撃開始間もなく明らかになったことなので驚きではありません。しかし国連が大規模な査察を続けているにもかかわらず、アフガニスタンの延長線上のテロとの戦いという大義の下に戦争断行の決定を下したのは、他でもないネオコンと呼ばれた側近たちに囲まれていたブッシュ大統領でした。情報機関は、イラク攻撃が最優先課題の大統領や副大統領に対して、彼らの口に合うような情報活動を行っていたことが、最近日本でも翻訳出版された「CIA秘録」と題された本の中でも明らかにされています。
 

7. 今になって「情報機関の情報が誤っていた」などという後悔の言葉で済まされたのでは、近年日本に横行した産地偽装業者や料亭の女将たちが、「私は知らなかった、従業員が勝手にやった」という構図に似ています。イラクでの多大な犠牲と混乱はもとより、戦死した米兵は4千人に達し、その何十倍もの帰還兵士たちがいま深刻なトラウマに苦しんでいることがアメリカの大きな社会問題となっていますが、この事態の責任者は誰なのでしょうか。
 

8. 今アメリカでは戦争推進の旗振り役だったチェーニー副大統領の訴追問題が話題になっているようです。戦争犯罪を裁くために、2002年オランダのハーグに設置された国際刑事裁判所は、これまでスーダンのバシル大統領らアフリカの指導者数人を起訴していますが、イラク戦争の責任について、この刑事裁判所が活動できて初めて真の存在価値が出るように思いますが、アメリカはこの裁判所設立の条約に加盟していません。イラク戦争の責任問題は永遠に葬られることになりそうです。
 

9. 憂鬱な師走報道が続く中で、希望の持てる明るいニュースが4日の朝刊各紙で伝えられました。中でも毎日新聞を見ていると、「本当にやっとここまで来た」という新聞にはめずらしい喜びが感じられます。世界のクラスター爆弾を全面的に禁止する条約が、100カ国近い国によって、ノルウェーの首都オスロで調印されました。イギリスやフランスと並び、日本も中曽根外務大臣が出席して、調印しました。地雷に次ぐ第二の悪魔の兵器とも言われたクラスター爆弾の禁止に向けて、日本は、条約に反対するアメリカとは違う決定をしたのです。
 
10. 日本だけではありません。アメリカの軍事力に全面的に頼っているともいえるアフガニスタンが、アメリカの警告を押し切って、オスロで急きょ署名を宣言しました。カルザイ大統領からの直前の指示だったそうで、その時会場は大きなどよめきに包まれたとニューヨーク・タイムズ紙は伝えています。
 

11. このクラスター爆弾禁止条約からはいくつか教訓を学び取ることができます。ひとつは、軍縮は決して不可能な問題ではなく、国際世論を盛り上げることにより可能になるということ。クラスター爆弾は、軍人を同時大量に殺傷する目的で開発された兵器ですが、実際には多くの不発弾で、市民、特に兵器だと判断できない子供たちが犠牲になるという非人道的な兵器です。アメリカやロシア、中国はオスロ会議にも参加せず、条約を無視しています。しかし30カ国が批准すると効力をもつようになる条約は、来年前半にも発効する見通しだと伝えられています。中曽根大臣が日本の早期批准を期待し、爆弾廃棄のための資金協力を表明したのもいいニュースでした。
 

12. 条約調印報道から学ぶもう一つの教訓は、国際条約や平和への貢献は、今回大活躍したノルウェーやアイルランドなどの中規模国でも十分可能であるということです。今日本は、より国際貢献をするために、国連安保理常任理事国になることに夢中ですが、国連安保理の場では、他の常任理事国が拒否権をちらつかせれば機能マヒに陥ってしまうという問題があります。これは、日本が常任理事国になることで解決するわけではありません。今回ノルウェーは、安保理の中の三つの常任理事国が拒否する国際条約づくりにリーダーシップを発揮して、成功しました。日本の可能性を考える上で、参考になる話ではないでしょうか。
 

13. クラスター爆弾禁止条約作りでは、国とは別に、「クラスター爆弾連合」と呼ばれる世界のNGOも大きな役割を果たしました。この連合には、対人地雷禁止で活躍した日本のNGO連合も参加して、大いに活動したことがやはり4日付の各紙で伝えられています。オスロに始まり、世界各地でのオスロ・プロセスと呼ばれた条約作りの国際会議のすべてに、日本のNGO 代表として目加田設子・中央大学教授らが参加し、アメリカの反対を前に及び腰だった日本政府代表にも方針転換を迫る活動を続けたことが毎日新聞で紹介されています。
 

14. 今日本には、国連やNGOで活動したいという強い意志を持っている若者は数多くいます。私は職業柄、毎日このような若者たちと接していますが、国際社会で活動するNGOに参加できる人の数は非常に限られています。それは、日本のNGOの規模が小さく、毎年若者を取り込んで活動を広げていく余裕がないからです。またNGO専従の職員たちの待遇は決して恵まれたものではありません。日本政府は日本人の国連職員を増やすために、相当額の資金を国連に出して日本人職員を派遣するJPOと呼ばれる制度を設けて成果を挙げていますが、国際NGOでの活動家を増やすために、外務省や国際協力機構は、若者を日本の国際協力NGOに派遣するNGO・JPO制度のようなものを検討できないものでしょうか。海外で活躍するNGOがどれほど日本の信頼を築くのに貢献しているか、政治家たちにももっと見つめ直す努力をしてほしいと願わずにはいられません。
 

15. 国連安保理ですら今、現地情報に詳しいNGOを協力のパートナーと見るようになっているといわれます。国際社会に貢献する人的資源という面では、国連職員に劣らずNGO職員も重要です。賛否はありますが、アメリカの国際開発援助ODAの非常に大きな部分がNGOを通して使われているという例からも、日本のNGOはもっともっと強化されるべきではないでしょうか。
 

16. それにしても、クラスター爆弾禁止条約報道では、3日付の社説に始まり、4日付では1面はもとより総合面や国際面の計5ページの大半の紙面を割いて、詳しく報道した毎日新聞に比べて、日頃から平和と軍縮にことのほか思い入れのある紙面を作っている朝日新聞のお付き合い程度の報道ぶりはいかがなものでしょうか。国際面ではそれなりに取り上げているとは言え、1面では実に控え目に「クラスター爆弾禁止条約に署名」という2段見出しだけ。これでは何の事だか分かりません。読売新聞は、同趣旨の白抜き3段見出しに加え、「日本など100か国、条約来年にも発効」と副見出しがありました。せめてこれぐらいの扱いの価値がある国際協力の成果、それがクラスター爆弾禁止条約の調印だったと私には思えるのですが。