『教育研究所紀要第8号』文教大学付属教育研究所1999年発行

公民館施設設計の思想と施設評価

金 子 勝 明

(文教大学付属教育研究所客員研究員)

要  旨

本研究は、日頃、公民館施設を利用する一人として、また、建築士の目からみて必ずしも、地域住民が満足する状態ではない場面に、まま遭遇する。そこで、公民館施設は、地域住民に対してどう開かれているのか、公民館施設はいま何を語っているのかを促え、前述の問題点が少しでも解決できるような方法を見いだすことにある。今まで、公民館に関しては学習思想の面から多く論じられてきたが、本論はこれらと異なり、公民館施設が地域社会にどう働きかけているか、施設設計の面から論じた。

研究の意図と方法

公民館施設は、地域住民に開かれた施設でなければならないが、実際には外観の思想に追われて使う人の意図が薄れていたり、見える部分だけが売りものになったりしている。
本研究では、これらの公民館という施設がどう実態に合っているのか、施設が何を語っているかを考察し、建築士としての視点から提案をするために調査をしたものである。調査内容は次の通りである。
調査1.公民館施設の歴史(年代的に規模、種類、思想がどう変わってきたか)
2.適切な学習の場としての施設となっているか。
3.施設設備は充実しているか。
4.地域づくり、公共の学習施設としての役割をどう果たしているか。
5.設計意図と施設の使われかたの違いがあるか。
6.施設利用者の意図が設計に組み込まれているか。
7.施設設計(基本的に何を盛り込み、どういう特徴を持っているか)
8.施設編成(区割りや使われ方、特に健常者の目でつくられていないか)
9.公民館の計画から建設に携わった人はどういう人達か。
10. 補助金を受けるために施設の必要な部分を削らなければならなかったり、見える部分だけが売りものになっていたり、という点がないか。

T.公民館施設設計の基本思想

公民館発想の原点は、1946年1月、大日本教育1月号で発表された「公民教育の振興と公民館の構想」、寺中構想ともいわれるものである。この原点に続いて1946年7月、「公民館の設置運営について」、1946年12月、「公民館の建設」といった公民館構想が発表され、各地に公民館が次々と設置されるようになり今日に至っている。
そこで、公民館施設ができ始めてから30年、40年と経過する間に、公民館施設の設計に対する考え方がどのように変わってきたか、建築思想の視点から公民館施設の歴史を第1期〜第4期に分けて捉え、第1にそれぞれの時期がどういう公民館の施設なのか、第2にそれぞれの時期の公民館の施設設計思想を歴史的に論じる。
今まで、公民館に関しては、学習思想の面から多く論じられてきたが、本論では今までのこういった分けかたに従わずに公民館の施設設計の特徴から次の4期に分けたい。
第1期の公民館……社会教育法制定までの時代では、1948年前後で、公民館施設が建設できなかった頃。
第2期の公民館……公民館の建設が目的の時代では、1950年代、60年代で、法のもとに施設がつくられた頃。
第3期の公民館……バリアフリーの設計の時代では、1980年前後で障害を待つ人や高齢者に配慮した設計の頃。
第4期の公民館……空間の取り入れと競争の時代では、1990年前後で施設の大型化と外観のデザインが目立ってきた頃。

1.第1期の公民館

(1) 公民館の特質
第1期の公民館は、1946年7月全国の都道府県知事宛に出された文部次官通牒「公民館の設置運営について」や「公民館の建設」といった公民館構想によってつくられ始めたものである。
この時期の公民館施設は、荒廃した国土や、憔悴した人々の心を救わなければならないという使命感と共に、民主主義の学習や郷土産業の振興、文化交流などを推進した。また、生活上の問題や職業の指導を受ける場としての施設という考えで、町村民が集合したり、お互いの交流を深め、郷土の文化教育を受ける教養的施設であった。
1948年4月には、公民館の一層の充実を図るために、教育刷新委員会が建議した報告書の中で「社会教育の物的並びに人的条件を整備すること」として公民館職員の重要性を建議した。これは公民館施設そのものより職員の重要性を問うもので、公民館施設の多くは、空いている建物を利用するというものであった。
この時期は、まだ貧困から脱し切れないでいる国民に施設をつくるという考えはあまりなく、施設を事業として捉えるという形で浸透していった。
(2) 施設設計の思想
公民館施設設計思想の面では、「明るく、便利に、開放的にという考え方で、明かり取りを多くし、入り口を広く数多くつくり、気軽に出入りし、親しみやすく寛ぎやすい家庭的な雰囲気にする」という考え方があった。
当時は法に基づいての公民館の施設設計ではなく、まだ新築が難しい時であり、既存の空いている建物で学校、図書館、公会堂、道場、寺院、などを利用するということで公民館施設として充当していた時代であったので公民館施設設計の思想がまだ生まれていなかったと考えられる。
公民館の施設編成の面でも、教室、談話室、講堂、図書室、作業室、娯楽室、などとあるが、これらを別々に設けるのではなく、一室で全部を賄わなければならない時代であった。
文部次官通牒によると、「最小限度の要求として講堂(教室兼用)、図書室、娯楽室、作業室の4つは備えたいと思う」という希望があったが、この頃はまだ人々が物質的にも、精神的にも満たされていなく、一室でも集まる場所があればよいということが本旨であった。

2.第2期の公民館

(1) 公民館の特質
1949年6月、社会教育法が制定され、その後の公民館建設に大きな影響を与え、市町村、公共団体が設置する法律に基づく公共機関となった。
これまでの公民館は、貧困から脱しきれないでいる人々を救うのが目的であり、集まる場所さえあればよいという考えで、そのほとんどは学校、図書館、公会堂などの空き室を利用するというものであった。このころの日本の経済をみると、1949年から1950年前半はインフレーションからデフレーションの時代で失業者が続出した。
公民館施設の建設に関しては、まだ日本の経済が安定しているとはいえない時代であり、第1期の社会教育法制定前とさほど変わるものではなかった。
1954年に入ると、日本の経済は、世界経済の安定で不況から脱出し、生活水準も上がり始めた。日本の経済の発展と平衡して同じ年に社会教育審議会建議「社会教育施設の整備について」が発表され、公民館施設整備費の国庫助成が開始された。
1959年には、社会教育審議会答申「公民館の設置及び運営上必要な基準について」が出され、公民館は社会教育の事業を行う中心的な教育機関として位置付けられた。
1967年、社会教育審議会の報告「公民館の充実振興方策」では、特に施設設備について「社交、談話、休憩に適する部屋、クラブ、展示、軽スポーツ、レクレーション活動のための部屋、託児室、団体宿泊のできる部屋」の必要性を説き、「住民のオアシスとしての魅力を持った公民館づくり」を提起した。
しかし、1960年代の公民館は、社会の急速な動きに振り回されたことと、後半は長期の経済成長でその多くは職業を重視し、公民館の設置は続いたものの、あまり振り向かれない存在であった。
(2) 施設設計の思想
施設設計の思想の面では、1959年の社会教育審議会答申「公民館の設置及び運営に関する基準」が出されるまでは、公民館という施設を具体的に捉えることができなかった。
公民館の設置及び運営に関する基準は、それ以後、公民館施設を設計する指針となったが、つくられた施設は必ずしも基準通りではなかった。その理由には次の点があげられる。
@地域に施設設計者が不足していた。
A施設があればよいというくらいの考えで、基準に対して認識が薄かった。
B経済的に地域格差があり、一様にはいかなかった。
Cごく一部の人だけで基本計画をし、実行していた。
D経済発展が先で社会教育に関心が少なかった。
これは、公民館施設に関して、設計思想の面ではまだあまり芽生えていなかったといえる。

3.第3期の公民館

(1) 公民館の特質
1970年代は、目まぐるしく社会の構造が変化し、人々はなかなかその流れについて行けないという時期であった。一方において急激な都市化で社会の連帯意識が希薄化し、もう一方においては高学歴化による学習要求の高度化といった現象が出てきた。 この時期は、社会構造の変化に対応するため、壊れかけた地域共同体から新しい地域共同体をつくろうという「市民意識の形成を目指す生涯教育センター」の建設が最も重要であると考えられていた。
1981年に入ると、中央教育審議が「生涯教育について」を答申し、人々の障害各期の人間形成や生活課題を解決するのに多様な教育機能を考慮しなければならないという見解で次の3点を出している。
@地域社会における学習活動の促進。
A活動のための機会及び指導者の充実。
B社会参加の促進。
これは条件整備をして地域社会の向上と市民の意識を高めるのが目的であり、新しい時代に即応する公民館の位置と役割を提示している。
(2) 施設設計の思想
これまでは、公民館施設を地域の設計者と地域の建設会社が請け負うというかたちが多かったが、この頃から名の売れた建築家や大手建設会社が地域の物件にまで進出しはじめ、今までとは違った発想とデザインで住民の目をひく建物が立てられはじめた。
こういった建物は、洗練された設計と建築技術で今までの施設よりも高度化しているのは事実であるが、一方において高齢者や障害を持つ人の目から見ると、バリアフリーの問題は、実際に建てられた施設から、まだまだ健常者の見た目でつくられているところが多いということがわかる。
しかし、公共施設にはバリアフリーの考えを取り入れるということに関して、地域住民、設計者、施工者にも一段とその考えが浸透した時期でもある。

4.第4期の公民館

(1) 1984年には、公民館連合会から「生涯教育時代に対応する公民館のありかた」が提言され、障害学習時代における公民館の目指すべき事業の方向の打ち出しがあった。さらにこの時期の社会を見ると、1981年後半には第2次オイルショックも終わり、比較的安定した社会で余暇にかける時間が持てるようになってきた。
社会では、経済が安定してくると学習行動に出る人がさらに増えて、一層充実した施設が要求されるようになり、社会教育の中心施設としての中央公民館が取り入れられるようになった。それは、公民館施設を新たな社会に適応するように変革するということでもあったのである。
文部省は、1988年に生涯学習局を発足し、その後、生涯学習に一層拍車がかかり、本格的な生涯学習時代が到来した。
公民館としての考えは、社会教育法20条の目的はもとより、生涯学習関連施設としても重要視されるということである。
公民館は、生涯学習機会を提供する場としてだけでなく、住民同士の連帯感を深めるためにも、地域住民にとって欠くことのできない施設となっている。
(2) 施設設計の思想
第4期の公民館施設は「新しい時代に即応する公民館の位置と役割」という考えと、経済的な安定から施設の大型化と斬新さが目立つようになってきたのが特徴である。
公民館施設設計思想の面では、生涯教育、文化活動、コミュニティーといった多種多様な学習活動に応える総合的な社会教育の拠点としての複合施設が多くなった。
複合施設では、施設の大型化と外観のデザインに重点をおいた設計思想の建物が現れ始めた。
外観のデザインは、特に1980年代の終盤から1990年代の初め頃まで、異常な高経済状況に乗ってその傾向が強く出ている。
その傾向は、まるで行政と行政の間の競争になっていて、住民を無視しているのではないかと思えるものもある。
設計手法のもう一つは、1980年代の後半から室内に大きな空間を取り入れるという設計思想が多くなった。
空間の取り入れは、室内が明るく快適な建物になっていて、今まで、その地域には全くなかったような使い方の施設ができ上がっている。地域住民は、その建物をほんとうに使いこなしているのだろうかという疑問がわいてくるのである。
もう一つの疑問は、施設の維持費は大丈夫だろうかという問題だが、建物には使い方、使われ方があり、あまりかけ離れているものは使いにくいし、維持費がかかりすぎてしまうという弱点もあるのである。

U.公民館施設設計への提案

これからの公民館は、生涯学習社会における多様な学習機会の提供や学習活動の援助、さらに地域の生涯学習施設の中心施設としての役割がある。
今回の調査では、ここ10年の間に建設された公民館施設を調べて見て、「ゆとりのある空間」を取り入れている施設を、利用者が本当に自分のものにしているだろうかという疑問が出た。
それまで公民館施設は、地域住民が気軽に利用できる施設という考えだったが、予想より外観のデザインが突出していて、町並みより一段と豪華さが目につく建物が多く、学習の場である施設をどこに視点をおいて計画したかということである。
公民館施設が、行政の間で見栄の競争になっていたり、維持管理費が予想以上に負担になっていたり、といった点がないか、気になるところである。そこで、こういった問題点を考察しながら、施設設計の提案をする。

1.公民館の外観と思想

(1) 外観か内部思想か
今回の調査では、ここ10年間に建てられた公民館施設を中心に調査をしたところ、その結果から公民館施設の主体は外観ではなく内部の設計思想が重要であることがわかった。
外観は、本来、環境との調和や優れたデザインで人を引きつけたり、人に語りかけて中に招き入れたりといった働きがあるが、それ以上に内部から出てくる設計思想が重要であるということである。その根拠をあげて見ると次のようなことがいえ
る。
@外観が斬新な建物だからといって利用率が高いということはない。全体的にグループ活動など一定の団体が継続して利 用していることが多く、内部の施設が整っていれば人は集まる。
A公民館施設を調査をしていると、公民館長や施設利用者から、外の格好よりも実際に使い道の多い託児室が欲しいとい った要望が多い。(調査3)
B障害者用トイレを、障害を持つ人が実際に使って見て、使いにくいという意見が多い。
障害者用トイレとして設置されていればそれで済ませてしまうという意にもとれる施設が多く、それは、健常者がの視点で設計しているということで公民館施設の基本でもある誰でも一緒に、と言うことにならない。(調査8)
Cトイレでは赤ちゃんを載せる台なども要望されている。外観よりもこういった内部の心遣いが大切である。(調査6)
D1階は車椅子でも利用できるが、2階に車椅子で行く設備がない。これは地区館に多く見られた。(調査3)
E目玉としての本館ばかりに資金をかけるのではなく、皆が使う近くの施設を使いやすくしたい。(調査2)
以上のようなことから、公民館施設は、誰もが使える場所として、学習内容や目的に応じた施設設備を整えることが大切なことであり、施設設計の思想は、外観そのものではなく、内部の設計思想から出てくる表情(態度)が大切なのである。
今回の調査では、この表情(態度)は、設計者と計画に携わった人たちの態度と責任の現れであり、その人たちが責任を持って基本計画をつくりあげていかなければならないということがわかった。
外観は、あまり若向きにできていると、高齢者はその雰囲気に押し返されてしまうであろうし、逆にあまり高齢者向にデザインしてしまうと、若者が集まらなくなってしまうということが起きてしまう。また、公民館施設が外観にとらわれすぎてしまうと、施設の中身が粗末になりがちで、地域住民に適切な公民館施設として保障されないということになってしまうのである。
公民館施設は、外観も大切な表現のひとつだが、それには中身(使われ方)がよく表現されていなくてはならない。
調査(調査1、2、3、6、)から、中身ができてその中身の思想が外観に伝わることによってはじめて外観が生きてくるのである。
中身のよさが自然と外観に現れるというのが公民館施設設計の理想であり、それが内部から出てくる表情なのである。
外観の善し悪しをきめるものは、なぜ内部から出てくる表情なのかということだが、先進地の施設を見学したり、いろいろな人の意見をきいたり、することも大切であることはいうまでもない。
行政の担当者や建設委員は、プロの企画設計を見てうなずくだけではなく、よいモデルを参考にしたり、施設利用者側に立って、実体にあった使い方や使われ方を研究しなければならない。時間をかけて内面的なところから研究し、利用者の意図が設計にどう生かされるか、設計者と一緒に企画に参加して行かなければならないのである。
行政の担当者や建設委員が、真剣に企画に参加しないと利用者から理解されない建物ができてしまい、行政と市民のパートナーシップがくずれてしまって、表面だけが売り物の建物となって利用者のための建物とはならないのである。
(2) 利用者に見せる表情
公民館施設は、それを利用する人たちに見せる表情が大切だということを示す事実や出来事として、次のようなことがいえる。
@利用者との話し合い……公民館施設を利用する人が求める諸条件をあまりよく聞かないで基本計画を進めている。
行政の多くは、公民館施設の建設を計画するとき、社会教育課が担当し、設計業務の委託や工事請負契約については関係部課に依頼して事業を実施している。この時、建設委員が選ばれて建設に参加する例が多いが、その多くは設計事務所から出された基本設計を見るだけで肯定してしまうか、あまり論議に参加していないというのが現実である。(調査9)
最近の建築設計では、企画の段階から提案して行くことが多く、一般に次のようなプロセスよっている。

-----建築計画の領域-----
|------          ---|
企画…計画条件…基本…基本…… 実施…建築
    の 設 定   計画   設計    設計
             |-        -|
             建築設計の領域

設計者は、上のようなプロセスで計画を進めるが、その中で一般的な計画は当然考えているが、それはあくまで一般的社会条件であり、必要以上の条件については利用者との話し合いによれなければならないのである。
A建設委員の大切さ……多くの設計者は、生きた建物を設計しようと心掛けている。だからこそ「建築を利用する人々の立場から求められる社会的条件、物理的(生理的)条件、そして心理的条件や技術的条件」を汲み入れて設計するのである。
また、設計では、その地域の文化を取り入れたり、外部の環境に合うように設計することを試みているので、利用者が全く意見を述べなくても立派な施設が誕生し、それなりに利用できる施設が出来上がる。しかしそれでは行政の担当者と建設委員がいる意味が薄れてしまう。
設計者は、建設委員たちの意見を聞くことによって、はじめてその施設に建設委員たちの心を入れることができるのであ
る。特に障害をもつ人たちの意見を一緒に考えて行くことが重要であることはいうまでもないが、調査(調査3、6、8)からその形跡はあまり見られない。
今までの基本計画では、障害をもつ人たちが実際に計画に加わるのではなく、設計者にしても、行政にしても、今までに出されている障害者用の資料をデータによって処理することがほとんどであった。
B施設設計の現状……他市にもあるからとか、このへんには何も施設がないからといったかたちで、公民館を建設したところもあり、施設としての基本的な考えがあまりない中での建設では、施設の充実は難しいともいえる。
今回の調査では、きちんとプロジェクトを組んで意見を出している市はごく僅かであった。そういうきちんとしたプロセスを踏んだかどうかによって建物が生かされているか、あるいは利用者の意図が聞き入れられているかがわかるのである。
施設を造る時は、依頼者側もきちんとしたプロセスを踏んで真剣に議論し、利用者の意図と設計者の意図のズレがないように計画しなければならない。その上で結果的に同じ建物が出来上がったとしても、企画に携わった人達の施設に対しての意識が全く違うのである。
(3) 使われかたか近隣の競争か
今回の調査では、近隣との競争について次の3点に気付いた。
@肝心な内部の細かい役割機能を後回しにして、必要以上に行政間の競争意識が働いて、建物の空間や外部デザインに資金をかけ過ぎている。その結果、複雑な外部構造の修理や掃除にかかる費用が大変、空間が大きいと空調の費用がかかり過ぎる、ライトアップなどの電気代がかかり過ぎる、といった声があった。
A各施設を平日に調査して回ると、立派な外観で、職員もいるのに各部屋はあまり利用されていないところが多かった。これは施設が立派だから人が集まるとか、イベント的な施設だから人が集まるという考えは当てはまらなかった。
Bほかの地域にもある施設だからこの地域にも取り敢えずつくるという配慮であって、施設の役割とか先見性においてやや希薄である。
以上の点から考えても、対外的なところが先で施設としての役割をあまり議論しないでつくられた建物が多いといえる。
これからの公民館は、施設としての役割の細部まで真剣に考え、幼児のいる人や障害を持つ人たちからの使われ方や、その人たちの立場に立った姿勢、利用者側に立った姿勢で、基本計画に取り組んで行かなくてはならないということである。

2.それには何を盛り込むか

ここでは、学習の場である施設をどう計画するかということにつながるが、第1にこれからの施設環境であり、第2はバリアフリーの建築の再考であり、第3に施設整備費と維持管理の問題がある。ここではこの3つの視点について論じる。
(1) これからの施設環境
これからの施設環境では、臨時教育審議会第3次答申生涯学習の「基盤整備後段」でいう次の3点から、生涯学習の中心施設としての役割について論じる。
@インテリジェント化について……インテリジェント化については、「新しい通信機能を備えた施設環境の整備」ということで情報通信機の導入により、施設全体の機能の向上をいっている。
A空間の整備について……「自然や、文化環境と美しくゆとりのある空間の整備」についてでは、自然や文化環境と合わせ ながら開発するのは建築界では当然の考えだが、ゆとりある空間の整備については、施設の使い方の方向性と外部空間とのつながりを考えたうえで内部空間を取り入れて行かないと、あまり意味のない空間になってしまうということがいえる。
表面だけの施設ではなく、内部の表情(態度)も生かされなくてはいけないということである。
B多目的利用の促進について……「施設の多目的利用の促進」では、社会教育施設のみならず学校や研究所なども利用範囲に入れるということである。
特に学校に関しては、教える場所といった感覚が強く、自分たちの意志に関係がなくそこに集合させられる子供たちを対象としたもので、どうしたらそこに大人たちが集まってくるかといった考え方や、使われ方は考えられていないという点であ
る。そこで、学校利用の場合は、空教室など、どう使われたらいいかを検討し、学校というイメージをぬぐい去った上で利用した方が効果的である。
(2) バリアフリーの建築の再考
バリアフリーの建築の再考では、形式的なものの考えではなく、障害をもつ人や高齢者のことを、その立場に立った考えで実行に移して行かなくてはならない。
バリアフリーの件では、どこの行政、どこの施設をみても床の段差をなくすとか、障害者用のトイレを造るといったことは常識だと思われている。しかし、その殆どは形式的で、障害をもっている人や高齢者も使うことができる施設、という考えから脱皮していない。
本来、公民館施設は、誰もが一緒に利用できる施設であり、障害をもっている人も一緒に生活できる、一緒に利用できるといった施設という考え方が根底になくては、本来の意味の施設設計にはならないのである。
今までの施設設計では、データにある規格や寸法で計画するというやり方が多いが、データはその表面だけの理解であり、障害を持つ人の身になってみないとわからないことは、障害をもつ人にも基本計画のなかに入ってもらって一緒に計画することが大切なことである。
設計に携わる人や建設委員に選ばれた人は、個々の障害について正しい認識をもって企画に参加する構えが必要であ
る。
この問題に固執する理由は、そこまで考えを深くして造った建物と形式的にスロープを造ったような建物では人に対するその表情(態度)が全く違うからである。
(3) 施設整備費と維持管理費
施設整備費と維持管理費の問題では、人の目をひくような斬新なデザインと大きい空間を売り物にしている公民館施設があるが、そういった施設を計画するときに施設整備費や維持管理費の計算をしたのだろうかという点である。
建設した公民館施設を、利用者が十分使いこなしているものならいいが、行政と市民との間で十分な話し合いがないままの企画や行政間の競争とも思える施設づくりは危険であると同時に、使い方、使われ方もあやふやで決してプラスにはならないということである。
施設は、長いあいだ使えるようなものにし、且つ、負担のかからないものでなければならないというのが原則である。しかし、建築家や行政が素晴らしい建物だと誇っている施設の殆どは莫大な維持費がかかっているのが現状である。
維持費については、殆ど市で市民にわかるようなかたちで知らされていないのが実体である。どこでも施設を造るときの予算はあらかじめ計算するが、維持管理費については完成してから、予想していた以上に出費することに気が付くのである。
維持管理費については、はじめから正確な数字を出すのは難しいが、基本計画の段階でよく考えておかなくてはならない。

3.誰に向かって開くか

これまでは、ハード面での施設役割について論じてきたが、結論としては、外側に対してはどう開くか、内側に対してはどう開くか、ということになる。
(1) 外側に対して
外側に対しては、どこの公民館のパンフレットを見ても、だれもが、皆で一緒に使える施設という内容ではなく、外観や部屋の広さ、調理器具や備品などの案内が主であり、施設は立派なほうが優位だという誤解がある。
公民館施設を、調査で回ると、立派な施設を持っているところは外観やデザインを誇らしく説明してくれるし、逆にそうでないところは他に立派な施設があるから参考にくださいという返事が返ってくる。
広くて外観の優れた施設は、見学会や研修先としてよく選ばれたりするが、形式的には内側に開いていると見せながら、運営の面などでは外に開いている部分が大きい。
外側に対していえることは、施設の大きさや外観ではなく、地域住民が、どう利用したいと思っているか、公民館施設が地域社会にどう働きかけるのかを優先しなければならないということである。
(2) 内側に対して
公民館の建設では、企画に参加している人は特定の人で、内部設計において高齢者や障害をもつ人の意図があまり建設に生かされていない場合が多い。
内側に対しての表現では、完成している建物を見ると法律や規格で決まっている程度の表現でしかないことが多く、利用者の立場に立って企画したとは思えない施設もある。
今まで内側に対しては、誰にでも開かれた施設といいながら、細かい施設役割の不備があり、研究の不足があったのである。 しかし、公民館施設は、地域住民のためのものであるから、施設役割の細部にまで気を配り、内側に対して、利用する人の立場に立って、優先的に開かれたものでなければならないことを提案する。

残された課題

公民館施設は、時代と共に斬新になり、ハード先行といわれるように施設・設備が充実してきている。また、優れた外観が出現し、優れたデザインで人を引きつけたり、人に語りかけて中に招き入れるという働きを持っている。

しかし、外観は、内側ではなく外側に向かって開いているのではないかという考えから、本論では、公民館という施設が地域住民にどう働きかけているかを、建築士であることを背景に考察してきた。
本論を書くに当たっては、つくられた施設がその後どう影響しているかといった「施設に語らせる」ような先行論文が見当たらなく、建築士としての仕事を背景にした知識からの展開で考察してきた。
そのため、狭い視野からの展開と、研究不足から十分な論理展開ができず、今後は全方向的な視野からさらに深く研究し、考察しなければならないという課題が残った。

引用・参考文献

1)公民館資料集成 1986年 初版 横山 宏・小林文人編者 エイデル研究所
2)公民館長必携 1977年 3版 埼玉県公民館連合会
3)生涯学習施設経営の今日的効用 1989年 初版 吉川 弘・角替弘志編 第一法規出版
4)生涯学習化社会の教育計画第1巻 1990年 初版 矢野眞和・新井克弘編著 教育開発研究所
5)公民館・コミュニティーセンター 1997年 初版 有田桂吉ほか著 市ケ谷出版社

 


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