このテーマでは、韓国の歴史教科書(小学校・中学校)とともに、日本の小学校・中学校の歴史教科書を展示した。双方を容易に比較して見られるように、日本による韓国併合に関する記述を取り上げた。
日本の教科書は、展示時点で使用されていた教科書(1999年検定/2000〜2001年度使用)と、その前のもの(1995検定/1996〜1999年度使用)とを比較掲示した。言うまでもなく、日本の教科書は検定制だから、1種類ではない。使用された全ての教科書を取り上げた。
まず、韓国の小学校歴史教科書の当該部分の記述に関するパネル内容である。
【パネル】翻訳で見るように、見出しは「民族の受難」である。その後に続く罫囲みの2つの内容もやや情緒的に見える。この頁(原本107頁/翻訳109頁)に当時の概説があり、次頁からは、「武力による抑圧」の実態が多くの写真を駆使して語られる。興味深いのは、子どもたちの学習成果の形式が採られていることである。(この教科書では折々に子どもが学習成果をまとめるという体裁が採られている)。ここで目につくのは、1〜4班のまとめの標題にいずれも「日帝」の文字が踊っていることである。今日、日本の子どもは、この語を聞く機会はほとんどないであろう。
日本の小学校教科書の場合はどうだろう。
【パネル】現行の教科書は5種類(5社発行)である。
この5種類のうち、4種類の教科書には、「日本人の間に、朝鮮(や中国)の人に対する差別意識が広まった」との記述が見られることにお気づきだろうか。その記述の仕方に対する印象を一言で言えば、「判で押したような」という表現が一番ふさわしいように思われる。ご覧になられてどのようにお感じになるであろうか。
次は韓国の中学校歴史教科書についてのパネルである。
【パネル】小学校と同様、「韓国併合」に関する部分を取り上げることとした。この部分は、大きな柱立てでいうと「XIV 民族の独立運動」に含まれる。その1が「民族の受難」である。この標題は、小学校の場合と同じである。韓国の中学校教科書は、基本的には検定である。しかし、「国史」については小学校同
様、国定教科書を使用している。歴史教育が政治と結びつきやすいという指摘を想起させる。日本の国定教科書時代に、南北朝が明治政府の判断で南朝正当説に書き換えられた事実もある。
さて「民族の受難」中の小見出しを列挙すると次のようになる。すなわち「国権の侵奪」/「憲兵警察統治」/「土地の侵奪」/「産業の侵奪」である。事実をどう表現するか、見出しの文言にも韓国政府の思いが込められていそうだ。
日本の中学校の歴史教科書に関するパネルのポイントは、次の点である。
「記述に微妙な相違があるのは、小学校の場合と同じである。しかしながら、総じて「大同小異」の感がある。挿し絵なども、同じ写真や図が使用されているように見受けられる」。
歴史教科書を巡る日本と韓国・中国との紛争の元となった扶桑社の教科書を特別展示した。この教科書は、2002年度から使用のもので、展示時点で入手できたのは市販本として刊行されたものである。
【パネル】この教科書は、韓国・中国からの抗議があって、検定済の後、さらに若干の修正が行われた。以下修正する部分と修正しない部分を列挙しておこう。
@ 修正する部分……「韓国併合」について「韓国の国内には、一部に併合を受け入れる声もあったが」について、韓国は「極少数の親日派をわざと浮き出させて記述している」と抗議。「一部に」
以下を削除。
A 修正しない部分……「韓国併合のあと、日本は植民地にした朝鮮で鉄道・灌漑の施設を整えるなどの開発を行い」という点につき、韓国は「開発がまるで朝鮮住民のためであるかのように歪曲している」と抗議。開発の事実はあるということで、修正せず。
最後に、韓国併合に関する条約について、次のようなパネルを用意した。
【パネル】「韓国併合」に関する条約とはどのようなものであったのか。不思議なことに、これほど問題視されている事柄であるにもかかわらず、その基となった条約そのものを掲載している教科書は必ずしも多くはない。
歴史教科書(教育)の問題の根はここら辺りにもありそうに思える。