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第11回「世界の教科書展」  

 


特集
イギリスの教科書

2004年11月12日〜14日/8201教室

 

 

 はじめに

 イギリスは、1970年代、「英国病」と呼ばれる構造不況に苦しみました。伝統の上にあぐらをかき、努力を怠ったのが原因です。その中で政権を握った保守党のサッチャー内閣は、1988年、教育改革法を成立させ、ナショナル・カリキュラム導入をはじめとする国家主導の教育改革を行い、学力について国が責任を持つことを明確にしました。

 英国病を克服した今日においても、この政策は基本的に引き継がれています。国際競争力の維持・向上のために、能力の高い労働力の育成が重要だと認識されているからです。労働党を率いる現ブレア首相は、教育を最優先事項とする公約を掲げて総選挙を戦いました。2001年6月には、それまで教育部門を担当していた教育雇用省が分割され、新たに教育技能省(Department for Education and Skills,DfES)が誕生しました。

 今回の特集に際し、教科書の選定と購入において、今春、文学部を退職し、ロンドンに渡られた春海聖子先生に全面的な支援をいただきました。また、各教科書のパネル原稿は、教育学部の石川裕之先生、加藤一郎先生、近藤研至先生、三木一彦先生、山縣朋彦先生に執筆していただきました。

(2004年度研究部主任 白石和夫)

 

(以下,展示パネルより抜粋。イギリスのカリキュラム・教育改革等についてのパネルは省略しています)

 各教科書について

 「英語」の教科書

 今回展示したテキストブックは、小学校用が「Letts」出版社、中学校用が「Heinemann」出版社です。

Letts版English
魔法使いを中心としたキャラクターたちに導かれて英語を学ぶというスタイルがとられています。学習者の興味を喚起することを狙ってか、ふんだんにfantasticなイラストが描かれています。
内容は、発達段階に従って徐々に高度になってはいるものの、どの学年のものも、大きく分けて「表記」・「言語事項」・「文章構成」・「内容解釈」を同程度の割合で含んでいて、それぞれは独立した単元として配列されています。具体的には、

(1)「表記」:「句読法(ピリオド・クエスチョンマークなど)」・「スペリング」など。特に低学年では「表記」を多く含む。
(2)「言語事項」:「語彙」(同音語・同意語など)・「文法」(「品詞」・「話法」など)にわたる。
(3)「文章構成」:「はじめ・中・終わり」から始まり、高学年ではもう少し複雑な文章構成について、「効果的な文章の書き方」ということを意識して書かれている。「韻」などレトリックに関わる分野もある。
(4)「内容解釈」:長い文章を提示するのではなく、比較的短い文章の理解を、問いに答えるというかたちで配列されている。

  となっています。その他、「辞書の引き方」や「手紙の書き方」や「マニュアルの作り方」などがあります。「俳句」についての単元があるところは驚きです。(図略)
日本の国語の教科書が「読むこと」に比重を置いてあるのに対して、全体として、言語そのものや、言語技術の側面に比重を置いたテキストブックになっています。

Heinemann版「access English」
本テキストは、日本の教科書のイメージとはまったく異なったものになっています。日本では、教科書にはいくつかの読み物が掲載されていて、それを授業で先生に導かれて読む活動が主流と言えましょう。それに対して、本テキストには、解説や活動などがセクションごとに既に書かれています。教科書・学習参考書・ワークシートが一体となっていると形容するのが適当かもしれません。テキストに従って学習者が学べるようになっています。 二分冊になっているのですが、内容はどちらも共通して、大きく3つに分かれています。

(1)「読み物Literature」:
1では、主に物語の構成について解説されています。いつ・どこで・だれが・どうした・どうしてなどに、注意することが繰り返されます。そして、そのような構成を学んだ上で、自分で「話をしたり」「物語を作ったり」することへと移行しています。
2では、物語には「ジャンル」というものがあるということから始まり、「学校の物語」「SF」「おとぎ話」「怪談」「推理小説」「詩(俳句を含む)」「脚本」「シェイクスピア」と、それぞれの構成について述べられています。そして、それぞれを作成する活動を要求しています。

(2)「ノンフィクション」について:
「報告書(レポート)」・「インタビュー」・「説明文」・「広告」・「マニュアル」・「アドバイス」・「雑誌」・「インフォメーション」などの「作成の仕方」について述べられています。状況が公的であるか私的であるか、それぞれのジャンルはどんな「目的」を持った表現なのか、「読者(聞き手)」はだれなのか、など、それぞれの異なりによって文体が使い分けられることに注目させています。(図略)
また、「調査の仕方」や「意見」の作り方や「議論の仕方」などや、新聞とWeb-pageといったメディアのちがいに応じたコミュニケーションについても述べられています。この「ノンフィクション」がテキストの多くを占めています。

(3)「言語事項」について:
初等教育のテキストに比べ、言語事項についての説明はそれほど多くありません。動詞の基本形・過去形・進行形などや助動詞や主語の問題が少しの分量書かれているにとどまっています。

  初等用テキストも、中等用テキストも、「言語」や「文章・発話」の、「構成」の解説に多くの紙面を費やしています。「読解」が中心となる日本の「国語」の教科書とは、大きく違ったものになっていると言えるでしょう。

(教育学部 近藤研至)

  「地理」の教科書

初等学校
今回とりあげた教科書は、オックスフォード大学出版局による初等学校用の教科書“Geography Success”5冊です。
このうち、入門書にあたる “Starter Book”(2年間用)では、教室にあるものから始まり、学校・家から街路・交通機関へと徐々に目を外に向けていくような構成がとられています。それ以降は、1〜4巻まで、1年で1冊使用するようになっています。
本パネルに示したのは(図省略)、4巻にある東京のページです。世界の諸都市という項目で、ロンドン(イギリス)・ナイロビ(ケニア)・リオデジャネイロ(ブラジル)とともに取り上げられています。
特徴としては、歴史的項目の充実(東京遷都や関東大震災・東京大空襲などを紹介)や、現在の東京がかかえる都市問題への注目(写真の説明文では、通勤事情や物価の高さを記述)があげられます。また、日本を身近に感じられるように、日本企業の名をあげたり、家にある日本製品を探したりする課題が設けられています。

中等学校
今回とりあげた教科書は、ハイネマンHeinemann社による中等学校用の教科書“Geography Matters Higher”2冊(各1年使用)と地図帳1冊です。
イギリスやヨーロッパの気候・地形を学ぶ章のほか、世界の地震・火山・洪水といった自然災害を扱った章や、河川・海岸を取り上げた章など、自然地理的内容に多くのページが割かれています。また、日本の地理との違いとして、「世界のスポーツ」・「商業の過去・現在・未来」・「犯罪と地域コミュニティー」といった章が目につきます。
本パネルでは2巻にある「犯罪と地域コミュニティー」中のページを示しました(図略)。オックスフォード市内の犯罪状況が盗難・車両犯罪などに分けて地図化され、説明文にはそれを用いた地図読み取りの例が記されています。
一方、地図帳では、自然や産業を項目別に取り上げた主題図が比較的多く、一般図(各大陸図のように地形や行政区画などを網羅的に示した地図)の精度は、日本の中学校で使用されているものほど高くない印象をうけます。

(教育学部 三木一彦)

「歴史」の教科書

初等学校
 取り上げた教科書は、GINN社発行による初等学校用の歴史教科書です。時代ごとに、カラフルなイラストレーションのついた分冊となっていて、それぞれ、わかりやすい表題がついています。 例えば、『古代エジプト』、『古代ギリシア』、『侵略者と入植者:ローマ人・アングロ・サクソン人・ヴァイキング』、『探検と出会い:探検航海・アズテク族』、『チューダー朝とスチュアート朝時代』、『ヴィクトリア時代のイギリス』、『1930年以降のイギリス』です。

 また、適時に、意見の分かれている歴史上の問題について、考察を促すような質問がついています。例えば、イギリスの植民地支配については、次のような質問がついています。

  【視点】 ヴィクトリア朝時代の多くの人々は、自分たちが侵略した国々の人々にヨーロッパの習慣と統治形態を持ち込むことで、彼らを助けていると考えていました。 この考えは正しいと思いますか?

 また、第二次世界大戦については、次のような質問がついています。

  【視点】 ドイツの町は、イギリスの町よりも激しい空襲を受けました。イギリスとアメリカが、ドイツの町を爆撃したのは正しいと考えている人もいますが、この戦略は間違っていたと考えている人もいます。 あなたはどう考えますか?      

中等学校
 取り上げた教科書は、ハイネマン社による中等学校用歴史教科書“THINK HISTORY !”2冊です。
 『歴史を考えよう!』という表題とおり、生徒たちが、さまざまな歴史上の事件について、歴史資料を踏まえながら、自発的に考察することを促すような構成となっています。このために各節の表題は、すべて疑問文となっています。

(教育学部 加藤一郎)

 「公民」の教科書

中等学校
 今回とりあげた教科書は、ハイネマンHeinemann社による中等学校用の教科書 “Citizenship in Action” 二冊です。
 英国の教科書の特徴は何でしょうか。外観は薄く、大判で、写真を多く使い豊かな色を纏い、手に取って開けてみたくなるようです。
 開けて目次を見てみましょう。章の数は二冊とも六つしかありません。では章の題名はどうでしょうか。皆さん方が昔使った公民の教科書と比べてみてください。そして内容はと頁を捲ると、最初に受けた印象は、一層強くなります。さらに読んでみると、興味はますます高まります。問題の提起によりその章での学習の目標を学習者にはっきり示し、身近な活動の実践から入って、より大きく、抽象的で原理的な問題へと進むことで一人一人が自分の力で考えることが出来るように成ることが、筆者の狙いであり、自律した人間が公民の資格だと筆者はみなしているようです。(図参照略)
 また、第一巻第三章「動物愛護」、第二巻第二章「地域社会の余暇とスポーツ」の二章が、英国と日本(あるいは昔の日本と今の日本)の社会の違いをあらわしているようです。

(教育学部 石川裕之)

(「公民」は2002年8月より、中等学校以上において必修となった)

 

 「理科」の教科書

 理科(Science)の内容は、日本の学習指導要領においては、小学校では、A領域(生物とその環境)、B領域(物質とエネルギー)、C領域(地球と宇宙)と分類して学習内容を規定しています。中学校では第1分野(物理学及び化学)と第2分野(生物学及び地学)として、教科内容が決められています。教科書もこれらに準ずるように教科書検定で規制されています。

  これに対して、イギリスでは各キーステージで4つの分野(Science enquiry:科学の方法、life processes and living things:生命過程と生物、materials and their properties:物質とその特性、physical processes:物理現象)に分けて、学習内容を示しています。Science enquiryは、データの扱いや、解析方法などの科学の方法についての内容なので、実際には他の分野を学習する際にそれに付随して学習されるようになっています。従って、教科書等で現れるのは3分野です。以下に理科のナショナルカリキュラムについて、抄訳を示します。(省略)

 以上のうち、キーステージ2とキーステージ3のSc4物理課程の中の「地球と宇宙」の内容について、実際のテキストを示しました(図略)。
 ここに示しているキーステージ2のテキストは、自宅学習で使われるもので、自習用のワークブックのようなものです。見開き2ページで、カリキュラムの内容(a-d)をコンパクトにまとめてあります。
 キーステージ3のテキストは実際に学校で使用されているものです。これも、見開き2ページで一つの話題が完結するようにまとめてあります。「地球と宇宙」に関しては(a-e)のナショナルカリキュラムを整理して、全部で6つの話題で、12ページの記述があります。ここに示しているのは、惑星に関する記述です。このテキストの特徴は、タイトルに疑問点をあげて、それを説明するような感じで構成されていることです。いわば、記述としては、箇条書き的なものになっているので、教室で先生が授業をした後の復習的な使用がされているのではないかと考えられます。

  また、イギリスでは、各キーステージの目標に到達するかどうかは、生徒のみならず学校においてもその責任を問われるので、大事なものとなっています。そこで、テキストは、試験対策にもなりそうな記述になるのかとも思われます。(勿論すべてのイギリス教科書について調査がすんでいるわけではないので、一般論を述べるにはまだ早計である。)

(教育学部 山縣朋彦)

 「算数・数学」の教科書

初等学校
“Letts M〜 Maths”は、家庭学習用教材です。アメリカでは算数・数学のことをmathといいますが、イギリスではmathsです。

1.幾何
イギリスの幾何教育には対称(symmetry)を重視するという特徴があります。図(略)は2年生(日本の小1にあたる)用の教材ですが、その後の学年でも対称は重要な学習内容となっています。

2.負の数
負の数は、4年(小3)で学びます。負の方向へのカウントダウンを通して導入されます。ただし、負の数の計算は扱いません。(図略)

3.データ処理
イギリスの数学教育の特徴は、データ処理に力を入れていることです。図(略)は、5年(小4)用の教材ですが、その特徴がよく現れています。データの分類にベン図を利用しています。

4.計算
計算指導の進み方は日本より遅いです。しかし、計算ができることよりも、計算の原理の理解に力点が置かれています。図(略)は6年(小5)の内容ですが、普通の筆算とは異なる計算のやり方を考えさせています。

中等学校
“Impact maths”は中等学校数学の教科書です。

中等1年(日本の小6に相当)の教科書

(1)負の数
この学年で負の数の増減を学びます。エレベータ(lift)を利用して、たとえば、−2階から3つ上がったら何階になるか考えさせています。なお、イギリスでは、日本でいう2階が1階で、1階は0階です。(図略)

(2)数の並び
日本では高校で初めて学習する「自然数の列」に相当する内容を小学校から継続して学習します。ここでは、三角数、四角数、フィボナッチ数列を扱っています。フィボナッチ数列とパイナップルの関係って知ってました?(図略)

中等2年(日本の中1に相当)の教科書

(1)Mental Maths(暗算)
イギリスの算数・数学では暗算を重視しています。ただし、日本のように、正確に、速く計算することが目標ではなく、計算の仕方を工夫するのが目的です。(図略)

(2)回転対称
イギリスの幾何では、線対称や点対称のほかに、日本では扱わない回転対称が出てきます。120°の回転は、3回続けて実行すると元に戻るので、位数3の回転対称といいます。(図略)

(教育学部 白石和夫)

 「情報」の教科書

初等学校
 “RIGBY ict connect”は、初等学校向けの情報科のテキストです。
 ICTは、information and communication technology の略です。情報を伝え、また、得た情報を整理・加工する技術のことです。
情報教育が始まったばかりの日本ではコンピュータに触る教育ですが、ICT教育の先進国イギリスでは、国語や算数などの基礎教科との関連がしっかりしています。

・図(略)では、音声言語によるコミュニケーションをとりあげています。声に出して読んでみましょう。これは3学年用(日本の小2)の教科書です。

・図(略)では、プログラミング言語LOGOのタートル・グラフィックスを扱っています。タートル・グラフィックスは、相対座標に基づくグラフィックスで、亀に進む距離と曲がる角度を指示して絵を描きます。4学年用(日本の小3)の教科書です。

・図(略)では、オブジェクトベース・グラフィックスを利用して回路図や設計図を描いています。5学年用(日本の小4)の教科書です。

・スプレッドシートは当然のように利用されています。イギリスの特徴は、モデリングに関する教育が進んでいることです。(図略)  6学年用(日本の小5)の教科書です。

中等学校
“ICT Matters”は中等学校の情報技術のテキストです。プレゼンテーションとモデリング、データ処理が中心です。

中等1年(日本の小6に相当)

(1)プレゼンテーション
プレゼンテーション技術では、ビットマップ画像の性質、文字フォントの選び方、サウンドの利用、アニメーションなどの見せる技術を扱っています。
(2)情報収集
情報の集め方として、サーチエンジンの使い方、情報の信頼度の確認の必要性などが扱われています。
(3)リーフレットの作成
リーフレットの作成を通してさまざまな情報技術の利用法を学習しています。
(4)モデリングと数値データの表現
現実世界の問題を数値データに置き換えて行うシミュレーションが中心テーマです。ここでは、スプレッドシートを利用しています。
(5)データ処理
データベースの使い方を学習しています。データからどう結論を導くかにも関心があります。
(6)制御とモニター
自動制御の原理を扱っています。流れ図を書いて、模型の制御を体験しています。

中等2年(日本の中1に相当)

(1)公衆情報システム  (2)Web出版  (3)情報の信頼性、妥当性、偏り  (4)モデルと数値データの表現 
(5)情報システム

(教育学部 白石和夫)

       

                                                       

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