講座内容

講座１　「教材の関連性や多様なメディアを活用した算数・数学の授業改善」
教育学部　町田 彰一郎

　今年度のサイエンス・パートナーシップ・プログラム（ＳＰＰ）は、小学校教員研修と中学校教員研修に分け、8月2（水）・3日（木）を小学校、3日（木）・4日（金） を中学校として行った。今年は、コンピュータを活用した教材開発に向けて行われた。
　研修の内容は、当方であらかじめ用意しておいた著作権freeのキャラクターや2年生から中学校までの各学年で振り返って活用が出来るようにした九九表などと、コンピュータルームで使用可能な作図ツールCabri GeometryやEXCELのグラフ機能などを使って、パワーポイント上に画像やテキストを張り込み、アニメーションや各種プレゼンテーション機能を使って授業に活用出来るような技能研修を行うことであった。その後、模造紙やＯＨＰの代わりにパワーポイントを使った授業を構想し、それを教室ないしコンピュータルーム上のパソコンに保存し、教材データベースや振り返りによる再発見や教材の関連性の追求などに活用出来るようにすることが目的であった。
　中日の3日の午後には、小学校の先生方と中学校の先生方の意見交流の場を設けた、そこでは、中学校の方からすでに小学校で学習した内容でも中学校段階での定着度が良くないという指摘があった。また、小学校から文字の使用が激減したことを受けて、中学校での正負の数へ入 る前に、式指導や数の間の“きまり”に着目した指導と か、概念間の関連性への配慮、既習概念の振り返りによる再構成などが、各学年を超えて、さらには、小学校と中学校の間の学校種を超えて、今後より重要になる点なども指摘された。こうした点の改善にも、今回のようなハイパーテキスト教材の開発やそれを使った授業構成、教材のデータベース化などの試みが有効になると思われた。当初は、文部科学省が教室に2台のインターネットに接続されたパソコンの設置を呼びかけている割には、各学校段階でこうした設備が整っていないことなどから受講生の数を心配していたが、現実にはとりあえず、所期の目的を達成した人数が確保できた。
　受講生による教材作成の事例としては、小学校では、九九表の間の決まりを見つけていく教材、図形の分類、式のきまりや、多角形の面積などの題材があった。特に、九九表の活用事例は、当方が最初事例に挙げたこともあってかなり多くあった。中学校では、図形教材のアニメーションによる説明や、作図の仕方のデータベース的な扱いの事例、関数教材などがあった。2日間の研修でやり残した作品で希望する方の修正をお手伝いしたが、この方法で教材を作ると、一つの題材でも様々なアプローチが可能であることを知った。

　　　

 

講座２　「理科授業の実験・観察に関連した興味ある現象」
物理領域「光の反射・屈折とその応用」 教育学部　中島 俊典)

　中学校の理科で学習する内容は広範な科学技術の基礎をなすきわめて重要なことがらであるにもかかわらず、表面的な現象だけを取り上げて簡単に扱っているので、何の役に立つのかわからず生徒の興味を引きつけられないことがある。そこで、光の反射と屈折を取り上げて、この基本的な現象が従来からの光学機器だけではなく、新しい高性能の装置でも利用されていることについて、いくつかの実験を通して教員自らが考えて理解を深め、基礎的な学習指導の重要性を感じてもらうように企画した。
　光の反射と屈折は単純な現象で、光の最も基本的な性質である。しかしながら、その応用範囲はきわめて広い。研修では、初めに光の反射と屈折について基本法則の確認後、組み合わせ反射鏡による集光、虹の観測、組み合わせた2枚の鏡等による光の反射について実験と検討をした。光の全反射については、半円形レンズによる全反射、光ファイバーによる光伝搬、ファイバースコープによる物体の遠隔観測等の実験を試み、さらに、球面鏡による光の反射と結像の特性を観測した。光の屈折に関して、レンズによる結像特性を作図と実験で確認し、レンズの基本性能である焦点距離の測定、顕微鏡やカメラ等の結像についても検討した。
　次に、光の反射と屈折の新しい応用技術を取り上げて、基本的な現象が果たしている役割を確認した。内容は、ＣＤの構造と読み取り用光学系の特性、光通信のシステム、集積回路の焼き付けに利用するステッパー（縮小投影型露光装置）の光学系、光の全反射を利用する微小変位測定装置についての解説である。また、新しいレンズと光学素子として、非球面レンズ、光の回折を利用する回折光学素子とホログラム光学素子、さらに、研究が続いている屈折率分布型レンズ、平板マイクロレンズ等について構造と特性を紹介した。
　本研修は教員の自己研鑽が目的であり、研修の内容を直接授業の中で生かすことではない。しかし、そのまま授業で利用できる全反射や虹などの実験も含めた。このような実験を教員が実施して、生徒にも光の現象について興味を持ってもらえるとよい。
　研修全体を通して簡単と思われていた現象が、意外と奥が深くて、きわめて広範な応用があるということを参加者に理解してもらえたようである。身近にありながら光の反射や屈折を意識しないで使っている装置や先端的な機器の仕組みの一端を知り、関心を持ってもらうことができた。一方で、研究開発の段階にある光学素子は単純ではなく、また、参加者が初めて見聞きするものであるので、簡単な説明にとどめ、基礎的な現象と最先端とのつながりを理解してもらうようにした。
　研修に付随する効果として、研修に参加した小中学校の教員と、学校で利用できる実験装置や実験の授業の状況について意見を交換し、大学での教員志望者への教育の参考とすることができた。

物質領域「実験を通して身近な物質の意外な性質に接する」 教育学部　大橋ゆか子

　中学校理科第1分野の物質領域で扱う内容は、小学校高学年での学習内容を抽象化した概念でとらえ直す過程であり、視覚的、体験的な小学校理科授業との断絶が起こりやすい。今回は、中学校理科で扱う身近な物質の性質を視覚化する工夫の体験をとおして、抽象的概念への抵抗感を減少させる「視覚化教材」の重要性を確認することを目的とした。
研修は以下の様な構成で行った。
１）分子模型の活用：　紙製模型も含めた数種類の分子模型を使い、デンプンとセルロース、キチンとセルロース、ポリエチレンの単結晶構造、フラーレンとグラファイトを用いて、分子の立体構造から化学的性質が理解できることを体験した。
２）燃料電池の原理の理解：　炭素棒電極を用いた電気分解を行い、電源をはずした電極間に発光ダイオードを繋いで電池として機能することを確かめた。炭素棒の長さと発電量の比較、金属電極との比較を行い、炭素棒細孔中の気体による燃料電池の機能を考えた。
３）気体物質の視覚化教材：　大気汚染物質である酸化窒素気体を発色させ、気体を視覚化して捉えることにより、環境教育の教材としても活用できることを示した。
４）金属アルミニウムの化学性：　7種類の金属に対して、塩酸及び水酸化ナトリウム溶液を加え、アルミニウムが酸に対して耐性が強いことを確認した後、アルミニウム板に塩化水銀を塗布し、アマルガム化したアルミニウムが空気中の水と直接反応することを確認する。アルミニウムの性質と酸化皮膜状態のアルミニウムの違いが明確になる。
５）酸化アルミニウムの特殊な構造：　アルミニウム酸化皮膜を電気分解で作成し、染料溶液に浸けて染色することにより、酸化アルミニウムが細孔をもつ構造であることを視覚的に確認する。この細孔構造がアルミナの特徴的性質の原因であることを確認した。
６）結晶が染色できる実験：　中学校では、結晶化で不純物を分離すると学習するが、カリミョウバン飽和溶液で染料溶液を作ると、色の付いた結晶が成長する。特殊な例であるが、結晶に色を付けられること、規則には必ず例外があることを学ぶ例として有効である。参加者は小学校教員2名と中学校教員5名であった。物質領域の学習対象は、小学校と中学校で大きな差異はなく、定量化や規則化の違いであることから、参加者の学校種の違いは大きな問題とはならないと考えた。フラーレンに関しては、始めて触れる物質であり、かなり興味を示して観察に当たっていた。発展的学習が行われることから、小学校教員も教材作成について積極的な態度であった。参加者は殆どが自己研鑽のため参加しており、積極的であった。配付資料は、現象の理論的説明部分も図を入れて詳しいものを作成した。
　大学で行う現職教員研修と、教育委員会など教育現場が主体として行う現職教員研修は、自ずと目標が異なると考えるが、その点が充分に理解されていない場合があると思う。今後、参加者の意見も聞きながら、より有効な研修の方向を見付けていく必要があると考える。参加者同士が指導における問題点を話し合う時間を組み込むことも必要であると思うが、今後の課題である。研修の開催時期、研修期間の長さ、研修内容について、教育委員会と今後とも意見の交流を重ねることも必要であろう。

生物領域「生物と環境−水の汚れと珪藻」　教育学部　出井　雅彦

1．目的　生物と水環境の関わりについて考える一つの教材として、河川に生育する珪藻を用いた水質判定法を提供した。珪藻は水の汚れに応じて出現する種類が変わるため、生物と環境の関わりを教える適当な生物である。しかし、珪藻の種の同定は容易ではないので、PCを利用して簡単にできるシユミレーションシソフトを用いて、水質判定法を体験する。
2．予定した内容　（1）導入：珪藻とはどんな生き物かをパワーポイントとテキストを使って紹介する。（2）採集：実際に野外に出て、元荒川から珪藻を採集。（3）採集サンプルの観察：生きた珪藻の色や動きを観察する。（4）採集サンプルの処理：安全で簡便な方法で細胞内容物を除去する。（5）永久プレパラートの作成と観察：珪藻殻の観察。殻の形や構造を観察。簡単な種の同定。（6）珪藻と水質環境：PCを使った河川環境教育用シユミレーションシソフト「シムリバー」による水質判定法を体験する。
3．実施概要　珪藻についての基本的な事項を、テキストやパワーポイントを用いて説明した。次に珪藻が実際にどのような場所に生育し、どのようにしたら採集できるかを野外（河川）で実施した。参加者は意外な所に、そして至るところに珪藻がいることに驚いていた。また、簡単に採集できることを初めて知ったようである。採集した試料を生で顕微鏡観察し、採集場所（環境）によって生育する珪藻が違うこと、そして珪藻が運動することを確認した。さらに詳しく観るため、永久プレパラートを作成し、珪藻の殻の細かな模様を観察した。副講師の真山氏を中心に開発された河川環境教育用シユミレーションシソフト「シムリバー」を用いて、水質判定法を体験した。全員がそれぞれ任意の水質を設定し、モニター上に現れた珪藻を同定しながら、それぞれの種類が何個体出現したかを表に記録、計数し、その結果を式に当てはめ、数値を求め水質判定を行った。
4．成果　珪藻という生物が、実際に野外に出て自分自身の目で生育地を確認することで、初めて身近な生き物であるとの実感を得たようである。多様なミクロ生物の世界を、身をもって感じたようである。河川環境教育用シユミレーションシソフト「シムリバー」を用いた水質判定は、授業または総合の時間に使ってみたいという答えがあり、現場でも使える教材を提示できたものと手応えを感じた。また、このような教材を広く知ってもらうためにも、他の研修会等でもやって欲しいとの意見もあった。また、副教材として配った珪藻の立体写真集が非常に好評であった。
5．留意点・課題　今年度は昨年の課題を踏まえ、予定した内容に対する時間配分を考え、特にシユミレーションシソフトを用いた水質判定に時間を割いた。参加者が5名と少ない点は残念であったが、全員が中学校教師であり、個人差が少なく指導し易かった。もう少し多くの人に参加してもらえる工夫や対策が必要と感じた。