文教大学付属教育研究所 紀要第10号(2001年発行)

カリフォルニア州アラメダ郡のTEEN COURT

−「少年法廷」活動の意義と可能性(1)−

矢作 由美子
(文教大学付属教育研究所客員研究員)

要 旨

カリフォルニア州アラメダ(Alameda)郡の3つの市を中心とした少年法廷(DoNALD P McCULLUM YOUTH COURT , INC)について紹介する。まず、この少年法廷の設立経緯について述べ、次に、少年法廷の手続きと活動実態について紹介する。さらに、現地調査の報告として少年法廷についての意識調査結果(参加少年と保護を対象)をまとめた。その結果を踏まえながら、今後の少年法廷活動の意義と課題について検討する。

はじめに
米国では、少年問題をどのように位置づけるかによって、各州ごとに制度の相違があることからも、安易に一般化した話は出来ないが、本稿ではカリフォルニア州の少年司法制度の中でもユニークな取組みをしているDoNALD P McCULLUM YOUTH COURT , INC(以下、「MYC少年法廷」と称する)について紹介する。

1. MYC少年法廷の設立経緯について
1999年7月、MYC少年法廷の立案者であるディスティファーノ(Distefano,P.)と会い、設立経緯について話を聞いた。MYC少年法廷を始めた理由については、@彼女が高校生時代に保護収容施設に送られ時、施設内での不満があったこと。A彼女が立ち直ってから、オークランド市内にあるMcClymonds High Schoolの教師となり、TEEN COURT(YOUTH COURT)を知り、やってみようと思いたったそうである@。その時、彼女の設立ゴールは、「常に弱者の人権に目を向け、彼らを支援し続けていく姿勢を子供たちに伝えたい」として、協力を得ていった。そして、1993年MYC少年法廷が創設された。設立当初は、オークランド市内の少年を対象とし、アラミダ郡弁護士会、McClymondes High School Law & Government 学園、青少年プロベンション局、警察署、上級地方裁判所などが、運営面での相互協力体制をつくっていった。その後、MYC少年法廷の活動が高く評価され、1998年、隣接する2つの市(アラミダ市とペドモント市)も加わる事となり更に広がった。具体的な活動については、以下の章で紹介する。

2. MYC少年法廷の手続と活動実態 
(1) MYC少年法廷の手続
MYC少年法廷は、カリフォルニア州刑法1001,01において法的に保障されており、同世代の少年たちによる処分決定権が認められた法的拘束力あるものである。また、福祉と施設に関する法律(Welf&IC)645条にある通り、「保護観察官(Probation Officer)は、少年を少年裁判所に送致する代わりに、本人と保護者の同意を得て6ヶ月を超えない範囲で、少年が少年裁判所の管轄に入るような状況を正すために、監督に関する特別のプログラムを考慮することができる」としている。こうして、2つの規定がある事からも、カリフォルニア州で行なわれているTEEN COURTは、少年裁判所送致前の保護観察の一環として行なわれているものであるA。
軽犯罪を犯した少年に関する少年法廷の処分手続きは概ね次のようになる。
@ 当該少年の前歴調査
A 青少年サービス局担当者との相談
B MYC少年法廷スタッフとの協議
C MYC少年法廷扱いになったことを当該少年および家族に通知
C この時点で、当該少年は、少年法廷扱いになったことに同意するか拒否するかを決定しなければならない
D 同意した場合は、罪を認めたことになり、以後処分について異議を唱える事ができない。 
E 異議を唱えるなどの権利放棄の見返りとして、少年法廷の処分を終了した少年については、班歴等の記録が残らない。
この様な手続きが出来る条件としては、@アラミダ郡に住所がある少年、A12歳から17歳までの軽犯罪を犯した初犯の少年であることが条件となっている。罪種別にみると、盗み、芸術文化の破壊、学校への侵入、公衆トイレの落書き、軽い殴打や不法行為、万引き行為などが主である。
少年法廷の主要な処分は、少年法廷で陪審員義務を果たす事や社会奉仕活動、ワークショップへの参加等である。具体的にどの様な活動かは以下で説明する。

(2) MYC少年法廷の活動実態
@ 審理は月1回(夏休み中は2回)
A 1回に8件の審理
B 開廷時間は17時半〜20時
C 法廷は2つある。
D 14〜18歳の少年が陪審員・検察官・弁護人・廷吏などの役割を入れ替わりつつ担当する。
E McClymondes High School Law &
Government 学園の生徒はリーダー的存在。
F 裁判官は若手の法律家、ロースクールの学生、教育学博士課程の学生等がボランティアとして参加。
G 成人の裁判官は、コーディネーター的存在で、参加者全員に少年法廷の意義等を説明している。
こうして、MYC少年法廷を終了した少年たちが、どのようになっていったかは、1996年に事務局で独自の調査を行っている。その調査結果によると、この少年法廷プログラムを終了した少年の再犯罪率は、10%であった。それに比べて、この様なディヴァージョンプログラムを選択しなかった少年たちの再犯率は、30%を越えていた。他の少年法廷でも同様な調査結果が出ている。再犯率の点を強調している点については、資金援助者へのわかりやすい説明でもある。しかし、それだけで少年法廷を評価するものではない。現在、少年法廷については、全米調査が行なわれており、ワシントン・DCにある都市研究所が連邦政府から委託を受け報告書を作成中である。その報告書を入手次第、改めて報告したいと考えている。以下では、MYC少年法廷についての意識調査を報告する。

3. MYC少年法廷についての意識調査
まず、参観した際に参加少年に対する意識調査を行った。内容としては、この少年法廷についてどう思っているか記述式で尋ねた(当日の対象少年を除く)。また、保護者への調査は、これまで義務終了時に事務局が随時行なってきたアンケートを一部提供してもら
った。それをまとめる。ただし、どちらも調査対象人数が少ない為、一般化した分析は出来ないが、MYC少年法廷についてさらに明らかに出来ればと思う。

(1) 参加少年に対する意識調査
1.調査手続と項目内容
調査は、MYC少年法廷の参加少年に対して実施した。審理前に質問紙を配り、帰りの際にそれを回収するという方法をとった。回答者数20名(その内訳は、義務遂行少年11名、ボランティア少年9名)であった。
2.質問内容;記述式
@「このプログラムについて、どう思いますか?」
A「このプログラムに参加して、利点(プラス)になることは、何かありましたか?」
B「このプログラムに参加した後、あなた自身について、何か新しい発見は、ありましたか?交友関係、キャリア、ゴールなどについて、どのような影響がありましたか?また、あなた自身/それともあなたの将来(未来)に違いがありますか?」
3.調査ポイント
表1に、「参加少年たちの意見」をまとめて
みた。この表では、まず、義務遂行少年とボランティア少年に分け、それぞれが、このプログラムについてどのように考えているか、4つのポイントにしぼりながら整理し、さらに、積極的な意見と消極的な意見に分けた。4つのポイントは、以下の通りである。
1.参加少年たちの意識は、どんな点で違うのか。
2.この少年法廷に参加して良かった点と納得がいかない点について。
3.参加少年たちが、少年法廷を通じ何につ
いて気づいたか。
4.被害者に対して「償う」ことの意識が参加少年に伝わっているのかどうか.

<結 果>
簡単に表1を概説する。まず、積極的な意見として義務遂行少年から見ていくと、「同世代でよかった」、「記録に残らない」など、このプログラムの特徴的な面を良いとしている。少年法廷を選択した時点で、不満を多少持っていた少年でも「まあ良い」としている。
「このプログラムが始まってからすばらしいと感じるようになった」、「陪審員から弁護人役になれるんだ」など、プラス面を評価している。さらに、「再びすべきでないこと」、「他人の過ちから学ぶ」といった、一度は、犯罪少年として法廷に立たされた少年である
が、逆に同様な事件をみることで、「正しいこと間違えたことを学ぶ」といった事にもつながる。人の意見を聞き、自己決定権と自分の主張に責任を持つことを痛感していた。
良い印象のなかった少年の意見としては、「陪審員はそれほど親切ではない」、「皆がやっているような犯罪なのに、えこひいきだ」といった、同世代だからこそ見逃して欲しかった事も、意外と厳しい指摘をする陪審員がいたことが嫌だったのかもしれない。また、「面倒くさく長ったらしい」と言った意見は、確かに約3時間近く審理が続き緊張するが、良い経験にも思えた。「夏休みの楽しさが半減した」とする意見には、社会奉仕活動の期間が最低でも数時間から数十時間は従事しなければならない。その間拘束される為、遊びに行けずに我慢するからであろう。週末と夏休みぐらいしか時間を捻出する事が出来ない

表1 「参加少年達の意見」

義務遂行少年 義務遂行少年 ボランティア少年 ボランティア少年
積極的 消極的 積極的 消極的
1 ・おもしろい。
・記録が残らない。
・まあ良い。
・同世代の仲間でよかった。
・このプログラムが始まってからすばらしいと感じるようになった。
・一度このプログラムに親しんでおけばよい。
・よくない。
・陪審員はそれほど親切ではないように思えた。
・誰も知り合いがいなかったから不安だった。
・このプログラムはすばらしい。
・楽しい経験をしている。
・犯罪少年は、自分の行動をわかることになる。
・若者に法的権限を与えることは良いことだ。
・刑罰・正義を理解するのに良い機会。
・少年法廷にいる事が、異端者の存在であった。
2 ・再びすべきでないことを。
・他人の過ちから学ぶ。
・社会奉仕活動。
・プラスになった。
・正しいこと、間違えたことを学ぶこと。
・記録を免れること。
・ケースを扱い体験できる。
・陪審員だったり弁護士もなれるんだ。
・数時間の奉仕活動。
・夏休み中、社会奉仕活動をしなければならなかった。
・皆がやっているようなとても軽い犯罪なのに、陪審員は極端なほどのえこひいきをしていた。
・ガラスを壊した程度で停学や拘留されている人に少年法廷がある。
・こいつら悪い事をしたんだという固定観念をなくし、気にしなくなった。
・法廷において、人々が行っている事を学べるんだ。陪審員だけでなく廷吏、弁護人にもなれる
・少年法廷の場で演説すること
3 ・学校に行く気になってきた。
・私の職業が法律に関わる仕事になるだろう。
・弁護士になりたい
・法律の世界に、入りたくない。なぜなら、私が望むライフスタイルではないから。
・全体(絶対?)法津関連の仕事には、つきたくない。
・私にはそれほど未来に対して違うようには見えない。
・陪審員義務は面倒で長ったらしい。
・反省はしているが、陪審員がおわったら、おさらば。
・同世代のために役立ちたい。
・法律関係の仕事につきたい。
・人間性を個人主義的に形成させた。さらに自尊心をつくった。だから弁護士になりたい。
・このプログラムは、人間性をより(?)、形成するんだ。あまりにも人生って短いので、遊びまわる事はできないということがわかった。
4 ・わからない
・償えばいい
・謝罪する機会が与えられること。

少年の中には、一年近くもかかる者もいる。この期間は、家族も少年を励ましたり、なだめたりしながら親子の会話があることは、有意義な機会が与えられているのかもしれない。果たして、日本の場合、米国の親の様に見守る姿勢がどれだけとれるか疑問である。新しい発見や将来については、「法律に関わる仕事に、つきたい/つきたくない」といった意見は積極的な意見として捉えたい。なぜなら、自分なりのキャリアを選択する道を考える事が出来たからである。
また、少年法廷には多くのボランティア少年が関わっており、法律関連教育を学ぶ機会が与えられていることから、「楽しい経験をしている」と答えていた。正義感ある意見や「こいつら悪い事をしたんだといった固定観念をなくし、気にしなくなった」、「ガラスを壊した程度で停学や拘留されている人に少年法廷がある」などといった、周りにいる異質の仲間を受け入れ、公平性という視点から、ラベリングをとりさり、「同世代の為に役立ちたい」と述べている点など感心した。将来については、人生にはセカンドチャンスがあることを知り、同世代の仲間が堂々と手助けしている姿をみてチャレンジ精神がわいてきたのかもしれない。「陪審員だけでなく弁護人にもなれる」、「将来弁護士になりたい」など夢は広がっているようだ。ただ、最後に被害者に対しては、「償えば良い」と言った意見もあり、謝罪する機会を与えることで被害者の気持ちを知り、改めて自分の行為に対して気づく事もあるだろう。しかし、少年法廷の場合は、主犯格の子どもが捕まらずに「なんで自分だけが」とか、「とばっちりだ」といった矛盾が最後まで残る場合が多くあり、形だけの謝罪はかえって逆効果になりはし ないか疑問は残る。つまり、加害者であっても被害者になりうるかもしれないだけに、安易に関係修復的正義でいわれる和解プログラムをこの少年法廷に適用する事は、積極的に望めない。

<考 察>
調査結果からも実践教育の意義は大きく、少年法廷が教育の場である事がわかった。本物の裁判だけに、マニアルでは味合えない緊張感があることや責任感も出てくるだろう。それが自信にもつながり輝いて見えた少年が幾人もいた。それぞれが担った役目に応じて、真剣に相手の意見を聞き、冷静な立場で審理を行なう姿は、形式的な教育の場かもしれないが、処分を出すまでのプロセスには十分教育的プログラムが盛り込まれており、それが積み重さなっていくうちに、法的資質教育のゴールが見えてくる気がした。この様な点からも少年法廷は、陪審員制度がある米国ではかなり必要な教育プログラムであろう。MYC少年法廷の場合は、事実認定からはじめる少年法廷ではないが、アラスカやラスベガスのように事実認定から少年たちが関わり、重罪も扱うならば、細かなプログラムが用意されているだけに、草の根活動では限界があるだろう。そうなると、犯罪少年にとっては、MYC少年法廷のような、仲間意識の生まれるアットホームな雰囲気作りは出来なくなるだろう。それよりもっと、厳しい場所に少年法廷は、変わるかもしれない。また、集まるボランティア少年の意識もおのずと高くなるだろう 。今後、少年法廷がどの様になるかわかりませんが、MYC少年法廷のような取組みは存続させたい。

(2) 対象少年の保護者に対する意識調査
事務局から提供された資料で、随時終了した少年の親に対して行なっているアンケートの一部(1999年3月に行なった保護者17名)についてまとめる。事務局長のカサンドラによれば、「この資料は、MYC少年法廷について、どのように感じているのか書いてもらった資料で、報告書を作成する際の参考資料にしたのみで、分析まで手が回らなかった」と述べていた。そこで、私なりに、表2に「保護者の意見」として、「良い点」と「要望」に区分して整理してみた(詳細は表2を参照)。

<アンケートの質問内容>
1.「何であなたは、少年法廷を選んだのですか」
2.「この、プロセスを理解しましたか」
3.「適切な説明が、なされましたか」
4.「判決(処分)についてどう思いますか」
5.「弁護人(役)は、役立ちましたか」
6.「若者が、弁護人になることはどう考えますか。なぜ?」
7.「陪審員の処分を公平に思えますか」
8.「処分が確定した後、処遇プロセス(手続)においての説明は、適切でしたか」
9.「あなたの、お子さんに処分の部分で、また何かを完了するまでに、手助けをしましたか」
10.「少年法廷は、あなたのお子さんにとって利点があったと思いますか」
11.「このプロセスは、従来の少年裁判より、大きな利益があると思いますか」
12.「親切であり、尊重されて、お子さんは、扱われたと思いますか」
13.「MYCの親たちに情報サポートをする親の会に、興味はありますか」

表2 「保護者の意見」

良い点 保 護 者 の 意 見
1 ・ 説明を受けて。
・ 警察に指示されて。
・ 子どもの将来を案じて、記録が残らない方を選んだ。
・ いくつかのトラブルはあったが、初犯だし、この少年法廷が、息子にとって罰を与えられる実際の機会であったし、記録が残らないから。
・ 少年法廷では、過ちから学ぶための機会を提供され、仲間同士で解決することや、相互のよい影響をそれぞれが受けられるから。
2 ・ はい理解した。
3 ・ 適切であった。
・ きちんと段階に応じて説明があった。
4 ・ とても専門的だった。
・ 思っていた通り着実だった。子供は、参加したことで、成長したのではないか。
・ 法廷において審議の過程を理解することは、子供にとってよいことだ。
・ すばやく迅速で、形式ばらない。
・ 夫が参加したので、息子は、犯してしまったことについて感じているようだ
息子は目がさめたのではないか。そして、息子と同世代の子供たちの顔を見ることが出来たこと。
5 ・ 審理をすすめるのに説明が行きとどいていた。
・ 息子に変わって代弁してくれたこと。
・ 注意を払って説明してくれた。
6 ・ 彼らは良く理解できている。どのように行動し弁護したらよいかわかっていた。
・ 息子たちにとって、背後にある状況や感情をよく理解出来るようになるから。
・ 彼らの世代の中で、互いに理解しているように思えた。
・ 不安な気持ちでいる子供を、リラックスさせてくれる。
・ いいと思う。息子にとって大きな経験です。キャリアの選択にもなる指示を出してくれる。
7 ・ 公平で、処分は、娘にとって役立ち、処罰に値する根拠があった。適切に処理されたと思う。
・ 公平ではあったが、さほど甘くはなかった。
・ 社会奉仕活動をしたことは、息子にとってよかった。息子は、罰を通して、あえて困難な道を選ばなかったことを。(よろこんでいる?)
8 ・ 問題はなく、良かった。
9 ・ 処分を終えるまで、子供をおだてて参加させた。
・ 車を襲撃した人に、謝罪の手紙を書き、電話をして。私たちの状況を説明した。今後は、子供をその現場に連れて行く。被害弁償するまで、このような活動を続けることになるだろう。
・ 送迎。
・ 手助けなどしない。
10 ・ 弁護士になりたいと言っている。
・ とても、心を痛めたようである。
・ 同世代の仲間から大切なことについて影響しあえた。
・ このプログラムを終了するまで、頑張ると確約した。自分の行為が悪かったことに、気がついているだろう。
11 ・ はい。記録が残らないというので、永久のダメージなしに、同世代のおかげでセカンドチャンスを保障された。
・ はい。少年裁判所に行くと思い、くよくよしていたが、この法廷のおかげで行かなくてすんだ。
・ はい。自分のやってしまった行為に対して後悔もしていない少年を見ることで、法廷というものが厳しいしっかりとしたものでなければならないことを知るだろう。
・ 軽犯罪に対応していくならよいが、重大犯罪は、やはり少年裁判所のほうがよい。
・ 少年裁判の経験がないので比較しようない。
12 ・ はい、感謝している。
・ 期待していた以上でした。すべてにおいて尊重された。
13 ・ いらない。
要望 ・ 不満。事前準備資料がほしいとして、詳細な例を挙げて、要望を出している。
・ 説明不十分。
・ 処分が確定した後、表面的な対応のみで、支えになるような情報はもらえなかった。適切な説明が欲しい。
・ 若者が弁護士になることに、息子はきがすすまない。また、それほど普及していない。それほど代表的なものではない。
・ 娘にとって、この処分は、幾分不公平だった。
・ 息子が陪審員を勤めたときの他の法廷を見たら、息子のときと同じ犯罪をしたのに、罰は与えられなかった。

<結果と考察>
MYC少年法廷の存在は、ほぼ肯定的に評価されている。参加少年たちの取組みに対しても、「少年法廷は、少年裁判所と違って同世代の仲間の手助けによって、子どもの気持ちをより尊重し理解しながら、審理してくれた」として評価していた。また、役割を果たしてくれた弁護人に「感謝する」など、彼らの存在意義が認められたともいえる。また、この少年法廷の特徴でもある、「記録が残らない点」については、「息子にとってセカンドチャンスが与えられ、少しでもダメージが減ったこと」を評価していた。しかし、簡単に記録を消してくれないこともわかり、「改めて子供と一緒に話し合った」など、良い機会になったようである。また、親の姿勢として終了するまでは、「手助けなどしない」としていた。他には、「適切に処理されたと思う」点や「社会奉仕活動は息子にとって良かった」など、表2を見てもわかるように、改めて「人とのかかわりの中で、教えられて帰って来る子どもたちの姿を見た」など、逆に親も気づかされる点が多かったのではないだろうか。「感謝」の言葉も多かった。しかし、「不満」もあり、至らない点についての指摘もいくつかあった。要望とも取れる意見が占め ていたが、例えば、「支えとなる情報が欲しい」、「説明不十分」として具体的に提示してあったりと、事務局側に対するカウンセリング機能を求めていることや適切な情報を早めに欲しいといった点は、結果連絡ミスにつながっていたようである。また、「処分に公平さがかけている」、「何で自分の子だけが」と思っている親もいてこの点に関してはこの法廷が軽微な犯罪のみを取り扱っているだけに常に不満な親もいるだろう。実際に調査をしてみてわかったことだが、草の根活動だから出来るのではないかと、私が勝手に思いこんでいた点が逆に不満として指摘されていた。人手不足が課題であることはもちろんであるが、要求されることは多くあり、詳細な情報の提供やカウンセリング機能、活動の自己評価分析といった点はすぐには出来ないだろう。見えない地味な事務的作業を引き受ける成人ボランティア(元参加少年等)の活躍が期待される一方で、他の団体との連携も不可欠であろう。

4. MYC少年法廷活動の意義と課題
MYC少年法廷は、その地域のニーズにあった少年司法制度のもとで行なっている形式的な教育の場であるだけに、お互い向き合いな
がらも自分のためにどれだけ気がつくかで違ってくるだろう。
この日本で、この少年法廷が実現するかどうかについては、ここ数年ティーンコートについて紹介はされているものの盛り上がりにかける。それは、わが国の「非行少年」は、公的なシステムで処理されてきたので、少年法廷は考えられないであろう。このプログラムを導入するには、補導委託先となりうる草の根活動組織がしっかりとしてはじめて、根づいていく事が大前提となる。それだけに、法学者の一部から試験観察の中で出来るのではないかといってはいるが、小手先の試案であって現実味は出てこないだろう。なぜなら、米国の様なNPO組織を前提としたディヴァージョンプログラムが、わが国には存在しえないからである。それでも、少年法廷の可能性を考えるのならば、さまざまな視座からの検討が必要であろう。そして、少年法廷の特徴は、陪審員制度であり、法的に認められた「少年による少年の為の法廷である」。今の日本では、考えられないであろう。こうした論議をするにしても、すぐに身につくものではない。低学年のうちから法的資質(リーガルマインド)を育てる教育がなされ、米国の様にNPOによる教材の作成やカリキュラムの開発など多くの取組みが必要となる。今やっと日 本にもリーガルマインドの必要性が言われるようになり、議論の場が広がりつつある。その中で、来年度、関東弁護士会が行なうシンポジュームでは、「法的資質教育について」話し合われる予定である。この様な動きに期待をしながら、わが国での少年法廷への可能性を問い続けていきたい。是非、今後の議論を深めるためにも、多くの分野の方からのご意見を頂戴したい。

@テキストとして「American Bar Association編集;全米弁護士協会公教育部門の法律関連教育手引き書」を使用。
A四宮啓「ティーンコートと陪審制度―アメリカの少年と陪審―」山口直也『ティーンコート―少年が少年を立ち直らせる裁判』現代人文社1999p95
BFor further information,contact; JuffreyA.Butts,Ph.D.,Senior Research Associate, The Urban Institute, Program on Law&Behavior,2100 MStreet, NW, Washington DC20037, (202)261-5514, Fax(202)659-8985,Jbutts@ui.urban.org

<参考文献>
・全国法教育ネットワーク編「法教育の可能性」現代人文社、2001,8
・Arameda County Planning Department /Profile,1996