文教大学付属教育研究所 紀要第10号(2001年発行)

インターネットの映像コンテンツの作成事例

―高知県オンディマンド学習システム研究開発事業から―

米澤 朋英
(文教大学付属教育研究所客員研究員)


要  旨

高知県オンディマンド学習システム研究開発事業で行われた一般学習者による映像コンテンツ作成の状況と課題を、生涯学習の視点から整理し、ブロードバンド時代の映像コンテンツの作成に役立てることを目的とする。

1. はじめに
高知県オンディマンド学習システム研究開発事業は、文部科学省より高知県オンディマンド学習システム研究開発プロジェクト実行委員会(事務局は高知県生涯学習課)が委嘱を受け、平成10年11月2日より平成13年3月31日まで行われた。通信インフラ及び、システムは、通信・放送機構(TAO)の高知県マルチメディア・モデル研修展開事業で提供されたものを使用した。
私はこの映像コンテンツ作成事業に関わった経験からこの報告をする。
映像コンテンツ作成に参加したのは、吾川村教育委員会、高知県ふくし交流プラザ、高知県青少年センター、高知SGG善意通訳クラブの4団体である。どの団体も映像コンテンツの作成は全くの初めてであり、作成した映像コンテンツをインターネットで公開することも初めてであった。
団体により作成する内容が異なるため、個々の団体ごとに映像コンテンツの作成過程を紹介し、その課題をあげ、最後に、4つの団体から得られた結果から、インターネットで配信するための映像コンテンツの作成方法についてまとめてみたい。

2.通信インフラ・システム
@ 通信インフラ
高知県マルチメディア・モデル研修展開事業で提供された通信インフラにより、専用線で4施設(吾川村中央公民館、県立青少年センター、高知県ふくし交流プラザ、高知県国際交流協会)と、サーバーのある高知県南国オフィスパークを結んでいる(図1参照)。

A システムと配信方法
撮影には民生用のデジタルビデオカメラを用い、その画像をパソコンに取り込み編集した。編集したデータ(AVI)はRealVideoに変換してサーバーより配信した。配信された映像コンテンツは以下のURLから参照できる。
http://kls.tao.tosa.net-kochi.gr.jp/WBTServ/WBTFrontServ

3.制作過程
@ 吾川村教育委員会
高知県吾川郡吾川村は、四国山地の中央部に位置し、標高1000〜1500メートルの山岳地帯にある人口3000人程の村である。高齢化率(65歳以上の人口割合)は約39パーセントにのぼる。
作成は、企画、台本作成、撮影、編集、エンコード、サーバー登録の順番で行われた。
企画では、村の教育委員会が中心となって、映像コンテンツの企画がなされた。当初、高齢者に役立つ映像コンテンツを作りたいと要望があった。しかし、コンピュータを使える高齢者が当時少なかったこと、魅力的なテーマが見つからなかったことなどから、映像コンテンツのテーマは村に来たアメリカ人のALT(英語補助教員)との会話を行う英語教材に決定した。このコンテンツならば、小学生を主として年配の方まで英語を学習することができるということになった。企画を行うだけで、約4ヶ月費やした。
台本作成では、汎用的な内容のコンテンツよりも、吾川村の小学校の授業を想定した台本作りを目指した。小学校の中にある物を約300個をピックアップし英語に訳し、授業を想定したダイアログの作成を行った。小学校の中には英語に直訳できない物が多くあり、そういう物ほどALTに伝えたい物であったりしてジレンマに陥ることが多かった。
撮影は、デジタルビデオカメラを用いて行ったが、屋内での撮影が多いのと、日中は授業があるため、放課後や屋内で照明を使って撮影をした。撮影には、撮影経験のある専門家の全面的支援を受けて行ったため、かなりの部分で代行してもらうことができた。撮影経験のない教員が空き時間に撮影することは、かなり難しいかもしれない。機材だけでなく、撮影方法などは指導が必要である。
編集は、村にあるノンリニア編集機で行うことができたが、今回は時間が無く、ノンリニア編集機の操作方法を覚えるだけであった。編集の必要な部分は専門業者に代行してもらった。基本的には1分から2分くらいの映像なので、なるべく撮影時に編集の必要の無い撮り方をした。やはり台本作りが重要である。
エンコードは、デジタルビデオカメラのデータをパソコンに取り込み、AVIファイルにしたものをRealVideoの形式に変換した。
サーバー登録も、専門業者が代行した。

A 高知県ふくし交流プラザ
高知県ふくし交流プラザは、長寿・福祉社会づくりを推進するための総合施設である。障害者、高齢者に配慮した設備を備えている。
作成は、プラザパソコン同好会が中心となって行った。プラザパソコン同好会では、月に数回、ふくし交流プラザで高齢者同士でパソコンの講習会を行っている。当初、協力を求めた段階では、「映像コンテンツなど作る必要性が無い」、「操作が覚えられない」などという話があった。しかし、施設の担当者の尽力もあり、企画には協力をしてもらえた。
企画では、高齢者が海外旅行に行く場合を想定したコンテンツ作りを行うことになった。高齢者が海外旅行をする場合には、一般の旅行者とは違った注意事項が必要ということから企画が始まった。海外旅行といっても範囲が広いため、高齢者に負担が無いように、時差の少ない英語圏の国であるオーストラリアを対象とすることになった。
台本は、海外旅行で使う英会話ということで土佐塾高校の英語教員の指導をいただきなからダイアログを中心に作成した。
編集、エンコード、サーバーの登録は専門業者が代行した。

B 高知県立青少年センター
高知県立青少年センターは、施設として、天体観測室、青少年ホール、調理室、工作室、会議室、野外炊飯棟、ソフトボール場、陸上競技場、サッカー場、体育館、トレーニング室、スポーツ医科学測定室、宿泊施設を備え、各種研修会や合宿などに利用されている。
企画は、指導員の方が中心となり行われた。高知県の野外活動の情報提供を行いたいという意見がでた。社会教育主事、指導員の中には、「体で覚えるものを、なんでインターネットで学習しなければならないのか」、「インターネットでは学習できない」などの意見が出ていた。しかし、野外活動のテントの設営や飯盒炊さんなどのマニュアルは基本的なものは存在したが、全体としては標準化されておらず、標準化されたマニュアルを作成するだけでも価値があるという意見になった。
台本作成では、これまで使用していたマニュアルを再検討し、絵コンテを作成し、台詞を書き込んだ。野外活動の説明は、細かい注意事項が多いため、台詞は後で吹き込むこととし、作業だけを撮影することになった。
撮影は、屋外で行われた。インターネットで配信される画像が通常のビデオ映像より荒くなる事を考慮し、カメラの動きは少なくし、動作も不要な動きは極力さけて行った。飯盒炊さんでは、飯盒の中で水の沸騰している音と水分が無くなって音がしなくなる状況なども収録でき、これまでの紙のマニュアルとは違ったものができた。
編集、エンコード、サーバーの登録は専門業者が代行した。しかし、積極的に協力していただいた成果で、現在では自力でサーバーにアップできるようになっている。

C 高知SGG善意通訳クラブ
この団体だけ特定の活動拠点となる施設を持っていない。そのため、施設は高知県庁近くの国際交流協会にコンピュータなどを設置した。高知SGG善意通訳クラブは、高知県を訪問する外国人観光客や、県内在住の外国人の言語上の不便を解消するために、民間外交官や、観光案内を通じて高知の国際親善を側面から支援するための活動をしているボランティア団体である。 日曜日には高知城の常駐ガイドを行っている。
企画では、高知城のガイドのマニュアルを作成したいとのことだった。新しく入ってくるボランティアに高知城のガイドの内容を効果的に学習させるのが目的である。
台本作成では、高知城内の100箇所近くの展示物のガイド内容を標準化することから始まった。通常は各展示物の担当が決まっており、独自に学習していた。しかし、各々のガイドの内容を集めてみると歴史の解釈や英語表現に相違が見られた。これらの事を1つ1つ検証し、台本を作成するのには半年以上かかった。
編集、エンコード、サーバーの登録は専門業者が代行した。

4.まとめ
本稿では、インターネットで配信する映像を作成した実践事例を取り上げたが、以下のような課題があることが分った。
@ 映像を制作するには企画、台本作成、撮影、編集、エンコードなどの過程があり、知識や技術が無ければ初心者には難しい。しかし、必要最小限の知識と技術をサポートできれば初心者にでも作成可能である。
A 教育現場などでは、授業の空き時間などに映像を作成するには教員に大きな負担がかかる。授業で使用する映像などは相互利用ができることが望ましい。
B 現状では、インターネットで配信される画像は、サイズ、コマ数などがビデオに及ばないため、小さな画面でも理解できるような作り方が必要である。
C 教材として映像を作成する場合には、コンテンツの精度が問われる。専門家などの協力を得て教材としての精度を高めなければならない場合もある。
D 1分から2分程度の映像を組み合わせてコンテンツを作ったほうが、作成する作業も簡単になるし、インターネットで配信する場合にもダウンロード時間が少なくて済む。
E 学校などで映像を作成する場合には、児童・生徒のプライバシーの保護には十分に配慮する必要がある。本事例では、児童の顔がわかる映像は作成しなかった。

5.おわりに
今後、インターネットでは、映像が配信される機会は増加するだろう。手軽に利用できる機会が増せば、映像の需要も増えるに違いない。
しかし、映像を制作するには、手間がかかる。デジタルビデオが普及して、ニュース的な映像は素人にでも撮影される機会が増えてきたが、教材のように目的をもった映像を制作するにはノウハウが必要である。まだまだ初心者には難しいのではないだろうか。そのためには映像を作成する最小限度の技術と知識を標準化し、作成者同士のネットワークを持てる場と機会を提供することも必要であろう。