文教大学付属教育研究所 紀要第10号(2001年発行)

国語科におけるコミュニケーション能力の育成と
総合活動の連関

青山 由紀

(筑波大学附属小学校)

要旨

新『学習指導要領』では「伝え合う力」の重視が提示され、同時に「総合的な学習の時間」が展開されている。コミュニケーション能力の育成に総合活動は有効である一方で、活動主義に陥る危険性もはらんでいる。では一体どのような点に留意して単元を構想したらよいのか。2つの異なった構造の実践事例をもとに、コミュニケーション能力の育成と総合活動の連関について迫る。

1.はじめに
「総合的な学習の時間」はその特質から、冊子、新聞、ワークショップ、ポスターセッションなど、終末に表現活動を伴うことが多い。子どもが自ら課題を見つけ、意欲的に取り組む「総合的な学習の時間」だからこそ、高い目的意識と内容意識に支えられた表現活動を行うことができるといえる。しかし一方で、子どもが意欲的に取り組んできたにも関わらず「書くこと」「話すこと」の力不足のため、十分に表現できずに終わっている現状がある。国語科の基礎・基本が身についていなければ、成果は発揮されない。
表現活動に至るまでのプロセスは「総合的な学習の時間」の範疇であるが、「書くこと」「話すこと」については国語科が担うべきものである。活動主義に陥らないために、国語科としてどのように単元を構想したらよいのかを明確にする必要に迫られている。
そこで本稿は、「総合的な学習の時間」と国語科におけるコミュニケーション能力の育成との連関について、実践事例をもとに考えたい。(以下、本校で昭和46年より実施されている「総合活動」という名称を使用する。)
なお「コミュニケーション」とは、マス・コミュニケーションを含めた概念が一般的であるが、ここでは国語教育という枠の中で狭義に捉え、「言語主体同士が、言語及び非言語メッセージ(表情、身振りなど)の交換により相互に影響し合い、情報や思想、感情などを共有しつつ目的を遂行する過程」(注1)と定義する。また特に話し言葉によるコミュニケーションに限定して論を進める。

2.音声言語単元を支える四つの意識と総合活動

音声言語単元には次の要素が不可欠である。
@目的意識…子どもが表現したい、伝えたいと思う場面や状況が設定されていること。
A内容意識…どのような内容を伝えたいのか、聞き手の経験や理解度によって話し手の準備が異なること。また物の作り方のような説明の場合、順序性が重要となる。
B相手意識…だれに向かって表現するのか、同じ学級の友だち、大人、異学年など、話し手との関係、親密度や距離感によっても話し方が異なること。また、聞き手の人数も大切な要素である。
C場の意識…どのような場で表現するのか、パブリックな場か、プライベートな場か、場所の広さなどにもよること。
これら四つの観点を満たすように単元を構成する必要がある。この中でも特に留意しなければならないのは「目的意識」である。この「目的意識」を子どもに自覚させるという点において、総合活動は「実の場」(注2)として有効である。
子ども自身にしっかりとした動機づけがなければ、教師にさせられているだけに過ぎず、子どもたちは話に型を求め、自分の言葉で表現しよう、何とか伝えようとしない。
逆に、子どもたちの意欲が十分なときには子どもの目的意識に圧倒されて、学習のねらいが吹き飛んでしまうこともある。これが活動主義に偏った単元と呼ばれるものである。では、どうしたら「子どもが主体的に活動しただけ」に終わらない単元を構想できるのか。異なった構造の単元を二つ挙げ、比較する。

3.実践事例1 
ワークショップを目的とした音声言語単元
単元「『うらわざ』教えます」  2年生
(1)単元について
生活の中で使える「うらわざ」を紹介するテレビ番組をヒントに、総合活動で「うらわざ探し」を行った。冬休みも利用して集めたたくさんの情報をもとに、「学校で使えるうらわざを考えて全校の人を相手にワークショップをしよう」と活動が展開した。(注3)
なお「うらわざ」とは、子どもたちは『やりにくいことなどを簡単にする方法』と定義し、コツ程度のものも含むことにした。
対話学習の見地から考えて、ワークショップという表現方法は国語科としてぜひ取り上げたい表現方法である。それはワークショップは、目の前のお客役の人に向かって、相手の反応を直に感じながら伝えたいことを表現するものだからである。発表会が一方通行的な言語活動であるのに対し、ワークショップは双方向のコミュニケーションである。さらにワークショップでは、言葉はもちろん、表情や雰囲気を読み取る非言語コミュニケーション、臨機応変なやりとりなどが不可欠であり、コミュニケーション能力の育成に適している。
(2)単元のねらいと活動の流れ
(資料1)を参照のこと。
(3)単元構造における「総合活動」の位置づけ
単元構造図から明らかなように、醸成期から第2次までは、総合活動の範疇である。第3次から音声言語単元としてのねらいを身につけさせる指導を行った。
しかし子どもたちの意識は「うらわざワークショップを成功させたい」という思いが貫かれており、「総合活動の時間」「国語の時間」といった区別はない。また、子どもにその区別を意識させる必要は全くない。ワークショップが成功すること、すなわち国語科としてのねらいの達成に繋がる。したがって、指導者だけが意識していればよいのである。

4.実践事例2
クイズ(発表)を目的とした音声言語単元
単元「2部4年版 クイズ日本人の質問」 4年生
(1)単元について
収集した情報を再構成し、発信する力を身につけさせる単元である。本単元では異学級、異学年にクイズを行うという「実の場」を目的として、クイズを作るのに必要な情報を説明的文章から取り出し、再構成する活動を構想した。特に中学年ということを意識し、クイズを作ったり互いに練習し合う活動では、説明的文章の読み取りに、クイズを行う場面では、いかにフロアの興味をひき分かりやすく、かつ説得力をもって話すかという音声表現に重点を置いた。また、グループ毎に異なった学習材でクイズを作ることで子どもたちの意欲を喚起した。
学習材の選定にあたっては、
@ 子どもが興味を持ち易い「生き物の知恵」という共通テーマであること
A 論旨が明解であること(問題提起文と対応する答えが明確であること)
B 4年生が自力で読みこなすことのできる文章であること
を条件として様々な教科書教材から求めた。
子どもたちはクイズ本番の成功を目的に活動するが、指導者は、説明的文章を読み取ったり、クイズに再構成したり、説得力をもって話そうと練習する「過程」を目的としているのである。(注4)
(2)単元のねらいと活動の流れ
(資料2)を参照のこと。
(3)単元構造における「総合活動」の位置づけ
先の〔実践事例1〕が総合活動を中心とした単元構造であるのに対し、〔実践事例2〕は国語科としての活動を中心とした単元構造になっている。子どもの目的意識や、終末の活動の場だけを総合活動に求めるものである。
しかし終末だけとはいえ、この総合活動の「クイズを成功させたい」という意欲が活動を支える原動力となっていたことの意味は大きい。また、「実の場」をイメージすることで、相手意識をもって活動するシミュレーション(模擬)が効果を発揮したのである。だからこそ国語の授業の中で、相手を説得するような話し方や、臨機応変に受け答えをするポイントについて気づくこともできた。
「相手をより説得するために文章を読み返す」「読み取ったことが十分伝わるように表現を工夫する」「質問を予想して、答えを得る(作る)ためにさらに読み返す」といった読解と音声言語表現が相互に関わる双方向の活動が成立したのは、総合活動での「クイズ」を利用したからにほかならない。
また、コミュニケーションの大きなウェートを占める視覚的効果のための準備(本単元ではプラカード作りや説明の小道具作り、博士役の衣装など)は、総合活動の時間を利用した。国語科の時間だけではここまでの準備はできない。しかし、コミュニケーションという視点から考えたとき、ノンバーバルな部分ははずせない。総合活動と一体となった単元構造だからこそ、子どもたちに達成感や満足感を味わわせることができる。

5.活動主義に陥らないために
子どもの意欲や四つの意識から考えると、〔実践事例1〕のように、どこまでが総合活動で、どこからが国語科なのか分からないような融合した実践が有効である。しかし、このような単元構造の場合は、子どもが目的に向かって猛進する意欲に乗じて、私たちはつけたい力をしっかり身につけさせるよう留意しなければならない。特に、子どもと指導者の目的が異なっていることを、常に認識しておく必要がある。
このため、本校国語部では低・中・高学年の発達段階に応じた言語能力表〔言語活動能力分類〕(注5)を作成した。この能力表を手控えとして、目の前の子どもにつけたい力を見極めるのである。
また、〔実践事例2〕は従来実践されてきたタイプのものである。特に平成14年版の教科書には活動例を示した物が多く、このような単元構造の実践が増えるであろう。しかし、同じ教科書教材を学習した仲間だけを相手に何の目的で表現活動をさせるのか。その単元で身につけた力を生かせるような学習材から選択させ内容意識を高める、異学年や異学級との交流の場を設定して相手意識を高めるなどの工夫が必要である。
そして何より、時数削減の中で表現活動の場までを国語科だけで保証しようとする考えを改めることが肝要である。視覚的効果を高めるための工夫や、交流の時間の確保などに積極的に総合活動の時間を使うことが、次期カリキュラムの活路を見いだすことに繋がると考える。

【引用文献及び参考文献】
(注1)松村賢一『いま求められるコミュニケーション能力』明治図書,1998,pp.33
(注2)日本国語教育学会編『国語教育辞典』朝倉書店,2001,pp.198
(注3)拙著『話すことが好きになる子どもを育てる』東洋館出版社,2001
(注4)日本国語教育学会編『月刊国語教育研究』, 355号,2001(本実践は東京都田柄第二小学校,小池智彦氏との共同研究による)
(注5)『筑波大学附属小学校研究紀要』第56集,2000,pp48-50