文教大学付属教育研究所 紀要第10号(2001年発行)

特集 大学教育の情報化

エル・ネットの可能性と課題

T.エル・ネット/オープンカレッジの現状と課題


米 澤 朋 英
(文教大学付属教育研究所客員研究員)



要  旨

文部科学省が実験的に推進するエル・ネットのオープンカレッジは、大学の公開講座を遠隔教育システムを利用して全国に配信する試みである。本稿では、エル・ネットのオープンカレッジの現状を概観し、その問題点を探る。

1.背 景
「エル・ネット」は、1999年6月より、文部科学省をはじめとした全国の教育関係施設を衛星回線で結び、教育の情報化にともなう教育プログラムの共有などを目的として設置されたシステムである。
文部科学省では、1996から3ヵ年にわたって「衛星通信利用による公民館等の学習機能高度化推進事業」を実施している。これは教育施設が連携し、大学などが実施する公開講座を、学習機会が地理的条件や時間的条件に左右される地域などにも、衛星通信を利用して公民館・図書館などに提供し、学習機能高度化を推進するための実証的な調査研究を行ったものである。

2.エル・ネット/オープンカレッジとは
1999年の6月からは、大学などの公開講座が衛星通信により配信されるようになった。
エル・ネットのシステムを利用した教育プログラム(番組)は、この「エル・ネット/オープンカレッジ」と「子ども放送局」に大別される。衛星回線は8チャンネルあり、このチャンネルを、「エル・ネット/オープンカレッジ」と「子ども放送局」で分割して使用している。受信に必要な機材や設備は、「エル・ネット/オープンカレッジ」と「子ども放送局」とも同じものを使用している。
送信に必要な設備は、文部科学省、国立教育会館(本館、学校教育研修所、社会教育研修所)、国立オリンピック記念青少年センター、東京工業大学、国立科学博物館など34箇所が備えている。受信機能のある施設は全国で1674箇所である。(2001年6月1日現在)
最新の情報は下記のホームページから参照できる。
*高等教育情報化推進協議会 http://www.opencol.gr.jp/index.html
*文部科学省 http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/elnet/index.htm

3.「エル・ネット/オープンカレッジ」の現状と課題
「エル・ネット/オープンカレッジ」の現状と課題を受講者の視点から整理してみる。
「エル・ネット/オープンカレッジ」の講座を受講するには以下の手順で行う。
@ 受講会場を選ぶ
A 受講したい講座を選ぶ
B テキストを入手する
C 事前学習を行う
D 会場で受講する
E 質問をする

(1) 受講会場を選ぶ―受講場所の探し方
受講者は、自分の都合の良い受信可能施設を選択する必要がある。探す方法は、現状ではホームページからの検索か、高等教育情報化推進協議会、文部科学省学習情報政策課に電話で問い合わせる。2001年6月1日現在で、全国に1674箇所の受信可能施設があるが、実際に学習できるかどうかは、各施設に問い合わせてみなければならない。その理由は、次の3つが考えられる。
@ 「子ども放送局」しか対象としていない施設があること。
A 受信施設としての機能は備えているが、受講場所として適切でない場合があること。
例えば、受講用のテレビが図書館のロビーに設置されているため音が出せないとか、入り口にデモンストレーションのように展示している場合である。
B 施設の担当者以外に操作方法が分かる人がいないことも有ること。
(2) 受講したい講座を選ぶ
受講したい場所が決定したら、受講したい講座を選択する。受講講座の選択は、ホームページまたは、各施設に配信されている広報紙を参考にして決定することができる。2001年度は、46大学、53講座、154講義の公開講座が受講できる。1講座は複数の講義からなっているものが多い。
講座の分野は、講座の多いものを内容から分類すると以下のように分類できる。
*医療・治療・心理学・健康等の講座 ............27講座
*教育・生涯学習・遠隔教育等の講座 ............19講座
*ネットワーク社会・現代社会等の講座 ............16講座
*国内文化・文学・文字・哲学等の講座 ............16講座
*コミュニティーつくり・学校つくり、ま ちつくり等の講座 ........................14講座
*外国文化・言語・語学等の講座 ............14講座 他
講座の分野には、大学の公開講座だけに専門的な内容に偏りやすい傾向がある。しかし、様々な大学が参加することにより、特色のある講座が増えていくと推測できる。
(3) テキストを入手する
テキストは、ホームページからダウンロードするか、FAXや郵送で申し込みができるシステムになっている。先着100名までは、申し出れば製本されたテキストを入手可能である。
公開講座のテキストは、特に一定の基準を設けているわけではないので、レジュメレベルのものから、内容や表現方法は様々である。受講者からは、読んだだけで理解できる内容のテキストを作成して欲しいとの声もある。また、テキストが出来上がるのが、講座の直前になることも多く、もっと早く入手したいとの声もある。
(4) 事前学習を行う
講座の時間は30分から90分程度までの時間なので、内容が濃い講座になる。事前にテキストを入手し、講師の研究分野や参考文献に目を通すことも必要になる。
(5) 会場で受講する
講座の放送時間に受講施設に行って受講する。しかし、施設の開館している時間内に行かなければならず、仕事が終わってからの受講は不可能に近い。ビデオなどの貸し出しも行っているが、録画できる講座は著作権によって定められており、全ての講座がビデオで受講できるわけではない。エル・ネット受信可能施設で「エル・ネット/オープンカレッジ」が受講できない施設が存在する理由は、「子ども放送局」よりも「エル・ネット/オープンカレッジ」の方が受講に関する手間がかかることも関係していると考えられる。
(6) 質問をする
受講が終わったら、質問ができる講座がある。質問の方法は以下のとおりである。
@ 衛星回線を使用した双方向通信による質疑応答
このタイプの質疑応答は、実験的に行われている段階である。衛星回線による双方向通信はコスト面や人員的な配置の問題から、日常的に行うことは難しい。しかし、受講者の評判は良い。
A テレビ電話(ISDN回線)を使用した双方向通信により質疑応答
このタイプの質疑応答も、実験的に行われている段階である。理由は、テレビ電話が普及していないため、質疑応答を行う場合には、テレビ電話を設置しなければならないからである。またテレビ電話は、1対1、または少人数で双方向通信を行うメディアであるため、社会教育施設等の大人数で使用する場合には、音声の調整等の問題が発生している。
B メールによる質問
このタイプは、ホームページから質問できるようにWEBメールの方式を採用している。(図1参照)WEBメールはホームページ上の画面に質問内容を打ち込むだけで、パソコンにメーラーの設定をしなくても使用できるようにしたものである。
現在のところ、受講者数が少ないため、メールが殺到するなどの問題は生じていない。

図1 質問メールのページ



C 掲示板に記載することによる質問
このタイプは、上記のメールによる質問と方式が似ている。ホームページ上から書き込み送信ボタンを押すと講師宛てに質問が来たことが通知される仕組みになっている。質問内容はホームページ上に公開できるのが、この「掲示板」のメリットで、質疑応答内容が蓄積されることによって、質問の重複を防ぐことにもなる。
D ファクシミリによる質問
このタイプは、テキストに巻末についている用紙を使用して質問を行うものである。講師の指定したファックス番号に送信する。現在のところ、受講者数が少ないため、ファクシミリが殺到するなどの問題は生じていない。

4.全体の課題
受講者の視点で「エル・ネット/オープンカレッジ」の課題について検討してきたが、実施側にも課題は残る。
(1) コストの検討
現在、「エル・ネット/オープンカレッジ」は実験期間ということもあり、参加大学等には僅かな謝金しか支払っていない。より充実した講義にするためにはテキストの充実とともに、参加大学にもメリットが見えるような、運営体制にしていかなければならない。
(2) 受講施設の充実
受信可能施設の数は増加しているが、現在ある1674箇所の施設の詳細については把握していない。どこのどの施設が「子ども放送局」の施設なのか、「エル・ネット/オープンカレッジ」が受講できる施設なのか、受講者へのサービスを充実させるためには、把握する必要があるだろう。
(3) 受講時間の検討
現在は、社会教育施設、図書館の会館時間内での利用しかできない。時間外に受講させる体制も整える必要もあるだろう。各家庭でビデオや衛星受信装置を購入して受講できるようになれば問題も解決する。現在のところは地理的条件の不便さは改善されているが、時間的制約はまだ残ったままだと言えるだろう。