『教育研究所紀要第7号』文教大学付属教育研究所1998年発行

特集 「教育職員養成審議会第1次答申」を読んで

教職の専門性とは何か

中川  洵(文教大学教育学部)

 先ず答申を通読致しましての第一印象は、かなり読みずらいと言うことであります。公的な通達とか法文書といったものは、文系の法律を専攻された方々にとっては明快な文章であるのでしょうが、私ども芸術を専攻した者にとっては回りくどく、非常に難解であります。それはとりもなおさず理解を妨げ、正確な法文をと心掛けられた文章か、逆に非常な分かりにくさとなっているのです。しかしともあれ私どもは、この文章を正確に読みとり、理解しなければなりません。

  さて私なりに一生懸命読み取ったところでは、私共がとうの昔から考え、感じ取り、その対応を願ってきた事柄で、何を今更といった感じであります。いやその対応を願ってきたからこそ、今ようやくにしてこの答申が出されたのかもしれず、大変に喜ばしいことと受け取るべきなのでしょう。

  しかし冷静によくよく読み直してみると、細部にはかなり問題点があると言わなければならないようです。教育職員養成審議会第1次答申は、教員養成課程のカリキュラム変更がその中軸に置かれています。このカリキュラムを詳細に見ると、構造転換の基本的方向として選択履修方式の導入が大幅に取り入れられようとしております。このこと自体は新しい考え方、そして大いに結構な方針だと思いますが、問題はその教科と教職とのバランスで、現行制度に比べて改正案では半数以下であり、「選択の教科または教職」で選択履修にいかに教科の単位を取り入れようとも、そしてここの区分が教職の充填を意味しているものであればなおさら、その弱体化は防ぎようもありません。

  たしかに教職を重視する方針は、新任の若い教員に生徒指導の充分なる知識と実行力を与え、今日の荒れた教育現場に対応し、その適切な対処が可能な優れた教員を期待させます。人格の基礎を形成する初等・中等教育に於いて、それを指導する教員が教職の意義や教員の役割、職務内容等に関する知識の習得に通ずることは急務でしょう。

  さて現在の教育界に見られる種々の問題は、正に教科に(4教科重視の)偏った知育偏重の結果で、バランスの採れた適切なカリキュラムが先ず基本にあるべきだと言われて居ります。それ故にこそ、余りに教科をないがしろにした様なカリキュラムの編成は頂けないのです。この答申が求める、あまりにも急激な教職に偏したカリキュラムの変更は、現在とは逆の作用で教員の教科における力不足を作りだし、諸学問領域に係わる専門的知識及び技能の習得に欠けることを恐れるのであります。

  「新たな時代に向けた教員養成の改善方策について」と題する教育職員養成審議会の第1次答申は、たしかに教職課程の教育内容改善のみを示すだけではなく、教科の重要性を否定するわけではありません。しかし私があえてこの答申について「どう読んだか」と申し述べるのは、教員養成課程のカリキュラム変更が、21世紀の国民育成を担う若い教員の養成にとって座視できないものを感じるからなのです。

  ここで本答申の「はじめに」と書かれた序文の一部を取り上げます。そこには『本審議会としては、この答申に掲げた諸提言が早急に実現に移され、我が国教員の資質能力の更なる向上が図られることをねがってやまない。』とあります。私ももちろん同感で一日も早い実現を望みますが、この文章では次の項で述べられる様な危惧があるからです。すなわち『財政構造改革が国を挙げての喫緊の政策課題と位置づけられる中で、現行進行中の教員配置改善計画について2年間の繰り延べが閣議決定された。』の文はそれを裏書きするものであり、私もそれを恐れます。

  このことに関して、申し添えたいのは、教育は忍耐を要し、教員が疲れていては充分な対応が出来ません。教員がより良い教育を行うための充分な時間を持てるよう、早急にい学級あたりの児童・生徒数の適正な配備の答申を、是非して戴きたいと考えます。


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