『教育研究所紀要第7号』文教大学付属教育研究所1998年発行

新しいビジネス実務教育改革に向けてのアプローチの体系化

野口 和枝

(文教大学付属教育研究所客員研究員・秋草学園短期大学)


はじめに
経済の発展期には美徳とされた勤勉の価値が豊かさの到来とともに揺らいでいる。労働(LAIBOR)ということばは勤勉精神の生きた経済的観点からの意味合いが強い。労働は生活のタメの手段、快のための苦を伴う活動という面を含んでおり、生きること自体の重要な部分であるのに対し、「仕事」ということばは働くことの意味合いをより強く帯びている。
仕事は経済的手段以上の働く行為や作品も意味する「ワーク」に対応する。
本論文は近い将来ビジネス現場の第一線に立ち、日々の問題解決の主体者になるべき学生の学習行動に対する志向性を現状把握し、自己実現に結びつくビジネス実務教育教授法の体系的アプローチを目的とする。人間の最も人間的側面すなわち「学習者が主体的に興味、関心、意欲をもつ」情意的側面を支える質的研究である。

仕事の定義

新しい仕事の倫理についてN・シュローニングは経済的手段以上の仕事生活の多面性から良い仕事の条件を次の四項目をあげている「ともに働けること(WORKING TOGETHER)」「仕事が芸術的であること(THE ART OF WORK)「配慮の倫理(THE ETHICS OF CAEINF仕事の質への関心をさす)」「変化を生み出すこと(MAKING CHANGE)」
仕事の場という次元における良い仕事は@仕事の過程、組織の目的など全体像の把握A仕事の位置と意味を理解することにある。すなわち良い仕事とは仕事を含んだ生活全般の所領域全体を思慮しながら自己の責任を果たしていくことといえる。新しい仕事トンりは仕事における「integrity」1を保持することである。「integrity」とは人格における全体性のことであり、その全体性によって可能となりうる誠実さを指す。

ビジネス実務に求められる「社会的知能」

integrityの保持は良い仕事に向かう核となる一つの考え方であるが、広義に捉えるならば社会的知能 2という考え方に共通点を見出すことができる。外界を解釈する枠組み、設定される目標、問題解決方略これらは社会的知能の重要な要素をなす。それらはいずれもその個人の持つ知識体系の中に埋め込まれていることが前提となる。社会的知能を単純に対人的コミュニケーション能力など社会的スキルや対人的コンピテンスとして捉えるアプローチもある。integrityの育成は社会的知能の向上を図ることと同義と思われる。
社会的知能とは、人が状況をその個人固有のやり方で解釈し、自らが設定した人生の課題(LIFE TASK)を達成するために、自分の持っている問題解決の方略のなかから適切なものを柔軟に選択することを仮定している。
人格のintegrityは職場・家族・知識・社会という日常生活のうえに成り立つべきであるが核家族化と少子化の進んだ現代では失われつつある。integrityの不足を感じとり、一貫した筋道を追及するのが人間の本性である。またそれは良い仕事の概念と重なり合うつまり良い仕事(GOOD WORK)は個人にとって望ましい仕事であるとともに人間的・社会的に意味のある仕事の両面を意味しうる仕事の概念であり公共社会において意味のある貢献をするまたは活動を行うことである。
今日のように仕事の関係領域が複雑になり、人間を対象とするサービスの仕事の増加に伴いますますintegrityの不足を補うことが重要視されている。
従ってこれからのビジネス実務教育に求められることは、学習者個々人が人生の中で人間的にも社会的にも良い仕事と思える方向へ向かうためにintegrityを高めることにある。


図略

社会的に知的なひとを育成することは、自分の目標を達成できるように、自分の持つ社会的知識を柔軟にかつ適応的に駆使できることを目的とする。自分い合った方法を効果的に発揮できる状況を選択し、あるいは作り出せること、さらに状況に応じて柔軟に方法の選択ができることが知的かどうかの一つの基準となる。
知能という点で従来の心理学の知能や性格に対するアプローチと違うところは、ある一定尺度上に個人を位置付けたり序列化したりしないことである。人によって経験が異なるので、設定する目標に相違があり、採用される適応方略も異なる。この個人差を単純に一つの尺度上に還元することなく、そのプロセス自体に焦点をあてていくという姿勢はこれまでの心理学研究からの反省といえるだろう。

学習効果を測るのは自己評価

学習はすなわち、行動を変容させる過程である。学習の過程に学習者を引き込まねばならないが教員は学生の効果の程を正確に測定できないまま、その評価は概ね実践からうまれた成果のみで得点化され優.良.可.不可と表示するのが常であった。
旧来の授業は学習者は受身で一斉に情報を付与する教員主導ですすめられてきたため到達度評価では学習者は常に評価の対象とみなされる。従って教員による「外から」の評価待ち、指示待ち状態に馴化しやすいという見方ができる。
しかしパソコンなどOA機器、OHP、ビデオ、コピーなどの利用が急速に普及するにつれ教員は情報提供する支援補助者となり、学習の指揮者の二役をかねるよう役割が変わりつつある。学習者は教員あるいは他者との関係においてかろうじて成立していた学習を、不特定多数を相手にした媒体(書物、講義、テレビ、CAIなど)からの情報的(内容的)サポートによる学習へと転換せぜるをえない。受身の一斉指導から個別学習指導への移行期である。今や重点は学習者と学習者が個々の学習経験から学ぶ事柄におかれるようになった。知的向上心に支えられたものへ如何に転換できるかということが学習者の重要な課題となる。
学習の過程においては教員は学習者を援助するため視聴覚技術を身につけ広範な学習資料に当たるという学習者への支援にまわることになるだろう。
教授の効果をあげるために教授−学習モデルを提案し教授と学習条件がいかに相互に関係しているかについてド・セコ(De Ceco,J.P)4は基本的教授モデルを引用して示した。

よい仕事に向かう人材を育成する実務教育基本的教授モデル(略)

学習の動機づけ方の傾向の把握
動機づけを多次元的な軸を設定して要素をその中に位置付けていく学習動機の二要因モデル、6つの種類に分類した学習動機を構造化したひとつの例を提示する。5

充実志向:学習者が自分の知識や技能の向上が実感できるような課題設定や評価方法を考える
訓練志向:知識や知能はそれを得る過程でさまざまな力がつくことを理解させる学び方の学習が他の場面でもできることを示す
実用志向:本人にとって興味のわく課題の追求の過程で他の学習が必要間を伴って成立するようになる
関係志向:学習だけではなく教育者や学習者との人間関係に注意を払い楽しい雰囲気作りを心がけるホリスチックな付き合いを重視
自尊志向:優れた点を積極的にほめて自信をもたせるようにする。成績を公表したり表彰したり多くの人から見とめられる場をつくる
報酬志向:勉強すること出に対してご褒美、逆に勉強しないと体罰をあたえたり翔さんや叱責で動機付けしようとする

次の調査は教員が出した2種類(会社研究「三國コカコーラ群馬工場見学報告」と「一般知識120用語調査発表」)の課題を通して学生の自己評価から学生個人の動機づけ志向を分析したものである。志向性は市川の6分類の尺度を使用した。
調査:(1)主体的に関わる課題完成提出後、自分自信が調査し、まとめ、パソコンで仕上げた自作入の資料をみながら、20語の解説文にあてはまる用語を記入する確認テストを20分間で実施した。確認テスト20点満点中の得点を学習効果として測定
(2)あらかじめ会社研究を秘書概論で学習した後、現地見学して得た最新情報や甲方部長らによる会社概要、今後の課題など直接情報収集し報告書を作成した。
自己考察欄に記された自由既述文と学習効果4段階(主体的に楽しく取り組めた4点やや取り組めた3点どちらとも言えない2点、あまり主体的とはいえない1点、欠席・無記入0点)のスコア−自己評価点、最高4点とする。
(3)(1)の20点と(2)の4点を合計して24点満点で評価を数値化した
対 象: 秋草学園短大経営科 123名
調査月日:1998.6.24〜7.8
調査結果:自由記載されたものを回収し、類似した表現を統一し、市川による6つの学習動機に対応させた。満点24点中獲得した点数の分布を書きに表示する

結 果:表-1具体的既述 学習動機に対応させた分類による(秋草学園短大123名 1998.7)

充実志向・ 充実した課題だった。今後は何もみなくてもわかるようになりたい
・ 初めてみた言葉を調べて、まとめてよい学習をした
・ 自分で調べ自分のことばでまとめる大切さに気づいた。テストがプロセスとして改めて頭に入った
・ よく頑張ったと思う
訓練志向・ パソコンは楽だったが調べるのは大変だった。すこしわかってきた気がする
・ パソコンは楽しいが意味と項目が結びついていなかった
・ ワープロは上達した。速くなって嬉しい
・ パソコンの速度は速くなって、用語の勉強にもなった
・ トロイので自分にはむいていない
実用志向・ 調査のまとめ方がうまく行かなかった
・ もう少し細かいところまで勉強すべきであった
・ もっと理解できるように工夫が要る
・ 自分で打ったパソコンが見づらい
・ 自分でやったことを見なおしておくべきだった
・ パソコンと辞書でことばと意味が頭にはいった
関係志向・ 思ったよりできた
・ まあまあのでき
・ できた
・ もっとできると思ったがわからないものが多かった
自尊志向・ 持ち込みの試験方法を甘く見ていた。もう一回勉強しようと思う、悔しい
・勉強していないので当然できない。今後はコツコツやっていく
・ わからないところが結構あった。勉強不足であり忌みと用語が結びつかない
報酬志向・ 黒板に発表されたものを板書しただけなのでできなかった
・ むずかしかった。時間も足りない
・ むずかしかった。わからないところだらけ
学習動機に対応させ、会社見学報告自己評
価満点4点と120用語確認テスト20点の合
計24点中の得点分布を下記に表示する。


表−2 学習動機に対応した得点分布(略)

学習課題の取り組み方の自己評価から個人の意識を学習動機に対応させ、さらに仕事に向かうアプローチ基準に対応させた表を示す。

表−3 個人の意識に基づいた仕事へのアプローチ基準(山本による) (略)

学習課題の取り組みに表現された学習への動機づけと4つの仕事へのアプローチと対比させると従来の教授法は学生の意識やそれをふまえた問題の根本原因を把握しないままあいまいであったことが明白になる。
ビジネス教育に質的向上を妨げる要因
ビジネス実務教育を実践するに際して、山本6の考え方を基盤にした仕事へのアプローチの着眼点から学生の質的向上を妨げる要因を把握する。


表−4 仕事へのアプローチの着眼点(略)


表−5 組織行動における4つの志向に対する個人の意識、組織の目的アプローチ基準(略)


結論

個人の意識に基づいた仕事へのアプローチは問題回避レベルが64.2%で最も多く、次に問題処理、最も少ないのが問題改革提起であることが明示された。大学における実務教育が問題回避から問題改革・問題提起へレベル・アップを志向していかなくてはならないということを示唆している。外面的規範にとらわれ、外的動機による行動志向と見て取れる。
今後、内的志向のレベルをあげるためには、個人の自己改革である。一人一人の意識を高める工夫がクラスやゼミメンバー全員を揺り動かすこともある。また教員側からの働きかけ方が個人の意識を目覚めさせることもある。学生相互と教員のどちらか一方だけではなく双方の相乗効果が発揮されないことには改革や問題提起レベルまで引き上げることはできない。
(2) 得点分布によると学習の動機づけの6種類は点数とのバイヤスはないことがわかる。内発的動機の高い(充実志向)ひとでも得点は低いものがあり、充実志向以外の単位獲得のために仕方なく出席した報酬志向のものとの点数の分布に差異がない。
内発敵動機づけがテスト成績と関係しないのは「どうしても習得せねば」という気持ちが弱いからかもしれない。動機づけの質的相違によって学習行動や成績に差異がみられるといえよう。これは速水の大学生の動機づけ研究 7において妥当性を得ている。
(3) 人の特性として課題をやり終えた後、成功にせよ失敗にせよ「運・不運」という思いは次の行動に何ら影響しないし、反省による改善努力もおこらない。いずれにしても外的方向に原因帰属を求めるようなタイプの人には「自分と仕事の結びつけ方」を教える必要がある。現代学生の大半の傾向は外的統制タイプである。
(4) 外的統制の方向をもつ学生の教育にはデスクワークでも、具体的な仕事でも「終了したら必ずその結果を反省したり、振り返るときを与える」ことが必要である。
問題解決における現状把握の質を向上さ
せるためのポイントは
(1)組織における人間行動を個人の欲求と組織の規範(要求される資質や能力を含む)とを密接に関連付けて考えるという点にある。
個人の欲求は給与、休暇体制や人間関係など労働条件、労働環境つまり外的欲求と、重要な仕事を任せてくれた、信頼関係に支えられた人間関係といった仕事の内容に関するレベルの2つに大きく分けて考えられる。
制度の改善などは不満足な点が解消されるだけで新の満足の充足は難しいが後者の場合は真の満足感が可能である。
(2)組織の規範の観点は組織の成員が、経済的な報酬や社会的立場など自己を中心とした目的の実現手段として組織に参画する外面的規範のレベルと経営者ないしは会社組織全体の立場にたって組織への貢献を考える内面的規範のレベルに大きく分けられる。前者はいくら改善しても自発的な創造性を期待できないが内面的規範はトップの強いリーダーシップが重要な意味をもつものであり、新たな挑戦や改革への取り組みを期待できる。8
学習の統制間における努力への帰属
学習意欲がわくためには学習者が環境をコントロールできる存在であると感じられることが必要である。自らの能力や行動に関係なく、環境側の要因で結果がもたらされていると思っている場合には外的な統制と呼ばれ、自らの行動が原因となって結果が生じていると認知している場合には内的な統制というロッター(Rotter,1966)により統制の所在(Locus of control)の概念が提出された。5
学習の結果が明らかになると「なぜそうなったか」という原因について推測するのは「帰属理論」として社会心理学のなかで扱われてきた。その考え方を教育の場面に導入して理論化したのがワイナー(B.Weiner)である。原因の所在ともうひとつは安定性その原因が容易に変化しうるものか否かの次元で2次元の組合せによって8つの区分ができる。

学習の成否の帰属と組織行動における2次元的分類

原因の所在

安定動機

内発的動機 不安定動機 外発的動機
内的統制 能力 問題提起志向 努力 問題処理
外的統制 課題の難しさ 問題防止 問題回避

分類次元にそって一定の心理的効果を生じるとされる。ワイナ−によれば能力や課題の困難さは変化しがたいもので「自尊感情の大きさ」に影響するが努力や運は変化しやすいということになる。つまり成功して内的要因に帰属すれば外的要因に帰属した場合よりも強い自尊感情が生じることになる。
また安定性の次元は「期待の変化」を規定するという。すなわち成功して安定した要因に原因帰属し次に同様のことをする場合には必ずしも一定方向の期待の変化が予想されない。このようにして生じた感情と期待により動機づけの強さが規定されると考えている。
またド・シャーム(deCharms,1968)の提唱したオリジン(origin)が自分の意志で動いている状態であり、ポーン(pawn)は行動を起こす原因が自らにあるか、他者やその時の状況にあるかということに関わる概念である。この二つの理論には、学習意欲の重要な側面が集約されている。
教育における内発的動機と外発的動機の
新しい枠組み
学習場面において従来は本来もっている内部から湧きあがる動機づけを生かしていこうという姿勢がつよまり、賞罰などによる外的統制による動機づけは影を潜めてきた。
内発的動機づけをたかめる工夫をして興味をもてるように、楽しい授業をすることが大切とされてきた。楽しいとか面白いにはさまざまな意味が含まれている。課題の表面的な性質なのか、その場の雰囲気によるのか、個人の内部の感じ方か、受身的な立場で視聴覚的に刺激的なのか能動的に内面性の楽しさか、といった目的−手段、自律−他律の次元変数も内発的動機の中に取り込む必要がある。
従来、認知的動機づけだけに限定されて考えられてきた点が問題である。
教員が発する質問の認知的レベルはブルーム(1956)らが提案した教育目標の分類に対応して次の表に示される。

質問の認知的レベル(略)

このなかで知識、理解、応用の質問は唯一正答をもとめるもので(集中的)、認定的レベルが低い。分析、総合、評価の質問はできるだけ多くの正答を求めるもので(拡散的)認知的レベルが高いとみなされている。
常識的にはより高次の質問はより低次の膣門よりもよいと考えられているが、数個の研究ではより貞次の質問の方が学習を促進することが示されているところに注意したい。
教員が投げかける質問の質、学生の応答するまでの待時間、適度の称賛、批判より訂正、学生に対する熱意と暖かさが教員と相互作用する要因であり、教室をいかに学習環境として操作するかに影響をさせる。
学生は授業に酸化しなくても効果的に学習できる。しかしその学習は参加する学生の反応に対し教員が積極的に反応するとき、一層学習は促進されるという。つまり教員の反応は熱心さと教員が要求していることを学生に伝えることになるという意味で教員の反応の効果によって動機づけられている。
内的で不安定、かつ自分でもコントロールできる要因として「努力する気になる学習方法」があげられるが学習の成否を学習方法に帰属することに着目した研究は多くない(奈須199310)
どんな学生も職場では活き活きと働き、自分らしさを打ち出したいと思っている。そうすれば全力投球できるということも理解している。自己実現のためには本人の相当の能力を持たない限り満足を得る成果には到達しない。それは単純な能力というより、自己統制力といったほうがよい。
人間の自己実現的とは人がその最高の成果を達成しようとする傾向をもっていることである。マスローは「活き活き人間」11という課題に沿って特性を上げているが抜粋すればよい仕事をするためにはintegrity高めることが最高の到達目標とすると、これらの傾向性は次のような教育と自己啓発によって十分に強められる可能性がある。

(略)

まず@の自己改革ができればA〜D真出を強化し高めることができる。
教育の学びの視点に
(1)自分自信の行動の反省を取りこむ
(2)自分自信の行動に気づく
(3)気づくことを通して、他人を寛大に受容する
(4)他人の良さ、欠点がよくみえるようになる
4ステップを踏んで構成する必要がある。
学習者に求められる考え方
(1)学習者にフィードバックを与える。
・ フィードバックは学習者に速く与えるほど効果的
・ 行動そのものに関するフィードバックほど学習効果が高まる
・ 肯定的フィードバックは処罰的より効果がある。望ましい行動に対するフィードバックは行動を強化し更に学習意欲を育てる
問題側の難しさ、やり方の工夫、自分の思い違い、ミスなど一般化したルールの形で教訓を抽出しておく。問題をやりっ放しにしない。つまり正解をだすことを目的とするのではなく、どんな教訓を引き出す事ができたかのほうを重要視することである。
以前と違う進歩した自分をその都度確認させその確認を継続することで自信をつける訓練にもなろう。
(2) 学習が学生の日常や現実に関連付けられた、現状にマッチした課題
問題が解けるというだけではなく、日常の課題に見通しをもてるという新の理解力を育むことが今求められている。現場で期待される行動を予測する力。理論を実際に適応するなど実際に活用できる技能・行動をすぐ実践させるまた受け入れられる内容に絞る
従来の学校教育では、テキストを前に抽象的、形式的概念を学習することでそれを学校以外の様々な状況に当てはめて考えることができるようになると仮定してきたがその仮定は果たして有用であったといるだろうか。
結局現実の課題にあてはめて考えるという「本物」の活動を経験させ、様々な状況に当てはめて考えることができるように抽象的、形式的な概念を自発的に教室以外で利用できるようにすることである。現実の事物といかに対応するかを明確にする。
(3)「関心に支えられた学習意欲」自分の学習に関心を持ち理解させようとしてくれる他者の存在によって学習に対する動機づけを高める効果がしばしばある。個別学習指導の重要な機能「一人の理解者」が求められている。
教員側の注意点
(1)学習者の自立を促す
学習への準備段階としてガイダンス教育の位置付け・学習の仕方・スタディスキル・情報源をどこに求めるかなど少人数で親密なコミュニケーションをとりながらの基礎演習
「学習者の自立を促す」という視点において重要な検討課題、従来の教授・学習研究でしばしば見落とされていた点について検討する。
第一「できないとき、わからないとき、しらないときにどうすればよいのか」を示せる「モデル学習者」としてふるまえることの重要性をあげたい。
極端な場合わからないときには人に聞けば良いという依存的消極的な態度になる場合がある。そこで共通の「わからない問題」について共に考えるような学習場面を設定し、さらに一段メタのレヴェルから学習者とともに捉えなおす「なぜわからなかったのか」「どうすればわかるようになるのか」を再考するような機会をもつこと 12
(2)学習過程の工夫
達成目標は個に応じた行動変容「予測される〜から〜へ」を起こすこと
@少なくとも〜は達成という最低限の目標も設定するA必要とする時間を見積もるB予定を時間化しておくと到達度が明確に測定できる
行動変容を起こすことを重点とする行動に焦点をあてる
@行動の定義を明確にするA行動の基準を提示するB業務ステップと内容の定義 C各ステップはシュミレーションにより学習
学習者を学習過程に積極的に参加させるため学習者が熱中できるような学習場面の操作学習の転移をプラスの方向へ−既習行動を新しい行動に関連付けることによる効果
学習者の興味に訴える自発的な学習の構築−課題のねらいを明確にしておく
課題は生活経験からかけ離れない範囲
(3)「学び」を捉える教育評価観の転換
旧来の「到達度評価」が子どもたちの「学び」の実相に迫るため重要な問題提起は学力モデルに従って評価機能を三種「診断的評価」第二に「形成的評価」学力の基本性、つまずきの共有化、演習課題・ノート点検、第三に「総括的評価」学力の発展性の三種に分化することであった。
学生が主体的で能動的な学びを展開していること、それ自体のなかに評価好意を内在化させる工夫を行なう必要がある。
教授法の体系的アプローチ−主体的学びの参加 三段階理論−
学習参加者の主体性の差に着眼した「参加の三段階理論」13は大学の授業を活性化させる教育の方法論として出発したが目的論、制度論として重要性が増してきている。
今後目指すべき社会の基本的な在り方は住民の、地域、政治、行政、福祉、医療、そしてメディア等社会の諸側面に主体的参加することが切望されている。
時代のキーコンセプトは「計画に参加することparticipation in planning」という「参画」なのではないかと述べている。

表−6主体的学びの行動3段階に応じた教育方法論をしたの表に示す (略)

学習プログラムへの参加の段階を考えるときに援用可能である。

表−7 学習者の主体性コンセプトによる教授法の体系的アプローチ(略)

実務教育における教育方法原理や技法に適応させる具体的教育基本手法
それぞれの技法に対してメタ認知を促す具体的教育基本手法を組合せることができる

(表略)

おわりに

現状に対する認識がすすむにつれて意識改革が始まり参集型のお客意識が参加が他の主体性を発揮するこれまでの候同水準の低さや狭さを学生相互、教員と学生相互影響によって自ら自覚していく。その結果、取り組み姿勢が外的統制から内的統制へ転換し改革に向けて指導をはじめる。
経営学の基本的考え方、学習到達目標の予定planning次に実行doingまた自己評価フィードバックseeingのPDSサイクルが現状把握と意識改革の質を平行して向上させていく。
人間の欲求と組織の規範という視点を基本に実践的アプローチの理論的体系化を行なった。毎年学生が変わり、教育指針も流動的な改革のなかにあって志向錯誤の連続であるが実践性を強化した実務教育教授法実践的アプローチの体系化の研究を続けて行く予定である。


1 N,シュローニング1990「怠惰な手と空虚な心−合衆国における仕事と自由」
2 掘毛一也・村田光二(1991).社会的知能と対人行動.日本グループ・ダイナミックス学会第三九回大会発表論文集,6 加藤幸次著「ティームティーチング入門」P126国土社1996.5
3 Cantor,N & Khilstrom,J.F.(1989)Social intelligence and cognitive assessments of personality.In R.S.Wyer,Jr.&T.K.Srull(Eds.),advance insocial cognition,Vol.U.pp.1-59
4 辰野千寿「学習指導の心理学」P24 大日本図書1990教授モデルの比較による成績評価ド・セコ(De Cecco,J.P)1968『学習と教授の心理』のなかで基教授モデル、コンピューターに基づくモデル、学校学習モデル、相互作用モデルの4つをとりあげて教授モデルの比較による成績評価を出している。
5 市川伸一編1995年「学習と教育の心理学」PP21-38 岩波書店
6 山本憲司『問題解決と現状把握』オフィス・オートメーション学会 第37回全国大会発表予稿集P69
7 速水敏彦 1995 大学生の動機づけ−教職科目の場合 日本教育心理学会第38回総会発表論文集350
Hayamizu,T.Itoh,A.&Yoshizaki,K. 1989a Cognitive motivational processes mediated by achievement goal tendencies.Japanese Psychologi
cal Research31,pp180-190
8 山本憲司 同上
9 辰野千寿「授業の心理」授業の基礎・基本 教育出版P111,P140
10 奈須正裕「学習相談・学習指導における動機づけ問題 市川伸一編」学習を支える任地カウンセリング−心理学と新たな接点 1993ブレーン出版10
11 本明 寛1986「人間の強さ−自己を育てる心理学−」P202実務教育出版
12 市川伸一編「学習と教育の心理」現代心理学入門3、学習の成否の二次元的分類P31岩波書店
13 林 義樹1994年「学生参画授業論」P164学文社
14 平沢 茂編1994「教育の方法・技術」P202学文社
15 市川伸一編「学習と教育の心理」P85


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