『教育研究所紀要第7号』文教大学付属教育研究所1998年発行

特集 「教育職員養成審議会第1次答申」を読んで

これからの教員に求められる資質能力と「教育職員免許法」の改正

高倉 翔 

(明海大学副学長・教育職員養成審議会委員)


はじめに

 現在、「6つの改革」と一体的に、「教育改革プログラム」(平成9年1月策定、同8月改訂、10年4月再改訂)に盛り込まれたスケジュールに従って、一連の教育改革が進行している。これらの改革には、当然、教員教育(「養成・採用・研修の過程」における「職能成長」の全体)制度の改革が含まれている。
 すなわち、平成9年7月の教養審「第1次答申」( 「新たな時代に向けた教員養成の改善方策について」 、以下、『答申』と表記)を受け、平成10年6月4日に「教育職員免許法」( 以下、『免許法』と表記)が改正(7月1日施行)され、続いて6月25日に「同施行規則」(以下、『規則』と表記)が改正(7月1日施行)された。これらによって、「養成カリキュラム」 の大幅な改善を中心に、教員教育制度の改革が行われた。
 その後、教養審では「修士課程を積極的に活用した養成の在り方」を中心に審議を継続しており、「養成と採用・研修との連携の円滑化」及び「教員養成に携わる大学教員の指導力の向上」などを含めて、年内に教養審「第2次答申」が予定されている。
 本稿では、(1)まず、「いま、なぜ、教 員教育制度の改革が必要か」について考察し、(2)次いで、『答申』と『免許法』改正を通して、「これからの教員に求められる資質能力」について考え、 (3)さらに、その「資質能力」を形成するための「養成・採用・研修の各段階の在り方」と「養成カリキュラムの構造転換」などについて論及してみたい。

1. いま、なぜ、教員教育の改革か

(1)改革を必要とする「3つの理由」
 現行の『免許法』は、昭和63年に改正されたものである。改正後10年で、今回の法改正がなされたことには、あまりにも「朝令暮改」ではないかとの批判がある。この批判に応えるために、「いま、なぜ、教員教育の改革か」について、「 3つの理由」に分けて説明をしてみたい。
 第1は、前回の『免許法』改正以後における教育改革の進展との関連である。
 まず、教育改革全般にかかわり、「 個性重視の原則」が前面に出され(臨教審) 、[生きる力 ] が強調され(中教審「第1次答申」、平成8年7月)、「 形式的な平等から個性の尊重へ」が要請された(中教審「第2次答申」、平成9年6月)ことへの教員教育面からの対応である。特に、これからの教育において「個性の尊重」が重要な課題であるとするならば、「個性豊かな教員」の養成・採用・研修がその前提条件となる。これまで、教員の「得意分野づくり」や「個性伸長」が強調されたことはなかった。
 また、大学改革にかかわり、平成3年に「大学設置基準」改正による大綱化がなされ、教育課程編成における大学の《裁量》が大幅に認められた。しかし、前回の『免許法』改正が大綱化の3年前であったために、大学の教職課程に対する《規則》が強いままであった。『免許法』と「大学設置基準」との整合性、つまり、「 養成カリキュラム」の編成における各大学の《裁量》を認める施策が必要なのである。
 第2は、(1)国際化・情報化・環境破壊など「地球規模で急速に進展している社会変化への対応」 、及び、少子化・高齢化など「日本社会特有の社会変化への対応」が必要なこと、さらに、(2)いじめ・不登校(登校拒否 )・校内暴力など、学校が当面する深刻な問題の解決が緊急の課題とされていることである。
 これらの諸課題に適切に対応できる「教員の資質能力」の育成と向上が求められているのである。
 第3は、教育改革を含む「6つの改革」との関連性である。諸改革のうち、特に「行政改革」のキーワードである「 規制緩和 」や「地方分権」などが、教員養成・採用・研修の制度改革にも大きなインパクトを与えているのである。
 これらが総合されて、『答申』では、(1)「これからの教員に求められる資質能力」(教員像)、(2)「養成・採用・研修の各段階における役割分担 」 、(3) 「教員養成カリキュラム改善」などについての具体的な提言が行われたのである。

(2)「 第3の教育改革」の《総仕上げ》

 これら「3つの理由」を総合すると、今回の教員教育制度の改革は、「第3の教育改革」の《総仕上げ》の一環に位置付けられよう。
臨教審の「答申」(昭和60年6月、61年4月、62年4月、62年8月)は、昭和46年の中教審「答申」(いわゆる「46答申 」)の提言を契機とする教育改革を、わが国における「第3の教育改革」とした。「46答申」の提言には、当然、実現されたものと、されなかったものがある。臨教審は、「46答申」を検討し、「今日的な視野に立って、これを見直し」つつ、21世紀の教育を目指して、4次にわたり「答申」を行った。
 その「最終答申」は、「教育改革の視点」を3項目に集約している。すなわち、(1)「個性重視の原則」、(2)「生涯学習体系への移行」、及び(3)「変化への対応」(国際社会への貢献・情報社会への対応)がそれである。これらの視点から「改革の具体的方策」を提言し、かなりの実現をみている。ただ、改革法作の積み残しも少なくない。また、その後の内・外における新たな社会変化や、学校が当面する、これまでになく深刻な問題状況などに適切に対応するため、「第3の教育改革」の《総仕上げ》として、今日の教育改革が要請されている。その《総論》部分が、中教審「第1次答申」と「第2次答申」である。前者は、[生きる力]と[ゆとり]をキーワードに、「学校像」(学校パラ ダイム)の《転換》を求め、後者は、「能力・適正に応じた教育の必要性」の観点から、「形式的な平等の重視から個性の尊重への《転換》」を求めている。これらを《総論》部分とし、教課審・教養審・中教審の「答申」などによる《各論》的な改革提言がなされ、一部、改革の実現をみている。
 周知のように、OECD(経済協力開発機構)の「学校改善プロジェクト(ISIP)」において、教育の「3つの質」が改善の柱とされた。「カリキュラムの質」、「教員の質」、「経営の質」がそれである。《各論》的な改革提言は、これら「3つの質」に関わり、教員教育制度の改革提言は、言うまでもなく「教員の質」に関わるもので、21世紀を目指した新しい「教員像」への《転換》を求めるものである。

2.これからの教員に求められる資質能力


(1)資質能力の「2つの側面」
 「教員に求められる資質能力とは何か」という問いに答える課題は、教養審が発足して以来の一貫したテーマである。『答申』では、この問いに答えるため、「教員の資質能力とは、一般に、専門的職業である『教職』に対する愛着、誇り、一体感に支えられた知識、技能等の総体」と理解した上で、《2つの新しい方法》を講じた。一つは資質能力を「2つの側面」に区分して提示すること、もう一つは「得意分野をもつ個性豊かな教員の必要性」を強調することであった。
 まず、『 答申 』は、「教員に求められる資質能力を、( 1 )「いつの時代にも求めら れる資質能力」と、( 2 )「今後特に求められる具体的資質能力」に区分した。(1)に ついては、これまでの一般論(抽象論)を追認し、( 2 )については、《具体的》に例示し、「養成カリキュラムの改善」に結び付け ている。
 すなわち、(1)については、前回の『免許法』改正を提言した昭62年の教養審「答申」の「はじめに」に掲げられた内容(「教 育者としての使命感、人間の成長・発達についての深い理解、幼児・児童・生徒に対する 教育的愛情、教科等に関する専門的知識、広く豊かな教養、そしてこれらを基盤とした実践的指導力 」 )とした。

 (2)については、中教審「第1次答申」に示された[生きる力]を育む観点から、「今後特に教員に求められる具体的資質能力」の例を図式的に整理した。すなわち、(1)「地球的視野に立って行動するための資質能力」(地球・国家・人間等に関する適切な理解、豊かな人間性、国際社会で必要とされる基本的資質能力) (2)「変化の時代を生きる社会人に求められる資質能力」(課題解決能力等に関わるもの、人間関係に関わるもの、社会の変化に対応するための知識及び技能) (3)「教員の職務から必然的に求められる資質能力」(幼児・児童・生徒の教育の在り方に関する適切な理解、教職に対する愛着・誇り・一体感、教科指導・生徒指導等のための知識・技能・態度)を掲げた(具体的な例は省略)。
 これらを基に、「養成カリキュラムの改善」の「具体的改善方策」として、「教育内容」に関し、「教職への志向と一体感の形成に関する科目」と「総合演習」の新設、「教育実 習の充実」と「教育相談(カウンセリングを含む )に係わる内容の充実」(以上、教職科目)、及び「外国語コミュニケーション」と 「教育機器の操作」(以上、教職科目以外の 必修科目)の新設などを提言した。これらの名称は「仮称」であり、立法化の過程で、「教職への志向と一体感の形成に関する科目」は「教職の意義等に関する科目」(『規則』参照)に名称変更された。
 『免許法』および『規則』の改正により、科目の「新設」や「充実」について新たな規定がなされた。問題は、これらに関する適切な「カリキュラム開発」である。文部省は、平成10年6月に「教職課程における教育内容・方法の開発研究委託実施要領」 (教育助成局長決裁)を発表した。「 体系的な教員養成カリキュラムの在り方」という総合的な開発研究と、新たに設けられた科目を含む「効果的な教職科目の教育内容・方法の在り方」に関する個別・具体的な開発研究について、研究委託の方針が示された。その成果が期待される。

(2)「得意分野づくり」と「個性の伸長」
 『答申』は、「得意分野づくり」と「個性 の伸長」を提言している。「個性重視の原則」や「個性の尊重」を最優先させる教育改革には、なによりも「得意分野をもつ個性豊かな教員」が求められなければならない。そこで、多岐多様な「今後特に教育に求められる具体的資質能力」をすべての教員に一律に求めることをせず、教員一人一人が最小限これらを備えることは不可欠であるが、高度に身に付けることを期待しても現実的ではないとした。 そこで、今後における教員の資質能力の在り方を考えるに当たって、画一的な「教員像」を求めることを避け、生涯にわたって専門的な資質能力の向上を図るという前提に立って、すべての教員に共通に求められる基礎的・基本的な資質能力を確保した上で、積極的に各教員の「得意分野づくりと個性伸長を進めることが大切である」とし、教員養成・採用・研修の大きな課題とした。
 これからの学校は、さまざまな個性や得意分野をもった教員の組織として、全体として統一と調和のとれた教育活動を展開することが期待されるのである。
 なお、「得意分野づくり」と「個性の伸長」は、養成のみならず、採用・研修の段階における配慮を必要とする。そこで「採用側は、時間的余裕を持って採用の際に重視する分野を公表する必要がある」と提言した。これは、「情報公開」の一つと考えてよいと思うが、一方、「大学が採用側の教育委員会に従属することになる」との反対意見もみられるのである。また、研修の段階に関しては、「養成・研修の並行的充実の必要性」が提言され、これまでの研修の体系化・定型化に加え、「 得意分野」や「個性」に応じた研修の充実が示唆されている。なお、具体的な「養成と採用・研修の連携の円滑化」については、年内に予定されている「第2次答申」に盛り込まれる。

3.養成段階の役割と「養成カリキュラム」の「構造転換」

(1)養成・採用・研修の「統合と連続性」
 1970年代中頃から、養成・採用・研修の「統合と連続性」が国際的な常識となってきている。すなわち、教員の資質能力は、「一回限りの養成」によってではなく、「養成・採用・研修の各段階を通じて次第に形成されるもの」と理解されてきている。その背景には、1966年のユネスコ「教員の地位に関する勧告」を契機とする「教職は専門職である」とする認識と、「生涯学習社会の到来」がある。
 国内では、すでに「46答申」が、教員の「資質と能力は、その養成、採用、研修、再教育の過程を通じてしだいに形成されるべきであろう」と述べ、養成・採用・研修の「統合と連続性」を萌芽的に示している。
 国際機関の動向をみると、1973〜4年のOECD(経済協力開発機構)「教員政策 会議」は、養成・研修の「統合(integration)と連続性(continuity)」の重要性に関して合 意に達している。この会議では、「研修に優 先権を与えるべき」といった主張もなされており、研修の在り方は、(1)養成教育の「補完」に重点をおく「試補期間」の研修と、(2)教員個人の人間的成長、職能成長、経営能力の成長に重点をおく「試補期間後」の研修に分けて論議された。国際機関における「統合性と連続性」論議の発端といえる。
 翌1975年のユネスコ「教員の役割の変化と教員養成・研修に関する勧告」も、(1)養成を「教員の継続的教育の過程における最初の基礎的な段階と考えられるべき 」、(2)研修を「教員教育における不可欠の構成要素であり、あらゆる範疇の教育職員に規則的に実施されるべき 」、「実施方法は可能な限り弾力的で、個々の教員の要求や地域の実情に即応したものであるべき」としている。
 このような国際的な動向を反映して、昭和53年の中教審「 答申 」(「 教員の資質能力の向上について 」)は、「教員の養成・採用・研修の過程を通して教員の資質能力の向上を図ることが重要である」と断言するに至った。その後、臨教審、中教審などの「答申」、特に昭和62年の教養審「答申」は、この考え方を鮮明に打ち出している。

(2)養成と研修の「役割分担」
 これまでの教育諸審議会「答申」などは、養成と研修の「統合と連続」について述べてはいるが、必ずしも養成・採用・研修の各段階における「役割分担」を明確にしているわけではない。そこで、『答申』は、「役割 分担」の明確化につとめ、そのイメージについて、次のように整理した。

(1)養成段階:免許制度上履修が必要とされている授業科目の単位修得等を通じて、教科指導、生徒指導等に関する「最小限必要な資質能力」(採用当初から学級や教科を担任しつつ、教科指導、生徒指導等の職務を著しい支障が生じることなく実践できる資質能力)を身に付けさせる過程。
(2)採用:開放性による多様な免許状取得者の存在を前提に、教員としてより優れた資質能力を有する者を任命権者が選考する過程。
(3)現職研修段階:任命権者が、職務上又は本人の希望に基づいて、経験年数、職能、担当教科、校務分掌等を踏まえた研修を施し、教員としての専門的能力を開発する過程。うち、初任者研修は、初任者に採用当初から学級や教科を担任させつつ、上記の養成段階で修得した「最小限必要な資質能力」を、円滑に職務を遂行し得るレベルにまで高めることをねらったもの。「現職研修段階」には、このようないわば狭義の研修のほか、教員グループによる自主的研修や教員自身の研鑽、さらには日々の教育実践を通じて資質能力の形成が図られる過程も含む。

  このように、養成段階で修得すべき水準、初任者研修の役割、現象研修段階における研修の目的と形態について、踏み込んだ整理と提言がなされている。これらには、上述のユネスコ「勧告」の提言と符合するところが多い。ただ、「 最小限必要 」という表現と、「最小限必要」な内容について、さまざまな意見がみられることを指摘しておきたい。
 「役割分担」に関して特に重要なことは、少なくとも養成と初任者研修を「セット」で考えることである。実体的に言って、「教員 に求められる資質能力」の多くは採用後の初任者研修や教育実践を通じて向上が図られていることを念頭に置く必要があろう。
 なお、養成・採用・研修の「統合と連続性」を重視するならば、当然、大学と都道府県教育委員会等が日常的に情報交換や人事交流を行いつつ、養成と研修のカリキュラム(プログラム)内容を相互に理解し、一人ひとりの教員に対して生涯を通じての「適時適切な研修機会」を提供することが不可欠である。 「統合と連続性」の確保のためには、大学と大学外の関係者との連携協力が不可欠である。

(3)「養成カリキュラム」の「構造転換」
 ついで、『答申』は、「養成段階で特に教授・指導すべき内容の範囲」を明らかにした。すなわち、第1は「教職への志向と一体感の形成 」、第2は「教職に必要な知識及び技能の形成 」、第3は「教科等に関する専門的知識及び技能の形成」としたのである。
『答申』では、「養成カリキュラムの改善」方策について、「 基本構造 」と「 教育内容 」の2つの視点から検討を加え、それぞれについて、改善・改革の提言をしている。この提言に沿って『免許法』及び『規則』の改正がなされた。
「教育内容」改善の概略については既に述べた。ここでは、必ずしも『答申』の内容に沿わないが、「構造転換」について、2つに 区分して述べてみよう。
 第1は、「教科に関する科目」と「教職に関する科目」の総単位数は変更せず、後者にウエイトを移行させたことである。第2は、大学の裁量による開講科目と学生の選択履修を大幅に可能とする方式を導入したことである。特に後者により「期待される効果」として、大学の創意工夫によるカリキュラム編成、重点履修による得意分野づくりと個性伸長、きめ細かな採用選考や現職研修の促進が挙げられている。
 なお、「 教育内容 」を改善するための基本的視点の中に、ボランティア活動などの体験的な学習による「人との豊かなふれあいの機会 」を得ることの重視や、「 知識 」よりも「人とのふれあい」や「人物重視」の姿勢が示されている。

(4)「構造転換」と「解放性の原則」
 今回の『 免許法 』改正に際して、「構造転換」に関わり、一般大学、特に、私立大学から、「 教職に関する科目 」の単位数増加への批判が相次いだ。第2次大戦後の教員養成に関する「3つの原則」( 大学における養成、開放性、免許状主義)のうち、特に「開放性の原則」が崩壊する恐れがあるということである。
 「3つの原則」そのものを見直す議論もみられる。現在、「新しい開放性」や「節度あ る開放性」についての検討も重要な課題である。ただ、『答申』は、「採用段階」を「開 放性による多様な教員免許状取得者の存在を前提に、教員としてより優れた資質能力を有する者を任命権者が選考する過程」とし、また、後に述べる「社会人の活用促進」に関して「学校教育の水準の維持・確保に留意しつつ、以下の弾力化措置を講ずるものとする」という《確認的な書き込み》をするなど、「3つの原則」の保持を前提にしていることを指摘しておきたい。
 また、一般大学などからの要望を受け入れ、『答申』は、次の3項目を加えた。「教職に 関する科目」を卒業要件に含めることを可能にすること、「教職に関する科目」に係わる 他学部等聴講の範囲を「大学間協定の締結等を前提に、他大学にも拡大」すること、及び、課程認定に際しての「教職に関する科目」の専任教員数の基準を緩和することである。これら3項目は、『規則』と「大学において教 員養成の課程を置く場合の審査基準」(教養審決定)の改正に全面的に反映された。
 なお、『免許法』改正の審議に際し、衆・ 参両議院の文教委員会において、次のような附帯決議がなされたことを付け加えておきたい。
 法案が先議された参議院における「附帯決議」は、(1)「開放制の原則が堅持できるよう、教員養成大学・学部以外の大学・学部 における教員養成にかかる諸条件の一層の充実に努めること」、(2)「今回の法改正に 伴い必修とされる科目については、教育職員養成審議会第一次答申を踏まえ、趣旨の徹底を図るとともに、その具体的な名称及び内容に関しては、各大学の創意工夫と自主性を尊重すること 」、(3)教員養成大学・学部以 外の大学・学部が教員養成を引き続き円滑に実施できるよう、「教職に関する科目」の単 位を大学の卒業要件に算入することを可能とするとともに、教職課程における単位互換制度の導入及び専任教員基準の緩和を図る等十分な対応措置を講ずること」、(4)特別非 常勤講師及び特別免許状制度等( 省略 )、(5)養護教諭を保健の教科の領域に係わる事項の教授を担当する教諭又は講師とするに当たっては、養護教諭の本務や保健室の機能が阻害されることのないよう配慮するとともに、養護教諭の増員及び適正配置についても引き続き検討すること」にわたっている。
 衆議院も、4項目にわたり、参議院とほぼ同様な「附帯決議」を行っており、さらに「教員養成における大学と学校現場との連携を積極的に推進すること」(教育実習の充実、教職経験のある者の大学教授等へのに積極的な登用、実践的な教員養成カリキュラムの開発研究の推進)が加わっている。

4.若干の補説

(1)社会人の活用促進
 『答申』による提言の中心は「養成カリキュラムの改善」 であるが、「カリキュラム以外の免許制度の弾力化」を図るべきことも提言されている。その一つに、「社会人の活用促 進 」があり、「 特別非常勤講師制度の改善 」と「 特別免許状制度の改善 」が提言され、『免許法』の改正をみた。この2つの制度は、昭和63年の『免許法』改正によって導入されたものであるが、さまざまな制約があり、「規制緩和」が求められていた。
 「社会人の活用促進」については、マスコミなどは「学校に社会人先生が増加」などと好意的に報道しているが、大学関係者などからは「専門職」の視点からの批判が見られる。「活用促進」が期待される「社会人」は、教育の分野では《素人》であるかも知れないが、《それぞれの分野での経験豊かな「専門家」である》ことを忘れてはならない。
 ところで、「 社会人の活用促進 」については、これまでも、いたる所で批判や懸念がつきものであった。
 国際機関が学校における「社会人の活用」を提言したのは、先に述べた1975年のユネスコ「教員の役割の変化と教員養成・研修への影響に関する勧告」が最初である。勧告は、学校・教員が「地域社会の他の教育関係者と協力」する必要を強調し、さらに積極的に「教職以外の職業の専門家や地域社会人々が教育の過程に適切に関与すべきである」として、「 社会人 」、特に地域社会の「 専門家 」(professionals and specialists fromcommunity)を学校教育で活用すべきであると提言している。
 だが、勧告の原案審議の過程で、「 社会人の活用 」に関する部分について紛糾した(筆者は、日本政府代表の一人として、勧告の原案作成から審議・採択の過程に参加)。「 専 門職」の視点から批判が強かったのである。
 すなわち、第1に、社会人を「 数多く 」(more)活用すべきだとする原案が、「適切に」(appropriately)と修正された。第2に、「教育上の責任を有資格教員が掌握することを前提に」という部分が追加されたのである。このことは、『答申』における《確認的な書 き込み》への留意が必要であることを物語る。

(2)養護教諭の養成と授業担当
 『答申』後の9月に、保体審「答申」が出され、「養護教諭の役割の拡大に伴う資質を担保するため、養護教諭の専門性を生かしたカウンセリング能力の向上を図る内容などについて、質・量ともに根本的に充実することを検討する必要がある」と提言した。
 これを受けて、教養審は集中的な審議を行い、12月に「養護教諭の要請カリキュラムの在り方について(報告)」 を文部大臣に提出した。この「報告」は、養護教諭の「養成カリキュラム改善」に加え、「保健」の授業 の担当という養護教諭の《新たな役割》を含めた制度改正を提言し、『免許法』改正に取 り入れられた。
 これらの背景には、不登校の問題と裏腹に《保健室登校》をする児童・生徒数が増加する状況などから養護教諭の役割への期待が高まっていることがある。

(3)「より高度な」実践的指導力を
 『答申』後、教養審に「大学院等特別委員会」が設置され、平成10年6月に「中間報告」(「修士課程を積極的に活用した教員養 成の在り方について」)が発表された。
 今後の方向として、教員の「より高度な」実践的指導力が求められ、大学院等において「開放性の教員養成制度を維持しながら、各教員が得意分野と個性を持ち、互いに連携協力しながら、学部卒レベルの教職・教科等に関する知識・技能を既に有していることを前提に、より高度の資質能力を習得する機会を現職教員に提供することが必要と考える」とされている。
 同6月に大学審が「中間報告」(「21世 紀の大学像と今後の改革方策について」)を 発表した。これを睨みながら、教養審には、「大学院等の拡充整備」と「専修免許状の取得促進」の2つの課題に対して、適切な提言をすることが求められている。また、何よりも、専修免許状取得者に期待される資質能力の具体的な水準と内容などについて、説得力のある提言が期待される。

むすび

 以上、平成10年6月の『免許法』改正による教員教育制度の改革について、改革の背景、21世紀を目指した「教員像」、「養成・採用・研修の在り方」、「養成カリキュラム の構造転換」などにわたり、概略的に述べた。同時に、「教員養成の3原則」や「社会人の活用促進」などに問題はないのかなど、今後 の検討課題についても指摘してきた。
 最後に、「さらに新しい」教員養成・研修 について、課題の提起をしておきたい。
 「介護等体験特例法」の施行により、平成10年度から、小・中学校の教員免許取得希望者に介護等体験が義務付けられた。「より広い、豊かな心」が求められている。このことを視野に入れながら、「さらに、これからの教員に求められる資質能力」として、「よ り高度な実践的指導力」(「大学院等におけ る養成・研修」の推進など)、「豊かな心」 (「教員の「社会貢献活動体験研修」の実施など」、そして「広い視野」(教員の「長期社 会体験研修」の実施など)の3つを指摘しておこう。
 また、今後、大学には、「さらに新しい」教員養成・研修のために、《行政による「規 制の保護」》から《大学の「自己裁量と自己 責任」》への運営体制の《転換》が求められ ることを確認しておきたい。


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