文教大学付属教育研究所 紀要第8号(1999年発行)

図書館ガイダンスの効果

−利用実績とアンケートによる分析−

戸田 あきら

(文教大学越谷図書館)

要  旨

文教大学図書館では、1998年から新入生向けの図書館ガイダンスを実施した。本稿は、その効果を測定評価したものである。利用記録とアンケート調査による分析の結果、図書館ガイダンスは、図書館利用が少ない層の利用を促進し、また資料を探索する力を強める効果があることがわかった。しかし、その効果は、現状では期待したほど大きなものではなく、ガイダンス内容の改善及び教育課程と連動した取り組みが求められている。

はじめに−図書館ガイダンスの意義

コロラド大学総長であったE.ゴードン・ギーと同じくコロラド大学デンバー校オーラリア図書館長であったパトリック・セン・ブレイビクは、その著書『情報を使う力』(注1)の中で次のように述べている。
「われわれの考え方は、情報社会における情報及び問題解決に関する三つの基本的真理に基づいている。第一は、情報寿命の半減期は短くなっているということである。そのため大学時代は事実の暗記よりも学習法が強調されるべきであると考えている。第二は、効果的な問題解決は適切かつ正確な情報基盤を必要とするということである。それゆえ、大学における学習は、卒業後も引き続き利用可能な情報源(図書、雑誌、テレビ、オンラインデータベース)に基づいて組織されるべきである。第三は、情報基盤は常にあらゆる形態で拡大しているということである。したがって、学生は情報源へのアクセス及びその評価において、利用可能な形態を選択できる能力を開発しなければならない。」
そして、能動的な統合学習のために、また、生涯学習と市民生活の準備のために、大学において図書館を中心にした学習を展開する必要があることを主張している。

* * *

文教大学越谷図書館では、1999(平成11)年度、新入生の全クラスに対し図書館の基本的な使い方、文献の探し方、パソコンを使った資料・情報検索の方法を教える「新入生図書館ガイダンス」を実施した。これは、上記のような問題意識のほか、図書館の電子化・ネットワーク化が進み利用のための技術が必要になっている一方、それを学生に知らせ教育する手立てが不充分であることを鑑み、各学部の協力を得て実施したものである。
本稿の目的は、この「図書館ガイダンス」が果たして効果があったのか、あったとすればどのような効果だったのかを検証することである。あわせて、その分析のなかで、図書館ガイダンスの問題点、今後の発展方向についても考えていきたいと思う。

ところで、図書館を使う、使いこなすというのは、多くの学生にとって無条件にできることではない。「学生なら図書館を使えるのは当然だ」という意見もあるが、小中高校での学習が教えられたことを理解し覚え込むというタイプ−いわゆる詰め込み教育−であったことや、多くの小中高校の図書室が十分機能していないことなどから、必要な文献・情報を図書館で集めるという訓練を受けてきた学生はほとんどいない。そもそも、大学に入るまで、図書館の利用経験がほとんどないという学生もいる。
小なりとはいえ、4層構造、30万冊以上の蔵書をもつ本学図書館の規模では、全ての資料配架状況を一覧することはできない。したがって、資料がどのように置かれているか、つまり配架の原則を知らなければ、自分の探している本を的確に探し出すことは難しい。また、書架で直接本を探すだけでなく目録や文献検索ツールを使って多角的に調査すること無しには、必要な文献を探し出すことはできない。
しかも、図書館は、ここ数年、大きく様変わりした。従来、図書館の資料・情報は紙メディアが大部分であり、したがって書棚に並んでいる本を手に取れば情報が入手できた。しかし、今日では、レファレンスブックを中心に多くの資料が電子化されている。電子化された情報は手にとってページをめくることはできず、パソコンを介さなければならない。その分、わかりにくくなり、利用のハードルは高くなっている。
さらに、所蔵目録も電子化された。従来、紙のカードをめくって、ある意味では受動的に検索できた資料の所蔵情報も、パソコンを使い検索キーを入力して調べなければならない。
電子化とネットワーク化は、一方で図書館利用の新たな可能性も生み出している。キーワードによる多様な検索、ネットワークを利用したリモートアクセスなどである。紙メディアの時代には考えられなかった利用方法が電子化により現実のものとなった。しかし、このような便利な技術も、利用方法を知らなければ、何の役にも立たないのである。電子化は、利用方法の習得無しに図書館を使いこなすことを益々難しくしている。
図書館は、今までも、利用者に対して図書館の機能やサービスを案内し説明する図書館ガイダンス、いわゆる利用者教育を行ってきた。しかし、図書館電子化の時代を迎え、その意義は、今まで以上に大きなものになっている。特に、これから大学で学習していこうという新入生に対して図書館の使い方を指導する「新入生ガイダンス」は、これから新入生が大学で主体的に、能動的に学んでいくためにきわめて重要であり、大学全体として重視し取り組まねばならない課題といわざるを得ない。

文教大学越谷図書館における新入生ガイダンスのとりくみ

文教大学越谷図書館では、98年度まで、新入生に対する図書館利用ガイダンスとして、キャンパス全体の集合オリエンテーションの中での図書館概要説明及び図書館ツアーを実施してきた。
集合オリエンテーションは、入学式の2〜3日後に新入生全体を対象にして行われるもので、学生部や国際交流委員会などの説明の後に15分程度、図書館長あるいは館長補佐が図書館の概要について説明するというものである。また、図書館ツアーは、その概要説明の後、30名程度の小グループを学部ごとに10グループほど編成し、図書館を20分程度の時間で一回りするというものである。いずれも大人数を対象としたものであり、また新入生にとってはオリエンテーション疲れもあるため、率直に言って、あまり効果があるとは思えないものであった。あえていえば、ツアーについては、新入生全員が図書館に足を運んで館内を見るという点で意義があったといえるだろう。
この方法は、十数年間実施してきたものであったが、このようなガイダンスでは電子化の時代に対応できないと判断し、図書館では、98年度より「新入生ガイダンス」プログラムを作成し、新入生に対しクラス単位で実施するようにした。98年度については、全体の概要説明及び図書館ツアーも行い、かつ新入生ガイダンスの利用を教員に呼び掛け、申し出があったクラスに対してのみ実施するというやり方で行ったが、99年度は、あらかじめ各学部に全新入生に対して新入生ガイダンスを行うことを申し入れ、教授会で確認してもらい、1年生必修クラスの全てに対して実施した。なお、全体の概要説明及び図書館ツアーについては、キャンパス全体のオリエンテーション日程に変更が有ったこともあって廃止された(廃止になるということで、全クラスでの新入生ガイダンス実施が促進されたという面もあった)。
新入生ガイダンスの内容は、表1のとおりである。

授業の一コマ(90分)のなかに納めなければならないためどの項目も駆け足にならざるを得ない。実際やってみると時間が足りなくなって一部分をカットせざるを得ない場面もあったが、OPAC及びインターネットの使い方については、実際にパソコンに触り検索を実際にやってみる操作実習を必ず行うこととした。
98年度は、担当した職員によって内容のばらつきがあったが、99年度は、全クラスでの実施という新たな段階をふまえ、プレゼンテーションツールを利用して共通の教材を作成した。また、実際にガイダンスを行う職員間で内容のすり合わせを行い、共通の内容で実施するようにした。
なお、文教大学越谷図書館では、新入生へのオリエンテーションとは別に、卒業論文を控えた学部3−4年生を対象として「 文献検索ガイダンス」をゼミ単位に実施している。(以下、「新入生ガイダンス」と「文献検索ガイダンス」を総称して「図書館ガイダンス」と呼ぶ。)これは、主として卒業論文の主題分野の文献探索法を紹介するものであるが、それまで図書館利用経験がほとんどない学生がいることも考慮し、図書館内のツアー、目録の使い方など基本的な利用法のガイダンスも行っている。今後、全新入生が新入生ガイダンスを受けることになれば、文献検索ガイダンスとの関係を再検討する必要がある。
98年度と99年度の新入生ガイダンスの実施状況は、表2の通りである。前述したとおり98年度については、申し出たクラスのみの実施だったため、新入生数1123名(1998年5月現在)に対し414人、36.9%の参加率だったのに対し、99年度は、1089人(1999年6月現在)中998人約91.6%の参加率であった。99年度、全クラスで実施したにもかかわらず約9割の参加となっているのは、クラスによっては教員との連絡が不十分で集合場所を徹底できなかった、あるいは授業時間外にガイダンス実施時間を設定したなどの理由で欠席があったためである。

   (表1) 新入生ガイダンス内容

新入生図書館利用ガイダンスの内容
目的:一般的な図書館の利用方法、資料の検索方法を理解してもらう

@館内ツアー ― 20分

内容:館内を案内しながら図書館の各種機能とその利用の仕方、資料の配置を説明する。
1)配架場所(関連分野の資料に直接触れさせる)
2)設備利用方法(グループ読書室、B1ブラウジング室、電動集密書架)
3)諸手続き(貸出返却方法、予約)
4)注意事項(BDSなど)

A資料の探し方・見つけ方 ― 20分

場所: 会議室
内容: プロジェクターを使いスクリーンに映写、説明画面を交えながら展開していく
1)分類の意味と配架場所
2)目録の使い方(機能・情報の見方)
3)書誌ツール(J-Biscと雑誌記事索引)の使い方
4)未所蔵資料の入手方法−大学相互協力サービスの利用案内

B図書館ホームページとOPACの説明 ― 20分

場所:会議室
内容:プロジェクターを使って、実際の画面を映写しながら機能の説明を行う。
1)OPAC(入力の仕方、検索キーの入れ方、表示された画面及び各項目の意味等)
2)図書館ホームページ(インターネットパソコンの使い方、図書館のホームページの紹介、図書館ホームページで出来ること、OPAC及び各種情報検索、検索エンジンの使い方、印刷の方法)

Cパソコン実習 ― 20分

場所:カウンター前利用者用パソコン
内容:課題を設定、1台2人程度パソコンについて交替で実習
Bで説明した内容を踏まえ、OPAC(入力の切替、絞込検索等、Bの説明を踏まえて)とWWW ブラウザ(URLの直接入力、印刷方法等)の操作を実際にやってみる。

  (表2) 新入生ガイダンス実施状況

新入生数 ガイダンス実施クラス
在籍数 参加者数 参加率
98年度 1,123人 15クラス 438人 414人 36.9%
99年度 1,089人 38クラス 1,089人 998人 91.6%


ガイダンスの評価と問題点

では、以上の新入生ガイダンスは、何ほどの効果があったのだろうか。
実は、ガイダンスあるいは利用者教育に対する評価に関して、定式化された評価方法がない。Patrick Ragainsは、全米の44の大学図書館からアンケートを集め、それらの図書館におけるガイダンスの評価方法を報告している(注2)。その結果は、表3のとおりであるが、最も多いのは、受講した学生による評価であり32図書館が実施、ついで同僚による観察評価(24館)、さらに学生へのテスト(19館)、教員による評価、ガイダンス実施責任者に観察評価(共に18館)、上司による観察評価(16館)、上司のプリントによる評価(14館)、その他(9館)となっている(複数回答有り)。

  (表3) Library Instruction Evaluation Method

Evaluation Method
Student evaluation 32
Test of students' lerning 19
Faculty evaluation 18
Observation by supervisor 16
Supervisor's assessment of handouts 14
Observation by peers 24
Observation by library instructioncoordinator 18
Other 9
出展:Ragains報告 一部修正

しかし、これらの方法はいずれも問題がある。学生による評価は、最も容易な方法であるが、Ragainsも述べているように、内容がガイダンスの説明や配付資料に対する全体的な印象にとどまりがちで質的に限界がある。また、教員や職員による評価は、実際の効果を直接評価するのでなく間接的な評価にとどまらざるを得ず、的確とはいいがたい。しかも評価内容が、ガイダンスが受講者にどのような効果を与えたかということよりもガイダンスを行った職員の能力評価に傾斜しがちである。ガイダンスを受講した学生に、説明した内容を実際にテストして見るのが最も精度が高いと考えられるが、適切なテストの作成及び実施は、技術的に困難だと思われる。
1998年4月に策定された国際標準化機構(ISO)の国際規格「図書館パフォーマンス指標(ISO11620)」(注3)においても、利用者教育の評価指標については、現時点では「現場で試されかつ文献上も十分に研究された指標が見出されない」とされており、評価指標は定められていない。
そこで、以上の二つのレポートを参照しつつ、本館における今回のガイダンスの効果を測定するに当たっては、ひとつの試みとして、ガイダンスを受けた学生と受けなかった学生の間で、その後の図書館利用行動の比較を行い、その結果によりガイダンスの効果が有ったかどうかを検証することにした。「学生へのテスト」の一種の変形による評価方法ということができるだろう。また、ガイダンスを受けた学生と受けなかった学生が混在する過渡期にのみ可能な方法ともいえる。
効果の測定は、具体的には、次の二つの方法により効果を測定することにした。
第1は、98年度に新入生ガイダンスを受けた1年生と受けなかった1年生の間で98年度中の図書館からの資料の借り出し状況に違いがあったかどうかによる測定である。
前述したように、98年度の新入生ガイダンスは、教員からの申し出により実施したため、受けた者414名36.9%、受けなかったもの残り709名63.1%という状況になっている。この二つの集団の間で98年度の借り出し実績が異なるかどうか、異なるとしたらどのように異なるか、これを見るのが第1の方法である。
第2の方法は、特定の時点(具体的には99年7月7日)で来館者調査を行い、ガイダンスを受けたことのある利用者と受けたことのない利用者との間で、来館率や利用行動に差異が有るかどうかの検討である。この際、対象とするガイダンスには、98年度、99年度の新入生ガイダンスだけでなく、主として3-4年生向けの文献検索ガイダンスを含むことにした。それは、ガイダンスを受けたことがあるかどうかは回答者本人に尋ねるしかないが、その際、回答者が、新入生ガイダンス、文献検索ガイダンスを区別して覚えている可能性は少ないと思われること、また、現状では、文献検索ガイダンスでも新入生ガイダンスと同じ内容を含んでいるため、効果の有無、効果の内容はほとんど同じだと思われるためである。したがって、この第2の方法の場合、文献検索ガイダンス・新入生ガイダンス両方の効果を計ることになる。
検証1 98年ガイダンスの効果分析

ガイダンス参加者数は、実数で414人であるが、図書館ではガイダンスに出席したかどうかの出席はとっていないため、ガイダンス実施クラスの在籍者はすべてガイダンス参加者として分析した。したがって、この分析では、ガイダンス参加者は438名、非参加者は、685名である。
ガイダンス参加者と98年度の貸出記録と突合させた結果が、表4である。これを見ると、第1に、利用率(この場合、図書館で本を借りた人数の比率。館内利用はカウントできない。)は、参加者90.4%、非参加者90.2%とほとんど差がない。ガイダンスは、図書館を利用しない学生に働きかけ利用させるという点では、ほとんど効果が無いといえる。

  (表4) 98年度ガイダンス参加別年間貸出実績(年間)

ガイダンス参加 人 数 貸出人数 利用率 貸出冊数 平 均 中央値
438 人 396 人 90.4% 5,983 冊 13.7 冊 9 冊
685 人 618 人 90.2% 8,140 冊 11.9 冊 7 冊

利用率90%というと、ほとんどの学生は利用しているということである。残りの約1割は、図書館利用に関し特になにか問題を持っている学生なのだろう。一般的な利用説明や案内では図書館利用に向かわないこれらの学生に対し、なぜ利用しないのか、何がネックになっているのかは、別途調査し、対応を考える必要がある。
第2に、98年度一年間に図書館から借り出した冊数であるが、平均で、ガイダンス参加者13.7冊、非参加者11.9冊となっている。中央値では、それぞれ9冊と7冊であり、この二つの集団で利用の量に差が有ることがわかる。それぞれのグループの標準偏差が、16.1および14.8であることから、この二つの集団の借り出し冊数には、有意水準90%で有意の差が有る。つまり、ガイダンスを受けた学生は受けなかった学生に比べて図書館を多く利用しているといえる。
では、一人ひとりの年間借り出し状況の分布はどうなっているだろうか。図1は、それぞれの集団の一人あたり年間借出冊数の分布を重ねたものである。これをみると年間借り出し冊数5冊未満、つまりほとんど図書館から本を借りていないグループではガイダンス非参加者が参加者を大きく上回っており、その分、5−40冊といういわば普通の利用水準のグループにおいてガイダンス参加者が非参加者を上回っている。つまり、ガイダンス参加者においてはほとんど利用しない学生が減り(残念ながらまったく利用しない学生は変わらないが)、その層が通常の利用水準へシフトしているということができる。

  (図1) ガイダンス参加別年間貸出冊数の比較 (略)

  (表5) 年間貸出冊数の人数比

貸出密度 ガイダンス参加 ガイダンス非参加
人数 人数比率 人数 人数比率
0-4冊
5-9冊
10-14冊
15-19冊
20-24冊
25-29冊
30-34冊
35-39冊
40-44冊
45-49冊
50-54冊
55-59冊
60-64冊
65-69冊
70-74冊
75-79冊
80-84冊
85-89冊
90-94冊
95-99冊
100冊以上
123
99
53
74
24
16
12
13
3
5
6
2
1
1
0
1
1
2
0
0
2
28.1%
22.6%
16.9%
12.1%
5.5%
3.7%
2.7%
3.0%
0.7%
1.1%
1.4%
0.5%
0.2%
0.2%
0.0%
0.2%
0.2%
0.5%
0.0%
0.0%
0.5%
257
146
101
63
36
23
11
12
6
7
3
1
5
6
2
0
2
1
2
0
1
37.5%
21.3%
14.7%
9.2%
5.3%
3.4%
1.6%
1.8%
0.9%
1.0%
0.4%
0.1%
0.7%
0.9%
0.3%
0.0%
0.3%
0.1%
0.3%
0.0%
0.1%
438 100.0% 685 100.0%

40冊以上借りている学生に関しては、その比率に両集団ともあまり差はなく、このあたりの、いわゆる本好きの学生には、ガイダンスの影響は見えない。
この98年ガイダンス参加の有無による利用実績の分析をまとめると、
ア、ガイダンスは、図書館を利用するかどうかという点については影響を与えない。
イ、ガイダンスは、ほとんど利用しない層を減らし利用水準を引き上げる。
この2点を指摘できる。

検証2 来館者調査による分析

文教大学越谷図書館では、1999年7月7日、来館者に対するアンケート調査を実施した。このアンケートは、図書館運営に関する利用者の意見を聞くことなどいくつかの目的をもって実施されたものであるが、図書館ガイダンスの効果を測定することもその目的のひとつであった。アンケート結果全体は、別途報告する予定であるので、ここでは図書館ガイダンスの評価にかかわることのみ報告し分析することにする。
アンケートは、1093人中1004人から回収された。回収率91.8%である。アンケートのあたっては回収率を高めるため、当日1回目の来館者にアンケート用紙を渡すとともに2回目以上の来館者にも複数回目用の用紙を渡し、退館時に必ずどちらかの用紙を提出してもらうことにした。その結果、入退館管理装置による当日入館者数1417名に対し、1回目用紙配布数1093枚、複数回目用紙配布数304枚、計1397枚と、ほとんど全ての利用者にアンケート用紙を配布し回収することができた。
その結果によると、学部学生の当日来館数およびその学生のガイダンス経験の有無は、表6のとおりである。この結果と、ガイダンス実施状況と突き合わせると、表7となる。

  (表6) ガイダンスを受けたことがあるか

有  る 無  い 覚えていない・未回答
1年生 254(92.7%) 15( 5.5%) 5( 1.8%) 274
2年生 178(62.2%) 89(31.1%) 19( 6.6%) 286
3年生 118(61.8%) 60(31.4%) 13( 6.8%) 191
4年生 62(49.6%) 45(36.0%) 18(14.4%) 125
不 明 12(60.0%) 7(35.0%) 1( 5.0%) 20
全 体 624(69.6%) 216(24.1%) 56( 6.3%) 896

  (表7) ガイダンス参加の有無による来館率の差

ガイダンス参加 ガイダンス非参加 全   体
人数
(人)
アンケートで"有"と答えた人数=参加者中の来館者数(人) 来館率(%) 人数
(人)
アンケートで"無"と答えた人数=非参加者中の来館者数(人) 来館率(%) 在 籍学生数(人) アンケート回答数=来館者数(人) 来館率(%)
1年生 998 254 25.5 89 15 16.9 1,087 274 25.2
2年生 414 178 43.0  703 89 12.7 1,117 286 25.6
3年生 264 118 44.7 671 60 8.9 935 191 20.4
4年生 251 62 24.7 667 45 6.7 918 125 13.6
合 計 1,927 612 31.8 2,130 209 9.8 4,057 876 21.6


この表においてガイダンス参加者数および非参加者は、新入生ガイダンスおよび文献検索ガイダンスの実施記録から割り出したもので、1年生以外は推定人数である(注4)。
これによると、ガイダンス参加者と非参加者では、来館率に大きな差が生じていることがわかる。ガイダンス参加者が、学年によって四分の一から半数近く、全体で31.8%がその日来館しているのに対し、非参加者では、全体で9.8%しか来館していない。学年が進むにしたがって、その差が大きくなっているようにも見える。
98年度新入生ガイダンスの効果分析の項で、ガイダンスは、図書館の利用率に影響しないと述べた。が、利用する学生の利用量=来館頻度は増大する。したがって、特定時点での来館者の内容を見ると、ガイダンス参加者数と非参加者数の内訳にかなりの差が出てくると考えられる。
では、利用の内容には、両者の間で差が有るだろうか。
これを計るために、アンケート調査では次の2つの設問・調査をおこなった。ひとつは、特定の資料あるいは主題を探し調査したりしたか尋ね、その結果あるいは方法に差が有るかどうかを調べたものであり(うち主題調査については、設問が不十分で分析対象にならなかった。)、もうひとつは、OPAC・インターネットパソコン・資料相談という調べものを行う際、使うことの多い(また、汎用的に有効な)ツール・手段の利用の有無を問うたものである。
表8は、ガイダンス参加の有無別に、本日特定の資料を探したかどうか、探した冊数、発見した冊数、未発見冊数(この3つの数字のうち、1つあるいは2つが抜けている場合、計算できるものは計算して補記し、発見あるいは未発見のみ冊数が記入されているものは同じ数字を探した冊数に入れ、残りの1項目を計算して補記した。また探した冊数だけ入っているものはそのままとした。)を表したものである。これによると、特定資料を探す行動あるいは発見率に、ガイダンス経験の有無はほとんど関係していないことがわかる。

  (表8) ガイダンス参加別特定資料探索状況

ガイダンス
参   加
特定資料探索? 人 数 比 率 探 し た
冊数合計
発見した
冊数合計
未 発 見
冊数合計
発見率
探 し た 224人 35.9% 423冊 279冊 140冊 66.0%
探さない 390人 62.5%
未 回 答 10人 1.6%
624人 423冊 279冊 140冊
探 し た 85人 39.4% 154冊 106冊 51冊 68.8%
探さない 126人 58.3%
未 回 答 5人 2.3%
216人 154冊 106冊 51冊
覚えて
いない
探 し た 16人 32.7% 37冊 31冊 6冊 83.8%
探さない 33人 67.3%
49人 37冊 31冊 6冊
未回答 探 し た 1人 14.3% 1冊 1冊 0冊 100.0%
探さない 5人 71.4%
未 回 答 1人 14.3%
7人 1冊 1冊 0冊

図書館で特定の資料を探そうとした学生の比率が、ガイダンス参加者と非参加者でほとんど変わらないのは当然である。資料要求に関して、ガイダンスは何ら影響しない。問題はそれが見つけ出せたか、である。
発見率は、一見、高いほうがいいように見えるが、そういうわけではない。図書館に所蔵していない資料は見つかるわけがないのであり、仮に未所蔵資料ばかりを探したとすると発見率は0%となる。しかし利用者の行動の評価としては、それで正解なのである(もちろん図書館としては、好ましいことではないが)。実際には図書館にあるのにそれを見つけ出せなかった
―― これが問題である。
つまり、利用者の資料探索力を評価するためには、未発見とされた資料が本当に図書館になかったのかどうか裏づけ調査を行う必要がある。そこで、今回の調査では、未発見の資料名を記入してもらい、アンケート回収後、職員がその資料の所蔵及び所在を確認し本当にその資料がなかったかどうか確かめることにした。この裏付け調査は、アンケート実施日に、用紙回収後直ちに行うことを原則としたが、4−5日後になってしまったものもある。なお、利用者が探した時点での所蔵の有無および貸出の有無は、時間がたったのちもコンピュータの記録により確認できるが、所定の場所にあったかどうかは、厳密に言えば不明である。ただし、アンケート実施日以降は、利用者もかなり少なくなったため、本の移動はあまりなかったのではないかと判断している。
その結果が、表9である。在棚率(利用者が発見できなかったとした資料のうち実際には所蔵しており書棚にあった資料の比率)の高さに驚くかもしれないが、カウンターに立っている図書館職員にとっては、驚くにあたらない。利用者が本がないと言ってきても、実際には所蔵しており所定の位置に有るというケースはきわめて日常的である。

  (表9) 棚に有ったのに見逃した資料の割合

ガイダンス
参   加
未発見
冊 数
未発見資料名
記入有
うち在棚 在棚率
140冊 54冊 26冊 48.1%
51冊 10冊 7冊 70.0%
覚えていない 6冊 5冊 4冊 80.0%

  (表10) 探した人中資料を見つけたツールの割合

ガイダンス
参  加
資料を見つけた方法・ツール
書架 カード目 録 OPAC 職員
50.9% 1.3% 22.3% 0.4%
56.5% 1.2% 17.6% 1.2%

ガイダンス経験有りのグループは、在棚率=見逃し率48.1%で、経験無しのグループ70.0%に比してかなり少ない。この表を見る限り、ガイダンス参加者の方が資料を探し見つけ出す力がある、すなわち「ガイダンスは利用者の資料探索力に寄与している」ということができる。サンプル数があまり多くないので、どのくらいの確度でそのことを言えるか難しいところであるが、ガイダンスで本の探し方・本の並び方をかなり強調していることから考えると、この位の差が生じても不思議ではない。
更に、探している資料を見つけ出した人に、どうやって見つけたかをたずねた結果が、表10である。これによると、もっとも初歩的な探し方である「その資料がありそうな書架にいって探した」が、「ガイダンス経験有り」50.9%に対し「無し」57.1%、逆に「OPACで探した」が有り22.3%に対して17.9%となっている。そう大きな差ではないが、この差が見逃し率につながっており、ガイダンスは学生の資料を探す能力に影響を与えていると言えるのではないだろうか。
表11は、ガイダンス経験別に、調査ツールの利用状況を尋ねた結果である。設問は、「良く利用する」「時々利用する」「あまり利用しない」「使ったことがない」の四区分であるが、良く利用、時々利用を「利用する」に、あまり利用しない、使ったことがないを「利用しない」にまとめた。すると、資料相談を除き、OPACおよびインターネットパソコンについては、それぞれ数%の差が生じている。

  (表11) 各種ツールの利用状況

OPAC インターネット 資料相談
ガイダンス参加者 利用する 57.2% 28.8% 18.3%
利用しない 39.9% 67.3% 78.0%
ガイダンス非参加者 利用する 50.9% 23.1% 19.0%
利用しない 44.9% 71.3% 75.5%

まとめ

本稿では、いくつかの角度から利用者の図書館利用行動と図書館ガイダンス経験の有無の関連を分析し、ガイダンスの効果があったかどうかを検討してきた。
結論としては、「ガイダンスの効果はある。」ということができる。その効果は、一言でいえば、図書館利用が少ない層の図書館利用を促進し利用水準を高める効果である。
まったく図書館を利用しない層、現在の2年生中における図書館を利用しない約10%の学生については、図書館ガイダンスは、ほとんど効果がなかった。この学生たちが図書館を利用するには、動機付けの点で、あるいは生活パターンや勉学への姿勢などの点で、高いハードルがあるだろう。そのハードルを越えるような大きな影響力は、図書館ガイダンスは持っていない。
しかし、それ以外の学生、その中でも、おそらく図書館経験が乏しく利用技術も持っていず、図書館の利用価値を認識していなかった学生に対しては、図書館ガイダンスは一定の影響を与えている。おそらく放っておけば、入学後1-2回図書館に来て、使おうとしたけれどもうまく使えず、探している本を見つけることができず、その後、ほとんど図書館に足を向けなくなってしまう学生(年間の借り出し冊数は5冊未満程度)に対し、ガイダンスは、目録の使い方、OPAC及びインターネットの使い方、図書館での本の探し方を組織的に教え、図書館の利用価値を知らせることによってそれらの学生を図書館の日常的な利用者にしていくという効果がある。
図書館の常連ともいうべき年間40冊以上も資料を借り出す人々にはガイダンスの影響は無い様に見える。これらの人々は、おそらくもともと図書館を良く利用しその使い方を良く知っている人々であろう。このような利用者にとっては、たった1時間のガイダンスは、ほとんど影響をあたえない。
正直に言って、分析をはじめる前、筆者はもっと大きな効果があるのではないかと期待していた。ガイダンスを実施する側の思い込みかもしれないが、ガイダンスで説明している内容は、利用者に新鮮なものでありその後の学生の図書館利用に極めて大きな影響を与えるものだろうと考えていた。確かに図書館ガイダンスは効果があるということは示された。しかし、期待していたほど大きなものではなかったのも事実である。
その理由の一つは、現在のガイダンスの内容がまだまだ不充分であること、時間の割に盛りだくさんで不消化になりがちであることや、OPAC・インターネット実習が専用の設備がないため十分時間を取れないことなどであろう。図書館が、今後工夫しなければならないことは多い。
しかし、根本的には、図書館を使いこなす能力、より広くは自分が必要とする情報を探し、入手し、評価し、分析し、活用する能力を身につけさせることは、きわめて大きな課題であり目標であるということである。冒頭で紹介したように、それこそが大学教育全体にわたる目標だという有力な主張もある。この大きな課題に対し、ひとり図書館の、たった一コマのガイダンスが大きな、決定的な影響を与えうると考えるのには、もともと無理があった。
大学の教育課程においても、情報教育の必要が叫ばれており、パソコンやネットワークの利用指導がカリキュラムの中に組み込まれている。情報教育といった場合、それは必ずしもコンピュータ教育だけを意味するものではない。図書館を含めた様々な情報システムの中から自分に必要な情報を見つけ的確に利用していける力、いわゆる情報リテラシーの獲得こそが問題である。
今後、図書館のガイダンスは、大学全体の教育課程と連動し、学生の情報リテラシー向上させる一貫したプログラムの中にうまく組み込まれ、展開される必要があるだろう。従来型の書籍から電子資料まで、また図書館からオンラインデータベースやネットワーク情報資源までのあらゆる情報システムを視野に入れ、それらを使いこなす教育・訓練という大学全体の教育プログラムの中で位置付けられ実施される必要がある。そうしてこそ図書館ガイダンスは、より大きな効果をあげることができるだろう。
現代が情報社会であると定義されてすでに久しい。この社会に対応でき、この社会の歯車を一歩前に回転させうる人材を養成するために、図書館もその一翼を担いたいと考えている。

謝辞
本稿をまとめるにあたって、本学越谷図書館長宮内保教授に大変貴重なご指導・ご助言をいただいた。また、図書館参考係辺見学氏にデータの作成・整理をお願いした。
ここに特に記して感謝の意を表したい。

(注1) 情報を使う力 : 大学と図書館の改革 / パトリシア・セン・ブレイビク, E.ゴードン・ギー 共著 三浦逸雄[ほか]訳. 勁草書房 1995
(注2) Evaluation of academic librarians' instructional performance : Report of a national survey by Patrick Ragains. Research Strategies vol.15 no.3 1997
(注3) ISO11620 : 1998 Information and Documentation --- Library performance indicator
(注4) 2年生については、98年度の新入生ガイダンス参加者数、3年生は99年度文献検索ガイダンス実施ゼミ・クラス在籍数(ただし、3−4年生混在ゼミ・クラスの場合は、半数ずつと想定した。)、4先生は、98年度文献検索ガイダンス実施ゼミ・クラス在籍数と99年度文献検索ガイダンス実施ゼミ・クラス在籍数(いずれも3年生と同じく3−4年生混在ゼミの場合は半数ずつと想定)の和を、それぞれガイダンス参加者数と推定した。なお、2年生の参加者数が(確定でなく)推定であるのは、99年度文献検索ガイダンスを実施したゼミ・クラスの中に1年生が含まれていた可能性もあるからである。また、非参加者の数は、1999年6月現在の学生数から参加者数を引いたものである。


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