『教育研究所紀要第9号』文教大学付属教育研究所2000年発行

キャリア探索期・試行期にある看護婦(士)の職業的自己成長に関する研究

−看護能力自己評価と成長体験からの検討−

長谷川 真 美

(文教大学付属教育研究所客員研究員/埼玉県立大学短期大学部) 

要  旨

キャリア探索期・試行期にある看護婦(士)の看護能力自己評価および職業的自己成長の体験とその時期を知り、看護能力尺度に組み入れるべき要素を検討することを目的に、卒後6年目までの看護婦に調査を実施した。看護能力の自己評価は経験年数によって高まるものもあるが、5年目看護婦(士)では評価がその前後の年代より低く、成長体験は2年目に多く、死への看護や後輩の教育が多かった。看護能力尺度は能力の成長として1次元で考えた場合、必ずしも妥当ではなく、経験や、能力の深さを考慮した尺度開発が望まれる。 

T.問題の所在
筆者は修士論文1)において看護婦(士)(以下看護婦とする)の職業的自己成長を「職業に必要な専門的技術能力および個人が所属する集団の成因として、職業生活をする上で必要と思われる能力の成長」と規定し、キャリア確立期の看護婦を対象に調査を行い、その年代の看護婦が大枠では経験年数や年齢に従って自己の能力を成長させているとの結果を得た。しかし、職業的自己成長の一つの大きな要素である看護能力尺度については、看護能力を測る尺度として自己評価、他者評価両面から様々な検討2)−4)がされているが、自己評価尺度として確立された尺度は未だ検討段階である。今回看護系短期大学の卒業生を対象とした調査をする機会を得、年次による職業的自己成長の実態を明らかにするとともに、成長に繋がる体験を知ることで、職業的自己成長を測る尺度の一つとして用いた看護能力尺度が他のキャリア発達段階においても有用であるのか、また、自己評価尺度としての看護能力尺度の開発について示唆を得たいと考えた。 

U.研究目的
1.キャリア探索期・試行期にある看護婦の看護能力自己評価の実態を知る。
2.職業的自己成長の体験とその時期を明らかにし、看護能力尺度に組み入れるべき要素を検討する。

V.方法
1.研究方法
質問紙による郵送調査。
2.対象
1993年から1998年度埼玉県立大学短期大学部(旧埼玉県立衛生短期大学)看護学科を卒業し、現在看護婦とし就業しているもので、調査への協力の得られた者130名。
3.調査期間
1999年9月〜11月
4.調査内容
1)対象の背景:卒業年度,看護婦経験年数,年齢,性別,勤務場所の条件など
2)看護婦としての能力の自己評価:看護能力評価に関する先行研究を基に、看護専門職として必要と考えられる能力すなわち、「看護実践能力」「管理能力」「教育能力」「研究能力」および看護婦に期待される専門的職業能力すなわち、「専門性」「共感性」「指導性」「協調性」「向上性」についての要素を含んだ質問項目とした。看護学科教員5名で検討し、実際の看護場面に合わせて作成した60項目からなる調査表で、「できないまたは思わない」から[よくできるまたは非常に思う]までの4段階リカート尺度とした。
3)看護婦として成長したと思える体験の記述:体験の起こった時期,具体的体験の内容と自分にとっての意味について自由記述方式。
5.分析方法
1)看護婦としての能力の自己評価は自己評価を点数化し、年度ごとに平均値を求めて比較した。
2)看護婦として成長したと思える体験の記述は、記述内容をエピソードごとに区切り、エピソードの内容と記述者にとっての意味づけからその意味を読み取り、カテゴリー化した。

W.結果
1.対象の概要
対象は男性2名、女性128名、平均年齢24.28±3.21歳、各卒業年度の人数は表1に示した通りである。また、全員が平成2年度改正のカリキュラムで教育された。勤務の場所は病院が121名(93.1%)、医院・診療所7名(5.4%)、福祉施設2名(1.5%)であった。所属する施設は公立67名(52.3%)、私立46名(35.9%)、施設の規模は300床以上500床未満が50名(40.3%)と最も多く、次いで200床以上300床未満20名(16.1%)、500床以上1000床未満20名(16.1%)、100床以上200床未満16名(12.9%)であった。勤務経験月数の平均は35.25±20.12ヶ月で、職場での異動経験者は40名(31.05%)であった。
2.看護能力の自己評価
1)全体の傾向
看護能力尺度のα係数は0.97であった。表2は看護能力の自己評価の平均を示したものである。看護能力の自己評価で最も評価の高かった質問項目は、「他のスタッフと協調して仕事ができる」3.38±.56、次いで「必要に応じて他者の意見を受け入れられる」3.31±.54、「医療事故を起こさないよう意識して行動できる」3.25±.57、「体験からの学びを積み重ねて次のケアに生かすよう心がけている」3.19±.59、「他のスタッフに配慮できる」3.15±.54であった。最も評価の低かったのは「研究計画を立て、計画的に実施できる」1.98±.73、次いで「文献を活用して行った研究をまとめられる」2.04±.75、「日々の看護の中から研究課題を発見できる」2.09±.74、「安らかな死への援助が提供できる」2.10±.82、「学生に対し適切に指導・助言ができる」2.11±.83の順であった。
2)卒業年度別比較
1998年度卒業生(卒業後約6ヶ月)で評価の高かったのは「必要に応じて他者の意見を受け入れられる」3.50±.53、「他のスタッフと協調して仕事ができる」3.25±.72、「医療事故を起こさないよう意識して行動できる」3.10±.55、「体験からの学びを積み重ねて次のケアに生かすよう心がけている」3.05±.69「日々の看護体験や学習を通して人間的に成長しようと努力している」3.05±.76の順で、評価の低かったのは、当然の事ながら「後輩へ意図的に指導・助言できる」1.11±.32、「看護ケアや研究など看護業務の中でリーダーシップを発揮している」1.30±.47、「学生に対し適切に指導・助言できる」1.33±.59、「学生に対し看護の良い役割モデルとなれる」1.39±.61、「医師と対等な立場で意見を述べることができる」1.45±.60であった。
1997年度卒業生(卒業後約1.5年)で高得点だったのは1998年度卒業性同様、「必要に応じて他者の意見を受け入れられる」3.33±.48、「他のスタッフと協調して仕事ができる」3.33±.56で、続いて「医療事故を起こさないよう意識して行動できる」3.10±.55、「働く女性(男性)として成長している」3.04±.46、「常に新しい知識や情報を看護ケアに取り入れようとしている」3.04±.62、「必要に応じて他の医療スタッフの協力を要請できる」3.04±.69であった。評価の低かったのは、「医師と対等な立場で意見を述べることができる」1.75±.53、「看護ケアや研究など看護業務の中でリーダーシップを発揮している」1.88±.74、「後輩へ意図的に指導・助言できる」1.95±.58、「学生に対し適切に指導・助言できる」1.96±.55、「文献を活用して行った研究をまとめられる」2.00±.66の順であった。
1996年度卒業生(卒業後約2.5年)で評価が高かったのは「他のスタッフと協調して仕事ができる」3.29±.46、「必要に応じて他者の意見を受け入れられる」3.24±.44、「医療事故を起こさないよう意識して行動できる」3.19±.40、「他のスタッフに配慮できる」3.14±.36、「体験からの学びを積み重ねて次のケアに生かすよう心がけている」3.10±.54、「看護婦(士)としてプライドを持っている」3.10±.72が高く、評価が低いのは「研究計画を立て、計画的に実施できる」1.76±.70、「日々の看護の中から研究課題を発見できる」1.86±.73、「文献を活用して行った研究をまとめられる」1.90±.77、「研究に積極的に取り組める」1.95±.80、「看護ケアや研究など看護業務の中でリーダーシップを発揮している」2.10±.83であった。
1995年度卒業生(卒業後約3.5年)では他の年次よりも得点が高かったのは13項目であった。高得点は「他のスタッフと協調して仕事ができる」3.36±.56、「医療事故を起こさないよう意識して行動できる」3.29±.46、「看護婦(士)としてプライドを持っている」3.25±.59、「他のスタッフに配慮できる」3.21±.50、「自分の看護に責任が持てる」3.21±.50、「患者や他者の気持ちになって考えることができる」
1.21±.57であった。得点が低いのは、「文献を活用して行った研究をまとめられる」2.04±.74、「日々の看護の中から研究課題を発見できる」2.07±.54、「安らかな死への援助が提供できる」2.12±.92、「研究計画を立て、計画的に実施できる」2.18±.67、「研究に積極的に取り組める」2.25±.84であった。
1994年度卒業生(卒業後約4.5年)では1993年度卒業生に比べてやや得点が低く、他の年次より高い得点を示したのは4項目であった。評価が高かったのは「他のスタッフと協調して仕事ができる」3.50±.51、「他のスタッフに配慮できる」3.35±.59、「医療事故を起こさないよう意識して行動できる」3.30±.66、「必要に応じて他者の意見を受け入れられる」3.25±.55、「必要に応じて他の医療スタッフの協力を要請できる」3.25±.55であった。評価が低かったのは「社会面のアセスメントができる」2.10±.55、「研究計画を立て、計画的に実施できる」2.10±.72、「学生に対し看護の良い役割モデルとなれる」2.11±.81「学生に対し適切に指導・助言できる」2.11±.88、「学生に配慮できる」2.15±.81の順であった。
1993年度卒業生(卒業後約5.5年)では、全体的に得点が高く36項目で他の年次より高い値であった。高得点は「他のスタッフに配慮できる」3.59±.51、「医療事故を起こさないよう意識して行動できる」3.59±.62、「医療機器・看護用具などを安全で的確に使用できる」3.59±.75、「自分の看護に責任が持てる」3.47±.51、「必要に応じて他者の意見を受け入れられる」3.41±.62の順であった。得点の低いのは「研究計画を立て、計画的に実施できる」2.04±.83、「研究に積極的に取り組める」2.24±.90、「安らかな死への援助が提供できる」2.24±.90、「文献を活用して行った研究をまとめられる」2.294±.85、「患者の倫理面に配慮できる」2.35±.70であった。
年次を重ねるごとに順調に得点が増加しているのは「患者の個別性を考えた計画が立案できる」「急変時の対応ができる」「カンファレンスなどの場で自己の意見が言える」「看護ケアや研究など看護業務の中でリーダーシップを発揮している」であった。
2.看護婦としての成長体験の記述
1)記述の全体像
看護婦としての成長体験についての記述は表1をみると、1998年度卒業生8件、1997年度卒業生23件、1996年度卒業生13件、1995年度卒業生23件、1994年度卒業生12件、1993年度卒業生11件の記述があり、記述総数は90件であった。成長体験の時期は(表3)、1年目18件、2年目36件、3年目14件、4年目12件、5年目7件、6年目3件で、2年目が最も多かった。看護能力の自己評価項目に合わせてこれらを分類すると、評価項目60項目中21項目に対しての記述があった。これら21項目は「家族のニードが把握できる」「心理面・精神年のアセスメントができる」など看護実践能力および「後輩へ意図的に教育・指導ができる」「学生に対し、意図的に教育・助言ができる」など教育能力、「看護ケアや研究など看護業務の中でリーダーシップを発揮している」といった管理能力に関するものであり、研究能力に関する記述はなかった。記述の内容を看護能力別に見てみると、「安らかな死への援助ができる」が最も多く、15件、次いで「後輩へ意図的に教育・指導ができる」10件、「急変時の対応ができる」9件、「患者の個別性を考慮して対応ができる」8件「患者の精神的支援が提供できる」7件、 の順であった。看護能力の自己評価との関連をみると、自己評価が高かった項目で成長体験の記述のあったものは「他のスタッフと協調して仕事ができる」のみで、自己評価の低かった項目では、「安らかな死への援助ができる」「学生に対し適切に指導・助言ができる」が成長体験として記述されていた。
2)体験の時期による記述内容
体験時期別に記述内容をみてみると(表3)、1年目では「患者の個別性を考慮して対応ができる」「患者のニードに速やかに対応できる」「家族のニードが把握できる」「急変時の対応ができる」などの記述が多く、2年目では「安らかな死への援助ができる」「患者の個別性を考慮して対応ができる」「後輩へ意図的に教育・指導できる」「急変時の対応ができる」「患者に対し安全・安楽な環境が提供できる」などが多かった。3年目では「安らかな死への援助ができる」「後輩へ意図的に教育・指導ができる」「患者の状態変化を予測できる」、4年目では「安らかな死への援助ができる」「患者の精神的支援ができる」「他のスタッフと協調して仕事ができる」が2名以上の記述があった。また、「看護ケアや研究など看護業務の中でリーダーシップを発揮している」が初めて記述されていた。5年目では「学生に対し適切に指導・助言ができる」「医師と対等な立場で意見を述べることができる」といった項目が初めて記述されており、6年目では「特別なことではなく、毎日の積み重ねで成長したと思う」といった具体的エピソードのない記述があった。次に体験された時期による記述内容の違 いを表4から見ると、最も記述の多かった「安らかな死への援助ができる」は全ての年数で記述があり、その内容は1年目は家族から感謝されたという事実から意図的でない関わりが評価された体験であるが2年目3年目では「薬だけでなく、環境や看護婦の関わり、関わる時間などにより症状が変わる」といった意図的に関わったことからの成功体験が、また、5年目6年目では「生命、患者の苦痛、恐怖について考えた」など患者との関わりを通して自己の成長に繋がっている体験が記されていた。

X.考察
1.キャリア探索期・試行期の看護婦の看護能力自己評価について
キャリア探索期・試行期の看護婦は「他のスタッフと協調して仕事ができる」「必要に応じて他者の意見を受け入れられる」等の能力が高く、どの年度の卒業生においても高い評価を示した。これは看護婦が単独で仕事をするのでなく、チームメンバーとして他のスタッフと協調して働くことが必要であることから、病院で働く上で必須の条件となっているためであろう。
看護能力自己評価は必ずしも経験年数を経るに従って高くなるわけではなく、「患者の個別性を考えた看護計画ができる」「急変時の対応ができる」「患者の状態変化を予測できる」「カンファレンスなどの場で自己の意見が言える」「看護ケアや研究など看護業務の中でリーダーシップを発揮している」の60項目中5項目のみが経験年数に従って高くなっていた。これらは全て成長体験の記述があった項目であるが、「急変時の対応ができる」に代表されるように1年目は対応と言うよりは何もできなかったが見ていた段階、そして2年目は先輩看護婦の指示を受けながら対応できる段階、3年目は後輩に指示が出せ、4年目5年目では事態に早期に気づき、対応できる段階というように経験や場数を踏むことによって徐々に育っていく体験であると考えられる。
また、各項目で評価の最も高かった年代をあげてみると、当然の事ながら1993年度卒業生が最も多く27項目、次いで、1995年度卒業生14項目となっているが、卒業後5年目に当たる1994年度卒業生では4項目と少なかった。一般に看護婦の成長は卒業後3年、5〜6年、10年が区切りといわれているが、卒業後3年間はいろいろなことを吸収することで自己の能力を伸ばし、それを実感できるが、その後は吸収だけでは頭打ちとなり、学んだことを内面化し、自己の価値観や考え方と合わせて取り込んでいく必要性が生じる。白井ら5)は3年ごとに卒業生をひとくくりにして比較した結果、卒後3年をすぎると自己の学習課題を見いだし、自己研鑽を始め専門職業人としての自覚を持ち始めてくると述べているが、1994年度生はこの時期にあたっていると考えられる。また年齢的にも25〜26歳と結婚や出産など今後のライフコースも考えねばならない時期にも当たっていることからもこの結果は頷けることである。
成長体験の記述が最も多かったのは、2年目で、記述の3分の1が集中していた。これは1年目の何もできない体験から後輩ができ、やっと1人前の看護婦としてやっていけるという自覚ができ、先輩から受けた指導を実際の看護場面で応用して行った看護の結果が得られた体験が記されていると考えられる。ただここで考えなければならないのは、2年目以降成長体験の記述が激減していくことである。看護婦としての成長は2年目前後で止まってしまうはずはない。むしろその後の方が内面的成長が多いと考えられる。目に見える事象にとらわれすぎている結果であろうか。記述の多かった「安らかな死への援助が提供できる」「後輩へ意図的に指導ができる」「急変時の対応ができる」などは看護能力の評価も低く、答えがあってないような命題である。したがってできたと思えたときには成長を実感できる体験となっていると考える。
また、成長体験に研究能力が含まれていない。病院に勤務する場合、通常3年目前後には看護研究を行う機会が与えられるが、研究が看護婦としての成長に繋がっていないという結果である。筆者らの調査6)でも研究経験が必ずしも良いイメージに繋がっていないという結果を得ている。病院においては自己の成長のために役立っていない事が伺える。
2 看護能力尺度の検討
看護能力自己評価尺度の信頼性を示すクロンバックのα係数は0.97で、信頼性は非常に高いと言える。しかし、看護能力が経験年数を重ねるごとに高まっていくという一つの線上に成長が乗っていると仮定する立場に立つならば、必ずしも経験年数順に平均値が上がらず、今回使用した尺度は妥当であるとは言えない。また、尺度で使用したレベルの設定は「できない」から「非常に良くできる」であり、これも回答者が答える時点で考えているレベルが異なり、主観が入りやすいものとなったと考えられる。成長体験として記述のあったものを取り出して考えることも一つの方法であろう。しかし、成長体験は2年目に体験が集中しており、それ以降のレベル設定ができるまでには回答が不足している。看護の理論家ベナー7)はその看護論の中で、看護婦のレベルを新人、一人前、中堅、達人とし、参加観察法から能力の深さを表現しているが、判断の深さや予測しない事態への対応などレベルを表現する尺度開発の必要性が示唆される。しかし、自己評価尺度である以上はその時々の状況が反映されることは免れないことでもある。開発にあたっては自己評価の限界も含めて検討する必要が ある。

Y.まとめ
1.キャリア探索期・試行期の看護婦は「他のスタッフと協調して仕事ができる」「必要に応じて他者の意見を受け入れられる」等の能力が高く、チームメンバーとして他のスタッフと協調して働くことが求められるためであると考えられた。
2.看護能力の自己評価は経験年数によって高まるものもあるが、必ずしも年数に比例して高くなるわけではなかった。特に5年目看護婦では4年目6年目看護婦よりも評価が低く、経験の内面化など新たな学習方法を模索する時期と考えられた。
3.看護婦としての成長体験は「安らかな死への援助が提供できる」「後輩へ意図的に教育・指導ができる」が多く記述され、特に2年目に記述が多かった。
4.看護能力尺度は能力の成長として1次元で考えた場合、必ずしも妥当ではなく、経験や、能力の深さを考慮した尺度開発が望まれる。

文献
1)長谷川真美「看護婦の職業的自己成長を規定する要因に関する検討」『文教大学大学院修士論文』1996.
2)内田卿子・井辺俊子 「クリニカル・ラダー:聖路加国際病院看護管理への適用<1>−取組みへの動機と文献の検討−」『看護展望』11ー1,1986,pp64-68.
3)長谷川真美・大塚眞理子ほか「看護実践能力の発達と指導のあり方についての検討−卒業後3年間の傾向−」『第24回日本看護学会集録−看護管理』1993,pp13-16.
4)小野寺杜紀・大塚眞理子・長谷川真美・会田みゆき「卒業後の看護職に対する態度と成長発達に関する研究」『平成4年度埼玉県立衛生短期大学特別研究報告書』1993.
5)白井徳子,橋爪永子ほか「三重県立看護短期大学卒業生の職業キャリアについての研究(第1報)」『三重県立看護短期大学紀要』17,1996,pp.62.
6)今川詢子,長谷川真美「看護婦の看護研究に対するイメージに関連する要因の検討」『看護研究学会雑誌』23-3,2000,p.298
7)パトリシア ベナー『ベナー看護論』,医学書院,1992,pp.10-27.

表1 対象の卒業年度別人数

年 度

女 性

男 性

合 計

自 由 記 述

件 数

人 数

1998年度

19

1

20

8

8

1997年度

24

24

23

19

1996年度

20

1

21

13

12

1995年度

28

28

23

22

1994年度

20

20

12

12

1993年度

17

17

11

11

合 計

128

2

130

90

84

表2 看護能力の自己評価(略)

表3 年次別成長体験数

看 護 能 力

1年目

2年目

3年目

4年目

5年目

6年目

合計

家族のニードが把握できる

2

1

1

4

心理面・精神面のアセスメントができる

1

1

患者の個別性を考えた計画が立案できる

1

1

2

患者の疾病や状況に応じて必要な観察ができる

1

1

患者の状況に合わせて身体的援助が提供できる

1

1

2

患者の精神的支援が提供できる

1

3

2

1

7

安らかな死への援助が提供できる

1

6

3

3

1

1

15

急変時の対応ができる

2

4

1

1

1

9

患者の状態変化を予測できる

1

2

3

患者の個別性を考慮して対応できる

3

5

8

患者のニードに速やかに応えられる

2

1

3

行った看護を評価し記録できる

1

1

2

カンファレンスなどの場で自己の意見が言える

1

1

他のスタッフと協調して仕事ができる

1

1

2

4

必要に応じて他の医療スタッフの協力を要請できる

1

1

1

1

4

患者に対し安全・安楽な環境が提供できる

4

4

後輩へ意図的に教育・指導ができる

5

3

1

1

10

学生に対し適切に指導・助言ができる

1

1

患者の生活背景を考えた教育・指導ができる

2

2

看護ケアや研究など看護業務の中でリーダーシップを発揮している

1

1

医師と対等な立場で意見を述べることができる

1

1

その他

1

2

2

5

合    計

18

36

14

12

7

3

90

表4 成長体験の記述内容

看 護 能 力

件数

記  述  内  容

家族のニードが把握できる

4

1年目:患児の母からオムツの中に髪の毛が入っていたり、環境整備がされていないと指摘され、看護者の仕事の限界と母親の気持ちについて話し合った
3年目:患者自身だけでなく、家族のみなさんの意見まで耳を傾けられるようになった
4年目:プライマリーナースとして家族の変化する思いに対応した

心理面・精神面のアセスメントができる

1

1年目:痴呆のある老人に内服してもらおうとするあまり患者の話をよく聞かず怒らせてしまい、何もかも拒否された
患者の個別性を考えた計画が立案できる

2

2年目:受け持ち看護の成立
3年目:カンファレンスで受け持ち患者と良い関わりがもてたことを評価された
患者の疾病や状況に応じて必要な観察ができる

1

1年目:緊急入院の患児の観察が適切にできたことを先輩に褒められた
患者の状況に合わせて身体的援助が提供できる

2

1年目:入職当初に比べて観察や処置がスムーズにできていることを患者から指摘された
患者の精神的支援が提供できる

7

1年目:末期癌患者の希望で、仕事中だし、先輩が恐いしと思いつつ、サイダーを飲み干し、「スッキリした。ありがとう。あんたで良かったよ」と言われた
2年目:全て知っている患者に元気になるかと聞かれ何も言えなかった
4年目:治療がうまくいかず不満の多い患者の訴えを何も言わずにただ聞いているだけであったが、ある時患者から「いつも嫌なことを聞いてくれてありがとう。どんなに救われたことか」と言われた
5年目:羊水過多、胎児奇形で流産に至った患者への告知後のケアについてまずは聞く姿勢が大切だということを学んだ
安らかな死への援助が提供できる

15

1年目:患者さんが亡くなったとき、家族に「よく接してくれた…」と感謝された
2年目:1年目はターミナルの患者さんを受け持つのが恐かったけれど、今は安らかに死を迎えられるよう接することができるようになった
3年目:プライマリ患者の死を看取り、薬だけで必ず良くなるのではなく、環境や看護婦の関わり方、関わる時間などにより症状が変わる、本当の「看護」を知った
4年目:ターミナル患者のプライマリナースになり、患者の訴えと向き合う(表面的な病状だけでなく、内面に目が向くようになり言動や表情、態度に敏感に反応する)ようになった
5年目:臨死のケアを多く体験し、生命について、患者の苦痛、恐怖について考えた
6年目:死が避けられない状況でも最後まで自分らしく生きようとする姿や患者の自殺未遂を通して、医療者の主観だけで決めるのでなく、患者家族の気持ちに寄り添うことの重要性を知った
急変時の対応ができる

9

1年目:受け持ち患者が急変し、亡くなった。救急看護をしっかり学べた。死生観について考えさせられた
2年目:急変時、早期に医師に報告し対応することができた
3年目:急変時でも動揺せず、患者さんにも家族にも対応できるようになった。後輩に指示が出せるようになった
4年目:受け持ち患者が突然出血し、その対応ができた
5年目:呼吸困難、血中酸素飽和度の低下に対し、早期に対処できた
患者の状態変化を予測できる

3

2年目:患者の状態を見て起こりうる事態を予測し、先輩と共に対処できた
3年目:異常(正常分娩が不可能なこと)を早期に発見し医師へ報告できた
患者の個別性を考慮して対応できる

8

1年目:目の前のことだけで精一杯だった頃に比べて患者の発言、表情もキャッチして考えられるようになった
2年目:あらゆる面から患者を見られるようになった。周囲の人からの情報をケアに活かせるようになった
患者のニードに速やかに応えられる

3

1年目:患者さんから「いつも気にかけてお世話してくれてありがとう」と声をかけられた
4年目:看護婦としてアセスメントし、患者さんが何をして欲しいかが少しずつ見えてきた
行った看護を評価し記録できる

2

1年目:医師からカルテ記載の内容を「患者をよく理解し、的を得ている」と褒められた
3年目:先輩看護婦から私が書いたサマリーを「上手く書けているから読んでみて」と後輩に紹介された
カンファレンスなどの場で自己の意見が言える

1

3年目:カンファレンスで「こういう方法もある」と提案したが、「意見」として聞き入れてもらえず、「今の若い人は…」と片づけられてしまった
他のスタッフと協調して仕事ができる

4

1年目:医師から家族への説明と自分の言ったことが食い違ってしまい家族を怒らせてしまった
2年目:リーダー業務を始めて、個々の患者を把握し、スタッフや医師と共に治療ケアの方針を考えていく
4年目:周囲の状況を見て、自分の役割は何か考えて働けるようになった
必要に応じて他の医療スタッフの協力を要請できる

4

1年目:患者のためにケアや福祉制度の紹介をすることで自分の看護に自信がもてた
3年目:入所の必要性や患者の気持ちを代弁し、救護寮入所へつなげられた
5年目:職場での問題や解決案について一人でなく、チームとして取り組むことができるようになった
患者に対し安全・安楽な環境が提供できる

4

2年目:1年目は上の人にフォローされないと看護できなかったが、2年目からは独り立ちして知識や今までの経験を考え看護していくようになった
後輩へ意図的に教育・指導ができる

10

2年目:後輩ができ自分が指導する立場になった
3年目:新人の看護を配慮しながら自分の看護を行い指導できるようになった
4年目:一人の新人看護婦をマンツーマンで1年間指導し看護者として指導者として教えられた
5年目:指導者として2年目から関わる中で、指導の仕方誉め方など人間として成長した
学生に対し適切に指導・助言ができる

1

4年目:リーダー業務をし、学生指導も行うことで自分の能力を知った上でそれを役立てることができた
患者の生活背景を考えた教育・指導ができる

2

2年目:患者さんへ他の患者さんの体験談などを通して生活、治療などアドバイスできるようになった
看護ケアや研究など看護業務の中でリーダーシップを発揮している

1

4年目:リーダー研修を受け、それまで、受け持ち患者中心の見方から、看護の質や働き易さなどにも目を向け、問題意識を持って働くことが患者の看護をよくすることに繋がると認識を持った
医師と対等な立場で意見を述べることができる

1

5年目:処置やデータについて医師に報告するだけでなく、指示に対して自分の考えを言えるようになった
その他

5

1年目:自分のことを「看護婦さん」と患者の前で呼ぶようになった
2年目:新人が入り、自分に責任がある仕事が回ってきた
6年目:特別なことではなく、毎日の積み重ねで成長したと思う

 

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