『教育研究所紀要第9号』文教大学付属教育研究所2000年発行

意欲・感動!! 都会の学校における環境教育の実際

関 口   豊

(東京都品川区立大井第一小学校) 

要  旨

地球上で様々な環境問題が発生し、その解決が迫られている今、私たち一人一人が地球の乗組員としての務めを果たさなくてはならない時期にきている。自分自身も自然の一部であることを実感し、今何をすべきなのかを将来にわたって考え実行していこうとする意欲を小学生時代に培うことは大変意義のあることである。そのために、都会の学校でどのような指導・支援ができるのかを本校全教職員で追究した実践報告である。

1.はじめに

中央教育審議会の答申では、環境教育を進めていくために、@環境から学ぶ、A環境について学ぶ、B環境のために学ぶ、という視点が示されている。この視点を具現化するために、大井第一小学校は、平成10・11年度東京都消費者教育・環境教育等課題研究校及び品川区研究学校として研究と実践を進めてきた。
本研究は研究主題を「意欲・感動!!−気づく心と取り組む力−自然との共存を目指して−」とし、環境に関する身近な課題を通じて、自然との関わりを図り、生涯にわたって主体的に学ぶ子どもを育てることを目指してきた。

2.研究主題について「意欲・感動!!」

著しく変化する社会の中で、児童一人一人が主体的に生きるために必要なことは、意欲的に思考したり、判断したり、表現したりして、創造的に生きていこうとする資質や能力を身に付けることである。これらを身に付けるには、児童が自ら考え、もっている力を発揮しながら意欲的に問題解決に取り組める学習活動を展開していくことが大切である。児童が自らの力で問題解決に取り組み、問題を解決できたと実感したとき、満足感や達成感が児童の心の中に生まれる。そして、その感動が新たな問題解決のエネルギーとなり、児童はさらに意欲的に学習に取り組むようになる。また、この意欲と感動のサイクルは、さらなる探求心と問題把握の力を生み出すものであり、「総合的な学習の時間」内においても欠かせないものである。

3.研究副主題について「気づく心と取り組む力−自然との共存を目指して−」

私たちは3年前、児童の実態を踏まえ、「生きる力」のもととなる心、特に「思いやりの心」を育成するために環境教育を選んだ。それは、児童が人間を取り巻く環境に積極的に目を向け、人間を含めた土や水や空気、草木、動物などの万物がお互いに影響し合って自然が成り立っていることに気付くことにより、自分自身や自分以外の人やものに関心を抱き、温かな思いやりの心をもって接するようになるのではないかと考えたからである。そして、「自然との共存」という副主題のもと体験的な活動を多く取り入れた環境教育を行ってきた。また、意欲と感動が連続する問題解決学習を進める上で特に必要な感性や能力を「気づく心」や「取り組む力」とし、それらを育み培いながら児童を次のような子どもに育てたいと考え実践を重ねてきた。

4.目指す児童の姿

本校の環境教育を通して目指す児童の姿は次のようなものである。
○気づく心をもつ子
【自然に触れ感動する子】
→ 身の回りの自然に触れ、そのすばらしさ・複雑さ・繊細さに感動したり畏敬の念を抱いたりする子
【自ら学ぼうとする子】
→ 自分と自然環境や社会環境との関わりについて積極的に願いをもったり問題を発見したりしようとする子
○取り組む力をもつ子
【自然と共に生きようとする子】
→ 抱いた願いを実現し、発見した問題を解決する力をもつ子
→ 自然と人間との共存を目指し、様々な問題について主体的に考え、責任をもって働きかける子

5.研究の内容と方法

イ 全学年で「環境年間指導計画」に基づく授業実践を行い、それぞれのシリーズ及びシリーズのつながりが、児童の「気づく心」や「取り組む力」を育てるために適切であるか否かを検証する。
ロ 校内や地域の自然を把握するとともに、 校内の環境整備をし、児童が自然と触れ合う場を充実していく。
ハ 児童用の環境教育図書を充実し、問題  解決学習においてそれらを有効に活用できるようにする。また、「調べ室」を開設しインターネットで情報を収集できるようにする。
ニ 活動に生かせる家庭や地域の人材を確保 し、積極的な協力を仰ぐ。
ホ 環境教育に関わる資料の収集、講演、施設見学、先進校から学ぶこと、文献研究などを通して、教師の資質と教養を高めていく。
ヘ 校内で資源回収や古紙の再利用、リサイ クル活動などに、積極的に取り組む。

6.学年のテーマについて

本校の環境教育では、「自然と共存する」ということをいかに児童に実感としてとらえさせるかが重要なポイントである。そこで1年生から6年生までに環境に関して学習する内容、または児童が日常の生活の中で見たり聞いたりすることの中で、特に心に留めておいて欲しい内容をまとめて、学年のテーマとした。また、以下のようなテーマのもと、児童の発達段階に応じた「環境年間指導計画」を作成した。
第1・第2学年のテーマ
ふれあおう − わたしたちのまわりのしぜん
第3・第4学年のテーマ
見つめよう − わたしたちのくらしと身近な自然
第5・第6学年のテーマ
考えよう − 人々の生活と自然との調和

7.第1学年の実践

シリーズの概要
シリーズ「そだてよう はなやいきもの」
・花いっぱいになあれ(春、秋)
→諸感覚を使った自然との触れ合い
→ザリガニ、オタマジャクシ等の飼育
→アサガオ等の栽培
シリーズ「こうえんにいこう」
・春のこうえん(夏、秋、冬)
→四季を通じて公園の景色、草木、虫たちの様子を観察
シリーズ「しぜんとともだち」
・春のこうていをたんけんしよう
・夏とあそぼう(秋、冬)
→学校の春、夏、秋、冬探し
→季節の遊び
→「なかよしの木」の変化

8.第2学年の実践

シリーズの概要
シリーズ「みんな生きている」
・春(秋)を見つけよう
・生きものをかってみよう
・やさいをそだてよう
・やさいのとり入れをしよう
・秋まつりをしよう
・花をそだてよう
→一人一匹、一鉢の生き物(ザリガニ、アゲハ、ダンゴムシ、カタツムリ等)や植物(ミニトマト等)の飼育、栽培
シリーズ「しりたいな!みんなの町」
・町のひみつをおしえよう
・町にとびだせ!たんけんたい
・みんなの町をしょうかいしよう
→大井町の自然探検と町の様子を紹介
シリーズ「手作りハガキでつたえよう」
・牛乳パックでハガキづくり
・とっておきのねんがじょう
・ゆうびんやさんになろう
→牛乳パックやケナフでハガキ作り

9.第3学年の実践

シリーズの概要
シリーズ「緑をいっぱい感じよう」
・住みよいまちづくり
・私たちの品川区
・くらしと商店街
・くらしとものを作る仕事
・くらしのうつりかわり
→地域の方にたらいや洗濯板によるせんたくの仕方、草木染めの方法を教えていただく。
シリーズ「生き物のふしぎを見つめよう」
・草花を育てよう
・昆虫を育てよう
・昆虫の体のつくり
・種とりと球根植え
・私たちの体
→学校や地域でアゲハの幼虫を採集し、一人一匹育てる。

10.第4学年の実践

シリーズの概要
シリーズ「季節と生き物」
→「わたしの木」の四季の変化を調べる。
→学区域のツバメを継続的に観察する。
シリーズ「水を知ろう」
→水の変化、循環、流れる水の働きについて調べる。
→水を大切にする方法や汚さないための工夫について考え実践する。
シリーズ「ごみと資源」
→家庭や学校のごみの量や内容を調べる。
→集積所や清掃工場を見学する。
→ごみを出さないため、減らすための工夫をする。

11.第5学年の実践

シリーズの概要
シリーズ「命のサイクル」
・植物の生長
・メダカの成長
・動物や人の誕生
→生物にとってよりよい環境や「命のサイクル」について考える。
→黒メダカを育てる。

12.第6学年の実践

シリーズの概要
シリーズ「われら地球家族」
・土、水、空気の大切さ
・土、水、空気を守るための実践
・学校に生き物を呼ぼう(学校ビオトープの作成、維持、継続観察)

13.研究の成果と課題 (○成果、■課題)

(1)「意欲・感動」について
○ 意欲や感動のある問題解決学習をするために、児童が自分の問題を設定する際、次の二つのことに留意してきた。
・問題が児童にとって身近な事柄であること
・問題が体験から生まれる疑問や願いであること
このような問題をもった児童は、粘り強く自分の問題を追究し、多くの発見をすると共に多くの疑問を抱いた。
■ 児童の意欲をさらに持続させるための教師の支援や投げかけの方法について、各学年の活動で明らかにされてきてはいるが、今後も多くの授業実践を通して研究していく必要がある。

(2)「自然との共存を目指して」について
− 自然 − 
○ 自然の変化に敏感になり、木の芽の膨らみ、鳥や虫の生活に興味をもち、多くの疑問を抱くようになった。
○ 諸感覚を使って自然と触れ合うようになった。
− くらしの見直し −
○ 資源やごみ、水に対して大きな関心や疑問を抱くようになった。
○ 環境の汚染は、人間の生活に関係があることに気付くようになり、自分の生活を積極的に振り返るようになった。
○ 缶や牛乳パックの回収、資源とごみの分別、古紙の再利用、紙の両面使用を積極的にし、環境保全に取り組もうとするようになった。
■ さらに環境を守っていくために、リサイクルばかりでなく、リユース、リデュースが大切だということを学校全体や地域に広めていきたい。

(3)環境年間指導計画の充実について
○ 各学年の活動をシリーズ化することで、単発の実践に継続性をもたせ、年間を通じて児童の心や力を育てることができた。
○ 各教科・領域の指導内容を環境教育の視点で整理することで、教科の内容の発展としてどのような活動が可能であるかを見いだすことができ、「総合的な学習」を計画する上での土台を築くことができた。
■ 児童の発達段階や能力をさらに考慮に入れたシリーズのつながりや、児童の願いや関心をさらに大切にした活動を今後も考えていかなければならない。

(4)校内の環境整備
○ 校内の自然マップを活用したり、木の説明プレートを設置したりすることで昆虫や植物について多くの知識を得るようになった。
○ 学校ビオトープという視点を取り入れたことで、生き物が成育しやすい環境について考え、実践するようになった。
○ リサイクルコーナーを充実することで、くらしを見直すための実践意欲を高めることができた。

(5)地域との連携について
○ 児童の活動の様子や学校ビオトープの様子をホームページで発信することで、保護者・地域の関心を高めることに役立っている。
■ 特に「くらしの見直し」という観点では、家庭の意識が子どもの活動への意欲を大きく左右する。保護者への協力と呼びかけをさらにしていかなければならない。

品川区立大井第一小学校

ホームページのURL

http://www1.cts.ne.jp/~oichi


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