『教育研究所紀要第5号』文教大学付属教育研究所1996年発行

<授業実践報告>

英語新カリキュラムについて

−セメスター制と能力別クラス編成−

矢口 堅三(文教大学情報学部)

 

 情報学部は、平成7年4月に第一外国語(英語)-以下「英語」-のカリキュラムを大幅に改定した。

 新カリキュラムでは、それまでの必修英語10単位を8単位とし、そのうちの6単位−英語T、英語U、英語V−を1年次に集中させ、残りの2単位−英語W−は2年次に置く。

 また、新カリキュラムではセメスター制、能力別クラス編成を行って、教育効果の増進を計った。[次ページの表を参照]

 新カリキュラムについて詳しく述べるまえに、新カリキュラムに至る経緯やその背景を概観してみたい。

T.新カリキュラム以前

 今年度が最終年度の旧カリキュラムは、英語 から英語 まで合計10単位あり、学年別配置はT、Uが1年次、V、Wが2年次、Xが3年次となっていた。[次ページの表を参照]

 学習目標は、1年次には《平易なテキストの精読と総合能力の養成》、2年次には《多読と総合能力の養成》、3年次には《学科別専門分野の英語に触れることが望ましい》といった趣旨であった。

 1年次の英語TとU、2年次のVとWそれぞれの担当教員の間に連携はなく、読解を中心にするか運用能力の養成を目指すかなど、授業の方針は各教員の裁量にまかされていた。

 また、それまで情報学部英語カリキュラムは何年も手直しされずに実施されていて、実情に合わない面がいくつか顕在化していた。

U.新カリキュラムの検討

 以上のような点を意識して、情報学部語学教育委員会がカリキュラムの見直しを始めたのは、平成3年のことである。折しも大学設置基準の大綱化が実施された。好機到来である。委員会はかなり大胆な見直しをすることにした。

 まず、学部として、その英語教育に望むものはなにか。委員会は、討議の出発点とするために、平成3年11月、専任教員に対して情報学部の学生にどのような英語の力を望むかについてのアンケート調査を実施した。

 その結果は、多数意見として、「望ましくは3年次の終了、遅くとも卒業までに、《読解力は辞書を使えば専門分野の書籍が理解出来る程度》、《会話力はゆっくりならば意思の疎通が出来る程度》の実力を付けてほしい」というものであった。当時のカリキュラムを考えれば、かなり明確な路線である。

 語学教育委員会は、このアンケート調査の結果を土台に平成4年から5年にかけて討議を重ねて、新カリキュラムの内容を決定した。ちなみに、新カリキュラムの実施は平成6年4月の予定であったが、 諸般の事情により1年延期されたことを付記しておく。

V.新カリキュラムの内容

(1)教育目標

 望ましくは3年次の終了、遅くとも卒業までに、辞書を使って普通程度の専門書が理解出来る読解力と、ゆっくりした速度ならば意思の疎通が出来る会話力を付けることを目標とする。

 注:上記の平成3年に行った情報学部教員のアンケート調査に基づく。

(2)1年次の英語

@英語T、英語U 

  旧カリキュラムでばらばらだった英語T、Uを一体化するとともに、教員アンケートの結果をふまえて講読専門の授業とする。

{セメスター制}

 また、反復集中訓練を目指してセメスター制を取り入れた。週2回の授業を行って、前期に英語Tを、後期に英語Uを履修させるものである。

 ここで、セメスター制の実施について少し触れておこう。

 新カリキュラムの実施に当たって何より問題だったのは、やはり、セメスター制であった。これまで情報学部において、週1回・半期の授業はあったが、週2回の授業を行って通年の教育内容を半期で終了させるセメスター制は今回が初めてであった。大別して2つの面で困難があった。1つは時間割、もう1つは教員確保である。

 情報学部の英語のクラスは30名で、1学年につき、広報学科4クラス、経営情報学科6クラス、情報システム学科6クラス、計16クラスある。これら16クラスを週2回、学科別にまとめて配置するのである。まだ旧カリキュラムも残っているし、他科目の授業もある。教務課に依頼して、他の必修科目との競合の少ない’無難な’曜日・時間帯を割り出してもらった。週2回といっても1日以上の間隔がほしい。理想は月曜・木曜、火曜・金曜だったが、全く不可能。何人もの先生に他の曜日や時間に移っていただくよう懇願したりして、やっと現行の火曜・木曜に落ち着いた。

 担当教員について、当初は週2回を2人が受け持つペア・システムを考えたが、非常勤教員の場合、両者間の連携、意思疎通の難しさなどの問題もあり、同一教員の担当に変わった。もう1つ現実的な事情として、週2日出校の先生がたに的を絞って曜日の調整をしたことがうまくいった、ということもある。

{修得制限・進級規定}

 学習効果を確実にするために、英語Tの単位を取得できないものは英語Uを履修できないこととした。なお、情報学部には、2年次終了までに、卒業に必要な単位のうち、英語4単位を含む60単位以上を修得していなければ、3年次に進級できないという規定があるが、今回この4単位を英語TとUに特定した。 

{能力別クラス編成} 

 近年英語の試験のない入試が増えたこともあってか、学生の英語力の格差が特に目立っている。クラス内での学力差を狭めて効率化を計るために、能力別クラス編成も実施している。4月の授業開始前に統一英語テスト(英検2級程度)を行い、3学科それぞれ上位約30名、下位約30〜60名対象のクラス(1クラス30名)を設けている。講読を目的にした英語T、Uはカリキュラム上、2年次の「入門英語」と「上級講読」に結びつく。

A英語V 

 会話力を付けることが新カリキュラムの目標の一環となっているが、話すには聞く力がなくてはならない、まず耳から英語に「浸かる」ことが大切だという考えから、1年次のもう1つの英語を聴解力養成のための授業とした。

 情報学部の英語教育に「聴解」と銘打った授業が加えられたのは、遅まきではあるが、今回が初めてであり、画期的な事と言えるであろう。

 しかし、残念なことであるが、いろいろな事情から、英語Vは広報学科しかセメスター制を行っていない。また、能力別のクラス編成も実施しない。

(3)2年次の英語 −英語W 

 英語Wには、前ページの表に示すように、5種類の内容がある。原則として2年次生はこの中の1種類を選択出来ることになっているが、実際上は英語Wの主要部分を成す「入門英語」に、各学科の約60%の学生を指定して履修させている。他の学生は「入門英語」を除く4種類から1つを選択して修得する。

@「入門英語」

 新カリキュラムの目標に、専門書を読める力を付けることが挙げられているが、その「入門」に当たるのがこれである。従って、扱う内容は3学科それぞれの専門分野に関係のある基本的な英語である。なお、同様の目標をもっていた旧カリキュラム3年次の英語 は、この「入門英語」に吸収されたと見ることができる。

 「入門英語」の実態は専門英語講読入門なのであり、1年次の初級講読から3年次のゼミナールなどの専門分野の英語への橋渡しの役を担っている。1年次終了時に読解力にすこしでも心配のある学生は、「入門英語」で更に努力してもらう。そのために、1年次後期の英語 の成績に基づいて、2年次学生の約60%の学生を指定して「入門英語」を履修させるわけである。

A他の4種類の内容

 実を言うと、情報学部の英語新カリキュラムの特色は、この英語Wの選択性にもあると思う。選択の幅は今後も広げたいと考えている。

 「入門英語」の履修を指定されなかった学生、つまり読解力に比較的優れていると判定された学生は、右記の4種類の授業の中から1つを選んで、自分の好きな方向の英語学習が出来る。今まで、いわゆる‘浮きこぼれ’て欲求不満だった学生に羽根を伸ばしてもらうのである。

 「総合英語」 英検2級あるいは準1級の資格取得を目指す。多くの受講希望者が見込まれるので、各学科に1クラスずつ設ける。

 「上級講読」 レベルを高くすると同時に、内容も社会科学面を中心に多岐にわたる。これも各学科1クラスずつ。

 「上級聴解」 初級の英語Vを踏台にして、まとまった内容を理解出来るようにする。

 「英作文」 文法の項目を中心に英語による表現の基礎を築く。「上級聴解」と同じく3学科共通1クラスずつ。

W.新カリキュラムの初年度を終えて

(1)学生の反応

 種々曲折を経て実施された新カリキュラムだが、学生はどのように受け止めているのか。平成7年度前期終了前に、学生に対してセメスター制と能力別クラス編成についてアンケート調査を行った。

 セメスター制については、回答者の67%が「良い」、33%が「悪い」と答えた。「良い」と答えた者の意見には、〈半期で終わるので集中できる〉、〈週2回なので授業内容を忘れない〉、〈予習がつらいが効率的で良い〉などの意見が見られた。一方、「悪い」と答えた中には、〈週2回では予習があまり良くできない〉、〈週1回で通年にしてほしい〉などと考えている者がいた。是とする者で、〈曜日をもっと離してほしい〉と書いた者があり、やはり現状の火・木では間隔が少ないのでは、と思わせる。

 能力別クラス編成についての回答も、「良い」が77%、「悪い」が23%であった。是とした者の意見では、〈自分に合ったレベルで学べる〉、〈授業がスムーズに進む〉、〈他人を変に意識しないですむ〉などがあった。否とした者の意見に〈自分がランク付けされたように感じる〉というのがあったことも付け加えておく。   

(2)再履修のこと

 新カリキュラムの再履修クラスは、それぞれ英語Tが後期、英語Uが翌年の前期に設けられている。英語Vにはない。

 初年度において、英語T、Uの再履修者は最終的に61名である。一方、最も新しい数字で、旧カリキュラム1年次の英語T、英語Uの再履修者は合計76名であった。 

 今後再履修者を減らす努力が不可欠であることは言うを待たないが、同時に再履修問題にどのように対処するか、例えば夏休みに一括して再履修のための授業を行うなど、その方策を考える必要があると思っている。

(3)なお、2年次の英語Wは現在進行中なので、報告できる結果は出ていない。

 最後に、新カリキュラム実施に当たっては、特にセメスター制採用に関して、学部の教員各位と事務方の教務課には多大のご理解とご協力をいただいた。改めてお礼を申し上げる。

 

 
新 カ リ キュ ラ ム
旧カリキュラム
1 年 次

英語T (講読) 前期 − 火曜、木曜

英語U (講読) 後期 − 火曜、木曜

英語V (聴解) 広報学科のみセメスター制

英語T

 

英語U

2 年 次

英語W 通年・選択必修

 (入門英語)          (上級聴解)

 (総合英語)          (英作文)

  (上級講読)

英語 V

英語 W

3 年 次
な し
英語 X
総単位数
8 単 位
1 0 単 位