『教育研究所紀要第6号』文教大学付属教育研究所1997年発行

<特集 教育環境の変化と大学教育>

大学新入生のサークル加入についての得失の予期

臺 利夫(文教大学人間科学部)

概要

 大学新入生のサ−クル加入希望者はサ−クルに対して高い評価をして楽観的であるという質問調査結果を得た。未加入理由別下位群間で評点に差異が認めれたが、全体的に入学早々に加入した者よりは評点が低い。これは人間関係への消極的な構えに因るとみられる。また、6カ月後の再調査によると、なお未加入のままの者がとくに低評点であった。他方、少数ながらこの時点ですでに退部していた者は、入学早々の加入者並みの高評点であった。  

 大学の新入生の多くは入学後間もなく学内のサ−クルやクラブや研究会など(以下、サ−クルと略記)に加入する。彼等は加入前に加入を予期するサ−クルに対して(+)の評価をしているであろう。これは上級生が勧誘に際して誇大な宣伝を行う点も一因になり、入学以前に培われた彼等自身の体験からくる構えに因る点もあるだろう(Levine,J.M.et al.1994)。以前に属したグル−プで快的な体験をしていれば大学のグル−プにも(+)評価をするだろうし、以前に(−)体験が多ければ、大学のグル−プも(−)評価をして加入しないことになるだろう。だが現実には(+)に評価しながら結局は加入しなかったり、加入しても僅かな期間で退部する者もある。これらは入学後に知った現実のサ−クル活動の条件に基づくこともあるが、加入時における構えに因ることも考えられる。過度に楽観的であったり、評価が低いのに加入するなどである。そしてこうした構えには、ある集団への従属とか、人間関係への絡みへの好き嫌いの度合いが関わっているだろう。

 Brinthaupt,T.M.(1991) は、新入生に加入を希望するグル−プについて予期される肯定・否定の諸項目をあげさせ、10点法で評価させた。その結果、加入希望者prospective memberは、おしなべて(+)評価が(−)評価を上回って優位であり、加入を希望するサ−クルへの参加に対して楽観的であった。

 本研究者は1995年度に、サ−クルへの加入に当たっては、どのような事項を評価すべきかを2、3年生にたずねて必要な項目を設定した。これは加入に関して肯定的に評価される項目12個、否定的に評価される項目11個となった。次にこの項目に基づいて、人間科学部新入生に対し、各項目について「少しそうだ」から「非常にそうだ」までの10点法で尺度化したものを与えて予期評価をさせた。肯定的諸項目の評価点平均と否定的諸項目の評価点平均を比較し、どちらかの優位によって(+)優位または(−)優位とした。ただし、調査実施期は6月で新入生の多くは既になんらかのサ−クルに加入しており(144名)、未加入者は少なかった(34名 )。

 予備調査での未加入者に注目すると、その中のサ−クル加入希望者は(+)優位であるが、加入を希望しない者も含めた全体の個人別平均得点では(−)優位者の割合が大きく、かつ人間関係項目(HR)に否定的である。他方、既加入者は(+)優位でHRに肯定的だが、一部の(−)優位者はむしろ非人間関係項目(nHR)の否定が大きいことが示唆された。つまり、加入者と未加入者では(−)優位の意味が異なるようである。だが、予備調査は入学当初の実施ではなく、質問はある項目への肯定と否定が対比関係になっていなかった。また統計的検定もおこなっていなかった。これらの点を検討して、再度調査することが必要とみられた。

目的

 入学当初(4月の時点)において、新入生でサ−クルへ加入を希望する者はどのくらいの割合になるか。また彼等はこれらサ−クルに対する期待として、どの程度(+)評価をしているか。また調査紙の質問における集団所属を含む人間関係項目得点(得点で以下、HRと略記)と非人間関係項目得点(以下、nHRと略記)の間でなんらかの差があるか[4月時点1回目調査]。さらに、これらの希望者の中で6カ月後でもなお未加入の者や退部者(中断者)はどの程度あるか。これらの残留者は4月時点でHR・nHRに関して、なんらかの特性を示したか[10月時点2回目調査]などの諸点を明らかにする。   

方法

 1回目調査:1996年4月11日実施  被調査者は文教大学人間科学部1年生195名であり、またこの中で未加入者は167名(86%)、既加入者は28名で(14%)である。

 2回目調査:1996年10月24日実施 被調査者は1回目と同じである。

 1回目の質問紙は´95年度のものを参考にして作成した。まず、グル−プ加入・未加入の実態、未加入理由別の群別け(a.入ろうと思ってる。b.特定のグル−プに入ろう思っているが、この大学には無い。c.どれかのグル−プに入りたいがどれにしたらよいか決まらない。d.なにかのグル−プに入りたいのだが、自分がどんなことをやりたいのかわからない。e.グル−プに関心がない。入ることを考えたことがない)を行ない、次に加入を予期するグル−プへの評価を求めた。 各項目ごとに、記載の内容に関して「その通りである」と「まったく無い」を両極(5点〜1点)として尺度化したものを実施した。項目数は22である[資料参照]。この中で7項目はHR、11項目はnHR、その他の4項目は知的な諸事項として特定した。

 2回目の質問紙では、集団加入の実態についての質問に中途退部「入っていたが止めた」を挿入した。集団への評価の質問は行わなかった。本研究はもっぱら入学当初の評価を焦点にした。なお、未加入者と加入希望者は必ずしも同じでないが、後者(159名)は前者の95.2%であり、未加入者群として、一応、加入に消極的なe群(8名)も含めて検討することで、まず全体的な意味を把握するようにした。

結果

1.加入者群・未加入者群の集団への評価結果の因子分析

 1回目の調査結果を因子分析(バリマックス法による直行回転)したところ、3因子に分かれた。因子1は楽しさを軸とした(+)評価、因子2は辛さを軸とした(−)評価、因子3は(+)でも(−)でもない教養に関するものであった。ここではもっぱら因子1と因子2に注目して検討をすすめた。因子1(+)の負荷量の優越するのは10項目(以下、因子1項目と略称)と因子2(−)の優越するのは8項目(以下、因子2項目と略称)、また因子3の優越するのは3項目であった。これは表1に示したごとくである。 表1略

2.加入者と未加入者の因子得点の比較

 文教大学人間科学部新入生の入学時のグル−プへの態度は、4月時点の未加入者群のほとんどが、未加入理由は様々だが、基本的には加入を希望していた。まず、未加入者群の加入への予期評価を因子得点によって、この時点で(入学と同時に)すでに加入していた者と比べてみた。加入の有無別に因子1(+)得点の平均と因子2(−)得点の平均を比較した。

 表2−1(略)によると、因子1では加入者対未加入者は0.468:-0.078(有意差あり)で加入者がより高く、因子2では有意差がない。他方、表2−2(略)をみると、加入者では因子1対因子2は0.468:-0.084であって有意差傾向をみるが、未加入者では有意差はない。要するに、加入者群は未1入者群に比べてサ−クルへの予期評価が一層高く、より楽観的である。

3.HR・nHRについて、加入者群と未加入者群の得点比較

 未加入者が未加入であることの動機として加入者よりは人間関係項目HR(資料の質問No. 1,4,6,8,17, 18, 20)、非人間関係項目nHR(質問No. 2,5,7,11,12, 13, 14, 15, 16, 19, 21) のいずれか、またはいずれについても評価粗点が低いことはないだろうか。

 これを簡便に明らかにするため、加入者と未加入者のHR項目およびnHR項目の評価粗点平均を比較した。比較の都合のため、因子2優越項目(因子2の因子得点が因子1の因子得点を上回る諸項目)の評価粗点を逆算(1点を5点として換算)して全HR(nHR)評価粗点の平均値(以下、評点と略記)として比較した。(+)項目で最小の1点は必ずしも(−)項目で最大の5点と等しくないが、概括的な比較のために、このようにして一定の方向性を与えて均した尺度を用いた。 表3−1(略)によると、HR項目における加入者対未加入者は3.94:3.68 、またnHR項目における加入者対未加入者は3.44:3.26 で、加入者の評点が未加入者のそれを上回る傾向がある。表3−2(略)によると加入者・未加入者のいずれにおいてもHR項目がnHR項目の評点を上回る(3.94:3.44 および3.68:3.26)。

4.HR・nHRについて、未加入者各下位群の評点比較

未加入者の未加入理由別各下位群において、HRとnHRの評点で差があるかどうかを検討した。表4−1(略)によれば、a、c、dのいずれにおいてもHR評点とnHR評点の間には有意または有意傾向の差が認められるが、b群とe群では差が認められなかった。なおb群での差は有意ではないが傾向差とされる10% に近い。次に、未加入理由の要因と人間関係の要因の2要因:5×2水準(1要因繰り返しあり)の分散分析を行い(表4−2参照)(略)、2要因間に有意差を認めた。

 つぎに、HR・nHR関係はさておいて、群間の総合評点の差を多重比較によって検討してみる。表4−3をみると、a,b,cのいずれもが互いに差がない。それらはeとは差があるがdとは差が認められない。dとeの間では差がないけれども、その間になんらかの違いが考えられる。下位群の間でも評点のとり方に差があることがわかる。

 表4−1、表4−3をあわせてみながら、e群におけるHRとnHRの差が0.12で他の群の差より一層小さい点を顧みると、eの特性はHRとnHRの差がほとんどないことによるのではないかと思われる。

5.未加入者の人間関係への消極性

 未加入者群でもHR項目評点はnHR項目評点を上回るが(表3参照)、加入者群よりもHR・nHR共に評点は低かった。加入者群vis 未加入者群の関係を念頭におきながら、さらに未加入者のHR評点の特性を捉えよう。未加入者のa群は未加入者の中では最も高評点である。もしa群が加入者の評点に等しいか近いならば、未加入者の低評点はb群以下の下位群の得点に負うであろう。またより低ければ、全体として低く抑えられていることになる。

 加入者HR得点に対して未加入者のa群のHR評点、加入者のnHR評点に対して未加入者a群のnHRの評点を比較する。未加入者における双方の評点のとり方に差があるかどうかを検討した。

 表5によると(略)、nHRについて、加入者と未加入者a群の差( P値 0.23)は有意でないし、HRにおける差(P値 0.12 )についても有意でない。しかし、そのpをみると有意傾向といえる値に近く、HRについてはa群でも加入者群よりは人間関係へのいくらか消極的構えがうかがえる。今後の検討をまたねばならないだろう。

6.未加入者のHR評点を低めている全体抑制傾向

 未加入者ではa群のみならず他の下位群についても、評点低下への抑制力がかかっていて、全体として評点が低下していると考えられるが、この傾向はHRではnHRよりもより大きいのではないか。その点を確かめるために両評点の下位群間の分散を比較した。

 表6(略)によると、分散はHR(0.27)の方がnHR(0.21)より大きく、加入を消極的にするHRでの圧力はa群からe群まで、おしなべてはたらいていると推測される。

7.6カ月後も未加入の者の4月時点での特性

1)10月時点未加入者を除く4月時点未加入者との比較

 新入学時点の未加入者のほとんどは、間もなく何等かのサ−クルに加入してゆく。だが6カ月経った10月になってもなお未加入の者も存在する。この人たちは4月時点の調査段階でなんらかの特性を示していただろうか。彼等と4月時点未加入者中から彼等を除いた部分をHR・nHR両評点について比較した。 表7(略)によれば、10月時点のHR、nHRはそれぞれ3.47, 3.11であるのに対して4月時点の残余の未加入者は3.71, 3.28であり、いずれにについても10月時点での未加入者は評点がより低いといえる。すなわち6カ月経ってもなお未加入の者は、すでに4月時点において他の未加入者よりもHRでもnHRでも評点が一層低い人であった。

2)未加入理由別下位群における10月時点未加入者の分類

 10月時点未加入者23名中5名はe群(集団加入に無関心の者)8名中から出ている。だがd群「なにかのグル−プに入りたいのだが、自分がどんなことをやりたいのかわからない」8名は、全員が10月時点ではなにかの集団に加入している。そこで10月時点未加入者がどの下位群から多く出ているかを全体として見てみる。

 表8(略)によると、e群で10月時点未加入者が目立つほか、c群で13名の者が未加入のままである。つまり「どれかのグル−プに入りたいがどれにしてよいか決まらない」者に10月時点未加入者が比較的多いように見える。               

 まず、X2 検定を行うと有意であり(p<.01 )、行列間に差異があるとみられる。しかしどのセルに期待以上の度数が集まっているか捉えられないので残差分析を行って、表9を得た。

 表9(略)によると、0.1%以下で有意なのはaとeだが、相対的にいってaは、4月以降の加入者の顕著に多いことを示すのに対して、eでは、“なお未加入の者”が顕著に多いことが示されている。他の群はいずれも有意でないが、cの“なお未加入の者”(1.59)についてみると、有意傾向とされる(P<.10 )値が1.64であるので、有意傾向に近い数値が示されている。つまりこれらの者は4月時点の加入希望者中のc群から比較的多く現れているように思われる。さらに多数のデ−タによって確かめなければならないだろう。

10.10月時点での退部者の特性 

 10月時点の退部者調査では、4月調査時に既に加入していて退部した者2名(28名中)とその時点では未加入でその後に加入しながら中途退部した者3名:a群2名,b群1名(167名中)が認められた。経路の違いによって、心情は若干異なるけれども退部ということで同じとみてまとめた5名が、HR・nHRでどのような特性を4月時点で示していたかを検討した表10(略)。        

 退部者は5名で僅少例であるし、それぞれが異なる群からの者なので加入者(28名)の評点平均と統計的に比較することはできない。だが退部者の平均評点がHRで4.08(σ=0.18)、nHRが3.58(σ=0.06)ということは、加入者におけるHR平均評点が3.94(σ=0.31)、nHRが3.44(σ=0.20)であることを顧みると、10月退部者が総じて、nHRでもHRでも加入者に似た高評点者であったことが想像される。  

要約と考察

 大学新入生でクラブやサ−クルなどのグル−プに加入することを望む者のほとんどはサ−クルを高く評価しており、サ−クルの活動に楽観的であるとした先行研究がある。文教大学新入生はどのような構えで学内のグル−プに応じて、加入・未加入に至るであろうか。新入生のサ−クルへの予期評価を質問紙によって調査した(調査対象者は人間科学部生に限定された)。1回目の調査時点は1996年4月11日であった。また、入学後6カ月を経過した10月24日に2回目の調査を行い、この時点でなお未加入の者や早くも退部した者は4月時点でいかなる評価を行っていたかを顧みた。

1)調査結果を因子分析して楽しさ(+)と辛さ(−)および知性(±)の3因子を認めた。本調査ではとくに因子1(+)と因子2(−)に注目して検討した。当該質問項目について、加入者群では(+)因子得点が(−)因子得点を上回り、また(+)因子得点で未加入者群を上回ったから、4月早々に加入した者がクラブへの期待がより高く、加入を希望しつつなお未加入な者を超えることが明らかになった。

2)サ−クルヘの加入に関わる要因として人間関係に対する肯定的ないし否定的構えが推測される。この点についてHR評点とnHR評点をみると、加入群も未加入群もHRがnHRよりも高い。すなわちサ−クルへの肯定的評価は人間関係へのより高い評価によると推測される。だがどちらの評点に関しても加入群が未加入群を上回っている。入学早々に現実に加入した者では加入希望者よりもとくに強い肯定感をもっているのである。

3)未加入群中では未加入理由a群(ストレ−トな加入希望者)でも加入群の評点に比べて低いが、その差はとくにHRで現れるようにみえる。これは未加入群の人間関係への相対的な消極性を示唆している。なおe群は加入に消極的な意志を明示しているので希望者とはいえないが、とくにHR評点が低く、人間関係への消極性があらわである。そして、こうした傾向は未加入群全体(a群からe群まで)にわたっている。下位群間の分散をみると、nHRに比してHRの方がより大きいのである。     

4)入学後6カ月を経た10月時点でもなお未加入の者がいるが、入学時点でHR評点・nHR評点のいずれでも彼等を除く他の未加入者群よりも低い。これは質問への回答では加入希望と記しながらもサ−クルへの評価がより低かったことを意味している。彼等が未加入群中のどの下位群から出ているかをみると、e群(8名)から5名出ているほか、c群(どれにしたらよいか決まらない)からの者がより多いようにみえる。この群の態度が他者志向的である点と関わりがあるかもしれない。自分自身の未分化意識から未加入だったd群(8名)の全員が当時点では加入しているのと対照的である。

5)10月時点で既に退部した者の4月時点での特徴は、粗点で見る限りであるが、HR・nHRを問わず加入者並みに高い平均得点である。これは過大な期待をもって加入したが実際の体験で挫折したことを示唆する。彼等は未加入者中の未加入者でありつづけた者とは、当該時点では同様に加入していない状態であるにしても、明らかに構えが異なる。 なお、本研究者による1995年度の予備的研究で見られた、未加入者の(−)優位者はHRにより否定的という傾向は、部分的に今回の研究との類似を示唆するが他の部分の相違点もある。調査法・調査実施時期が関連するところが大きいと思われる。

 今後の課題として、本研究はもっぱら入学当初の4月時点の評価点に拠っているので、6カ月以降の行動や構えについては、その時点でのグル−プへの評価−意識調査を併せて行うべきであろう。また、e群のような集団加入に消極的な者でありながら継続的に加入している者の動機や条件についても探索したい。さらに、高校時代の体験との関連も調査することが望ましい。とくに例数の上で一層大きな群をとりあげる必要がある。

[本研究は多くの方のご支援を受けた。とくに人間科学部・丹治哲雄教授からは種々の御教示をいただいた。またデ−タの統計的処理には大学院生西川尚子さんに助力を願った。感謝します]

引用文献(略)    資料(略)    


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