パーラー鯉

 10年以上前の卒業生も「当時から変わった店というイメージがあった」と語る、この「パーラー鯉」。確かに見た目も昔ながらの店といった感じで、窓も薄黒く外からはほとんど店内を見られない。そして、ほとんどの人が思うであろう「なぜ鯉!?」。最初、店に入った時はかなり勇気がいった(入った後は、妙に落ち着けたのだが)。なんだか自分のような若僧が入ってはいけないような気がして…。自分の通学路内ではないということもあり、滅多に通らないこの店。果たしてその実態は?3度目の来店で、奥様(星野さん)にお話を伺うことが出来た。ちなみに、前の2店と同じくご夫婦で切り盛りしている。


雰囲気のある看板。

入口。「FRUIT ICECREAM AND COFFEE」という表記あり。

〜昭和にタイムスリップ〜

 昭和という言葉を説明しろ…と言われると難しいのだが、レトロなのである。茶色い、アンティーク風の椅子、年季の入ったインテリア、店内や外のショーケースには、食べ物のサンプルが数多く飾られていて、昔行ったデパートの食堂をふと思い出した。「学生街の喫茶店」のイメージに近く、北越谷にこんな店が残っていたのか、と何とも嬉しくなった。

店内の様子。

ショーケース。心が躍ります。
 店は、主にご主人が調理・奥様が接客担当。奥様の制服も、白いブラウスに黒いジャンパースカート(エプロン?)、黒のサンダル…と、今となっては珍しいスタイルだ。
 そんな店だが、開店は予想より新しく1980年。その前は、東京・北上野で喫茶店を経営。その後不動産屋に「(北越谷には)大学があるからやってみては?」と物件を紹介され、今に至る。問題の「鯉」という名前は、「ご主人のお父様が鯉好きだったから」…「それにしても変わった名前ですよね」と、つい口走ってしまったら、「お客様からよく言われます」と笑っていた。


取材に応じて下さった奥様。

〜チャレンジ、ドラえもんランチ〜

 これらは品名である。メニューは、飲み物から食事、甘味までなかなか幅広く充実している。飲み物は大体300円台と比較的安い。ただ、100%果汁・絞りたての「生ジュース」は650円!と、なかなか手の出ない代物だ。しかし一度ぜひ味わってみたい。 私のお薦めは、「モーニングAセット」。
筆者のオススメ。

分厚いトーストに飲み物だけで370円と、コーヒー+αの値段で食べられる。物足りない人には、さらに目玉焼きとサラダが付いて530円の「〜Bセット」もある。
 さて、一体「チャレンジ(840円)」「ドラえもんランチ(610円)」とは?チャレンジは、「ビールジョッキにアイスクリームが5種類詰め込まれた」もの。甘い物が好きな私も、さすがに聞いただけで胸焼けしそうになった(でも食べてみたい…)。そしてドラえもんランチは、写真のとおり、ドラえもんの形をした皿に食べ物が色々入っているお子様ランチ。今でもたまに頼む人がいるそうだ。
表のショーケースより、ドラえもんランチ。

〜時代のニーズ〜

 星野さんには成人したお子さんがいらっしゃる。しかし、既に就職しており、喫茶店をやりたいとも言わなかったそうだ。そのことについては、「子どもに継がせようとは思わない。この店は、出来る所まで(あと10年位)続けていきたい」とおっしゃっていた。「昔ながらの喫茶店が減少していることについてどう思うか」という質問に対し、「仕方のないこと。時代のニーズに合わなくなったのならしょうがない」と、少し寂しそうに答えていたのが印象に残った。

〜北越谷・文教大生・店の変化〜

 どの店にも共通しているが、やはり開店当時と比べると客が減った。以前は文教大生もよく来店していた(90年前後迄とのこと)が、今は滅多に来ず、客層も高齢化しているようだ。開店当初の客の中には、転勤して越谷を離れたり、亡くなったりした方も少なくない。余談だが、最近文教の学生が来たのは筆者くらいなものらしい。顔を覚えられて嬉しいが、本当に学生が来ないのだなと、寂しくもなった。
 北越谷の街について、開店した頃は湘南キャンパスが無く、学生の全体数が減った気がする。というコメントがあった。また、店はだいぶ増え、コンビニエンスストアーや弁当屋、ファーストフード店の増加が、大きく影響しているようだ。ただ、その中で「手作り」というこだわりは捨てられない。確かに、昔と比べると値段もレギュラーコーヒー1杯230円→320円、と値上がりしているが、それでもやはり豆を挽くところから始めたい。こだわりが感じられた。

〜喫茶店とは?〜

 この質問にはただ一言「その時だけは自分が主人になれる場所」という回答が返ってきた。簡潔だが重みのある言葉。あくまで私の解釈・予想だが、インテリアからメニュー迄、全てが店員の判断で考えられる喫茶店。それは自由でもあり大変な苦労がいる事だ。客との相性もあり、好き勝手にやれるわけではない。しかし、自分のアイディアを十分に生かし、客に居場所を提供できることは、やはり苦労を上回る喜び・やり甲斐があるのではないだろうか (この調査実習にも通ずるものがある気がする)。今度また行く機会があったら、詳しく聞いてみようと思う。



〜おまけ〜
夏にはカキ氷も…。