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手拭に関連付けて


 手拭は民俗芸能や神事における被り物、変身の手段としても重要な役割を果たしています。やはり、特に女性の場合は、神事などハレの機会に神や人を敬う作法として髪を手拭で覆う風習がありました。若水くみに夫婦が新しい手拭をかぶったり、農神がおそれぬよう早乙女が手拭をかぶって田植えをするその風習はよい例です。土地によっては人に挨拶する際にわざわざ手拭をかぶる風習も見られます。また「宝手拭」という昔話では、手拭は呪力を持った布として語られており、人が別のものに変身したり、忌の状態にあることを表現する不思議な力を持った呪物ともされていました。鉢巻というのも昔は木のつるなどを頭に巻き、その木から生命エネルギーを分けてもらうという呪術的な意図があったそうです。その名残が今も頭に布を巻くというふうに残っていると考えられます。

 私が手拭をテーマに選んだ理由はなぜ今手拭なのかということだ。着物にしてもそうだ。今着物は一つのブームといってもいいくらいのものになっている。
ある時期になるとそれまで主流だった文化に変わって新しい文化が花開く。その文化がある飽和状態とも言える時期にさしかかると、もとあった文化に戻ろうとする現象が起きるのではないかと思う。日本は戦後急激に生活や文化が欧米化してきた。それによって日本独特の生活様式は全部が全部ではないがないがしろにされてきたのである。そして今急激に欧米化された文化に限界が来ているのではないか、と思う。外国からの文化が悪いわけではないが外から入ってきた文化で日本文化が忘れ去られようとしている、そんな危機感を今私たちは気付かぬうちに肌で感じ取っているのではないだろうか。この危機感は今に始まったことではないがそう感じている人々は確実に増えているのではないだろうか。それによって「和」と呼ばれる様式が見直されてきているのだと思われる。
 「日本人」というアイデンティティ、心を確立するという点においてもこのムーブメントは一役買うだろう。これから海外に日本の文化を発信する機会が更に増えるだろう。そのときにスシ、ニンジャ、アニメじゃあお話にならない。本当に日常的な文化や生活から日本人の特質などを知らなければ、本当の日本を外国に伝えることが出来ないのだ。
 たった一枚のこの布きれには先人たちの知恵や工夫、心意気にいたるまでたくさんの日本が内包されている。なぜ今手拭なのか、それは今私たちが私たちの文化、生活を本当に見直さなければならない転換期にさしかかっているからではないだろうか。











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