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2.2 携帯電話による選択的人間関係
 
  たいていの人は、挨拶や会話といった日常的に行われるコミュニケーションにおいて、「好き・普通・嫌い」や「親しい・疎遠」などの分類ごとに、接し方や態度を変えることがある。また、逆に、その様なことから、相手に対する自分の位置を認識することがある。2.1でも述べたように、「携帯の物差し的利用」から、特定の人間に関して行う行動やそういったことに関して、若者がどの様に感じているのかを調べた。


(1) 好意を持っていない相手に対する携帯電話の利用状況

 次は、好意を持っていない相手に対する携帯の利用状況に注目し、メール機能と電話機能に分けて、それぞれどのような行動をとるのか調査を行った。


  a.電話の利用状況

    図2-2-1は、好意を持っていない相手に対する電話の利用状況について、下の6つの項目して調べた結果である。
  「着信拒否」や「非通知」で電話をかけるという行動は、圧倒的に「ない」と答えた人が多い。しかし、「電話に出ない」「着信履歴が残っていてもかけ直さない」「電話番号を変えても教えない」といった行動は、「ない」という回答は少なく、「あまりない」も含めると、ほとんどの人が一度や二度はその様な行動をとったことがあるようだ。つまり、「着信拒否」や「非通知」の様なやり方では相手に対する気持ちが明確に伝わってしまう。そのため、ごまかしが利く「電話に出ない」などのやり方で相手との会話を何とか拒否していると考えられる。電話の場合、リアルタイムでの会話になるので、相手への配慮や終えるタイミングなど、いろいろと厄介である。だからこそ、会話すること自体を拒否してしまう傾向が見られる。それが、好意を持っていない相手なら当然であるといった結果になった。
  b.メールの利用状況
 
図2-2-2は、好意を持っていない相手に対するメールの利用状況について6つの項目に着目し、調べた結果である。
 
 

 「よくある」「時々ある」をあわせて、「送られてきたメールを無視する」が約5割、「絵文字を使わない、文章がそっけない」が6割、「自分からメールのやり取りを断つ」が6割弱、「アドレスを変えても教えない」が4割強であり、これら4項目は、好意を持っていない相手に対して多くとられているようだ。「メールを無視する」という回答者も多いのだが、「文章がそっけない」や、「自分でやり取りを断つ」など、好意を持っていない相手とも少しは会話をする傾向が多いのは、電話と違って、時間や場所や自分の都合に合わせて会話をすることが出来、何よりも「自分でやり取りを断つ」ことがいつでも可能だからだと考えられる。
 メールからは、自分の都合次第では、好意を持っていない相手とも会話をする傾向が見られる。

(2) 携帯電話と人間関係に関する意識
   まずは、携帯電話の利用によって実際に人によって付き合い方を変えたり、制限するなど、コミュニケーションが狭められたと感じているかについて調べてみた。図2-2-3はその結果である。
 
 









    図2-2-3によると、携帯電話利用によってコミュニケーションが狭まっているということに否定的な人が半数以上を占めている。肯定的な回答をした人は約2割であった。
   この結果からコミュニケーションが狭められていると感じている人は、少ないということがわかった。

(3) コミュニケーションに対する意識と携帯電話の利点との比較
  携帯電話が登場する前の電話といえば、一家に一台を皆で使う「公共型のメディア」であった。そのため、自分以外の人にかかってきた電話であっても出なければならなかったり、公に電話番号が公開されているため、疎遠な相手やいたずら電話などにも一応は出て、対応しなければならなかった。それが今では、携帯電話が登場し、一人に一台の「個人型メディア」として普及した。電話番号は、プライバシーとして、個人や個人と親しいものの間でのみ公開され、自分に用のない電話は勿論、疎遠な相手、いたずら目的の電話がかかって来ることがほとんど無くなった。万が一、かかって来ても、事前に相手を知ることが出来、それなりの対処が出来る。それに、次にその相手からかかって来ないようにすることも出来るし、直接会話をしないで、メールという方法もある。つまり、「連絡を取る相手の選択が可能」と「相手による機能の使い分けが可能」という従来の家庭電話には無い利点が備わったのだ。このことから、会話をしたくない相手とは、無理をして会話をしなくても良くなったのだ。
   この2つの選択的人間関係を促進させる携帯電話の機能をよいと感じている人が、実際コミュニケーションが狭まっていると感じているかを見ていくことにした。
  a.連絡を取る相手の選択が可能な点(利点1)
  図2-2-4は、「携帯電話の利用によってコミュニケーションが狭められていると感じているか」と「連絡を取る相手の選択が可能」とのクロス集計の結果である。
 
 

   上図によると、携帯電話の利用によってコミュニケーションが狭まったと感じている人も感じていない人も、「連絡を取る相手の選択が可能」という機能を好評としている人が約半数を占めている。これは、携帯電話が内輪だけのコミュニケーションをとる道具として使われているからではないかと考えられる。それ以外にも、コミュニケーションが狭まっていると実際に意識はしていなくても、知らず知らずのうちに内輪だけのコミュニケーション築いているということも言える。

  b.相手による機能の使い分けが可能な点(利点2)
 図2-2-5は、「携帯電話の利用によってコミュニケーションが狭められていると感じ ているか」と「相手による機能の使い分けが可能」とのクロス集計の結果である。
 
 






   上図によると、携帯電話の利用によってコミュニケーションが狭まったと感じている人も感じていない人も、「相手による機能の使い分けが可能」という機能を好評としている人が6割以上を占めている。こちらも自分の意識とは無関係に、知らず知らずのうちに、人によって付き合い方を変えていることがわかる。
   携帯電話によってコミュニケーションが狭められていると感じている人も感じていない人も考えに差は見られず、「連絡を取る相手の選択が可能」、「相手による機能の使い分けが可能」という機能に対しては肯定的な傾向が見られる。
 

(3)機能に対する考え方と好意を持っていない相手に対する実際の行動傾向
  携帯電話は、誰とでも気軽にコミュニケーションをとることが出来るが、一方では相手を選択できるという一面を持っている。相手を選択するということは、好意を持っていない相手に対する携帯電話の利用の仕方が違うということである。そこで、好意を持っていない相手に対する携帯電話の実際の利用状況を調べた。
  a.電話利用状況について
   図2-2-4と図2-2-5より、携帯電話によってコミュニケーションが狭められていると感じている人も感じていない人も、2つの携帯電話の利点に対する考えに差は見られず、2つの利点に対しては肯定的な傾向が見られた。
   そこで、この2つの利点(利点1「連絡を取る相手の選択が可能」、利点2「相手による機能の使い分けが可能」)に対する考え方によって好意を持っていない相手に対する携帯電話の利用状況に差があるかどうか調べてみた。

   図2-2-6は、例えば「着信履歴が残っていてもかけなおさない」では、回答選択肢「1.よくある」から「5.全くない」までの5段階になっており、その選択肢番号の利点1「連絡を取る相手の選択が可能」の好評・不評の各グループの平均値を求めたグラフである。同図は、利点1「連絡を取る相手の選択が可能」という利点の好評・不評派の各グループが好意を持っていない相手に対する電話利用状況を表している。

   図2-2-6の結果から、あまり差は出なかったが、「電波事情などにこじつけて電話を切る」では、「好評」の平均値が3.81、「不評」の平均値が4.42で、「不評」の方が電波事情などにこじつけて電話を切るという行動をしないということがわかった。
   全体的に「着信履歴が残っていてもかけなおさない」は、好意を持っていない相手に対して行うことが多いが、「番号を知られたくないため非通知でかける」「着信履歴が残っていてもかけなおさない」は、あまりしない傾向が見られた。

   利点2「相手による機能の使い分けが可能」という利点について好評・不評のグループ毎に好意を持っていない相手に対する電話利用状況の平均値を求めたグラフが、図2-2-7である。
 
 

   図2-2-6と同じように、その利点に対して「好評」と「不評」にあまり差は見られなかったが、「電話に出ない」「電波事情などにこじつけて電話を切る」「着信拒否をする」では、「不評」よりも「好評」の方が、このような行動をしているという傾向がでた。
   「着信履歴が残っていてもかけなおさない」「電話番号を変えても教えない」は、全体的に行うことが多いが、「着信拒否をする」「番号を知られないため非通知でかける」という行動は、全体的にあまりしないということがわかった。着信拒否をしなくても、好意を持っていない相手からの電話には出ないことが出来るので頻繁にかかってくる場合以外は着信拒否設定をする必要がないため、着信拒否設定をする人は少なかったと考えられる。また、好意を持っていない相手に番号を知られたとしても、相手からの電話に出なければよいので、わざわざ非通知で電話をかけるという行為をほとんどしないという結果になったと考えられる。電話に関しては、相手と電話を介し、直接話をしなければならないので、相手から電話がかかってきて、履歴が残り、それを放置しておく以外では、あまり軽率な行動をとることが出来ないのではないかと考えられる。
 

  b.メールの利用状況
  携帯電話の利点に対する考え方においては、好意を持っていない相手に対する電話の利用状況にあまり差は見られなかった。では、メールの場合、2つの利点に対しての考え方により、行動に差は見られるのだろうか。そして、電話の場合とは違う傾向が見られるのだろうか。それについて調べてみた。

     「連絡を取る相手の選択が可能」という利点1と好意を持っていない相手にするメールの利用状況について平均値を求めたグラフが、図2-2-8である。
 
 


                                                                                     * は有意差がある

     これも電話の時と同じく、利点に対しての考え方の違いによらず、好評派も不評派も行動傾向に関してはあまり差は見られない。
  全体的に「絵文字を使わない、文章がそっけない」「自分からメールのやり取りを断つ」「アドレスを変えても教えない」は好意を持っ  ていない相手に対してとることが多いが、「メールを読む前に削除」は全体的にほとんど行わないことがわかった。好意を持っていな   い相手に絵文字をつかったり文章に気を配ったり、メールを長く続けるのは面倒なので、好意を持っていない人とのメールのやり取   りは簡潔になっていると考えられる。メールは読んでから返事をするかどうか考えることができるし、内容も気になるので、好意を持っ  ていない相手からきたメールでも一応読むので、読む前に削除することはないと考えられる。
  
  利点2「相手による機能の使い分けが可能」と好意を持っていない相手に対するメールの利用状況の平均値を求めたグラフが、図   2-2-9である。
 
 

                                                                                                                                               *は有意差がある
 

   機能に対する考え方で、利点2に対して不評派は実際の行動においても「全くない」寄りの行動の傾向が見られ、肯定派は、「よくある」という方の傾向を示している。特に「読む前に削除」という行動項目以外は、おおむね、不評派と好評派の差がみられた。
  「好評」は右上がりの線を描いたが、「不評」は「自分からメールのやり取りを断つ」が最も平均値が低く、2番目に平均値が低いのは「アドレスを変えても教えない」だった。
  全体的に見ると、図2-2-8と同じように「絵文字を使わない、文章がそっけない」「自分からメールのやり取りを断つ」「アドレスを変えても教えない」は好意を持っていない相手に対してとることが多いが、「メールを読む前に削除」は全体的にほとんど行わないことがわかった。「メールを読んだ後に削除」もあまり行われていなかった。メールは一定の受信数を超えると自動的に削除されていくので、わざわざメールを削除するという作業をすることは、あまりないのだと考えられる。
  
   メールにおいても電話においても、携帯電話の利点に対する考え方によって、好評派、不評派、それぞれの行動傾向にあまり差は出なかったが、強いて言うならば、利点2「相手による機能の使い分けが可能」についての各グループがとる行動傾向に、差を見ることができたと思う。特にメール機能においては、「相手による機能の使い分けが可能」について「好評」の方が、実際に好意を持っていない相手に対して、冷たい行動をとることを上記の図が表しているので、携帯電話の利点に対する肯定的な考え方と行動が一致している。この項目においては、「連絡を取る相手の選択が可能」という利点よりも、「相手による機能の使い分けが可能」という利点の方が、実際の行動面で活用されて重視されていると考えられる。
   さらに、電話とメールを比べると、電話は好意を持っていない相手に対してもはっきりとした意思表示をすることはあまりないが、メールの場合「メールを読む前に削除」以外は、そのような行動をとることがよくある傾向に回答者が分布している。やはり、メールの方が顔が見えない分、相手に対して取る行動にはっきりと気持ちが現れていると考えられる。


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