卒業論文


滑走路有効利用問題

文教大学情報学部経営情報学科4年 青山 隆行

1.はじめに

 旅行で飛行機を利用した時に気付いたことがあった。それは出発時刻になり、飛行機が一度動き出したのにもかかわらず、途中で止まってしまったのだ。その時はまだ、離陸のために管制塔との交信をしているのかと思っていた。数分後にまた動き出し、ついに離陸だと思ったのだが、また止まってしまった。もしかして、機体に異常が発生したのではないかとまで考えた。こんなことをしばらく繰り返し、無事離陸することが出来た。いったい何が原因だったのだろうとずっと考えていたのだが、どうしても答えを見つけることが出来なかった。しかし、実際に空港まで足を運び、機内からではなく外側から飛行機が離陸するところを見て、一瞬にして答えを見つけることが出来た。実は、滑走路を使用するために数機の飛行機が行列を作っていたのである。これなら、飛行機が動いたり止まったりする理由も説明がつく。しかし、見学に行った空港には滑走路が2本あるのだが、1つの滑走路には行列が出来ているにもかかわらず、もう1つの滑走路には使用しそうな飛行機はなかった。なぜ空いている滑走路を使用しないだろうかと思いながら、しばらく2つの滑走路を眺めていたら、2本の滑走路がそれぞれ離陸専用と着陸専用に分かれていることに気が付いた。どうして行列ができて待ち時間が長くなるような使用方法をしているのだろう。もっと待ち時間が短くなるような使用方法はないのだろうか。このような疑問をもち、待ち行列理論を用いて幾つかのモデルでプログラムを組み、実験・比較することによって、待ち時間が短くなるような使用方法を導き出そうと思ったのである。

 この論文では、2章で空港の現状を述べ、これをふまえて3章では問題点、そしてプログラミング、シミュレーション実験と行い、7章で最良なモデルの提案を行っている。

 

2.空港の現状

2-1 成田空港(新東京国際空港)の現状ついて

 成田空港では、年間約2万5千(千人)の利用客があり、約6万5千回の着陸を行っている(平成10年度)[1]。しかし、日本を代表する国際空港にもかかわらず、滑走路が1本しか存在しない。やはり1本の滑走路だけでは処理能力も限界に達しており、新規の航空会社・航空路線を受け入れることが出来ないのが現状である[1]。この状態を緩和するため、もう一本の新滑走路(平行滑走路)を2002年までに完成することが決まっている[1](図1参照)。しかし、本来の予定であった長さよりも短い暫定平行滑走路としての建設となるため、着陸はできるが離陸ができないといった航空機が出てきてしまう。

[2]

2-2 羽田空港(東京国際空港)の現状について

 羽田空港では、現在2本の滑走路で運営している。その滑走路の使用方法だが、1本を離陸専用、もう一本を着陸専用とそれぞれ区別して離着陸が行われている。また、羽田空港の利用状況として、年間利用客は約5万2千(千人)、年間着陸回数は約12万回となっている(平成10年度)[1]。また、3本目の新B滑走路の建設もはじまっている(図2参照)。

 

3.問題点

 成田空港の平行滑走路建設に伴って、滑走路が2本になった場合、滑走路をどのように使用するかが問題となってくる。羽田空港を例にしてみると、着陸専用と離陸専用の滑走路に分けて使用している。おそらく、成田空港でもこの使用方法になると私は予想している。しかし、この使用方法の場合、離陸回数だけが多くて、着陸回数がまったくないといった状況を考えてみると、離陸専用滑走路にだけ行列ができてしまい、着陸専用滑走路はまったく使用されないといった状況に陥ってしまう。このような問題があるのに、成田空港の滑走路が2本になった場合、本当に離陸専用と着陸専用といった使用方法でよいのか疑問である。もっと他に、有効な使用方法があるのではないだろうか。

 

4.アプローチ

4-1 有効な使用方法の定義

 前章では滑走路使用方法の問題点を挙げたが、有効な使用方法とはいったいどのようなものなのか。まず、最初に述べておきたいことは、航空機が滑走路を利用する際に、待ち時間が生じ、行列ができる空港を考えているということである。つまり、1日に数回しか離着陸が行われないローカルな空港は考えていない。また、滑走路が2本の場合の使用方法である。その待ち時間が最も短くなるような利用方法を有効な使用方法としている。

4-2 有効な使用方法を導くために

 待ち時間による有効な使用方法を導くために、待ち行列理論を使用している。到着時間は乱数を発生させて導き出し、サービス時間はそれぞれ一定の数値を入れる。ここでのサービス時間とは、滑走路を使用する時間をいう。サービス時間の数値は、次のように定める。離陸の数値は、混雑時(行列ができる時)に滑走路使用時間を実際に測ったものであり、着陸の数値は、離陸より使用時間が長いと考え、離陸の使用時間に1分加えたものとした。

○離陸のサービス時間:2分

○着陸のサービス時間:3分

これらのデータをもとに実験を行い、平均待ち時間を求める。

4-3 モデルの定義

モデル1:それぞれ離陸専用、着陸専用として使用する。

・それぞれの時刻表を作成し、そのまま専用滑走路を使用させる。

モデル2:両方の滑走路を、離着陸区別しないで使用する。

・滑走路の振り分け方法は、離着陸区別なしに到着順に交互に振り分けていくようにする。

モデル3:1本を着陸専用、もう1本を離着陸区別なしで使用する。

滑走路の振り分け方法は、離着陸区別なしで到着順に振り分けるが、離陸が到着した場合は離着陸区別なしの滑走路を使用し、着陸が到着した場合は、2本の滑走路で1つ前に到着した到着時間を比べて、到着時間の早い方を使用する。

4-4 比較の方法

 シミュレーション実験によって得られたそれぞれの平均待ち時間を足して2でわった数値を比較することにする。この数値を待ち時間と呼ぶことにする。式で表すと次のようになる。

待ち時間 = (滑走路1の平均待ち時間 + 滑走路2の平均待ち時間) / 2

 

5.実験

5-1 プログラム

 Visual Basicを使い、プログラムを組むことにする。まず、1時間あたりの離陸回数と着陸回数に自分で好きな数値を入れられるようにし、それぞれの回数分の乱数を発生させて時刻表を作成する。この時刻表を元に、待ち行列理論を用いて、3つのモデルの最大待ち時間、平均待ち時間を導き出すといったプログラムである。

プログラム

5-2 シミュレーション

 作成したプログラムで、5回刻みに離陸回数を5回・10回・15回・・・40回の8通り、着陸回数を5回・10回・15回・・・40回の8通り、計64通りの実験を1万回ずつ行う。

 

6.結果

 64通りの実験を行った結果、以下のようなデータを得ることが出来た(一部抜粋)。画像をクリックすると全データを見ることが出来ます。

 このデータをもとに、待ち時間を計算し、グラフで表すとこのようになる。分かりやすくするため、グラフは離陸回数が5回〜20回と、25回〜40回の2つに分けることにする。凡例の数字は離陸回数とモデルを表す(例:凡例5-1は、離陸回数が5回でモデル1ということを表している)。色の区別は、モデル1が青色、モデル2が桃色、モデル3が黄色という具合になっている。

 

7.最良なモデルの提案

 3つのモデルの待ち時間を比較してみると、モデル2が他のモデルよりも平均待ち時間が短いことが分かる。離着陸の回数が少ない場合には、3つのモデルの平均待ち時間にあまり差は見られないが、回数が増えるにしたがって、その差はだんだん大きくなっている。参考までに取っておいた最大待ち時間を見てみると、モデル2は、離着陸を2本の滑走路に分けて使用しているため、2つの滑走路の最大待ち時間は同じくらいであるが、モデル1は、離着陸のどちらかが多い回数だと、多いほうに直接負担がかかってしまう。モデル3においては、着陸を優先したプログラムなので、離陸専用滑走路の方に負担がかかりやすくなっている。そのため、モデル1とモデル3は、1つの滑走路では最大待ち時間が短いのに比べ、もう1つの滑走路の最大待ち時間は長くなってしまう。これらのことから、離陸と着陸区別なしのモデル2の使用方法が最も有効な使用方法といえる。

 

8.おわりに

 この研究はここで終わりではない。始まりといってもいいぐらいだろう。アルゴリズム(航空機を滑走路に振り分ける)の単純さから見れば一目瞭然である。まだまだ初歩段階でしかないが、より現実に近いアルゴリズムを考えれば、結果も変わってくるかもしれない。もっといろいろな制約や、航空法、気象状況なども考慮していかなければならないのである。しかし、この提案が間違っているわけではない。実際に実験を行ったのだから、自分の考えたモデルとアルゴリズムではこういう結果になったということである。今後は、より現実に近いものを作り上げるために、データの収集や航空法を学び、実験を行っていきたい。

 

謝辞

 本研究に取り組むに当たり、根本先生にはさまざまな助言をいただき、大変お世話になりました。また、研究室のメンバーにも、助言・感想をいただくことができ、大変参考になりました。皆様には大変感謝しております。本当にありがとうございました。

参考文献

[1]運輸白書(http://www.motnet.go.jp/hakusho/Index3_.htm)

[2]成田空港ホームページ(http://www.narita-airport.or.jp/naa/news/heikou1.html)

川口輝久・河野勉;「かんたんプログラミングVisual Basic6[基礎編]」;技術評論社;平成11年