卒業論文

マーケティングに利用できる理想の視聴率調査法とは

情報学部 経営情報学科 4年 落合 剛


第1章  はじめに


 私がこの研究に取り組もうとしたきっかけというのは、日常のささいな疑問でした。自分が毎日見ているテレビ、NHKは受信料という形で料金を徴収していますが、受信料をとらない他の民放各局にはどのようにしてお金が入ってくるのだろうか、ここから私の研究は始まりました。
 しかしこの疑問は比較的簡単にわかりました。民放局のテレビ番組にはスポンサーというのがついていて、これは番組の間にCMを流してもらっている会社のことであり、このスポンサーがCMを流してもらうためにお金を払うのです。このようにして民放局はお金を得ているのです。
 そしてスポンサー側としてはせっかくお金を払ってCMを使い宣伝するのですから、できるだけ多くの人に自社のCMを見てもらいたいと考えます。ではどのようにしてスポンサーは自社CMを流す番組を決めるのか。ここでその指標となってくるのが視聴率です。それでは視聴率というのは何なのかというと、これはある番組が国民の何パーセントの人々に見られているかという比率のことです。[1] この視聴率が高い番組のスポンサーにつけば当然多くの人がそのCMを見ます。それにより自社のアピールが効果的に行えるのです。それならばスポンサーはできるだけ視聴率の高い番組でCMを流したいと考えます。そこで必要となってくるのは確かな視聴率なのです。もしその視聴率の情報が正しくなくて、そのデータを信じてその番組枠でCMを流し、思うような効果が得られなかった場合、その企業としては大きな損失となります。
 民放各局が受信料を取らずに経営していけるのは、いろいろなスポンサーからお金を得ているからです。だから1本のCMを流すだけでもかなりのお金がかかっているのです。そのため各スポンサーは失敗するわけにはいかないのです。それでは正しくない視聴率の情報というのが本当にあるのかというと、これは厳密にはあるとはいいきれないのですが、現在の視聴率調査の現状を調べると、実際に穴が多く、どう考えても正確な数値がでてくるようには思えません。そのため私はこの研究で、現在行われている視聴率調査について調べ、そして数ある問題点を克服し、スポンサー側が信頼できる視聴率を計測する調査機を考えることにしました。
 この論文の構成ですが、まず現在行われている視聴率調査法について述べ、次にその調査法の問題点を指摘します。そしてそれらの問題点を克服する新しい調査法の提案、それに対する裏付けを述べ、最後にこれからのテレビのデジタル化について述べます。  

第2章  視聴率調査法


 私は新しい視聴率調査機を考えるに当たって、まず現在の視聴率がどのように計測されているかについて調べました。視聴率には「世帯視聴率」と「個人視聴率」の2つがあります。
世帯視聴率というのはテレビ所有世帯のうち、何世帯でテレビを付けていたかを示す割合です。一般的に使われる「視聴率」というのはこの世帯視聴率のことを指す場合が多いです。番組視聴率は、視聴率の最小単位である毎分視聴率の合計を放送分数で割ったものです。
 個人視聴率というのは、誰がどのくらいテレビを視聴したかを示す割合で、視聴者を性別、年齢別、職業別などにわけて、どれくらい見られていたかを知りたい時に利用します。
現在行われている視聴率調査法は
  1  機械式世帯視聴率調査法
  2  機械式個人視聴率調査法
  3  日記式個人視聴率調査法
とこのように3つあります。[1]

 1つ目は世帯視聴率を視聴率測定器(オンラインメータ)で調査するという方法で、オンラインにより複数のテレビの視聴状況を測定します。複数のテレビとオンラインメータとの間は無配線で伝送され、視聴状況は秒単位で記録されます。この測定器はスイッチを押すことにより作動します。
 2つ目はPM(ピープルメータ)という測定器を使って調査する方法で、家庭内のテレビ最高8台までの視聴状況を個人単位に測定します。個人の視聴登録はあらかじめ機械に自分用のボタンがあり、視聴の始めと終わりにそのボタンを押すことにより完了します。
 3つ目は日記式アンケートによる個人視聴率調査法で、調査員によって調査票が届けられ、対象者はテレビの視聴状況を毎日記入します。また視聴記録をテレビごとに個人単位で記入し、5分刻みの記入欄に矢印「←→」で記入します。調査は1週間継続して実施します。

 

第3章  問題点の指摘


 現在行われている3つの視聴率調査法は、そのどれも完璧な調査法というわけではなく、いくつかの問題点があります。機械式の調査法の問題点は、見る前見た後に押すスイッチです。最近の測定器はスイッチを押し忘れているとブザーが鳴り押し忘れを警告してくれます。そのため視聴しているのにカウントされないという問題は解消されました。
 しかしその逆で、テレビがついていてスイッチを入れたまま席を立ち、視聴していないのにカウントされ続けるという問題はまだ解決されていません。そしてながら視聴という、何かしながらテレビを見ているという状況も問題となっています。特にCMが流れている時にながら視聴というのは本当の力を発揮するのではないでしょうか。CM中だからマンガを読んだり、席を立って何かしたりするのだと思います。CMを見てもらうのがスポンサーのねらいなのに、これでは意味がありません。
 このような問題があると、公表されている視聴率は本当に確かなのかという疑問を持ってしまいます。
 98年のサッカーフランスワールドカップにおいて日本対クロアチア戦では60.9%という高視聴率をだしました。そしてアルゼンチン戦でも60.5%という高視聴率でした。。両方とも驚異的な数字ですが、はたして本当に国民の約3分の2の人がこのサッカー中継をみていたのでしょうか。スポーツの実況中継なので見ていなくても聞いていれば、比較的どんな試合かということはわかります。だから何かしながらテレビを点けっぱなしにしていた人がいたら、その人達のこともカウントされているのです。そのため数字としては表れていますが、やはり調査法に問題点があるためこれをそのまま信じることは私にはできませんでした。
 そしてあと1つ、調査の基本世帯に対する応諾率が低いという問題があります。この原因はやはりプライバシーのことだと思います。機械によって何を見ているのかが自動で送信されてしまうため、プライバシーが守られないのです。調査を了承してもプライバシーのことを気にし、それを嫌ってスイッチを押さない人がいると確かな視聴率は得られません。これも機械式調査法の大きな問題なのです。
 日記式の調査法の問題点は、やはり手書きということなので手間がかかり継続した調査をするのが難しいということがあります。5分刻みに何の番組を見たかというのを毎日記入しなければならないというのは、かなりハードな作業だと思います。そのため何の番組を見たか忘れてしまった場合や、面倒な時は、適当に記入してしまうこともあると思います。
 さらに手書きだと嘘を書くこともできるのです。そして調査会社の人がデータを毎週回収して、チェックして集計をするという手間もかかります。
 このように機械式、日記式のどちらの調査法にも大きな問題点があります。このような問題点があるため視聴率調査にお願いに行った時の応諾率が全体的に悪いのだと思います。応諾率が悪く、サンプル数が減ってしまったりしたら、より精度の高い視聴率はでません。そのためこれらの問題点を補える新しい調査法を考えようと思います。

 

第4章  提案


 理想の視聴率調査法を考えるに当たって、漠然とどのようなものがいいのかということを考えました。そして現在行われている調査法のいいところを残し、問題点を無くしていけば、おのずと理想の調査法の形が見えてくると考えました。そこで機械式か日記式かどちらを使うかということをまず考えることにしました。なぜどちらの手法に絞るかというと、私の考えでは日記式はもう限界を迎えていると思うからです。これからデジタル化を迎え、テレビは数百チャンネルになるというのに、手書きの調査表を使っていては書き込みの間違いが起こったり、データを整理するのにも多大な労力を要します。それに比べて機械式は、調査もデータ整理もすべて機械で行い、その場でデータを送信するので、日記式のように調査員が調査表をを回収に行くという手間も省けます。そしてそもそも日記式調査は、機械式が世帯調査しかできない時に、個人調査を行うために始めたものです。しかし現在はピープルメーターが開発されたことにより、機械式でも個人調査ができるため、日記式調査の必要性がなくなってきているのです。したがって機械式の方が手間も少なく、日記式より正確で性能的にも優れているということで、機械式を改良することによってできるのが、理想の視聴率調査法だと考えられます。そして理想的なものを作るためにはいくつかの制限を緩めねばならないため、この研究ではお金の制限はあまり考えないようにします。
 では、機械式で理想の調査法を作る場合、今ある機械式の調査法の問題点を無くしていかなければいけないのですが、まずスイッチについてです。見る時のスイッチの押し忘れについては、ブザーが鳴るということで解決済みですが、席を立った時の場合についてはまだ解決されていません。実際、45分間隔でテレビを見ている人を確認するためにインターバル警報というのがなるのですが、この45分が最適な間隔とはいえません。[1] その45分の間にもCMは何本も流れるのです。 それならばどうすればいいのか。ここで、誰が見ているのかというのを自動で確認するシステムが求められるのです。
 そうなるとスイッチを押さなくても自動で確認してくれるセンサーのようなものがあればいいとまず考えられます。ここでいうセンサーとは人と物を識別してくれる物のことです。初動作についてはテレビが点いたと同時に機械が動き出す仕組みにしておきます。そして次にその見ているのが誰か、ということに焦点をおくと画像が必要となってきます。ここで、なぜ誰が見ているのかということが必要なのかということについて説明します。スポンサーが求めているもの、それは確かな信用できる視聴率です。そしてより効果的にマーケティングを行うにはその年齢層に向けた商品を、その年齢層が見ている番組の中で流さなければなりません。例えば、主婦向けは主に昼間に、ファミリー向けのものならゴールデンタイムに、若者向けならば深夜というように。このようなことをすることによってCMの効果というのはアップするのです。そのために個人調査が必要なのです。
 センサーとカメラのついた調査機を作る。これによって今までの手間はなくなります。しかしカメラの画像で誰が見ているかというのを逐一確認するのは、無駄があります。そこでその無駄をなくすためにでてくるのがビデオカメラです。

第5章  裏付け


 このビデオカメラにあらかじめ家族の顔を登録しておけば、誰が見ているかというのがはっきりわかり、自分用のスイッチを押す必要もありません。いくら似ている人がいるといっても骨格などは個人個人違います。ですから間違ってカウントしてしまうことはありません。もし成長期の子どものように顔が徐々に変わっていって機械がカウントしなくなったり、結婚して家族が増えたりしたらそれはその都度登録を更新していけばいいのです。そしてビデオカメラはずっと回っているわけですから、カメラに映る映像から顔がなくなった人は、視聴していないとみなすわけです。そうすれば席を立った人がいればその人は自動的にカウントされなくなります。これにより45分毎に鳴るインターバル警報もいらなくなります。さらにこのシステムならば、ながら視聴もカウントされなくなります。ながら視聴をしてる人というのは、テレビ画面を見ていないで音声だけ聞いて何か他のことをしているわけですから、テレビに顔を向けている時以外はカウントされないのです。こうしてより確かな視聴率を計測することができます。
 しかしこのビデオカメラを使うという調査法にも1つ問題があり、プライバシーという問題点にひっかかるのです。テレビが点いている間中ずっとビデオカメラは回っているのですから、見ている人はずっと撮られているのです。確かにいい気分はしません。そこでこの問題点について考えました。
 ビデオで撮られているとなぜ嫌なのかということ。それは人それぞれだと思いますが、ずっと撮られているから気分的に嫌だという人が大半だと思います。現にもし私がそんな調査を頼まれたら、もちろん断ります。ずっとビデオカメラに監視された生活なんて考えたくありません。他の理由として夏ならば裸でテレビを見ている場合もあるから嫌だとか、部屋の様子が映ってしまうのが嫌だったりもします。そこで私が考えたのは、ビデオカメラが全体を写さないで顔だけを映し、実際に見ている人と、ビデオカメラに登録されている人の顔を照合し、一致したらカウントを始めるというシステムです。ビデオは顔を照合するだけでそれ以外は映さないのです。そうすればテレビを見ながら何をしていようが、どんな格好をしていようが、どんな部屋だろうが関係ないのです。登録してある人の顔以外映らないのですから、誰と一緒にいようとプライバシーは守られるのです。これならばそんなにカメラを気にすることもないと思います。このようにビデオカメラを改良すれば個人のプライバシーも守られます。これによりプライバシーの問題が解決されれば基本調査の応諾率も上がるはずです。そうすれば今より多くの人のデータで、しかも精度の高い視聴率を得ることができ、スポンサーとしてもどこで自社CMを流せば効果的か、ということがより明確になってきます。このことが私の求めていたことであり、これが私の考えた理想の視聴率調査法となります。

第6章  デジタル化


数年前からテレビ業界には、デジタル化という波が押し寄せてきています。これによりテレビの多チャンネル化が始まりました。今までのアナログ放送からデジタル放送に代わり、チャンネル数が数百チャンネルもの数になるのです。[3] こうなった場合視聴率はどうなっていくのか疑問に思われるでしょう。
 多チャンネルになり、視聴対象の番組が細分化され、分散します。その結果として地上波テレビの視聴率が低下するのは間違いないことです。しかしここで気をつけなければいけないことは、「率」そのものは低下しても、その「率」が持っている価値は逆に上昇する可能性が強いという点です。
 現在の地上波テレビの視聴率は20〜30%ぐらいの数字でしのぎを削っています。ところが数百という規模まで多チャンネル化が進行した結果、その視聴率が1桁台に低下した時、わずか数チャンネル中の20〜30%と、数百チャンネルもある中の視聴率数%とでは、むしろ後者のほうが価値は上だということにもなります。
 米国では多チャンネル放送の登場に伴って、地上波の視聴率が低下しました。しかし視聴率は下がりましたが、広告料収入は引き続き上昇しています。視聴率が分散しても広告料金が下がらないとなると、今度は多チャンネルの提供側では専門チャンネル化していき、ターゲットを絞った広告に特化していくことになります。数百チャンネルもある番組の中から、わざわざゴルフや釣りの専門チャンネルを選んで見ている人は、ゴルフや釣りが好きな人に違いないので、そこでゴルフ用品や釣り道具のCMを流せばいいわけです。企業側としては実に効果的なアピールができるのです。
 このようにデジタル化を迎えて多チャンネルになっても、今と同じように視聴率という指標は重要な意味を持つのです。そしてさらに視聴率の価値や性格は変わっていくのです。そのためにはより確かな視聴率調査法が求められるのです。
 

第7章  最後に


 自分なりに理想の視聴率調査法というのを考えたのですが、これはお金の制限をなくしたという前提で考えたものなので、実際作るとなるとコスト面の問題が出て来たり、技術的にも本当に作れるのかという不安もあります。そのためまだ実現は難しいかもしれませんが、実際こんな調査機ができてマーケティングに役立てば私としては嬉しいです。
 デジタル化が本格的に始動すると、また新たな問題点がきっと出てくると思います。最近パソコンでもテレビが見れるようになりましたが、この場合はどのように調査していくかなど。そんな情報を気にしながらもっと良い調査法を今後も考えていきたいです。

謝辞


 この研究を進めるに当たって、自分の分野でないということにもかかわらず、いろいろなアイデアを出して下さったり、アドバイスをして下さった根本先生に大変感謝致します。そしてテレビ関連のことでいきなり質問に伺った時、丁寧に答えて下さった高島先生、そして毎週いろいろな提案や反論を出してくれた根本ゼミの4年生の皆様、発表を暖かく見守ってくれた3年生の皆様にも感謝致します。どうもありがとうございました。

参考文献


   [1]藤平 芳紀:視聴率の謎にせまる,(株)ニュートンプレス(1999)

   [2]西 正:放送はどうなる!,ダイヤモンド社(1998)

   [3]湯浅 正敏:デジタル放送のことがわかる本,株式会社日本実業出版社(1996)

   [4]ビデオリサーチ社のホームページ   (http://www.videor.co.jp/a_rate/index.html)

   

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