(1)加入層と検討層の比較
加入層は、「a.難視の解消」、「b.映像向上」、「o.アンテナ更新不要」の3点で、検討層より大きい。他方、BS視聴からケーブルでのスポーツ視聴まで(いわば多チャンネル利用とでも言うべき項目群)は、全部検討層が大きい。したがって加入の決め手は動機で見る限り、ケーブルテレビの最大の特徴である多チャンネル利用とは別のところにあるように見える。
図2.3-1 ケーブルテレビへの対応層別の加入動機/関心の平均値の分布
平均値の検定:*:Sig.≦0.05、**:Sig.≦0.01、***:Sig.≦0.001
****:Sig.≦0.0001
ケーブルテレビの加入者は、難視域であるが故に加入する層もあれば、難視域でなくとも加入する層もある。難視域の加入者は2.5節で述べられる様に、およそ1/3であるから、2/3は難視の影響を受けない加入者である。その割には「a.難視の解消」の得点が高い。また加入者の中には有料チャンネル視聴者は30%居るが、にもかかわらず有料チャンネル利用への動機は検討非加入者よりも小さくなっており、不自然である。全体像としては、有料チャンネル視聴は主な加入目的にはならないかも知れない。しかしこれらの問題は、もう少し対象層を層化して見る必要がある。
(2)検討層と未検討層の比較
未検討層は全般には検討層よりは低い評価であるが、「a.難視解消」と「b.映像向上」、「o.アンテナ更新不要」と「p.家の美観上アンテナ不要」では、検討層よりも大きくなっている。他方、多チャンネル利用と言うべき項目群は断然大きい。多チャンネル利用の差が、検討と未検討の差になっていることが想像される。
(3)大筋の傾向
以上見てきた大筋を表にして、全体像として整理してみよう。その際に傾向を見やすくするために、平均値≦1.5を◎、1.5<平均値≦1.8を○、1.8<平均値≦2.2を△、平均値>2.2を×とすると、以上の傾向は表2.3-1のようにまとめることが出来る。
表2.3-1 グループ間に有意差のある主な 項目の平均値
グループ | a.難視解消 | b.映像向上 | d.多くのチャンネル | n.有料チャンネル | o.アンテナ不要 |
加入
検討非加入 未検討 |
○ 1.52
△ 2.11 △ 2.01 |
○ 1.79
△ 2.09 △ 1.98 |
○ 1.56
◎ 1.38 △ 2.00 |
× 2.58
× 2.40 × 2.62 |
△ 1.98
× 2.36 × 2.26 |
この表をもとに3グループの比較を行うと、およそ次のようなことが言える。
@全体では、多くのチャンネル>難視解消>映像向上>アンテナ不要>有料チャンネルの順に、関心が持たれている。
A加入と非加入(検討非加入、未検討)の差は、加入が難視解消、映像向上、アンテナ不要の3点を重視する傾向が強い点にある。平均像としては、これが加入に促進的に効く要因である可能性が高い。
B検討層と未検討層の差は、多くのチャンネルの評価が高いか否かの違いである。
C加入者に至るには、「a.多くのチャンネル」では一定程度の評価が必要だが、それだけでは不十分で、さらに「a.難視解消」、「b.映像向上」、「c.アンテナ不要」の評価を欠くことは出来ない。
以上では加入動機/関心度から全般的な傾向を整理してみたが、以下では(1)で述べたように、対象層を様々な面から層化した分析を試みる。
2.3.2 加入動機/関心の因子スコアによる分析
前節では15の動機項目の中から特徴的な項目に着目し、傾向を見てきた。したがって多くの項目は分析からは除外されている。これらの項目には明らかに傾向が類似していると見られる項目があり、また類似性には判断がつきにくい項目もある。にもかかわらずその中で恣意的に項目を抽出して議論をするには、方法論上の限界がある。そこで15の動機項目の評価データに対して因子分析を適用し、全体的な傾向を把握しつつ、着目すべき項目を因子に集約して減らすことにする。さらに因子スコアを層別の分析の対象となる変数として扱うことにより、分析をしやすくすることが出来る。
表2.3-2 加入動機の因子と対応する変数
因子(平方和、寄与率) | 対応する変数(係数の大きい順↓ → ↓) |
第1因子 (2.9, 19.1%)
1.多チャンネル娯楽指向 |
d.多くのチャンネルの色々な番組 e.ケーブルでの映画
c.BS視聴 g.音楽視聴 h.ケーブルでのスポーツ q.今後の多面的利用 |
第2因子 (2.7, 17.9%)
2.社会教養指向 |
k.ケーブルで経済ニュース i.ケーブルで学習番組
f.ケーブルでニュース l.ケーブルでの地域放送 |
第3因子 (1.8, 12.1%)
3.反アンテナ指向 |
p.家の美観向上
o.アンテナ更新不要 |
第4因子 (1.6, 10.7%)
4.映像向上指向 |
b.難視でないが映像向上
a.難視解消 |
第5因子 (1.3, 8.4%)
5.有料チャンネル指向 |
n.ケーブルの有料チャンネル視聴 |
15の動機項目の評価データに対して因子分析を適用した結果を表2.3-2に示す(なお加入層と検討層のデータ、未検討層のデータに対して、それぞれ独立に因子分析を適用して傾向を見たが、双方の場合にほぼ同じ様な因子が現れることが分かった。したがってこの様な因子の出現はテレビ視聴者に共通的な構造の存在を示していると思われる。それを踏まえて、全サンプルに対して因子分析を適用した)。5因子で全分散の68.1%をカバーしている。各因子の名称は、対応する変数の概念を総称して作成した。それは多チャンネル娯楽指向、社会教養指向、反アンテナ指向、映像向上指向、有料チャンネル指向である。
なお第4因子の映像向上指向には、「b.難視でないが映像向上」と「a.難視解消」の2つの変数が寄与している。通常はこの2つは別の概念と見られやすいが、双方の相関が高く、したがって利用者には同一の概念として理解されていることを補足しておく。
次に因子分析の対象となったサンプルには、サンプル毎に各因子の強さを示す因子スコアを持つ。ここではそれぞれが5つの因子スコアを持つ。この因子スコアによってサンプルの傾向を知ることが出来る。そこでサンプルを特定の視点からグループ化し、そのグループの比較をすることにより、層別の分析を行うことが出来る。以下ではこれらの因子スコアを用いて、動機の傾向を見ていく。
(1)加入者、検討非加入者、未検討者の動機/関心度
まず対象サンプルを加入者、検討加入者、未検討者の3グループに分け、3グループ毎の因子スコアの平均値を図2.3-2に示す。調査での評価は、1.重視する/関心ある〜3.重視しない/関心ない、の3段階で行っており、小さいデータの方が傾向が強いことを反映し、因子スコアも小さい方が傾向が強く、大きい方は傾向が弱くなっている。したがって各因子軸のスコアには正も負もあるが、負で絶対値が大きい方(より外側)が傾向が強く、正で絶対値が大きい方(より内側)は傾向が弱いこととなる。また平均値の分散分析の結果を、有意性がある場合については、各軸毎に*で示している。その範囲は、*:Sig.
≦0.05、**:0.01≦sig.<0.05、***:0.001≦Sig. <0.01、****:Sig.
≦0.001 である。
図2.3-2 加入者、検討非加入者、未検討者の加入動機/関心
図2.3-2によると、傾向は次のようになっている。大筋の結果は前節と類似しているが、議論はずっと正確かつ理解容易となっている。
@加入層はほぼ中央に位置しているのに対して、未検討層は内側に位置し、検討非加入層 は上方にシフトしている。
A5つの軸のうちでもグループ間の差が大きいのは、多チャンネル娯楽、反アンテナ、映像 向上の3軸である。この3軸が、各グループの差を作り出す要因と考えることが出来る。
B未検討層はこの3軸で加入層より相当に弱く、未検討層という性格を理解することが出 来る。特に多チャンネル娯楽の指向性が弱いことが分かる。
Cこれに対して検討非加入層は、多チャンネル娯楽が強いのに対して、アンテナと映像の 指向性が非常に弱いことが分かる。従って多チャンネル娯楽が強いとケーブルテレビに 関心を引かれて加入検討をするが、アンテナ、映像向上の決め手が弱くて、加入には至 らない、と理解することも出来る。
D検討非加入層は社会教養の指向性が強い点も注目される。
(2)難視と加入形態における動機/関心
これまではケーブルテレビの加入層は1つのグループとして扱ってきたが、ケーブルテレビの加入層は難視域では高く、非難視域では低いことを考えると、当然難視状況によって異なる層が加入することになると考えられる。そこで加入者を難視の有無と加入形態(ベーシック、ペイ)で区分し、非難視・ベーシック、非難視・ペイ、難視・ベーシック、難視・ペイの4グループに分け、さらに先ほどの検討非加入層、未検討層を含めて6グループを作り、動機/関心度を調べた。その結果を図2.3-3に示す。主な結果を以下に纏める。
図2.3-3 難視と加入形態における動機/関心
@6グループについて、各軸での分かれ具合を見ると、社会教養、反アンテナの2軸では 分離に有意性はない。特にケーブルテレビ加入者の値は分かれていない。この点はケーブルテレビ加入者の共通の動機と見られる。それに対して、多チャンネル娯楽、映像向上、有料チャンネルの3軸では非常に大きく分離している。
Aケーブルテレビの加入者について、非難視の2グループと難視の2グループを比べると、非難視の多チャンネル娯楽は非常に強いのに対して難視域のは弱い。他方、難視の映像は当然非常に強いのに対して非難視ではベーシックはある程度強いがペイは非常に弱い。
Bペイとベーシックの差は当然ながら非常に明白で、ペイのグループは有料チャンネルの動機が非常に強いのに対して、ベーシックのグループは非常に弱い。
C非難視域では、多チャンネル娯楽が相当に強く、かつ有料サービスが強い層がペイ加入者になり、または映像向上の動機の強い層がベーシックの加入者になる、といえる。
D難視域では、多チャンネル娯楽は関係なく、難視解消と映像向上を指向する層がベーシック加入者になり、さらに難視解消と有料チャンネルを指向する層がペイ加入者になっている。
E以上を簡略化してまとめると、各グループの加入動機/関心は表2.3-3の様になる。
Fこの様に見てくると、ケーブルテレビ加入の共通点は反アンテナ指向であり、次に多チャンネル娯楽指向、映像向上指向、有料チャンネル指向の様々な組み合わせが、加入者 の4グループを形成していることが理解される。
G未検討層と検討非加入層の差は、多チャンネル娯楽指向の強弱である。
H検討非加入層と加入層の差は、検討非加入層の多くがが非難視域に居ることを考慮すると、反アンテナ指向と映像向上指向、またはアンテナ指向と有料チャンネル指向にある。
表2.3-3 各グループの加入動機/関心
グループ | 多CH娯楽 | 社会・教養 | 反アンテナ | 映像向上 | 有料CH |
非難視・ベーシック
非難視・ペイ 難視・ベーシック 難視・ペイ 検討非加入 未検討 |
○
◎ △ △ ○ △ |
△
△ ○ △ ○ △ |
○
○ ○ ○ △ △ |
○
× ◎ ◎ △ △ |
△
◎ × ◎ △ △ |
ここでは加入者を4グループに分けてその傾向を見てきたが、4グループ間でも相違は明確であった。他方、ケーブルテレビは難視対応や加入形態以外にも様々な評価軸を持つメディアであるため、実際には様々なニーズを持つ層が重層的に集まって、一言で言われる「加入者」を形成していることが十分に予想される。
(3)メディア選択と動機/関心
これまではケーブルテレビへの加入を中心とした動機/関心度を見てきたが、ここでは現在選択しているテレビメディア別の動機/関心度を分析する。テレビメディアとしては、地上波テレビ、BS−NHK、CATVベーシック、CATVペイ,BS−WOWOW、CSの6分類で見ている。図2.3-4はそれぞれのメディア別の動機/関心度の因子スコアの平均値を見たものである。*印は以前と同じ平均値の分離の有意性を示すものである。+印は、0.05
≦Sig.<0.1 であることを示している。アンテナ軸、映像向上軸、有料チャンネル軸では平均値は有意で分離している。これらの分離を見ていくと、次の傾向を纏めることが出来る。
図2.3-4 テレビメディア別の動機/関心
@地上波とBS−NHKは概して中心部に位置しており、平均像に近いが、BS−NHK は地上波に比べ、アンテナ指向と社会教養指向が強い。それに対して、映像指向が若干弱い。難視には関係なく、かつ社会教養指向が強い層がBS−NHK加入者になる様である。
Aこれに対してBS−WOWOWはかなり異なる傾向を持ち、BS−NHKと比較すると、多チャンネル娯楽と映像はかなり低いが、有料チャンネルと映像は特に高く、特徴ある様相である。特化した魅力に惹かれた層と言えよう。
B次にCSは、これも非常に偏った形をしている。多チャンネル娯楽の指向性は特に強く、 有料チャンネルにも関心はあるが、有料チャンネル層ほどではない。これに対して社会 教養指向は特に弱く、また反アンテナ指向も弱い。
CさらにCATVベーシックは地上波やBS−NHKと比べると、有料チャンネルはかな り弱いが、反アンテナと映像向上の指向性が高い層である。これは(2)での説明と共通している。
Dそれに対してCATVペイは、有料チャンネルは特に強く、次いで多チャンネル娯楽と 反アンテナが強く、反対に映像向上と社会教養は弱い。
これらの傾向を表2.3-4に示す。これを見ると、動機/関心度はメディア選択を説明するために有用な項目の一つとなりうることが分かる。
表2.3-4 テレビメディア別の動機/関心
グループ | 多CH娯楽 | 社会教養 | 反アンテナ | 映像向上 | 有料CH |
地上波
BS−NHK CATVベーシック CATVペイ BS−WOWOW CS |
△
△ △ ○ × ◎ |
△
○ △ △ △ × |
×
△ △ △ ○ × |
△
× ○ △ × ○ |
△
△ × ◎ ◎ ○ |
(4)他の属性と動機/関心
加入動機/関心については様々な属性から相違を見ることが出来るが、ここでは後2つの属性、世帯主の年齢と住宅形態における傾向をみておく。
年齢別に見た傾向を図2.3-5に示す。動機/関心の中でも年齢によって大きく変わる部分(有料チャンネル、多チャンネル娯楽、反アンテナ)と、変わらない部分(社会教養、映像向上)があることが分かる。年齢に依存する部分では、多チャンネル娯楽と有料チャンネルは若年ほど強く、高齢ほど弱くなっている。ほぼ単調減少の傾向にある。それに対して反アンテナは高齢ほど強く、若年ほど弱い。これを見ると、若年層ほど加入を促進する強い誘因があるが加入の決め手には欠け、高齢層ほど加入の決め手はあるがそこに至らせる誘因が弱いことが想定される。実際にはケーブルテレビへの加入は年齢依存があり、高齢ほど加入比率が有意に高い。したがってこれらの条件と、さらに別の条件がありそうな姿も見えてくる。
図2.3-5 世帯主の年齢と動機/関心
次に住宅形態と動機/関心の関係を図2.3-6に示す。一見してこの図は世帯主の年齢の図と類似していることが分かる。分離の大きい多チャンネル娯楽、反アンテナ、有料チャンネルの軸ではほぼ類似傾向を反映している。図中で偏った傾向をしている戸建て・賃貸の場合を除いては、社宅→集合・賃貸→集合・分譲→戸建て・自己所有という住宅の変遷のライフサイクルを大筋としては反映している。しかしながら特徴的な点は、社会教養である。この軸について分離の有意性が現れたのは、初めてである。この図によると、分譲や戸建ては賃貸や社宅よりも大きい。したがって住宅の所有が社会教養的な指向性と関係があることを示している。ある意味では腰を据えると、社会教養的な指向性が強まる、ということであろう。
図2.3-6 住宅形態と動機/関心