2.4 加入におけるコミュニケーションの効果            目次に戻る

  技術革新の普及理論(ロジャーズ(1990))から見ると、新技術の採用には様々なコミュニケーション・チャンネルが影響すると言われる。初期の普及段階ではマスメディア・チャンネルが、普及が進むとともにパーソナル・チャンネルの比重が高まるとされている。本調査ではこの様なコミュニケーションの効果がどの様になっているかも調べた。

(1)認知のルート
 まず最初は、どの様な情報ルートから地域のケーブルテレビの存在を知るに至ったかを聞いている。集計結果を図2.4-1に示す。同図は加入者にとって多い情報ルートの順にグラフを書いており、主な傾向を次にまとめる。
@断然多いのは加入者、非加入者ともに「ポスター、チラシ」で、加入者の44%、非加 入者の57%がこれをあげている。
Aこれ以外は大分小さくなって、全部10%前後である。
B加入世帯と非加入世帯に比べて多いのは、「近所の知人」、「営業マンの訪問」、「Y TVの協力店」である。加入者ではパーソナル・チャンネルが多い。
C非加入世帯が多いのは、「ポスター、チラシ」、「新聞記事」、「工事を見て」がある。
 概してマスメディア・チャンネルが多い。

 パーソナル・チャンネルからの情報は、単なる認知情報や宣伝情報だけでなく、評価情報を含み、かつやり取りが可能(インタラクティブ)であることから加入へのドライブがかかり易いと考えられる。

               図2.4-1  ケーブルテレビ認知の情報ルート

(2)YTV以外の人への相談
  加入検討中には情報を求めて他者に相談することもある。YTV以外の人への相談がどの様になっていたのかを調べたのが図2.4-2である。有意性は弱いものの、傾向としては加入世帯の方が多く、約1/3の人が相談をしている。それに対して非加入世帯の場合には約1/4である。

             図2.4-2  YTV以外の人への相談の有無(χ2:Sig.0.08)

 具体的な相談相手を図2.4-3に示す。加入世帯でも非加入世帯でも傾向は類似しており、自分の身近な人たちである。加入世帯では若干だが専門家に意見を聞いている例がある。これらの中でYTV協力店は加入世帯の上から2番目にあり、情報ルートとして重要な役割を果たしていることが分かる。

  次に相談内容についての結果を図2.4-4に示す。相談内容にはかなりの差が見える。概して非加入世帯では加入世帯より多くのことを聞いている。両者の差が大きい点は、「チャンネル・番組の内容と評判」、「ケーブルと普通のテレビの損得」、「サービスの種類と契約」である。非加入世帯ではより詳しく内容を調査・評価し、損得を考えて加入を止め、または先送りしているように見える。

                            図2.4-3 相談の相手
 

                           図2.4-4 相談・質問した内容
 

  さらに質問・相談に答えた相手が、ケーブルテレビに対して好意的だったか否かを聞いた結果を図2.4-5に示す。加入世帯と非加入世帯の傾向は似ており、注目すべき差はない。説明者は全般に好意的である、と言う点は注目される。したがって非加入者は、好意的に説明を受けても、非加入に至っている。


                      図2.4-5 説明者のケーブルテレビへの好意

(3)YTV社員からの説明
  次は加入決定の前にYTV社員から説明を受けていたか否かを調べている。結果を図2.4-6に示す。加入者の6割は決定前の説明を受けているが、非加入者では1割である。解釈としては、@YTV社員の説明が効果的である、A加入決定前と言っても、YTV社員に説明を受ける段階では、前向き姿勢が強まっている場合が多い、B普及の初期で口コミよりチェンジエージェントの説得が有効な段階にある、の3つが考えられる。関心のある問題だが、現状ではこれ以上の判断をすることは出来ない。

           図2.4-6 加入決定前のYTV社員からの説明(χ2:Sig.****)

(4)加入/非加入の決定への影響
  YTV社員やYTV以外の人への相談・質問が、加入/非加入の決定に影響したか否かを聞いた結果を図2.4-7に示す。加入世帯では5割強が、加入決定に影響した家庭外の人は居なかった、としている。これらは世帯独自で決定をしている、かなり確信のある決定者と言うことが出来よう。残りの半分弱は加入決定に影響を与えた家庭外の人の存在を挙げている。第1位は約1/4で、YTVの社員・営業マンである。次いで加入者の知人、隣近所の加入者、YTV協力店の順である。

                  図2.4-7 決定に影響を与えた家庭外の人
 

 これに対して非加入者は約9割が「特にいない」としており、決定がほとんど世帯独自の判断で行われている。図2.4-5による、加入に否定的な印象を与えた相談者が居なかったことと対応している。ただしこの図では59人のうちの4人(6.8%)が外部の人の影響を受けたとしている。しかし大筋の結論、大部分の検討非加入者は、世帯独自の判断で非加入の決定をしている、と言う姿は変わらない。

(5)コミュニケーションの効果の全体像
  これまでに説明してきた、YTV以外の人との相談、YTVとの相談から4つのコミュニケーションのタイプ(YTV以外の人のみ、YTVの人のみ、YTV以外とYTVの両方、両方無し)を作り、その分布を見ると図2.4-8が得られる。同図によると、次の傾向を挙げることが出来る。

@他者に相談した層(「両方無し」を除く3グループ)は、加入する可能性が高い。
A「両方に相談」、「YTVのみ」の2グループは加入世帯の比率が非常に高いが、「Y TV以外のみ」では、低くなっている。
B「両方無し」は非加入世帯の比率がかなり高い。
 したがって大筋としては、コミュニケーションの効果を認めることが出来る。
 

                  図2.4-8 決定過程における相談者(χ2:Sig.****)

 次に、加入/非加入の決定への影響のデータとサンプルの抽出率を用いて、調査対象地域ではコミュニケーションがどの様な効果をもたらしているかを検討してみる。加入/非加入のへの効果としては、影響を受けた加入者を意味する加入・影響、影響を受けない加入者の加入・非影響、影響を受けた非加入者の非加入・影響、影響を受けない非加入者の非加入・非影響の4つの結果のカテゴリーで見ることとした。その結果を図2.4-9に示す。上から加入数の多い順に並べてあり、「YTVの人のみ」が最も高く、「YTV以外の人」は最も少ない。

 グラフの見方としては、次のようになる。地域の32.5%(2645世帯)の加入検討層(加入層と非加入検討層)を母集団とし、「YTVの人のみ」のグループはその中の13.2%(3.8+5.5+3.9)で、結果としては9.3%が加入し、YTVの人から影響を受けて加入したのは3.8%、影響を受けないで加入したのは5.5%である。「誰もいない」グループの加入世帯は2番目に多い。この層は確信的な加入世帯と見ることが出来ようが、相対的に多いのは普及の初期段階の特徴と見ることが出来るかも知れない。「YTV以外とYTVの両方」のグループでは影響を受けた加入世帯は最も多い。グループ規模は小さいが、相乗効果と見ることが出来るかも知れない。「YTV以外の人のみ」のグループでは、影響を受けた非加入者が目立つ。この内容については現時点ではこれ以上の議論は難しい。

            図2.4-9 ウエイト調整後の相談グループと加入決定への影響

 次に図2.4-9の各グループを100%とした場合の結果のカテゴリーの分布を図2.4-10に示す。やりとりする情報の中身は不明だが、加入効率という点で見れば、YTVの人との接触は有効と理解される。全般的な傾向としては、個人的なコミュニケーションチャンネルが効くよりも、販売側のコミュニケーションチャンネルが効いたり、自己の判断だけで加入に至っている場合が多い。加入への影響の点でも同様である。これらは普及の初期段階と言う特徴をを反映しているためと思われる。加入への宣伝効率を考えるとすれば、事業者の直接の説明・PRが特に効果を発揮する時期と見ることが出来る。

                   図2.4-10 グループ別の影響で加入に至る比率