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4.7 まとめと今後の課題

 これまで第3章では、加入と非加入を分ける要因を明らかにするために、様々な分析を行ってきた。結果としては、加入に関与しうる多数の変数を最終的には5〜6個の要因に集約し、それぞれの要因の効果の程度も明らかに出来るという点では、従来にない分析法の開発と言えるものである。ケーブルテレビに限らず、今後はメディアの採用問題についての検討の手法となりうるものである。

 分析は加入と非加入で差を持つと見られる多数の調査データを用い、因子分析と判別分析を行い、または判別分析だけを行って、よりよく判別できる可能性と、その際に判別に寄与する変数から、加入と非加入を分ける要因を明らかにし、しかもその要因の効果の程度も明らかにするものであった。ここではその結果を踏まえて、成果をまとめるとともに、今後の課題も整理することとする。

 第4章の分析は以下のようなものであった。


 4.3節と4.6節から次の点が明らかになった。

  1. 2つの地域についてほぼ類似した変数を用いて因子分析と判別分析を行っているが、ほぼ同じ10個の因子が現れた。したがって加入要因を扱うことの出来る、地域に依存しない構造があることが分かった。(同じ構造は、後に行った武蔵野三鷹ケーブルテレビ地域の調査データからも確認された。これらについては別途報告を行う予定である)。
  2. その構造は大きく見ると、世帯主の先有傾向、加入動機/ケーブルテレビへの関心、コスト感、世帯特性の4つの部分から成り立っている。
  3. 世帯主の先有傾向としては、日常的なテレビ視聴傾向で、環境テレビ視聴、走査視聴、協調視聴/確認視聴、計画視聴の4つが挙げられる。
  4. 環境テレビ視聴は加入に至る必要条件で、各地域に共通する加入要因である。
  5. 協調視聴/確認視聴は唯一地域差がある因子で、この点は未解明である。
  6. 加入動機/ケーブルテレビへの関心では、映画娯楽指向、社会教養指向、反アンテナ指向、画質向上指向の4つの因子がある。
  7. 加入動機/ケーブルテレビへの関心の因子スコアに地域差が現れる。電波障害がある地域では加入要因としては画質向上指向が強くなる。普及率が低い地域では映画娯楽指向が強くなる。
  8. コスト感としては、利用者ないしは潜在的利用者が加入費用や毎月の基本料を安く感じる度合いとしての割安感が常に加入の要因となっている。これはBの環境テレビ視聴と同様に、加入に至る必要条件である。
  9. 世帯特性の因子には家族規模がある。しかしこれは要因とはならない。この傾向に含まれるが、世帯収入はケーブルテレビの加入の要因ではない(従来多くの場合世帯収入は加入の要因と見られて来ている)。
  10. この分析は、加入グループ VS 非加入グループの判別においても有効だが、ケーブルテレビへの加入について検討したことがある検討(加入・検討非加入)グループ VS 未検討グループの判別の方がより適合性が高い。

 さらに4.4節(1)、(2)で次の点が明らかになった。

  1. 検討(加入・検討非加入)グループを加入グループ VS 検討非加入グループに分ける要因としては家族の賛否(加入に賛成の家族数、反対の家族数)とコスト感が該当する。これらは加入の最終決定に際して効く要因である。特に加入に消極的な家族の人数が強いと非加入に至りやすい。その点でケーブルテレビへの加入は家族のコンセンサス型の 決定である。

 さらに4.5節から次の点が明らかになった。

  1. 4.3節の変数にさらに情報機器利用の変数を加えた場合、これらの変数は独立した3つの因子を形成する。それらはインターネット系、オーディオ系、事務・電話系である。
  2. これらの3つの因子のうちで、事務・電話系が加入の要因となる。
  3. 特に電話利用がケーブルテレビの加入と有意に関係する可能性がある。環境テレビ視聴はながら的にテレビを見る傾向で、ケーブルテレビの先有傾向面の加入要因だが、同じ様な傾向としてながら電話をする層がケーブルテレビの加入の先有傾向と関連する可能性が高い。


 このように様々な点を明らかにしてきたが、これらの成果を踏まえて今後の課題をまとめる。

1.第9因子の因子概念の検討

 加入の要因を抽出する因子分析の過程で、第9因子のみが地域によって異なるという結果である。後の武蔵野三鷹地域の場合には、10因子が全部ジェイコム湘南と同じ因子であった。したがって同じ因子となる可能性もあるが、この概念の検討が必要である。

2.他メディアへの適用研究

 ケーブルテレビは多目的の、ないしは選択性の強いメディアである。今後の成長が予想されるメディアにはこの様な多目的性の強いメディアが多い。したがってケーブルテレビについて提案した加入要因の分析法は、今後のメディアの採用問題を扱う際の手法としての有効性を持ちうるものである。この様な点で、他のメディアへの適用研究が第1の課題である。

3.動機・関心別の加入行動の分析

 加入動機・関心は、大きく見ると、番組では映画娯楽指向、社会教養指向、番組以外の効果として、画質向上指向、反アンテナ指向の4つがある。判別分析ではこれらの指向性は最終的には判別関数値という1つの指標に集約されるが、おそらくそれぞれの指向性によってグループが作られ、グループごとに加入の判断が異なることが期待される。このグループごとの挙動は、より我々に判断の仕組みを理解させてくれるものである。

4.異なる条件の地域での調査

 ケーブルテレビの加入−非加入の要因は、a.地域、b.普及段階、c.サービスの条件で、その大枠が決まる。大枠を決める変数が3つもあることは、多くの要因を存在せしめ、我々の理解を難しくする可能性が大きい。その様な状況下では、若干条件を変えて別のケースを分析し、次にまた若干条件を変えて分析する、そのようにして対象を拡大して行く進め方が適切である。この様な観点から、普及段階とサービスが類似している放送環境が異なる地域、放送環境とサービスが類似している普及段階の異なる地域、放送環境と普及段階が類似しているサービスの異なる地域などの調査と分析が今後の課題の1つである。

5.実用的な加入モデルの作成

 加入−非加入の要因が明らかになることは、論理的には加入者、非加入者の予測が可能になることを意味する。この知識は、ケーブルテレビのマーケティングには非常に貴重な情報になる。今回の分析では、途中で因子分析を行って、因子スコアを判別分析のための新たな変数にしている。このため判別分析で得られた一次式を用いて予測を行うことは非常に困難となっている。しかし判別分析の変数としては因子スコアを使わず、因子を構成する変数(ないしは適切に合成した変数)を使うことによって、近似的にこの難点を回避できる可能性がある。また因子概念を考慮しつつ、判別に必要な変数を減らせる可能性もある。どの程度の正判別率が得られるかに依って実用的か否かが決まるが、検討する価値はあるテーマである。

【引用文献】   目次へ戻る


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