2.3 平均値と相関係数で見る傾向     目次へ戻る

 平均値の分離が満足度と関係する可能性を見てきたが、この点は満足度と個別の評価項目の相関が直接的な指標になる。そこで横軸に評価項目の評価値、縦軸に満足度と評価項目の相関係数をとり、各項目の位置づけを整理したのが図4である。

  先に図5を利用して、顧客満足度分析的な見方を示しておく。満足度向上策の観点からは、同図によると、平均値が低くかつ相関係数の大きい領域は重要領域であり、平均値は低いが相関係数が小さい領域は次善領域、平均値が高く相関係数が大きい領域は維持領域、平均値が高く相関係数が小さい領域は特に対策を必要としない領域である。もし満足度が個々の評価項目の何らかの線形関数として表されるとすれば、この考え方はごく自然な解釈である。
 
 

 1.教師の声は聞きやすい            9.教師に威厳を感じる
  2.教師の板書は分かりやすい       19.全体として授業内容は良かった
 3.教師の言葉・説明は分かりやすい 20.他科目に比べ授業内容は良かった
 4.授業では大切な点を強調する     21.宿題は授業理解に有効
 5.教師に質問しやすい             22.授業内容は理解できた
 6.プリントは授業理解に役立つ        23.授業内容は今後に役立ちそう
 7.教師は授業に熱心である       24.この授業に満足している
  8.教師に親しみを感じる

        図4 評価平均値 VS 満足度との相関係数

(注)上図では図の複雑さを避けるためと、後のに横並び比較に備えるために、
  10.〜18.の毎回の授業に関する評価項目は省略した。結果的に見ると、
  これらの項目は残されている項目との相関が強く、残されている項目で
  表現されていることになる。


図5 領域区分の考え方


 この考え方に従えば、図4では「22.授業内容の理解」、「21.宿題の活用」、「5.教師への質問」辺りが重要な改善策となる。また「1.教師の声」、「6.プリント」、「7.教師の熱心さ」は満足度の点ではどうでもよい項目ということになる。

 この様にして満足度の観点から重要な項目の選択を行うことは出来、実用上はそれなりの到達点であるが、研究上の関心からは、図4で垣間見たように、授業満足度が評価項目の関数としてどの様に表せるか、も関心のある問題である。この問題を扱うのが次節である。

2.4 因子分析と回帰分析で見る傾向

 授業満足度を様々な項目の評価値で表わそうとする場合、授業満足度を目的変数、様々な項目の評価値を説明変数とする回帰分析が考えられる。ところがこの場合には、幾つかの問題が予想される。

@回帰式で表せれば、係数の相対的な比較から評価項目が満足度に寄与する程度を知ることが出来るが、この様な比較が有効であるためには、分析に際して採用する説明変数間に相関があってはならない。変数間に相関がある場合、係数の相対的な比較は困難となる(Norusis  1994)。

Aまた採用する従属変数の組み合わせの変更は直接的に回帰係数に影響し、本当の姿を現すことにはならない。

B分析に利用する説明変数が多い場合、従属変数の多くが係数を持つ可能性があるが、これでは話が複雑になり、満足度の背景にある構造を理解することにはならない。

 この様な問題を解決するために有効な方法が因子分析を利用することである。まず多数ある評価項目に対して因子分析を適用し、個々の評価項目を因子の概念に集約することが出来る。これにより問題をより構造的に扱うことができ、Bの問題を回避できる。さらに評価値の代わりに因子スコアを用いると、因子スコアは相互に独立で無相関であるため、@の問題も回避できる。また因子は複数の評価項目を含む概念として形成されるため、採用する評価項目の組み合わせが変わっても、因子が大きく影響を受けることは起こりにくい。この点は若干は評価項目が異なる科目間でも、同様な構造の議論を整理することが出来ることを意味する。この様な点を考えて、沢山の評価項目に対して因子分析を行い、次いで因子スコアを説明変数、満足度を目的変数とする回帰分析を試みた。

 ただしもとより因子分析で抽出された因子が満足度のグループ差に関与する保証はないが、満足度グループがデータの分散を作り出しているとすれば、その分散をもたらしている因子の存在を期待することは無理なことではない。

(1)因子分析の結果
 図1において、1.〜23.の評価項目のうちで10.〜18.を除いた15個の評価項目に因子分析を適用して得た5つの因子の内容を表1に示す。5つの因子は、第1因子が「内容・役立感と理解」、第2因子が「態度印象(熱心・親しみ)」、第3因子が「知識伝達(紙・要点)」、第4因子が「義務的課題」、第5因子が「双方向性」である。これらの因子の命名に際しては、通常通りに因子負荷量を重視したが、さらに後の横断的な比較も考慮し、共通性の高い命名を行っている。そしてこの5つの因子で全分散のの 70.7% をカバーし、主な傾向は説明可能である。なおそれぞれの因子名には因子スコアを表す変数名が、fac51、fac52、fac53、fac54、fac55 で示されている。
 
 表1 評価項目の因子の定義 2000josya             
因子 (平方和、寄与率)        因子の内容
第1因子 (3.9, 27.9%)
fac51:内容・役立感と
    理解
19.全般の内容良好,22.理解可能,3.言葉説明適切,
23.今後に役立つ,20.他科目比較で内容良好, 2.板書分かる
授業が理解可能で、内容が良く、役立つとの評価の因子。
第2因子 (1.9, 13.8%)
fac52:態度印象
    (熱心・親しみ)
7.熱心さ,8.親しみ,
授業における教師の態度の印象に関する因子である。
 
第3因子 (1.4, 10.3%)
fac53:知識伝達
    (紙・要点)
6.プリント有効,4.要点強調,
教師の授業での知識伝達を表す因子である。
 
第4因子 (1.4, 9.9%)
fac54:義務的課題
 
9.教師は威厳ある, 21.宿題有用
主に宿題の有用さの因子である。
 
第5因子 (1.2, 8.7%)
fac55:双方向性
 
1.声聞きやすい(-),5.質問容易
授業での双方向的な情報交換に関する因子である。
 
(注)平方和と寄与率はバリマックス回転後の値である。寄与率の合計は70.7%である。
 

(2)回帰分析の結果
 次にこの5つの因子スコアを説明変数とし、満足度を目的変数とする回帰分析を行った。分析は全説明変数を使う強制投入方式と、寄与の小さい説明変数を排除するステップワイズ方式で行い、結果を比較した。その結果を表2に示す。

 表2 回帰分析の回帰係数                 
  因  子  強制投入方式 ステップワイズ方式
  fac51:内容・役立感と理解    0.653    0.653
  fac52:態度印象(熱心・親しみ)    0.150    0.150
  fac53:知識伝達(紙・要点)    0.074     −
  fac54:義務的課題    0.108     −
  fac55:双方向性    -0.055     −
  定数    2.317    2.317
 重相関係数    0.802    0.785
 寄与率    0.644    0.616
 回帰式の有意性P    0.0000    0.0000

 したがって、授業満足度は次のような式で表されることが分かった。

  授業満足度= 0.653*fac51 + 0.150*fac52 + 0.074*fac53 + 0.108*fac54
                           - 0.055*fac55 + 2.317

主な傾向は次のようにまとめることが出来る。
@授業満足度の情報の64%は、5つの因子スコアの線型1次式(回帰式)で表されている。他の未知の要因の寄与はあるが、それらは36%に留まる。

A因子スコアは標準化され相互に独立しているので、その係数から直接に授業満足度への寄与を知ることが出来る。それによると、「fac51:内容・役立感と理解」は断然満足度への寄与は大きく、次いで「fac52:態度印象(熱心・親しみ)」であるが、前者は後者の4倍以上である。

Bそれらに対して、第3因子から第5因子までの要因は、ステップワイズ方式では無視されたように、満足度にはあまり寄与していない。

 授業満足度が「内容・役立感と理解」、「態度印象」の2つの要因で相当部分が説明されるわけであるので、この授業においては、授業満足度を向上させるには、この2点、とりわけ「内容・役立感と理解」を向上させることが最も効果的である。第3因子から第5因子までの要因は、いわば第1因子を実現するための方法、ないしは支援的な措置となるので、この点からもこの結果は素直に納得される結果である。

 ちなみに回帰式が意味することを分かりやすくするために、満足度グループ別の因子スコアの平均値を図6に示す。因子スコアは各評価項目の評価値の標準化データから合成される。元々の評価値は、好評が1、不評が5の5段階であるため、標準化データでは、負で絶対値が大きいほど好評、正で絶対値が大きいほど不評となる。この傾向を反映して、因子スコアは負で絶対値が大きいほど好評ということになる。図5の因子の5つの軸は外側ほど高く評価されるように作成してある。この図によると、グループ別の相違は歴然としている。最も大きい差は「内容・役立感と理解」の軸で、顕著な有意差が現れており、これが満足度を決める最大の要因であることを如実に示している。したがって「内容・役立感と理解」の面で中間・やや不満層の評価値を高めることが、授業満足度を高めるための当面の最大の課題であると理解できる。

 他の4つの軸については、平均値で見る限りはさしたる差はない。平均値には現れてこない範囲でのデータの分散傾向があるために、回帰係数を持つに至っているが、これらはその程度の問題と理解できる。別の括りで満足度グループを作れば見えてくるが、ここではこれ以上には触れない。

図6 因子スコアで見る満足度グループ別の評価


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