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5.3.5 地域番組を推薦する人たち

 対象地域の加入者8538人のうちで加入を推薦したことのある人は33.8%の2890人である。そのうちの34.7%の1002人が推薦理由に地域を挙げている。それではこの地域推薦の加入者はどの様な人たちなのであろうか。その点を調査結果から見ていく。

(1)推薦の理由

 図5.3.4.2では複数回推薦者と1回推薦者に分けて推薦の理由を見てきたが、ここでは地域番組推薦加入者と地域番組非推薦加入者に分けて、推薦の理由を見てみる。その結果を図5.3.5.1に示す。なお同図では便宜上ウエイトバックした人数を示している。

 同図によると、双方のグループを比較して次のような点が分かる。

  1. 地域番組非推薦者は「ケーブルでいろいろな番組」を上げる比率が若干大きいが、それ以外の部分は全部地域推薦加入者の方が比率が高い。
  2. また地域番組非推薦者は、区域外放送を上げる人が少な目である。
  3. その他については、全般には傾向は一致しており、地域番組推薦加入者の方が推薦度数は高い。


図5.3.5.1 加入推薦の理由

 このように見てくると、地域番組非推薦加入者は、区域外放送への関心も含めて、地域への関心が低い人々と見ることが出来る。また1人当たりの推薦件数を求めると、地域番組推薦加入者は平均で3.4件/人であるが、地域番組非推薦加入者は2.4件/人である。前者の方が推薦理由が多く、その点では様々な面からCATVを評価している人々である可能性が高い。

(2)加入関心と利用満足度

  そこでこの傾向を見るために、図5.3.5.2に加入関心度の点から、また図5.3.5.3には利用満足度の点から、推薦理由区分別のグループの位置づけを試みた。その結果全体としては、加入関心とや利用満足度と推薦理由の対応がつき、おおよその姿はより明確となった。それを以下に列挙する。


図5.3.5.2 推薦理由区分別の加入関心度の因子スコア平均値
平均値の検定:*:0.01<p=<0.05,**:0.001<p=<0.01,***:0.0001=<p<0.001
(注:平均値の検定はウエイトバック以前の標本数による)

  1. 地域番組推薦加入者は、地域コミュニケーションへの関心が高く、CATVの利用でも満足度が最も高い。また専門番組や区域外放送に対しても関心が高く、満足度も高い層である。これらが推薦の順位や推薦理由の多さと対応している。
  2. 地域番組非推薦加入者は、地域コミュニケーションに対しては、関心が低く、利用満足度も低い。しかし専門番組や区域外放送には関心も利用満足も高い水準にある。

 推薦理由の背景には、この様な関心の持ち方、利用満足のあり方が存在することが分かる。


図5.3.5.3 推薦理由区分別の利用満足因子スコアの平均値
平均値の検定:*:0.01<p≦0.05,**:0.001<p≦0.01,***:0.001<p≦0.0001,・・・・

(3)地域情報の情報源

 地域番組を推薦する人達とそうでない人たちがCATVに対してどの様な立場にあるかを見て来たが、それではCATVそのものは様々なメディアの中でどの様に位置づけられているのだろうか。調査では「米子市や周辺で起こった出来事」のの情報を、通常はどの様な情報源から得ているかを聞いている。情報源としては、中海テレビ放送以外にNHKや地元民放、新聞等がある。この設問に対する回答を、先ほどの推薦理由区分のグループ別に集計した結果を図5.3.5.4に示す。グループによって利用メディアの傾向はかなり異なっており、その傾向は次のようなものである。

  1. 地域番組推薦層は全般に利用している情報源が他のグループに比して多い。また中海テレビに依存する比率が高い。利用メディアの上位は、地方紙、NHK総合、地元民放テレビ、中海テレビ放送の順であるが、中海テレビ放送は上位3社に準じる位置を占めている。
  2. これに対して地域番組非推薦層は、地方紙、地元民放テレビ、NHK総合について中海テレビ放送が現れるが、3位と4位の差は大きく、中海テレビ放送は市の広報誌や友人・知人・家族に近い位置となっている。
  3. 無推薦層になるとその傾向はより顕著で、中海テレビ放送は市の広報に次ぐ6位に後退し、メディアとしての位置は低い。

 この様に見てくると、地域番組推薦層は地域情報の収集には熱心で、いろいろな情報源を利用しており、その一環として中海テレビ放送の地域番組を重視している人々であることが想像される。この人達にとっては中海テレビ放送は、NHKや民放と比較すべき位置にある情報源であることが注目される。


図5.3.5.4 推薦理由区分層別の情報源(複数回答)

(4)その他の推薦理由区分層の差

 調査では回答者が地域活動に対してどの様な態度をとっているかを調べている。例えば「町会・自治会の活動への参加」、「地域の年中行事」、「地域の勉強会・研究会」などである。そこで推薦理由区分の各グループ別にその集計を行った。その結果を図5.3.5.5に事例として示す。


図5.3.5.5 町会・自治会の活動(χ2乗:*****。検定はウエイト加重前)

 この結果によると、地域番組推薦層は他の層に比べて、町会や自治会への参加の水準は他のグループに比して、有意に強いものである。見ても明らかであるが、地域番組推薦層の約4割の人が、町会・自治会の活動に積極的に参加している。それに比して他のグループは、15〜16%の水準にある。

 この様に明確に有意な差があり、地域番組推薦層の傾向が強い他の項目としては、「地域の年中行事」、「地域の勉強会・研究会」、「地域のボランティア活動」が該当する。すなわち地域を愛し、地域活動に積極的に参加していく人々と考えることが出来る。またその様な人々なので、米子市の広報誌閲読や中海テレビ放送のパブリック・アクセス・チャンネルの視聴も有意に多い。また性別では若干女性の比率が高く、世帯での立場では、世帯主とその配偶者の比率が若干高い。

 この様に見てくると、CATV加入者の12%弱は存在する地域番組推薦層は、世帯に責任を持ち、地域活動に積極的な人々で、中海テレビ放送の地域コミュニケーション機能に強い関心を持ち、加入後もその効用に満足し、その点から他の知人に中海テレビへの加入を勧めている人々であることが分かる。

 この様な人々の多寡は、地域コミュニケーションのサービスに熱心なCATV局ほど多く存在することが想定され、したがって熱心な局ほどに加入促進効果をもたらすことが期待されるわけである。

5.3.6 参照事例:他のCATV局の満足度と推薦度の構造

 ここでは中海テレビ放送の満足度と推薦度の構造の比較のために、数年前に筆者が首都圏の代表的な都市型CATVのエリアで調査した結果を記述しておく。なおこのエリアでの調査は、元々今回の調査の一環として行ったものではないため、問題意識にも違いがあり、完全に比較するには難点がある。しかしCATVのエリアによって満足度や推薦度の構造に違いがあることを示す限りにおいては有効であるため、ここに記載することとした。なおこの地域は、参照事例としてここに紹介するものであるため、本報告書ではA地域としておく。

 A地域は首都圏のCATV局では一般的なタイプの地域番組サービスを行っていた。すなわち、週に15分程度の広報番組を1本作成し、また地域紹介の30分番組をオプショナルに週1本作成し、それを他地域で制作された様々な番組とともに毎日4回繰り返し放送していた。したがって番組制作スタッフも十分に確保されているとはいいにくい状況にあった。

 このエリアで、CATV加入の満足度と他者への推薦度、さらに満足度を構成すると思われる様々な項目に関する評価を得ていた。そこの中海テレビ放送の場合と同じように、満足度と推薦度を求めた。

(1)利用の満足度の構造

 様々な項目の評価に対する因子分析の結果、分散の73%をカバーする6因子が得られた。さらに総合満足度の回答から、5.3.2(1)で行ったように、満足層、中間層、不満層のグループ化を行い、各グループの満足度の構造を示したのが、図5.3.6.1である。なおこれらのグループの比率は中海テレビ放送の場合とほぼ同じである。抽出された因子は、中海テレビ放送の場合とは異なるものである。このエリアでは区域外再送信のメリットがないために、その因子は存在しない。多チャンネル番組には2つの因子軸があり、1つはニュース・映画系、もう1つはスポーツ・音楽系である。満足層はすべての軸で高い評価を得ているが、中間層と不満層はスポーツ・音楽系の多チャンネル番組の軸で逆転するなど、複雑な傾向を示している。

 この因子スコアを説明変数、総合満足度を目的変数として、回帰分析を行った。その結果を表5.3.6.1に示す。その結果を次のようにまとめることが出来る。

  1. 総合満足度の持っている分散の約27%が回帰式で表現されている。表現されていない部分が多いが、この制約下で次の点が分かる。


    図5.3.6.1 CATVの利用満足に関する因子スコアの平均値(Aエリア)
    平均値の検定:*:0.01<p≦0.05,**:0.001<p≦0.01,***:0.001<p≦0.0001,・・・・


     
    表5.3.6.1  総合満足度の回帰分析の回帰係数
    因子 強制投入方式 ステップワイズ方式
    fq1561:多CH(news,映画等)
    0.308
    全部左同
    fq1562:映像効用
    0.202
     
    fq1563:アンテナ不用効用
    0.173
     
    fq1564:地域効用
    0.122
     
    fq1565:多CH(スポーツ、音楽等)
    0.103
     
    fq1566:安値感(コスト感では負)
    0.204
     
    定数
    2.180
    重相関係数
    0.520
     
    寄与率
    0.270
     
    回帰式の有意性P
    0.0000
     

  2. 満足度に効く順序は、係数の大小で直接比較可能である。
     多CH(news,映画等)>安値感>映像効用>アンテナ不用効用>地域効用>多CH(スポーツ、音楽等)
  3. 満足度に占める地域のウエイトはかなり小さい。

(2)加入の推薦度の構造

 次に推薦度についても同様に分析を行った結果を、図5.3.6.2と表5.3.6.2に示す。推薦度のグループの図5.3.6.2に見る位置づけはかなりシンプルである。非推薦層はどの軸も傾向が弱く内側に入り、中間層はその外側で、推薦層は最も外側にある。推薦グループ間で差が大きいのは4つの因子軸で、それらは多CH(news、映画等)、映像効用、安値感、多CH(スポーツ、音楽等)である。

  この結果を反映して、推薦度の回帰分析の結果もかなり図と整合した結果となっている。寄与率は27%と高くはないが、推薦度への寄与の順は次のようになっている。

 多CH(news,映画等)>映像効用>安値感>多CH(スポーツ,音楽等)>地域効用>アンテナ不用

 この様に見てくると、満足度、推薦度のどちらでもても、地域番組の貢献は小さいものとなっている。中海テレビ放送の場合と比較した利用者の満足の構造の違い、推薦の構造の違いは明確である。ちなみに推薦実績を見ると、加入回答者286名のうちの推薦経験者は80名で、28%である。推薦比率は中海テレビ放送よりも若干下がる水準にある。


図5.3.6.2 加入推薦度別の利用満足に関する因子スコアの平均値(Aエリア)
平均値の検定:*:0.01<p≦0.05,**:0.001<p≦0.01,***:0.001<p≦0.0001,・・・・


 
表5.3.6.2  推薦度の回帰分析の回帰係数
因子 強制投入方式 ステップワイズ方式
fq1561:多CH(news,映画等)
0.303
全部左同
fq1562:映像効用
0.237
 
fq1563:アンテナ不用効用
0.137
 
fq1564:地域効用
0.138
 
fq1565:多CH(スポーツ、音楽等)
0.192
 
fq1566:安値感(コスト感では負)
0.196
 
定数
2.506
 
重相関係数
0.515
 
寄与率
0.265
 
回帰式の有意性P
0.0000
 

5.3.7 まとめと今後の課題

  本節ではCATVが地域コミュニケーションを活発化し、利用者がその点を評価して、その結果として利用者からの口コミの加入推薦が進むことの可能性を明きらかにしてきた。この様な試みは初めてであるが、一定の成果が得られたと考えられる。

  1. CATVの地域によって、ないしはCATVのサービスの方針によって、利用者の満足構造が異なることを提示したこと。中海テレビ放送と首都圏の参照事例のCATV局では、そのサービスへの注力の差と地域条件を反映した満足構造となっている。当然といえば当然であるが、中海テレビ放送の満足度に占める地域コミュニケーションの効用のウエイトは驚きでもある。
  2. 加入者の推薦経験と推薦理由の背景には、満足度の構造が密接に関係していることを実測して提示したこと。

 大きくは以上の2点が今回の研究の成果と考えられる。もとより初めての試みであるため、到達点には不満が残るものの、今後の研究の可能性は大きいものと理解される。その点に立って、今後の課題を整理しておく。

  1. 回帰分析による満足度の寄与率は約32%であり、この水準には不満が残るものである。中海テレビ放送の場合も、参照ケースの場合もほぼ同様な水準にあり、方法論的な問題も考えられる。利用者の満足度は1つの時間断面だけで表せるとは限らない。加入時の関心とその関心の達成水準も影響しうる。これらの点も含め、満足構造の表現法が1つの課題である。
  2. 満足度と推薦度は密接に関係するものの、回帰分析の定式化で分かる通り、これらは別の概念である。推薦度には満足度以外の要因が関与する可能性がある。これらの点が明らかにされることが2番目の課題である。
  3. 口コミでの加入推薦があることが、即加入効果をもたらすとは言い難い。したがって、加入推薦が結果としてどの様な加入状況をもたらしたのかの把握が必要である。その点ではより精緻かつ具体的なデータの収集・調査が必要である。

 全般的に見れば、「地域コミュニケーション効用の加入効果の分析」とも言うべきテーマの可能性を骨格として提示した段階である。今後さらに研究を進め、この研究の延長がCATV局による地域コミュニケーション活動の活発化の促進的な効果をもたらすものとなることが期待されるものである。


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