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はじめに

 インターネットはここ7〜8年の間に急速に普及し、メディアの利用や社会生活に様々な変化をもたらしている。この様な状況下で、筆者は1999〜2002年の4年継続の科研費プロジェクト(1)に参加し、全国の5都市・地域におけるインターネットの普及と利用の状況を調査する機会を持った。その5都市・地域の利用と普及の状況を見ると、変化はまだ過渡的であり、また地域差があるものの、部分的には安定した状況と見られる部分がある。各地域で同じような様相を見せるとすれば、おおよその姿が形成されつつあるものと見なすことも出来、メディア利用の変化や生活変化などを考える際の出発点として、その傾向を利用することも可能となる。そのような資料データ的な役割を期待して、今回の調査で得たインターネットの普及と利用の状況をここで報告することとした。

 なおここではインターネット利用とは、パソコン利用のインターネットに注目し、携帯電話利用のインターネットは含めていない。それは携帯電話利用のインターネットの利用時間は概して短く、相対的に影響は小さいと見なしているためである(2)。またインターネットの利用状況としてはホームページ閲読と電子メールの利用状況を見ていく。

1.調査データの概要    目次へ戻る

 調査は表1に示すように、広島市(1999.12)から日野市(2002.4)まで5地域で行った。都市の種類としては、首都圏にある日野市、地方中核都市の広島市と札幌市、地方都市の諏訪地域(諏訪市、茅野市、岡谷市、下諏訪町を含)と高知市である。調査の項目は、新聞、テレビ、電話、インターネットなどのメディアの利用に関する項目と、情報行動、地域生活に関する項目がある。本報告は、これらの様々な調査項目の中から、インターネットの利用に関する調査データを抜粋して作成したものである。

 調査の方法は、標本抽出は主に階層2段抽出で行い、配布回収は留置法で行った。それらの詳細は末尾の資料に示した。

 また標本抽出に階層法を使っているために、集計法は回収票を基本単位とした集計とともに、地域の全体像を求めるなどの目的に際してはウエイトバック集計を利用した(この場合は集計結果の記載にWB と記している)。
 

表1 調査対象都市、標本数、回収数と調査時期
地域名 調査時期 標本数 有効回収数 回収率%
広島市
1999.12
600
441
75.5
札幌市
2000.4
600
422
70.3
諏訪地域(注)
2000.12
800
480
60.0
高知市
2001.5
779
463
59.4
日野市
2002.4
922
502
54.4

(注)諏訪市、茅野市、岡谷市、下諏訪町を含む。

2.インターネットの普及状況    目次へ戻る

 各調査では、回答者がインターネットを利用し始めた時期を聞いている。そのデータを用いて各調査地点でインターネットがどの様に普及してきたのかを、利用率の推移の観点から推定したのが図1である。なお同図を作成するに際しては、ウエイトバックの集計を行っている。また参考のために、参照例として全国調査の例を2点掲載している。1つはWIP(2000)(3)、あと1つは情報通信白書(2002)(4)である。


図1 インターネットの利用率推移(WB)

 このグラフでは1995年以降を描いているが、幾つかの点で傾向は顕著である。

  1. これらの期間を通じて、どの地域もインターネットの利用率は平均で年率で40%〜70%の水準で順調に増加してきている。
  2. しかし日野市と日野市以外の地域との利用率の差はかなり大きい。日野市は首都圏の中央に位置し、他方で日野市以外は全部地方都市である。つまりこの差は東京圏と地方都市の差と考えられる。この結果によると、地方都市のインターネットの利用率の進展はかなり遅く、おおよそ日野市から1年半〜2年程度の遅れである。ここでの調査例の都市が比較的大きい方であることを考えると、地方小都市との格差はさらに大きく、3〜4年程度の差が生ずることと思われる。
  3. 地方都市の中では、高知市の利用率が1997〜98年頃から急速に増加しているのが目を引く。高知県は1996年から「情報生活維新」と命名した地域情報化政策を活発に行い、インターネ ットの普及に勤めてきた。分析によると高知市のパソコン普及は、例えば諏訪地方とは異なり、インターネット利用が原動力となっており、この点から見ると、情報化政策が普及に貢献しているものと考えられる。
    (なお広島市のデータだけはインターネット利用を自宅だけに限定しており、職場・学校などでの利用を含めていない。この点で他都市よりすこし小さめになっている。)
  4. 日野市の調査では、2000年以降で伸び率が低下しているのが見える。40%前後に成長の変曲点がある可能性がある。なお高知市も減少しているように見えるが、これは調査時期から分かるように、このデータには2001年度は5ヶ月分のみ算入され、そのために減少しているように見えている。
  5. 参考例として添付したWIP調査および情報通信白書のデータは日野市と地方都市のほぼ中央にあり、今回の調査結果とは整合的な傾向を示している。

3.インターネットの接続法    目次へ戻る

 次にそれぞれの調査時点で、利用者が主に利用していたインターネットへの接続法を図2に示す。このデータもウエイトバックをして、地域毎の平均像を表している。この図から次のような点を読みとることが出来る。
  1. 調査時期が後になるほどに、インターネット利用の比率が急速に高まり、全国的な増加傾向を示している。
  2. 全般には電話かISDN利用のナローバンド(狭帯域)の接続が多い。
  3. ケーブルインターネットのサービスが拡充されている地域では、その採用比率は高い。
    札幌市は試験サービスを始めた段階であり、高知市は片方向対応の幹線増幅器を双方向対応に置き換える工事が必要で、サービス地域が限定されている。この様な地域では、十分に利 用者を確保できていない。
  4. 日野市のグラフから、ADSLの利用が急速に増加している様子がよく分かる。
  5. インターネット利用者において、家庭での利用が主である人の割合は、札幌市72%、諏訪地域67%、高知市68%、日野市76%で、どの地域もおよそ70%前後となっている。したがってインターネットは家庭が主な利用場所になっている。

 全般的に見るとインターネットは家庭が主な利用場所になっているということで、利用が生活面でのメディア利用にどの様に影響するのかに関心が持たれる。ところでその際には、接続法がインターネットの利用法に大きい影響を与える可能性がある。それはケーブルインターネットやADSLに代表される固定料金制・高速度転送のブロードバンド環境でインターネットを利用しているのか、それとも電話に代表される従量料金制・低速度転送のナローバンド環境でインターネットを利用しているかにある。そこで次項からは、その区分も念頭に置きながらインターネットの利用状況を説明していく。


図2 インターネットの利用率と主な接続法(WB)

4.ホームページの閲読    目次へ戻る

 インターネット利用の1つとして、ホームページの閲覧の状況を述べる。その際には利用者のインターネット接続法を区別して、ブロードバンド環境にある層とナローバンド環境にある層ごとに傾向を見ていく。

a.ホームページの閲読時間

 調査では回答者のホームページの週の閲読時間を聞いている。その結果の一例を図3に示す。この図は高知市調査の結果で、高知Bはブロードバンド・グループ、高知Nはナローバンド・グループである。この図によると、週3時間以上の人は高知Bでは58%であるのに対して、高知Nでは25%であり、ブロードバンド・グループは閲読時間がかなり長いことが見て取れる。ブロードバンド・グループには週20時間以上という人々が10%近くも居るのに対して、ナローバンド・グループではその様な人は全然居なかった。利用環境差がこの様な差の一因となっていると見られる。χ2乗検定では両者には有意な差がある。ちなみに両者の平均値を推定すると、高知Bは6.6時間/週、高知Nは2.8時間/週で、後者は前者の半分以下である。


図3 高知市調査における週あたりのホームページ閲読時間(χ2乗:p=0.002)

 そこで各地域別・インターネット環境別のHP利用時間/週の平均値を推定した結果を表2に示す。同表によるといずれの地域もブロードバンド環境下の方が利用時間が長い。この場合には4地域平均で5.3時間であるのに対して、ナローバンド環境下では3.2時間である。1日に換算すると、ブロードバンド環境下では約45分/日に対して、ナローバンド環境下では27分である。いずれの場合もホームページ利用はかなりの時間を消費していることが分かる。

 なお地域ごとの差については、理由は定かではない。
 

表2 インターネット環境別のHP利用時間(時間/週)
環境\地域 広島市 札幌市 諏訪地域 高知市 日野市 平均
ブロードバンド
6.1
 − 
4.9
5.9
4.4
5.3
ナローバンド
2.9
3.7
3.5
2.8
3.2
3.2

b.ホームページの利用回数

 次にホームページの利用回数についての集計例を図4に示す。利用回数も明らかにブロードバンド・グループの方が長い。週に10回以上ホームページを見る人は、ブロードバンドでは4割弱であるのに対して、ナローバンドでは1割弱にとどまっている。χ2乗検定でも両者には有意な差がある。両者の平均値を推定すると、高知Bは11回/週弱、高知Nは5回/週強で、後者は前者の半分程度である。利用回数面でも差は大きい。


図4 高知市調査における週あたりのホームページ閲読回数(χ2乗:p=0.0002)

 次に地域別・インターネット環境別のHP利用回数/週の平均値を推定した結果を表3に示す。同表によるといずれの地域もブロードバンド環境下の方が利用回数が多い。この場合には3地域平均で10回/週強であるのに対して、ナローバンド環境下では6回/週強である。1日に換算すると、ブロードバンド環境下では1.4回に対して、ナローバンド環境下では0.8回である。したがってブロードバンド環境下ではナローバンド環境下よりも倍程度の頻度でホームページを利用していることが分かる。
 

表3 インターネット環境別のHP利用回数(1週間)
環境\地域 広島市 札幌市 諏訪地域 高知市 日野市 平均
ブロードバンド
− 
− 
9.6
10.9
9.9
10.1
ナローバンド
− 
5.3
7.1
5.4
6.8
6.4

(注)広島市は設問を置いていない。


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