特集テーマについて
第10回目を迎えた「世界の教科書展」は、シンガポールの教科書の特集とした。最近のシンガポールは、知識基盤社会に対応した、考えることを重視した学校教育を目指しており、教育内容を削減し、思考力の育成よりも技能の確実な習得を目指して改革を進めてきた日本とは対極的な教育方針を掲げる国である。
シンガポールは、華人、マレー人、インド系などからなる多民族国家である。おそらく、やむを得ない選択として、英語を国民の共通語とする教育政策を採用した。しかし、そのことは、国際社会に通用する人材育成の基盤となった。
そして、21世紀を間近かにして採用された政策が、知識基盤経済に対応した人材の育成である。シンガポールは、元来、中継貿易を得意とする商業都市であったけれども、商業だけでは生き残れないという判断があったものと思われる。
そのためにとられた政策のひとつが、小学校の上級学年から中等教育段階で採用された徹底したコース制である。成績下位のクラスでは、母語の授業時数を削り、英語、数学、理科の授業時数を増やしている。この国では、授業時数が多いクラスほど成績が悪いという逆説が成り立つのである。