郵便受箱の誕生

 郵便受箱の始まりはあまり古いものではなく、日本で郵便制度が開始された1871年(明治4年)に、最初の郵便ポストが誕生したのと比べてもかなり浅いものです。その時期は昭和に入ってからで、それも戦後以降に日本が歩んできた高度経済成長期のころだといわれています。正確にいうと、それは、1961年(昭和36年)に郵便法が改正された際、郵便の配達作業を効率化するために高層建築物への郵便受箱設置義務が課せられた時で、その時初めて“郵便受箱”という言葉が使われるようになりました。ここでいう高層建築物とは“地表からの階層が3以上の建築物”のことで、地下に3以上の階層を持つ建築物もその対象とされました。
 それでは、今日どの家庭にでも見られるようになった戸建て住宅用の郵便受けはいつごろから登場したのでしょうか?郵便受箱の開発に携わっている中島さんのお話によれば、郵便受箱という言葉が使われる以前から郵便受けらしきものは存在していたようです。しかしそれは、いまのように頑丈でしっかりしたものではなく、木材などでできた手作りのものでした。地方によっては各家庭に郵便物を配達するのではなく、配達を行う家庭をあらかじめ決めておき、いったん一括配達し、そこから各家庭に分配する形をとっていたところもあったそうです。このことから当時は、各家庭に郵便受箱を設置する必要性があまり高くはなかったと言えるでしょう。
 各家庭に郵便受箱が本格的に設置されるようになったのは、先程述べた1961年の郵便法の改正とほぼ同時期であると推測されます。私の祖父の話によれば、今の家に郵便受箱を設置した時期は、家を建替えた1961年〜1962年であるということでした。これは見事に1961年の郵便法改正の時期と一致しています。さらに、家を建て替えた際に郵便局の職員が直接自宅に訪れ、当時郵便局が試験的に出していた戸建て住宅用の郵便受箱を、設置するように奨励を受けたそうです。その郵便受箱は築35年の我が家であっても、いまだ玄関の門で存在感を示しています。


 つまり、郵便法が改正された1961年に高層建築物への郵便受箱設置義務が課せられたほぼ同時期に、戸建て住宅用の郵便受箱の普及促進が水面下で始められていたと言えます。
 また、中島さんが勤められている会社でも、1963年(昭和38年)から工業製品として郵便受箱の生産が開始されているということなので、本格的に郵便受箱が各家庭に設置されるようになったのは、1960年代の前半であると言えるでしょう。なお1969年(昭和44年)には、郵政省(現 総務省)から郵便受箱の標準規格が設定され、より今日の郵便受箱に近いものになっていきました。