4店の中で最も学校に近い(ということは駅から遠い)店。出津橋のすぐそばにある店。中が薄暗く外からはあまり様子が窺えない。しかし、大量のマンガがあることは知っていた。果たしてどのような店なのだろうか…。店に入ろうとすると、入口の脇に座り読書をする女性が。ビクビクしながらも素通りし、ドアを開ける。すると、その女性が「いらっしゃいませ〜」と言い、店内に入ってきた。店員さんだったようだ。
店名の「のっと」とは、英語で結び目を意味する「knot」から来ている。縁結びの役目を出来ればという想いが込められている。
店内は、2人がけの机×2、4人がけ×1、カウンターと比較的狭い。そんな店を、1988年の開店以来切り盛りするのは、矢部さんご夫妻。ご主人は、若かりし頃から食と深く関わってきている。調理師学校出身で、アルバイトでコックやバーテンダーも経験している。その後は自動車部品に関する仕事もしていた(現在も車の相談を受けるらしい)。そんな、職歴豊富なご主人だが、15年前に今店がある場所が空いたということで喫茶店を始めたという。
奥様は、ちょっと無口なご主人と対照的にとにかくよく喋る・元気な方である。インタビューに応じて頂いた際も、私が1聞くと10答えが返ってくる…くらいだ。
このお2人に加えて店内に居るのは、マルチーズのトム君(オス・6歳)。
客が来ると扉に向かって走ってきて、また、私の膝ほどに高い椅子にも飛び乗る事が出来る。店のマスコット的存在だ。ただ、犬が苦手な人にとっては困るかもしれない。
店内に所狭しと並べられたマンガ本の数々。店内のみならず、倉庫にもあるという。カテゴリーごとにまとめられており(野球モノ、バスケ、作者別…など)長編も揃っている。私が何度か訪れた中では、文教大生らしき男子1名、カップル(2人とも黙々と…)、作業員風の男性…やはり、マンガを読みながら過ごす人が多く見受けられた。
しかし、この大量のマンガ本は、実は矢部さんの趣味ではないという。開店当初は1冊もマンガがなかった。そこにある日、知り合いが20冊ほど持ってきてくれたところ、客からの評判が良く、リクエストも出てきた。そうこうしているうちに5000冊…。
当初、私は「これも一種のマンガ喫茶だ」と思っていたが、矢部さんの「マンガはあくまでサービス」という言葉を聞き誤解だったと知った。マンガを読ませるためだけではなく、食事や、あるいはその他の付加価値を提供するための場なのだ(この点の考察はまた後編で)。
先ほど述べたとおり、職歴豊富なご主人だが、食事へのこだわりもなかなかのものだ。
たとえば、コーヒーは豆を挽くところから始め、「生ジュース」(特にオレンジが人気)はシロップとのバランス、果肉の加減など非常に気を遣う。毎日料理していると、体調や気候によって微妙に味が変わるのがわかり、本当に美味しいと思えるのは年に1、2回だという。
「オススメのメニューは?」と尋ねたところ、「奇抜なものは無いがどれも美味しい」と自信のある回答が返ってきた。
ちなみに私が最もよく利用する「日替わりランチ」は、20種類ものメニュー(チキンカツ、しょうが焼きなど…)から一品、
飲み物つきで650円。コック出身ということもあり、「本当は食事の方がメインだが、他の時間帯にも客に来てもらえるように喫茶もやっている」とのことだ。その話を聞いてから、のっとへの印象は「まんが喫茶」から「洋食屋」に変わった(しかし、引き続き「喫茶店」として調査対象に入れたい)。
〜日替わり定食・ちょっと公開〜
今のところ、以下の3種類を食べた。かなりボリュームがあるのだが、不思議と毎回食べきってしまう。
生姜焼き定食
チキンカツ定食
ポークカツ定食
まず文教大生は、「昔はジャージにサンダルが当たり前だったのに、最近はだいぶオシャレになってきた。」とのこと。また、よく「今時の若い者は…」という言葉を耳にするが、それに対しても「周りが言うほど悪くはない。うるさいと言っても、自分もそうだったし、年をとっても非常識な人もいる」と寛大だ。しかし、毎朝学校の付近で警備員が学生を誘導している点など、もう少し大人になって欲しいとも。
店については、常連客がだいぶ減ってしまったと言う。また、開店当時と比べて客が「ファーストフードやコンビニエンスストアの味に慣れてしまっている」。昔は一人暮らしで自炊しない学生がよく店を利用していたが、今はお腹が満たされれば良い、という、価値観の変化なのだろうか。
喫茶店とは「場所を提供する所」だとご主人は言う。確かに現在は、喫茶店に取って代わる場所が増えている。例えば24時間営業のマンガ喫茶やファミレス、コンビニで気軽に・安く食事を済ませることが出来る。しかし、それらの店にはないものがあるはずだ。その中の1つに、「人間関係」が挙がった。かつて文芸部の人がよく店に来ており、学園祭の時、付き合いで古本を買いに行った、卒業してもたまに足を運んでくれる人がいる…など、お話を聞かせて頂いた。
隣のクリーニング屋と共に経営し、「儲からなくても何とか食べていければよい」と語る矢部さん(ただ、売り上げが落ちては食べていけないので気を遣う)。最近ご無沙汰しているが、また、日替わりランチを食べに行きたくなった。