ゴミ集積場のより良い配置

 

角田 如生

98P21116

 

1.はじめに

自宅から距離の離れた所にあるゴミ集積場まで、大きなゴミの袋を持って歩くのは、誰もが歓迎しない。特にお年寄りには、ゴミ袋を持って歩くのは一苦労である。ゴミ集積場に関する苦情や意見が、よく市役所や町内会長さんに寄せられているそうだ。ゴミ集積場を増やせば歩く距離は減るが、町の景観や回収の手間を考えると、安易に増やすのも考え物だ。

そこで、サンプル地区を設定し、その地区のゴミ集積場配置に関する問題点を検討し、欠点があった場合は、現在あるゴミ集積場の数を変えずに、より効率の良いゴミ集積場の配置を新たに提案したいと思う。最終的にはこの結果を基にして、すべての地区に応用できる配置のアイデアを提案したい。

2章ではモデルにした自分の町内会の現状を、3章ではボロノイ図の説明を、4章ではボロノイ図を用いた現状分析、5章では4章の結果を踏まえた新しい配置を考えていく。

 

 

2.アプローチ

<2-1>現状

実際の地区をサンプルに設定し、問題を考えていく。ここではこの地区のゴミ集積場配置の現状を書く。

この地区ではゴミの集積場の配置をそれぞれの町内会に任せている。この地区の町内会は、20世帯に一つの割合になるようにゴミ集積場の数を決めていた。しかし、具体的にどの場所にゴミ集積場を配置するかについては、大体の見当をつけて何の根拠もないままに配置をしていることが、町内会長さんの証言からわかった。

大体の見当だけで配置されたのでは、町内の住民全員に平等な配置である保障はない。仮におおよそ平等な配置になっていたとしても、人間の勘で決められた配置では、苦情は絶えないだろう。やはり、町内の住民から不満のでないゴミ集積場の配置をするには、数理的な観点から配置を考えていく必要がある。

 

<2-2>問題点

ゴミ集積場に関する苦情で、自宅からの距離に関するもので、『自宅から遠すぎてゴミを捨てるのに不便』というものである。しかし、この苦情は実際に距離を測ってみたわけではないので、まずは実際に距離を測ってどれだけ不便であるかを確かめる必要がある。

 

 

3.手法

<3-1>ボロノイ図

まず、現在あるごみ集積場の配置を検討するために、ボロノイ図を使う。ボロノイ図とは、いくつかある施設(今回はゴミ集積場)のどれが最も近くにあるかを一目で識別するための幾何図形であり、最適施設配置問題を解くための手法である。ここではボロノイ図の説明をする。

1のような平面上に、二つの点pとpがる。これらの点のことを母点と呼ぶ。そこに、図2のような二点間を垂直に二等分する線を描く。線で区切られた場所のことを、ボロノイ領域と呼ぶ。垂直二等分線よりも母点p寄りの領域(水色の領域)をV()とし、母点p寄りの領域(緑色の領域)をV()とする。これが一番簡単な形のボロノイ図である。

1・平面状の2つの母点        図 2 2点間の垂直二等分線

ボロノイ図には、「あるボロノイ領域内の点から、母点までの距離を測ったときに、最も距離が短くなる母点は、領域内にある母点になる」という性質がある。例えば、図3のように、領域V()内にある点aから、それぞれの母点までの直線距離を測ったとき、点aから母点pまでの直線paよりも、母点pまでの直線paの方が短い。つまり、領域V()は最寄りの母点がpである地域を表し、反対に領域V()は最寄りの母点がpである地域を表している。

3・点aに最も近い母点は母点P

4のように、平面上に新しい母点pが増えた場合は、それぞれの母点と母点p

の垂直二等分線を引き、余計な線を消す。すると、図5のような母点が三つの新しいボロノイ図ができる。

4・新たな母点P           図 5・新たなボロノイ図

<3-2>地区のボロノイ図

今回の配置問題では、点で表したゴミ集積場を母点としたボロノイ図を作成し、各家は自分の領域内にある母点(ゴミ集積場)を利用するものとした。このときに各家も点で表した。

実際に家からゴミ集積場までの距離は、道なりに歩いて行く道路距離(道なりに曲がった距離)だが、道路距離と直線距離の二つには高い相関が認められる事が証明されているので[1]、今回は分かり易いように直線距離を移動距離と仮定する。

また、坂道や大きな障害物(踏切など)があると、移動する時の労力に対して、重みを加えたボロノイ図を作成しなければならないが、今回の舞台には急な坂道や大きな障害物は無いので、重み付けのないボロノイ図を使用した。

地区内にはマンションやアパートといった集合住宅があった。マンションにはマンション内の自治会があり、ゴミの処理についても独立していたので、マンションの存在は無視をした。アパートから母点の距離は、母点までの距離×アパートの部屋数、とした。

6は、町内の地図にゴミ集積場を母点とした、ボロノイ図を重ねたものである。町内には25のクリーンステーションがあり、母点にはそれぞれ125の番号をつけた。同じようにボロノイ領域にも125の番号をつけた。25個のボロノイ領域それぞれの世帯数、最長移動距離、最短移動距離、平均移動距離のデータを表にまとめた。

 

6・ゴミ集積場を母点とした町内のボロノイ図

ボロノイ領域

世帯数

最長距離(m)

最短距離(m)

平均距離(m)

1

31

65

20

46

2

33

55

7.8

37

3

16

63

12

38

4

28

63

10

38

5

15

56

15

37

6

16

52

6.8

23

7

15

42

11

25

8

10

37

11

29

9

12

32

7.1

14

10

19

62

12

24

11

16

58

16

38

12

45

50

11

29

13

18

47

11

23

14

6

85

21

46

15

28

60

11

32

16

21

49

15

21

17

48

60

12

36

18

18

41

8.7

27

19

10

38

20

31

20

48

43

15

28

21

8

45

12

26

22

19

56

25

33

23

34

38

11

26

24

36

49

10

34

25

4

29

17

24

1・移動距離のデータ

 

 

4.現状分析

 <4-1>データを見る

前章でまとめたデータを見る。

データを見ると、領域ごとの平均移動距離に差が見られた。領域ごとの平均移動距離とは、家から母点までの距離を一軒ごとに測り、その距離の平均を領域ごとに出したものである。領域ごとの平均移動距離は、地区全体の平均移動距離が約31mであったのに対して、グラフ1のように長い領域で46m、短い領域では14mと差があった。

グラフ 1・ボロノイ領域ごとの平均移動距離

 <4-2>新たな配置の目標

領域ごとの平均移動距離にバラつきがあることが分かった。できるだけ平均移動距離のバラつきをなくし、一部の家には近いが、遠い家もあるという事をさける。つまり、領域ごとの平均移動距離の差を減らしていきたい。

なおかつ、全体の平均移動距離を減らせる事ができたら、ゴミ集積場までの距離が縮まり、今よりも不満の少ない配置となる。

 

 

5.新たな配置

<5-1>母点の移動

4章を見ると、いくつかの領域の移動距離に偏りがあることがわかった。その偏りを埋めるべく、母点を動かしていこうと思う。

グラフ1を見ると、領域1と領域14の平均移動距離が46メートルと長いので、領域1と領域14の母点をそれぞれ移動させてみた。母点を移動するとき、交差点付近や、車の通れない道沿いに移動する事は、現実的に無理なので避けた。また、母点を移動させるときに、オペレーションズ・リサーチの手法を使うこともできたのだが、分かり易いように手作業で移動させた。図7と図8はそれぞれ、母点114を、移動距離が短くなるように移動させ、新たに作成したボロノイ図である。また、そのボロノイ図の移動距離データも表にまとめた。

 

7・母点1を移動させたボロノイ図

 

ボロノイ領域

世帯数

最長距離(m)

最短距離(m)

平均距離(m)

1

33

56

8.7

36

2

32

55

7.8

37

3

16

63

12

38

4

28

63

10

38

5

14

54

15

35

6

16

52

6.8

23

7

15

42

11

25

8

10

37

11

29

9

12

32

7.1

14

10

19

62

12

24

11

16

58

16

38

12

45

50

11

29

13

18

47

11

23

14

6

85

21

46

15

28

60

11

32

16

21

49

15

21

17

48

60

12

36

18

18

41

8.7

27

19

10

38

20

31

20

48

43

15

28

21

8

45

12

26

22

19

56

25

33

23

34

38

11

26

24

36

49

10

34

25

4

29

17

24

2・母点1を移動させた移動距離のデータ

 

8・母点14を移動させたボロノイ図

 

ボロノイ領域

世帯数

最長距離(m)

最短距離(m)

平均距離(m)

1

31

65

20

46

2

33

55

7.8

37

3

16

63

12

38

4

28

63

10

38

5

15

56

15

37

6

16

52

6.8

23

7

15

42

11

25

8

10

37

11

29

9

12

32

7.1

14

10

19

62

12

24

11

16

58

16

38

12

45

50

11

29

13

18

47

11

23

14

4

45

26

37

15

30

60

11

33

16

21

49

15

21

17

48

60

12

36

18

18

41

8.7

27

19

10

38

20

31

20

48

43

15

28

21

8

45

12

26

22

19

56

25

33

23

34

38

11

26

24

36

49

10

34

25

4

29

17

24

3・母点14を移動させた移動距離のデータ

 どちらの母点を動かした場合でも、領域内の平均移動距離を減少させる事ができたので、次は両方の母点を動かしたボロノイ図、図9を作成し、データを表にまとめた。

 

9・母点1と母点14を移動させたボロノイ図

ボロノイ領域

世帯数

最長距離

最短距離

平均距離

1

33

56

8.7

36

2

32

55

7.8

37

3

16

63

12

38

4

28

63

10

38

5

14

54

15

35

6

16

52

6.8

23

7

15

42

11

25

8

10

37

11

29

9

12

32

7.1

14

10

19

62

12

24

11

16

58

16

38

12

45

50

11

29

13

18

47

11

23

14

4

45

26

37

15

30

60

11

33

16

21

49

15

21

17

48

60

12

36

18

18

41

8.7

27

19

10

38

20

31

20

48

43

15

28

21

8

45

12

26

22

19

56

25

33

23

34

38

11

26

24

36

49

10

34

25

4

29

17

24

4・母点1と母点14を移動させた移動距離のデータ

<5-2>新たな配置

グラフ2は、母点114を移動させた時の平均移動距離のデータをまとめた物である。現状の配置のデータと、新たな配置のデータを見比べてみると、現状ではボロノイ領域ごとの平均移動距離の最大が、46メートルだったのに対して、新たな配置では、ボロノイ領域ごとの平均移動距離が38メートルになり、平均移動距離の偏りが改善された。

グラフ 2・ボロノイ領域ごとの平均移動距離

また、地区全体の平均移動距離は現状で31.45mであったのが、新たな配置では30.75mとなり、領域ごとの平均移動距離程ではないが、今までよりも若干ではあるが移動距離を減少させる事に成功した。

 

 

6.結果

 モデル地区の現状のような、大体の目安をつけただけの配置では、苦情の原因となるような移動距離の差があることが分かった。一見しただけでは、どこのゴミ集積場を移動させればよいか分かりずらいが、ボロノイ図のデータを基にして、問題のあるゴミ集積場を発見し、移動させると、移動距離の改善をする事ができた。今回の実験では、移動を二回しか行わなかったが、さらに移動を繰り返す事で移動距離の不平等をなくしていけるだろう。

しかし、今回の実験では、あまり総移動距離を減少させる事はできなかった。これは、このゴミ集積場の数で、総移動距離を大幅に減らすのは難しいという事なのかもしれない。

 

 

7.最後に

 今回の実験では、サンプルの地区のみを見て考えてきたが、その他の地区でも実験し、移動距離の減少をさせることができる事が証明できれば、より価値のある研究になるだろう。

 また、ゴミ集積場を移動させる時に、考え方を難しくしないために手作業で移動させたが、何らかの工夫をしていきたい。

 

 

謝辞

 この卒業研究に取り組むにあたって、多くの人に助けられました。最初から最後まで辛抱強く付合ってくれた根本先生、快く資料を提供してくださった町内会長さん、挫折しそうな時も支えとなってくれた4年生、的確な指摘をしてくれた3年生、本当にありがとうございました。

 

 

参考文献

[1]     最適配置の数理 岡部篤行・鈴木敦夫,朝倉書店