卒業研究


カラオケボックス利用料金設定問題

伊藤 晋


1.はじめに

私は、卒業研究をはじめるにあたって、何か身近なところにある問題をこの研究によって解決したい、と考えた。そして私の周りに存在する問題のなかで、大学入学以来続けているアルバイト先のカラオケ・ボックス(以下”カラオケP”)の売上についての問題が浮かんできた。”カラオケP”ではここのところ売上が低迷しており、何故売上が減少しているのか、どうすれば売上の増加を計れるかと考え、この研究をすることにした。

”カラオケP”の売上には、飲食での売上と貸室料での売上の2種類がある。飲食での売上とは、文字通りお客様がカラオケする際にジュースやお酒を注文して飲んだり、スナック菓子や軽食を食べた分かかる料金である。貸室料での売上とは、カラオケの部屋を使用した際、1時間単位で使用した部屋によりかかる一定の料金である。その貸室料というのは、使用する人数によって変わってくる。一定の人数を越えると料金が1ランク高い部屋に、また一定の人数を越えるとさらに高い料金の部屋に、というふうに(つまり、人数が少なければ安い、多ければ高い料金になる)。また、その料金ごとに部屋の大きさも異なり、部屋の数にも限りがある。

そこで、私が考えたのは、この貸室料金と定員数(制限人数)についてである。”カラオケP”には、定員数によって分けられる4タイプ(全17室)の部屋が用意されており、利用料金も各タイプにより異なっている。私のこれまでの経験と”カラオケP”のデータでは、カラオケに来るお客様は2・3名というパターンが多い(データでは約70%が3名以下)。そのため、最も安い料金の部屋が満室になることが多く、次のランクの料金の部屋になると、少人数のお客様には高いと感じられ、他の店へ行ってしまうことが多い。その他店へ行ってしまうお客様を”カラオケP”に引き付ける料金のシステムにすれば、売上も伸びるのではないかと考え、貸室料金と定員数(制限人数)の見直しを提案したいと考えた。

具体的には、様々な料金システムをシミュレーション実験し、その中から、より良いシステムを"カラオケP”に提案する。


2.現状と問題点

現在”カラオケP”には、定員数の決められた4つのタイプの部屋が存在する。その4つのタイプの部屋をA〜Dタイプと呼ぶことにする。各タイプの部屋数は、Aタイプが4室、Bタイプが8室、Cタイプが4室、Dタイプが1室、の合計17室用意してあり、各タイプの料金・使用率は以下の表1の通りである。

[A]現在のモデル

<表1>「現在の料金システム」

TYPE 制限人数(定員数) 1時間あたりの室料 部屋数
〜5名 1000
〜8名 2000
〜15名 5000
〜20名 10000

<表2>「各室の現在の使用率(タイプ別)」

TYPE 使用率(単位=時間)
581/720(約81%)
536/1440(約37%)
65/720(約9%)
7/180(約4%)

上記の表2のデータは、1997年度11月期の18時〜24時に使用した時間である。11月期は、忘年会が始まる時期なので、”カラオケP”の1年間の中では、忙しくなる時期であり、18時〜24時という時間は、”カラオケP”では、最も利用される時間である。

[B]問題点

  • 忙しい時期にも関わらず、表2を見るとB・C・Dタイプの部屋が使用されることが少ないと感じられる。

  • 最も定員数の少ないAタイプの部屋が5名までという制限人数(定員数)が多いため、仮にAタイプの部屋が4室とも5名で満室になり、その後2名が来店した場合、Aタイプの部屋は¥1000なので5人で入室すると1人¥200で済むのに対し、後から来た2名はBタイプの部屋が¥2000なので1人¥1000かかってしまい、その2組の1人あたりが負担する額に大きな差ができてしまう。”カラオケP”では、そういう事が多くあり、後の2名が入室を拒否し、帰ってしまうという傾向がよく見られる。

  • 上記のような、入室拒否されてしまうお客様の発生により、売上が減少することが問題であると考えられる。

  • そこで、この問題改善へのアプローチとして、利用料金の見直し・制限人数(定員数)の見直しの2つを考えてみる。

    3.料金システムの改善案

    [A]改善の条件

    料金システムを提案するのに、参考として他店の料金システムと比較をしてみる。

    <表3>「”カラオケP”の現在の料金システム」

    TYPE 制限人数(定員数) 1時間あたりの室料 1人当たりの最安額
    〜5名 1000 200
    〜8名 2000 250
    〜15名 5000 330
    〜20名 10000 500

    <表4>「他店の料金システム」

    TYPE 制限人数(定員数) 1時間あたりの室料 1人当たりの最安額
    〜5名 2000 400
    〜8名 3500 440
    〜10名 4500 450
    〜12名 6000 500

  • <表3>および<表4>にある「1人あたりの最安額」とは、各タイプの部屋の制限人数(定員数)で入室した場合に1人当たりが負担する金額のことである。

  • <表3><表4>の「1人あたりの最安額」を比較すると”カラオケP”は、1人にかかる負担が少なく、まだ料金を上げられる余地がある。

  • より良い料金システムを提案するにあたり、他店より安い方がお客様に好まれる店であると感じるので、他店<表4>の「1人あたりの最安額」を越えず、使用率・売上を上げられるシステムを提案したい。

    [B]料金システムの提案

    ここでは、上記の条件を元に制限人数と室料を変更した5パターン(1〜5)の提案を行なう。

    <表5>現在の料金のままで制限人数(定員数)を変更するパターンの提案

    提案パターン→ パターン1 パターン2
    TYPE 1時間あたりの室料 制限人数(定員数) 1人あたりの最安額 制限人数(定員数) 1人あたりの最安額
    1000 〜3名 330 〜4名 250
    2000 〜6名 330 〜7名 285
    5000 〜12名 420 〜14名 360
    10000 〜20名 500 〜20名 500

    <表6>料金を変更するパターンの提案

    改善パターン→ パターン3 パターン4 パターン5
    TYPE 1時間あたりの室料 制限人数(定員数) 1人あたりの最安額 制限人数(定員数) 1人あたりの最安額 制限人数(定員数) 1人あたりの最安額
    800 〜5名 160 〜4名 200 〜3名 270
    1400 〜8名 175 〜7名 200 〜6名 230
    3000 〜15名 200 〜14名 215 〜12名 250
    10000 〜20名 500 〜20名 500 〜20名 500

  • <表5><表6>の料金は、現在の料金と、今後”カラオケP”が改善しようとしている料金である。その料金で制限人数(定員数)を変えた料金システムのパターンである。(5パターン)

    4.シミュレーション実験

    [A]実験の方法

  • ここでは、モンテカルロシミュレーションで”カラオケP”への来店状況を再現し、売上がどのように変動するかを観察する。

    シミュレーションモデルは次のように行なった。

  • 来店組数を20組で、各組の人数を1人〜16人とし(1997年度11月期のデータより)、各々の来店する確率を設定。乱数を発生させ、来店人数の決定とする。

  • 来店人数に合った、各タイプの部屋に入室する事にし、その平均売上を出す。

  • また、新しく提案した料金システムの場合は、料金が変わったことにより入室を拒否される可能性も考えられるため、入室率を100%〜70%で実験を行なう。(入室率とは、お客様が新しい料金システムでも利用する確率のことである。)

  • 上記の方法で現在の料金システムと、提案する料金システム(5パターン)の平均売上を比較し、現在の料金システムより売上の上がる提案料金システムに、評価を与えることにする。また、各タイプの部屋の使用率についても比較をする。

    [B]実験結果

    結果のグラフ

    [C]実験結果の考察

    現在の料金システムより売上の上がる提案料金システムは、パターンAで70%以上の入室率、パターンBで90%以上の入室率、パターンEで100%の入室率を確保できた場合であった。また、各室タイプ別の使用率は、制限人数(定員数)を減らすことにより、Aタイプの部屋は下がったものの、B・C・Dタイプの方は上がった。しかし、売上の上がったものの、パターンAの70%の時、パターンBの90%の時、パターンEの100%の時の結果は、現在のシステムのものと微々たる差でしかなく、入室率がそれを少しでも下回ると、売上が減少してしまう。

    [D]新たな提案

  • 最近、”カラオケP”の近所に某有名カラオケ店’U広場’が、1人¥480(飲み放題)という料金でオープンしたため、飲み放題ではないが、1人¥300、1人¥400の料金で現在の料金システムとの比較をシミュレーション実験した。

    [E]実験結果

    結果のグラフ

    [F]実験結果の考察

    1人ずつの料金制にする場合は、1人¥400であれば、現在の料金システムよりも売上の増加をはかれる。しかし、1人¥400であると<表4>の他店の料金との差がほとんど無くなるため、改善に提案できる料金システムではないと考えた。


    5.結論

    私の本研究の目的である、B・C・Dタイプ各室の使用率と売上の増加を計れる料金システムをシミュレーション実験により算出できた。パターンA・パターンBの場合は、売上自体は多く店側としては良い結果なのだが、料金を変えず、制限人数(定員数)だけ減らしていて、お客様にとっては、料金が上がっただけの形になってしまい、来店者数が減ってしまう可能性が考えられる。パターンEならば、Aタイプは多少上がるが、B・Cタイプの1人あたりの料金が現在より安く設定でき、売上・使用率も、微々たるものではあるが上がり、店にとっても、お客様にとっても優しい料金システムであると考える。このパターンEの料金システムが、今後”カラオケP”改善に役立てられる資料として得られたと考える。また、各タイプの部屋数を、Aタイプを8部屋、Bタイプを5部屋、Cタイプを3部屋、Dタイプを1部屋とすると、来店するお客様に合った部屋数になるという結果を得ることが出来た。


    今後の課題

  • 今回の研究では、部屋数とそれに対する待ち時間を考えた実験が出来なかったため、現実味のあるものが仕上がらなかった。今後の実験では、それらを含め、さらに現実的なものを完成させたいと考えている。

    謝辞

  • 本研究を進めていく上で、研究に取り組む姿勢の悪かった私を温かく見守り、多くのアドバイスをして下さった根本俊男先生、研究中の私を励まし、盛り上げてくれた研究室のメンバー、また資料提供に協力して頂いたカラオケPに心から感謝します。ありがとうございました。