効率の視点から見極める力士の実力と人気

             文教大学 情報学部 経営情報学科 袴田竜雄

 

第一章 はじめに


 私は、スポーツ・格闘技観戦が好きで、多くのスポーツ・格闘技の試合、ゲームを観戦する。今回卒業研究のテーマにした大相撲も現在の若乃花、貴乃花が出てきて騒がれた頃からなんとなくであるが見るようになった。私は大相撲の様な厳しい世界は勝つという実績が全てだと思っていた。そして、勝つ事で番付も上にいき、プロフェッショナルとして金を稼いでいると思っていた。そして、調べてみると大相撲力士の収入制度は月給制であり、やはり番付により給料が決まっていた。だから、勝てなくて番付も上がらない力士は金が稼げないと思った。そして、勝って番付を上げる事でしか大相撲の世界では相撲ファンを楽しませる事が出来ないとも思っていた。しかし、勝つという実績や勝ち続けて番付を上げる事が出来ない力士もいるはずである。そのような力士は、番付が落ちていくだけで、相撲ファンを楽しませる事は出来ないのであろうか? いや、弱くてもファンはいるはずである。では、そのファンを楽しませるためにはどうしたら良いのだろうか? 考えた結果ファンがいるという事は、人気があるという事だと考えた。そして調べた結果、人気という概念が働く懸賞金の存在がキーワードであると思った。つまり、取り組み毎に懸けられる懸賞金という存在があまり勝星を上げられない力士にとって救いだったのである。そのために、相撲ファンを楽しませることができ、厳しい相撲界を生き抜いているのではないのだろうか? この様に思い研究を始めた。

この研究では、懸賞金がどれほど人気を反映しているかを表す。そして、力士にとって人気がどれくらい重要であるかを表す。まず、今年(平成11)6場所幕内全取組の力士成績でどの力士が勝率(勝星/取組数)に関係なく懸賞金を獲得出来ているのかを示す。次に平成11年九州場所終了現在に横綱に在位している4力士のここ3年間(18場所)の勝率(勝星/取組数)と獲得懸賞金本数での比較をする。この結果、やはり人気という概念が幕内の取組に於いて重要であり、逆に懸賞金を稼ぐ力士は人気があるという事が分かった。補足として先ほど述べた様に力士の給料は月給制で番付によって変わる。[1,4]しかし、本論分では、給料の事は考えない。取組に人気という概念だけで懸けられる懸賞金のみを考える。

論文構成は第2章で懸賞金の仕組みについて、第3章では今年(平成11年)6場所の幕内全力士の勝率と獲得懸賞金の動き、第4章では平成11年九州場所終了現在の4横綱の3年間(18場所)比較である。

 

第二章 懸賞金の仕組み


2.1 懸賞金の詳細

懸賞金とは、幕内の取り組みに対し企業が懸け、勝った力士に手渡される賞金である。 現在、賞金は16万円で力士に土俵上で3万円が手渡される。残りの3万円のうち25千円は 相撲協会が預かり、本人名義で積み立てられ、5千円はその取り組みに懸賞を懸けた企業名などの印刷料や場内にふれたりする諸雑費、諸経費などの掲載料に使われる。

決まり事として

@不戦勝の時は懸賞金をもらえない。スポンサーに戻されるか、後日の取組に振り替えられる。

A一場所に1回だけでは駄目で、最低3回は懸けなければならない。

                                   等がある。[1,2,3,4]


2.2
懸賞金と力士の関係

懸賞金は人気に大きく関係していると思われる。企業側は、注目が集まる人気力士、好勝負が予想される取り組みに懸ける。宣伝効果を望むためである。そのため、多くの企業が多くの懸賞金を懸ける取り組みや力士は人気が高いと考えられる。ここで、注意しなければならない事は、力士個人に懸けるのではなく、取り組みに懸けられるという事である。つまり、人気が低い力士Aがいたとする。その力士Aが人気の高い力士Bと取り組みがあったとする。その場合、企業は好取り組みが予想される場合以外は力士Bに勝って欲しいと思ったり、勝つと思っていて力士Bに懸ける。しかし、力士Aは力士Bに勝てば、懸賞金が獲得出来るという事である。逆にいえば、ほとんどの取り組みに懸賞が懸けられる程の人気力士は極端にいえば、勝星・勝率が少なくても良いのである。程よく勝っていれば、懸賞金は他の多くの力士よりも獲得できる。このように人気に大きく影響する懸賞金の存在は幕内の力士に於いて大きく意味のあるものであると思われる。そのようにして効率良く、つまりあまり勝星を上げていなくてもかなり懸賞金を獲得している力士がいるはずである。つまり、実力よりも人気重視の力士であり、人気があるためにあまり危機感を持たずに安心している力士である。このような力士を本論文で「おいしい力士」と呼ぶ事とする。大相撲幕内の中でそのようなおいしい力士がいるか見てみたいと思う。

 

第三章 平成11年度6場所分の全力士成績

 この章では今年(平成11年度)の6場所分を検証してみる。勝星と懸賞金について、幕内の全力士の成績を図で表してみる。[5] 懸賞金が、幕内の力士にとって大きいものかを表してみる。縦軸は懸賞金獲得本数、横軸は勝率(勝星/取組数)である。ここでは全力士のデータを点で示す。場所毎で特徴ある力士を取り上げる。その力士の点には四股名、勝率と獲得懸賞金本数の数値を付した。

懸賞金のデータ

 3.1 平成11年初場所

この場所は千代大海が132敗で優勝した。そして、千秋楽でこの千代大海とあたった若乃花も132敗である。同じ132敗なので、勝率も同じだが、若乃花の方が千代大海より獲得懸賞金本数が35本多い。理由として考えられる事は、人気があり、懸賞が懸けられている取組に効率よく多く勝っているためであろう。そして、8勝しかしていない貴乃花と千代大海を比較するとさすがに千代大海の方が獲得懸賞金本数は多いが、その差は20本しかない。貴乃花に関してもう少し付け足せば、10勝している武双山より14本多く獲得している。つまり、勝星を多く挙げなくても懸賞金を稼げるし、同等の勝星でも獲得懸賞金本数に差が出たという結果である。この場所では若乃花と貴乃花は人気があるために効率よく懸賞金を稼いだ場所を過ごしたといえるだろう。やはり、人気で効率よく稼いでいる力士はいたのである。

 

 3.2 平成11年春場所

 

この場所は全体的に獲得懸賞本数が少ない。それでも人気はハッキリと懸賞金という形で現れている。一番ハッキリしている比較は武蔵丸と若乃花である。若乃花(勝率5割)と優勝した武蔵丸(勝率85)の獲得懸賞本数の差が3本である。そして、前場所優勝の千代大海は、前場所では、若乃花に次いで2番目に多く懸賞金を獲得していたが、今場所は成績が不振で、懸賞金も獲得出来ていない。勝てないにしても若乃花・貴乃花ならば、もっと獲得していたように思えてならない。

 3.3 平成11年夏場所

 

この場所はよく懸賞金のおいしさを表している。まず、曙と武蔵丸の比較である。優勝は武蔵丸。もちろん勝率も1番である。曙は、勝率では、3番目であるが、獲得懸賞金本数は1番である。しかも獲得懸賞金本数2番の武蔵丸との差は9本である。曙の方が武蔵丸より人気がある事がいえるだろう。そして、若乃花と魁皇の比較はもっと明らかである。勝率が8割に達している魁皇が勝率で4割に満たない若乃花に獲得懸賞金本数で下回っているのである。魁皇は圧倒的に勝率で上回っていても獲得懸賞金本数でかなわない若乃花の事をどのように見るのだろうか?興味深い限りである。しかし、若乃花の人気を認めるべきであろう。

 3.4 平成11年名古屋場所

 

この場所は、曙、出島の比較は見ての通りである。だが、武蔵丸に驚いてしまう。武蔵丸は、かなり曙と出島に勝率が近いが、獲得懸賞金本数は19本上回っている。先場所優勝し、今場所横綱に昇進したので、注目が集まり人気が出たのであろう。

 3.5 平成11年秋場所

この場所は、勝率3番目の出島が、1番懸賞金を獲得している。前場所(名古屋場所)の武蔵丸が前々場所(夏場所)優勝して成績が芳しくなくても獲得懸賞本数が1番だったのと同様に、前場所優勝した出島の人気が上がったのであろう。それゆえに勝率で1番を取れなくても獲得懸賞金本数が1番になったのであると思われる。

3.6 平成11年九州場所

この場所では武蔵丸が優勝している。しかし、魁皇はその武蔵丸を獲得懸賞金本数で24本上回っている。前場所優勝していてなおかつ横綱である武蔵丸を獲得懸賞金本数でかなりの大差で上回るという事は、余程注目が集まり人気が出て、懸賞金が多く懸けられる取組に効率よく勝ってきたのであろう。参考程

度に勝率34分しかなくても懸賞金を15本獲得している寺尾の人気はたいしたものである。この場所で1番効率よく懸賞金を稼いだ力士は寺尾だと言えるだろう。

3.7 力士の分類

この様に勝率と懸賞金の関係で見てくると大きく四つに分類できる。まず、A.おいしい力士群、B.主役的力士群、C.実力先行力士群、D.要努力力士群である。Aは勝率が低くても懸賞金を獲得できる人気があるおいしい力士。Bは勝率も獲得懸賞金本数も高い場所の主役的力士。Cは勝率が高く実力はあるが、注目度が低く人気も足らず、今後に期待の力士。Dは人気が無く勝率も低い幕内の下位にいる努力しかない力士。多くの力士は入幕してから人気・勝星という結果も無い。努力して勝星を上げ、番付を上げる。そうしたら注目度が上がり、懸賞金を懸けられ、人気は上がる。しかし、肉体的に衰えが来て人気はあるが勝星は上げられないという力士になる。番付は下がると引退するしかなくなる。つまり、DCBA→引退という構図が予想できる。

 

3.8 観察からの考察  

これまでの勝率と懸賞金の関係では人気と言う概念が大きく影響していて効率よく稼いでいる力士がいるという事は分かっていただけたと思う。若乃花、貴乃花のように誰が見ても人気があるという力士は、毎場所普通に相撲を取っていれば懸賞金はそこそこ獲得出来る。そして、それ以外の多くの力士達は優勝して、世間の注目度を集める事が出来れば次の場所で若乃花、貴乃花と同じ様に効率良く稼げる場所を過ごす事が出来る。しかし、その場所で勝星・勝率という成績が良くないと、再び勝星が多くても懸賞金はそれほど獲得出来ないという効率の悪い力士へ逆戻りである。だが、これが普通なのである。若乃花、貴乃花はやはり今の相撲界にとって特別である。他に名古屋場所の武蔵丸、秋場所の出島は優勝した次の場所は効率の良い場所を過ごした。しかし、春場所の千代大海は初場所で優勝したものの、春場所で成績が良くなかったが、懸賞金も懸けられなかったようだ。人気がまだまだの様である。そして、春場所の頃から武蔵丸の人気が上がってきたように思う。現在(平成11年九州場所後)は横綱であるが、横綱になるか、ならないかという時期に人気が上がってきた様である。やはり、注目度が高いからスポンサーも目を付けたのであろう。

第四章 現在の4横綱の比較

横綱になると効率良く稼げる場所を過ごしているように思われる。だが、果たして本当にそうなのだろうか?第三章までで効率よく懸賞金を稼いでいる力士は若乃花と貴乃花等の横綱であるといえた。しかし、平成11年九州場所終了現在、横綱は4人(貴乃花、若乃花、曙、武蔵丸)である。今章では4横綱の勝率と懸賞金を比較する。これまで検証してきた平成11年の6場所全ての場所で勝率と懸賞金に特徴がなく取り上げない場所もあったが、ここ3年分(18場所)ぐらいの成績で現在の横綱の地位に到達していく過程を見ながら比較してみたいと思う。ここに挙げる4横綱は横綱になった時期が少しずれているが、現在、横綱という地位にいるという事実だけを考えて比較する。3年間(18場所)の比較で、横綱という地位はどれだけ人気があり、効率良く懸賞金を稼いでいるのか?と、4横綱の人気の大きさに違いはあるのか?を示してみたいと思う。

4.1 平成11年の6場所での比較

4.1.1 貴乃花の平成116場所

貴乃花は1年間で144本の懸賞金を獲得している。取組総数は59取組である。取組1つで懸賞金を2.44本獲得した事になる。

4.1.2 若乃花の平成116場所

若乃花は1年間で171本の懸賞金を獲得している。取組総数は48取組である。取組1つで懸賞金を3.56本獲得した事になる。

4.1.3 曙の平成116場所

曙は1年間で83本の懸賞金を獲得している。取組総数は34取組である。取組1つで懸賞金を2.44本獲得した事になる。

4.1.4 武蔵丸の平成116場所

武蔵丸は1年間で233本の懸賞金を獲得している。取組総数は90取組である。取組1つで懸賞金を2.59本獲得した事になる。

4.1.5 4横綱の数的比較

力士名

取組総数

獲得懸賞金総数

平均獲得懸賞金

貴乃花

59

144

2.4406

若乃花

48

171

3.5625

34

83

2.4411

武蔵丸

90

233

2.5888

この1年間での4横綱の比較をしてみる。武蔵丸は、獲得懸賞金本数が1番である。しかし、若乃花と比べると平均で約1本分違いがある。取組総数も武蔵丸はフル出場(90取組)しているが、若乃花は、約半分(48取組)である。それなのに1つの取組で約1本懸賞金が違うという事はかなり若乃花の人気が大きいといえる。4横綱の1年間をまとめて表してみると良く分かる。

4.1.6 4横綱の1年間

貴乃花、若乃花、曙の3力士は変化が激しい。それに比べて、武蔵丸は、かなり変化が小さく成績は落ち着いている。獲得懸賞金本数もかなり他の3横綱に差を付けている。平成11年の1年間は武蔵丸が中心であったといえる。

 

4.2 4横綱の3年間

 この表は4横綱の3年間の成績である。3.7の力士の分類からこの表を見るとさすがに横綱であると言える。勝率、獲得懸賞金本数ともに実力先行力士、主役的力士に位置付けている。しかし動きに違いがあるのでより細かく比較してみる。4横綱の平均で見てみると武蔵丸は実力先行力士であり、若乃花は多くをおいしい力士群として過ごしている事が分かる。幕内全力士の成績で見ると分かり辛いが、4横綱の平均で比較する事でより詳しい4横綱の特徴を見極める事が出来た。ここでは表をより見やすくするため全日程を休場した場所は除外した。

 

第五章 まとめ

研究を進めていくうちに気付いた事がある。どの横綱(を含めた番付上位力士)もまだ横綱(番付上位力士)になる前は、負けが込んで来ても15日間出続けて少しでも勝星を上げようとがんばっていた。しかし、横綱(番付上位力士)になってからの数場所を見てみると、負けが続くとすぐに休んでしまっておもしろくない。厳しい世界だから、体にガタがきているのかもしれないが、番付を下げたくないという考えが見え、自分の保身を考えているように見えてきた。悪いことではないが相撲ファンにとっては、少し物足りない。こうなってくるともう引退しかないのであろう。人気があれば、少ししか勝てなくても懸賞金が獲得でき、おいしい場所を過ごす事が出来る。つまり、効率よく稼げる。しかし、そればかりでは通用しない。懸賞金が多く懸けられる取組だけ勝っていても勝星が少なければ番付は下がる。そうなってしまえば、懸賞を懸けるスポンサー側も宣伝効果を考えるため、注目が集まりにくい下位の取組に好き好んで懸賞金は懸けないだろう。余程、人気があり、番付が下位でも注目が集まる力士なら懸賞金制度はお得だが、そうではない多くの力士は勝星を上げて番付を上げる事で上位陣との取組を考えなければ懸賞金はあまり意味がない。簡単に甘い蜜を吸い続けられるほど相撲界は甘くないのである。しかし、効率良く懸賞金を稼いでいる力士は確かにいた。それ加えて力士を4つのタイプに分類する事が出来た。つまり幕内にいるという事は実力があるという事であるが、人気ばかり先行してくると引退が近いという事である。

幕内の今後予想

若乃花が初場所から春場所、夏場所、名古屋場所と確実に成績を落としていった。だから、引退だと予想していたが秋場所で少し踏みとどまった。しかし、九州場所でまた休場した。もう、若乃花には後が無いであろう。次の場所後に引退が今度こそあるかもしれない。貴乃花、曙も全盛期の勢いは感じられず、下降中であろう。それにしても武蔵丸は、今年(平成11年)は6場所(90取組)して4度の優勝に輝いた。しばらくは武蔵丸の時代だろう。しかし、人気の面で見ればしばらくは、というか引退するまでは若乃花と貴乃花の時代であろう。

第六章 今後の課題

今後の課題としては、もっと多くの力士の比較をする事、勝星と懸賞金の関係により確実に近い引退予想の提案である。もっと長い時間で多くの力士を見比べてみれば何かの手法が見つかるかもしれない。そうする事で、より緻密なタイプ分けが可能であると思う。

謝辞

今回、卒業研究論文作成にあたり多くの方々に感謝しております。まず、いたらない私に大変ためになる助言、あたたかな叱咤激励を頂き、そして、多大な時間を割いて下さった根本俊男先生、次に根本研究室の4年生、3年生、そして卒業なさった根本研究室第一期生の皆様にも大変感謝しております。ありがとうございました。

参考文献

                

    [1]スポーツ用語   Newton DataBase 教育社

    [2]大相撲の事典     高橋 義孝  監修    三省堂

    [3]ものしり雑学 大相撲  北出  清五郎 著

    三笠書房 知的 生き方文庫

    [4]熱血!名力士列伝  「スポーツ・グラフィック ナンバー」編

            文春文庫 ビジュアル版

以上[1][4] 懸賞金の仕組み・詳細

  [5]スポーツニッポン   スポーツニッポン新聞東京本社   

        場所毎の幕内力士の獲得懸賞金本数