3.科目横断的な比較       目次へ進む

 同様な分析を他の5科目についても行っているので、その結果を相互比較が可能な総括表を作成した。それを表3に示す。授業の種類が異なったり、授業によって評価項目が若干異なったり、また同じ科目でも受講生数の変化など何らかの理由で授業進行が異なるので、すべての授業が同じ満足度の構造を持つことは考えにくい。その結果として、現れてくる因子の概念は、往々にして若干は異なることがあろう。その様な差が現れることを想定しながら表3は作成されている。

 6つの授業科目で、合計では13個の因子が現れた。類似しているものもあるが、出来るだけ素直にデータを反映した名称を付けた。また回帰分析はどの場合も、寄与率は65%弱から90%弱までの範囲にあり、いずれの場合も明らかにされた最も重要な因子より重要な未知の要因が存在する可能性は低い。

 主な傾向は下記の様になる。
@どの授業科目でも、授業満足度を左右する最も重要な要因は、「内容・役立感と理解」である。「99コンピュータと通信A」では、この要因は1つの因子とならずに2つの因子となっ て現れているが、この2つがこの因子を作るとみることが出来る。つまり最も重要なのは、授業で伝える内容が良く、後に役に立つと感じられ、また受講生が内容を理解出来る授業であることである。

A次いで多く現れてきたのは、「双方向性」である。質問がしやすいこと、相互に意志疎通が容易になされることが重要である。

B次いで「知識伝達(声)」、「義務的課題」、態度印象(好感)」、「態度印象(熱心・親しみ)」が挙げられる。

Cこの様にみてくると、大筋は「内容・役立ち感と理解」で決まり、補足的に「双方向性」が貢献し、他には特に注目を要するものは無い。

Dさらに授業科目の平均満足度の傾向と回帰係数の傾向をみていくと、満足度が低い場合には「内容・役立ち感と理解」の係数が相対的に大きく、満足度が高くなると「内容・役立ち感と理解」の係数が小さくなり、他の因子の寄与が効果を持つようになる、ことが分かる。

  表3 回帰分析結果の横断的比較
       2000情社 99情社 2000コ通A 99コ通A 99コ通B 99コ基応
平均満足度(評価人数) 2.33(61) 2.29(31) 2.44(36) 3.09(35) 2.15(26) 1.65(20)
因子分析
 
因子数   5   5   5   5   5   3
カバーした分散  70.7%  72.9%  73.3%  74.2%  72.2% 79.0%
回帰分析(注) 説明変数となる因子
 

 

 

 

 

 
内容・役立感と理解  .653 #   -  .870 #  .918 #  .500 #  .468 #
内容と役立感   -  .480 #   -   -   -   -
内容と理解   -  .434 #   -   -   -   -
双方向性 -.055  .285 #  .195  .419 #  .050  .264 #
知識伝達(声)   -   -  .509 #  .211   -  .260 #
知識伝達(紙・要点)  .074   -   -   -   -   -
知識伝達(紙)   -   -   -  .232   -   -
知識伝達(説明)   -   -   -   -  .140   -
義務的課題  .108  .191 #   -   -   -   -
態度印象(好感)   -   -  .151   -  .178 #   -
態度印象(熱心・親しみ)  .150 #   -   -   -   -   -
態度印象(親しみ・好感)   -   -   -  .131   -   -
態度印象(熱心さ)   -  .056  .137   -  .031   -
定数 2.317 2.290 2.444 3.118 2.120 1.684
重相関係数 寄与率 分散分析でのP  .802 .644 .0000  .851 .724 .0000  .836 .699 .0000  .869 .755 .0000  .829 .688 .0003  .890 .792 .0000
(注)
1.回帰分析は、因子分析で得られた因子スコアを説明変数とし、授業の満足度を目的変数として、行っている。
2.「説明変数となる因子」の欄では、数値の記入されている因子がその授業に対する因子分析で得られた因子である。−印は、因子がなかったことを示す。
3.回帰分析は、全変数を投入する「強制投入法」で行っている。寄与の小さい変数を無視する「ステップワイズ法」では、# 印を付けた説明変数だけが同じ係数値で採用されている。この点で、# 印の因子に注目することの合理性がある。
 

 結局、授業の満足度を高めるには、「役立つ可能性の高い内容の授業を、学生が理解できるように行う」のが第1である。それをより効果的に行うために、「双方向の意志疎通を確保」し、次いで「知識伝達」の方法を工夫し、「態度印象」にも気を配る、ということが重要だ、というのが結論の骨子である。ある意味では当たり前のことが再確認されたと言ってもいいかも知れない。

 表にはこの骨子以外に、科目別の差の論点もあり得るが、ここでは議論は省略する。

4.考察

 3〜4年前から、授業満足度がどの様な要因から構成されているのかについて、若干気になり始めた。そこで幾つかの科目を予備的に分析してみると、満足度の構造がありそうだという目安が得られた。そこで評価項目を調整して、データを集めて分析を行い、今回の報告に至った。しかし議論が足りない点が目につく。それらを今後の課題として整理してみる。

 まず評価項目であるが、正確な把握をするには、適切な評価項目の選択が必要である。今回の分析で用いている評価項目は、情報学部で一般的に用いられていた項目に加えて、自分が検証したいと考えた「教師の接触印象」や「授業内容」などを加えている。取りあえず選んでみた、と言う項目である。ところが具体的な寄与率の範囲をみると、決定的に貢献する因子とはとは言わないまでも、まだ満足度に貢献する未知の因子の存在があることが見て取れる。この点では、評価項目には追加の余地がある。

 次は分析結果の汎用性の問題である。狭く考えれば、今回の報告は筆者の授業についての、満足度の構造である。しかしその辺はどうだろうか。結果から見ると、満足度の要因の中心は、「内容・役立感と理解」である。学生に残る知識や概念には、教師の個人性は反映しにくいように思える。さらに学生は評価に際して、暗黙のうちに受講中の他科目と比較を行うことであろう。すると個人性は弱まることが考えられる。それに対して教師の個人性が前面に出る「態度印象」や「知識伝達」の因子は、概して満足度への寄与が小さい。とすると今回報告した満足度の構造は、教師個人に依存しない、汎用性のある構造とも考えられる。この辺は今後の検証に期待したいところである。しかし検証の結果、もし満足度の構造が個人個人によって異なることが分かれば、これはこれでかなり面白い議論である。教師の採用試験のあり方が大きく変わるかも知れない。

 次は分析の効果と限界の例である。コンピュータと通信Aはコンピュータと通信の仕組みに関する授業である。この種の授業はどちらかと言えば、広報学科の学生には取っつきにくい授業である。99年の満足度評価値がかなり低かったため、2000年には授業で取り上げる項目を減らし、丁寧かつ双方向的な要素を増やした。結果としては、満足度は高まり、少し易しくした寄与もあろうが、試験の成績も平均で10点余り程度上昇した。ところが2000情報社会では、99年に比して人数が倍増した。その結果として、授業では課題の提出と返却が十分には出来なかった。その効果か、マージナルな学生の増加もあったようだが、試験の成績は平均点で10点程度下がった。しかし満足度には双方に差はなかった。この様な具体的な例は、教師が満足度を解釈して利用する際の効用と限界を示していると考えられる。その様な限界を踏まえた上での利用が必要である。満足度は注目すべきではあるが、断片的な1つの指標に過ぎないと考えるべきである。

 ところで今回報告をまとめるに際して、はじめて教育評価関係の文献(例えば、梶田 1994)に目を通して、教育目標の分類体系の存在を知った。その中では授業を実験計画的に設計する概念が提唱されている。この中においては授業調査のための調査という概念はなく、終了時の授業調査を含めた授業設計が先行している。明示的な意図を含めた授業設計、その成果を検証する授業評価の考え方である。当然と言えば当然だが、この様な観点からの授業評価のあり方、満足度の研究も今後の重要な課題である。

  最後に、本報告では不可避的に私の成績を表すような授業評価データを利用している。これらのデータは読者諸兄のものと比較すると、あまり芳しくなく、公表には耐えられないものかもしれない。もしその様に感じられた場合には、この研究成果を生かした今後の改善努力に免じて、ご容赦をお願いする次第である。

【引用文献】

梶田叡一(1994)「教育評価 第2版」有斐閣双書 (1994.3) 第5章 PP.127-157

小林勝法(1993),「文教大学教員の教育改善に対する意向と実態」,文教大学教育研究所紀要  第2号(1993.9) PP.39-51

丹治哲雄(1996),「学生による授業評価アンケートを用いた授業改善の試み(T)」,文教大学教育研究所紀要 第5号(1996.11)  PP.111-115

丹治哲雄(1997),「学生による授業評価アンケートを用いた授業改善の試み(U)」文教大学教育研究所紀要 第6号(1997.11) PP.33-41

M. J. Norusis(1994)著、SPSS社訳「SPSS for Windows Base System 統計編 Release 6.0J(日本語版)」エス・ピー・エス・エス(株) PP.12-31

サイト例1  http://www.shonan.bunkyo.ac.jp/~ishizuka/

サイト例2  http://www.osakac.ac.jp/erc/index.html
             http://www.info.nara-k.ac.jp/~matsuo/JYUGYO/QUESTIONNAIRE
                    /questionnaire_index.html
             http://tanaka.ecn.fpu.ac.jp/infosys_questions_00.html
             http://www.aichi-gakuin.ac.jp/~daiusami/minpososoku/inquiry.html


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