7.考察    目次へ戻る

  ここではこれまで述べてきた調査データの傾向を集約し、今後の研究の方向性・課題をまとめる。
 まず最初はメカニズムに関する基本的な考え方である。調査では、減少Gはテレビ視聴においては情報適性に関する不満傾向があり、移行した先のHP閲読では快適コミュニティをはじめとして、相互啓発、愛着などの生活文化的な満足を実現していることが明らかになっている。この移行をどの様に解釈するかという点が問題である。これらの満足・効用がテレビ視聴で感じている不満点とどの様に対応してくるのか、それとも単純な対応にはならないのだろうか。この点について幾つかの可能性を整理してみると、次のようになるであろう。

ケース1.テレビへの不満とHPでの効用の対応関係が成り立つ場合
 テレビへの不満は、情報選択意欲、情報追求意欲が高い人が、より適切な情報を求めにくい点あった。それが快適コミュニティや相互啓発で解決されると考えるのは次のような見方による。適切な情報が得られるということは、その情報が疑問内容や必要とするタイミングと対応づけられ、さらに同時に情報の信頼性が保証されることが必要である。実はこの様な条件を保証してくれる可能性を持つのが、相互啓発や愛着を伴う人々の交流関係であり、今まで述べてきた快適コミュニティである。必要な情報は信頼できる他者との討論や種々の教示から得ることが出来て、さらに討論を通じて相互啓発し、好循環的に愛着が深まることとなろう。この様にしてテレビ視聴が内包していた問題が、HPの利用で解決されることになるのである。これが最初の考え方である。

ケース2.テレビへの不満はHPでの効用の一部と対応する場合
 例えばテレビの問題は快適コミュニティで解決されるにしても、同時に発生する「居心地の良さ」や「こだわり」などは、本来的にはテレビとはあまり関係のない効用と考えられる。したがって部分的には新たな効用がHP利用に発生しているという解釈が成り立つ。
 そもそもインターネットに伴うメディア利用の変化は、テレビとインターネットの間だけで生じている問題ではない。八ッ橋ら(2001)によると、HPの利用に伴う主なメディア利用の変化は、大筋としてはテレビ+新聞、本・雑誌、家族や友人との会話が減少し、HPが増加する形で起こっている。したがってこの場合には、テレビ以外の不満が新たにHPで実現される効用で解決されることも起こりうるのである。
 このように見てくると、個々の4メディアでの不満が、HP利用で解決される訳で、HPの効用はこのような関係を前提として考えなければならなくなる。この場合の研究の方法としては、既存4メディアの利用上の問題とともに、4メディアの効用も調査し、これらの問題と効用の両方がHPの効用と対応してくる姿を明らかにすることで、移行のダイナミズムを理解することが出来るであろう。

ケース3.テレビへの不満がHPでの効用とは対応しない場合
 この場合には既存4メディアの問題点とHPの効用の対応関係はなく、ただし時間だけが整合的に配分されると考えることになる。調査データの中には睡眠時間の減少がある。睡眠時間がインターネット利用に移行するとしたら、効用に対応を付けることは難しい。またメディアの効用が時代の経過とともに変化すると考える場合もある。例えば電話は台数が少ない時代には、電話の効用は利便性で、人々は相互にシェアして利用効率を高めていたが、現在では「おしゃべり」が中心となるに至っており、効用そのものが変わってしまっている(吉井1992)。
この様な場合には対応関係を付けることは出来ない。またこの様な場合が、メディアの社会へのインパクトが最も大きい普及形態となるであろう。

 これらのケースのどれが最も有力かはまだ定かではない。またあるタイムスパンをおいて、ケース1.からケース2.を経てケース3.へ徐々に移行することもあり得る。いずれにせよこの様な枠組みを念頭に置きつつ、ケース2.に対応した研究を進めることが有効と考えることが出来る。その中で、今回の予備的な分析が垣間見せた移行のメカニズムのより正確な議論が出来ることとなろう。

 さらに今後の課題を加えるとすれば、次のような点が上げられる。
@本研究では網掛け式に多くの満足要因に関する設問を設け、因子分析を適用して概念整理を 行ってきている。これは便法ではあるが、標準化に伴う不便さもある。その点では満足要因 の評価尺度を作成することが必要である。
A既存メディアからインターネットへの移行を促進する環境として、固定接続がある。固定接続環境下では、移行や満足変化の計測がよりやり易くなる。この様な環境下での調査が望まれる。

  最後に本報告の調査は文教大学情報学部教育研究特別予算によって行われたことを付記します。

(注)報告によるとテレビと新聞はそれぞれが独立の依存を減らすわけではなく、インターネットの利用とともに新聞が減ってテレビが増えることもある。ただし「テレビ+新聞」は減少傾向があり、そこでここではテレビ+新聞とした。
 

【引用文献】
川本勝他 2000「科研費テーマ:地域情報化と社会生活システムの変容に関する実証的研究」
  (研究代表 川本勝)1999〜2002 における広島、諏訪、高知などの調査データ。
田崎篤郎・吉井博明・八ッ橋武明 2001、「メディア・エコロジーの現状 −帯広市−」、 2001.8 p.11
橋元良明・三上俊治・吉井博明 2001、「インターネットの利用動向に関する実態調査報告書 2000」、
  2001.1 通信総合研究所 p.94
フランク・ゴーブル著 小口忠彦訳「マズローの心理学」産能大出版部 1972
    第3章〜第6章を参考にした。
八ッ橋武明 2000、「ケーブルテレビの加入決定要因」 マス・コミュニケーション研究 
  第57号 2000.8  pp.78-94
八ッ橋武明・川本勝・三上俊治・竹下俊郎・御堂岡潔・古川良治・大谷奈緒子 2001
 「インターネットと生活メディアの変容」 第18回情報通信学会報告 2001.6.17 (東洋大学)
吉井博明 1992、「家庭における電話利用の実態とヘビーユーザの行動」
  文教大学情報学部報告書 1992.2
吉井博明・三上俊治・箕浦康子 2000、「メディア・エコロジーの現状 −武蔵野・三鷹市−」、
  2000.8 メディアエコロジー研究会 p.43


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