まとめと今後の課題
3.3節を終わるに際して、この節で述べてきたことをまとめて、今後の課題を整理する。
インターネットのウェブは様々な人が利用し、様々な効用を得ている。その効用は因子分析によると、ウェブコミュニティ性、情報利便性、それに副次利便性の3つに集約できることが分かった。そこでウェブコミュニティ性と情報利便性に着目し、インターネットの利用者をグループ分けしたところ、ウェブコミュニティ性と情報利便性が双方ともに強いウェブコミュニティG、情報利便性のみが強い情報利便G、それに両方とも弱い非効用Gの3グループが形成された。情報利便性は通常のインターネット利用者に該当する効用であるため、ウェブコミュニティ性が強いが情報利便性が弱いグループは出来なかった。
この3グループのうちで、ウェブコミュニティGは利用者全体の2割弱であるが、このグループはインターネットの利用を満喫していると見られるグループであった。インターネットの利用時間が最も長く、インターネットを情報入手のみならず、コミュニティの場として利用している人々であった。また従来メディアからインターネットへの移行が最も顕著なのもこのグループであった。この人々はウェブに長く滞留し、いわば生活文化的な価値を伴う場としてウェブを生活環境的に利用する人々であった。その結果として、生活時間の再配分が起こり、他の様々なメディアの利用が減少するという構図である。したがってこのメディア移行の要因は、従来メディアに代替して起こるものではなく、新たな価値を持つ生活を実現するものとして起こることが考えられる。したがって人生観や価値観、さらには何らかの性癖など、その人のパーソナリティに関与する先有傾向が、メディア移行の源泉である可能性が強いのである。
これに対して情報利便Gは6割強のインターネット利用者が該当するが、インターネットを情報活動に便利なツールとして使い、機能的な利便性のみに魅せられた人々である。したがってこのグループの利用の仕方は、用事が済めばインターネットを終了する用件閲読が中心である。したがって機能的なメディア移行は起こり、従来メディアの利用時間が減少する可能性はあるものの、その程度は大きいものではない。結果としてはメディア移行は低水準となっている。
最後の非効用Gは2割弱のインターネット利用者が該当するが、インターネットにはあまり好感を持たす、本来なら触れたくないが仕事の立場上からインターネットを利用することを強いられている人々である。高学歴で年齢層が概して高いところに多い。この様な利用状況であるから、利用満足度も低く、利用時間も短い。結果としてはこのグループではメディア移行は起こらない。オフィスの情報化は、本人の意向とは関係なく進むので、この様な不適応的なグループが発生することは、ごく自然にあり得ることである。
この様なウェブの効用とメディア移行の関係は明らかに出来たが、次の論点はメディア移行を左右する先有傾向は何か、ということである。結局はウェブ効用の3グループを分ける要因は何かとの観点で分析を進め、有力候補として情報態度に関する3つの要因を抽出した。判別分析を適用すると、判別率の点では不満が残る精度ではあるが、それなりの水準で判別が出来、今後のさらなる研究の可能性が示されたと考えられる。今後はより幅広く先有傾向となりうる要因を検討し、より精緻な分析を行う必要があると考えられる。
今後インターネットはさらに普及し、われわれの生活にさらに影響する存在になる。その様なメディア利用を左右する要因が明らかになることは、様々な実用面での有用な知見となるだけではなく、人のメディア利用のメカニズムの解明という点でも、研究上のきわめて興味ある課題である。
- 八ッ橋武明(2000)「インターネットの利用に伴うメディア移行メカニズムの研究」
『情報研究』(文教大学情報学部紀要) No.26 2001.12
http://www.bunkyo.ac.jp/~yatsuha/kenkyu/kenb2/kenb2idx.html- NHK放送文化研究所(2002) 「日本人の生活時間・2000」NHK出版 2002.1
- 川浦泰至(1998) 「情報欲求と情報行動」広告月報, 1998年1月号,42-47.
http://www8.plala.or.jp/revir/works/1998/aor/aor1.html