はじめに
インターネットは多くの人々に利用され,またプライベート・趣味での利用が多いために,テレビ視聴と自由時間をどのように取り合うか等の代替性は関心を持たれるところである(三矢他2002,原他2002).そこでパソコン・インターネットの利用がテレビ視聴とどの様な代替性を持つかのメカニズムに関心を持ち,インターネット・ウェブの利用と満足を調査した.その過程でウェブ利用の効用面からウェブ利用者のセグメント化を試み,ウェブコミュニティグループ,情報利便グループ,低効用グループという利用者タイプの分類が可能であり,それぞれのグループにはインターネットの利用実態や利用特性において,特徴的な相違があることが分かった.すなわち効用差がメディア利用差を作り出している.
またパーソナリティとも呼ぶべき個人的傾向がウェブ利用をどの様に規定するのかの観点から,情報欲求と呼ばれる項目の分析を行い,その結果ウェブ効用タイプのグループ形成を規定しうる要因が得られた.この要因はインターネットの利用行動を左右し,また他のメディア利用をも左右しうるものである.
この様にメディア利用を規定しうる要因に関する幾つかの興味ある知見が得られたため,ここに調査成果を報告することとした.なお本研究は,科学研究費補助金による調査研究(川本他2003)において行われたものである.
今回の報告に利用しているデータは,2002年3〜4月にかけて東京都日野市で実施した「情報と地域生活に関するアンケート」の中で得られたものである.調査はメディア利用と地域の生活について多岐に及んでいるが,今回の報告のデータはその中の幾つかを利用して行うものである.
標本作成はケーブルテレビ加入者と非加入者に分けて層化2段抽出で行った.標本数は922,有効回収数は502,有効回収率は54.4%である.調査は留置法で行った.標本数と有効回収数を表1に示す.
表1 標本と回収数 区分 標本数 有効回収数 有効回収率 CATV加入者 237 132 55.7%再送信加入者 298 89 29.9%非CATV加入者 387 281 72.6%合計 922 502 54.4%
日野調査における有効回答数502人のうちで,インターネット利用者は283人である.この人達によるインターネット利用後のメディア利用時間変化の質問に対する回答を,表2に示す.最も変化した比率が高いのはテレビ視聴時間で,「やや減った」と「減った」の合計が30%弱であり,「増えた」,「やや増えた」は誰もいない.このデータは,テレビからインターネットへある程度でも時間配分が移行していることを示している.なおその他の項目では増えたと答えたのが若干あるが,概して減った方が大きく,本・雑誌は24%,新聞は17%の人が減少したと回答している.なお同様な結果は他にも幾つか報告されている(例えば橋元2001a,橋元 2001b).
表2 インターネットで生じたメディア利用時間変化 % n=238 項目 増えた やや増えた 変わらない やや減った 減った テレビ視聴時間 0.0 0.0 70.6 21.8 7.6本・雑誌読書時間 0.4 2.1 73.9 19.3 4.2新聞閲読時間 0.0 1.7 81.1 11.3 5.9これらの変化の原因としては,インターネットの持つ多面的な効用(情報入手やコミュニケーションの結果として得られる当事者へのメリット・効果)が有力と考えられる.例えばテレビ視聴では,インターネット・ウェブのネットサーフィンを楽しむことで自由時間を相当に消費し,テレビを見る時間がなくなり,結果としてはテレビ視聴時間を減らすことになる.つまりインターネットのウェブの利用を左右する最も大きい要因は,本人がウェブの利用からどのような満足,ないしは効用を得ているのかにあると考えられる.その効用によって,利用時間の長短は左右されるであろう.そこでウェブ利用の効用面を調べるために,ウェブの利用と満足を調査した.
インターネットのウェブの効用の種類としては,情報入手等の利便性を中心とした機能的満足に関する効用や,情報交換による仲間意識や居心地の良さなどの生活文化的な満足に係わる効用が考えられる.これらの個別的な項目(設問)についてはマズローの心理学(ゴーブル1972)を参考にして,15個の設問を設定した.満足の種類としては,知識欲,自己表現,成長性,癒し,生活浸透,コンサマトリー,自尊心,愛・集団帰属,利便性を考え,項目を設定した.また予備的な調査(八ッ橋2001)を参考にした.ウェブの利用と満足については,政治情報に関するウェブ利用(Kayeet.al 2002),テレビとの等機能代替に関するウェブ利用(Ferguson et.al 2000)の調査結果があり,これらも参考にした.
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図1 ホームページの効用評価の平均値の分布
平均値の検定:*:p≦0.05,**:p≦0.01,***:p≦0.001,****:p≦0.0001まず具体的な設問と集計結果を図1に示す.ここでは幾つかは実際の設問を短く記述して示している.調査では,例えば同図中の「14a.欲しい情報が短時間で得られる」については,回答者がこの様な効用を感じる度合を,「1.よくある」から「4.全くない」までの4段階で回答を求めている.これらの回答をグループ別に平均したのが同図である.なおここでは,テレビ視聴の場合について2.1で述べた「変わらない」を不変グループ(以降はG),「やや減った」と「減った」を減少Gとしてグループを作成し,グループ毎の平均値を求めている.この図から次の点を知ることが出来る.
- 不変Gは概して全体の平均の左側にあるのに対して,減少Gは右側にあること.つまり減少Gは評価対象の全部の効用について,ウェブから多くの効用を得ている.
- 全体での効用の高い項目(上部)では減少Gと不変Gの評価には有意差はない.つまり誰でも評価する共通性の高い項目では両者には差は小さい.これらは「14a.欲しい情報が短時間で得られる」,「14b.最新の情報が得られる」などで,これらは機能的利便性に関する効用である.
- 評価項目の下の方が概して両者の差は大きく,差が有意となる効用も増す.有意差の度合の高い効用は減少Gに特に強く現れる.これらは「14n.HP(ホームページ)で予期しない発見や展開がある」,「14k.居心地のいいHPがある」などで,これらが減少Gの特徴点を表わすことになると考えられる.
表3 ウェブの効用の因子分析結果 因子(平方和,寄与率) 対応する変数(係数の大きい順↓ → ↓) 第1因子 (4.93, 35.2%)
ウェブコミュニティ性14j.仲間/帰属意識を感じる 14m.予期しない発見展開がある
14k.居心地がいいHPがある 14o.主張が他者に受け入れ
14l.情報交換で触発される 14h.感激するページがある
14n.自分の考えが成長する 14i.自分好みのページがある
◎仲間意識と居心地感のあるHPで情報交換・人脈が出来て快適な
コミュニティが形成される.第2因子 (3.17, 22.7%)
情報利便性14b.最新の情報が得られる 14d.趣味に役立つ情報がある
14a.情報が短時間で得られる 14g.HPは面白い
◎欲しい情報,最新の情報,趣味に役立つ情報が簡単に得られる.第3因子 (1.71, 12.2%)
副次利便性14e.HPでの予約・買い物が便利だ
14f.編集・配信などで再利用できる便利さがある.
◎予約や買い物に利用したり,HPの情報を再利用したりする(注)平方和と寄与率はバリマックス回転後の値である.寄与率の合計は70.1%である.
次ぎにこれらの因子が減少Gと不変Gでどの様に異なる傾向を持っているかを見るために,因子スコアの平均値を調べた.その結果を図2に示している.3つの因子軸は外側へ行くほどに,その因子の傾向が強まることを示しており,因子名の右についている* の印は,平均値の分離の有意性を示している.また各因子軸の0は全体の平均の位置を示している.
この図から以下が分かる.
- 第1因子ウェブコミュニティ性には,不変Gと減少Gの間で有意差があり,減少Gでは明らかにその傾向が不変Gよりも強い.
- 第2因子情報利便性,第3因子副次利便性は,両方ともに0の近くにあり,両グループ間には注目する差はない.
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図2 テレビ視聴時間変化グループ別のウェブ
効用因子スコア ***:分散分析 p≦0.001すなわち,様々なウェブ効用のうちでウェブコミュニティ性を活用している人は,概してテレビの視聴時間が減少し,そうでない人はテレビの視聴時間は変わらない,と言うことが出来る.情報利便性と副次利便性は,”利便性”の言葉に象徴されるように,効率概念である.それに対してウェブコミュニティ性は,”仲間意識”や”居心地の良さ”に象徴されるように生活文化的な概念である.したがって利便性の観点からウェブを利用している限りにおいては,テレビからインターネットへ利用時間が移行することはないが,コミュニティとしてのウェブ利用の度合が高まると,テレビからインターネットへの利用時間の移行が起こる可能性が高いと言うことが出来る.このことは同時に,テレビでは得られない効用,ないしは機能を求めてインターネットへの移行が起こることを示しており,等機能的なメディアの移行ではない点が,非常に興味が持たれることである.
次にはこれらの傾向をより実体的に見るために,因子を代表する利用者タイプのグループを作り,グループとしてのメディア利用行動の傾向を見ていく.
前項で述べた3因子のうちでも,特に関心を惹くのは,生活文化的効用としてのウェブコミュニティ性と利便性因子のうちの情報利便性である.そこでその2つの因子に着目し,次のようにグループ形成を行った.まずそれぞれの因子の因子得点は,表4 a.に示すように,8個ないしは4個の変数(回答の標準化データ)の1次結合として表される.これらはそれぞれ因子負荷量の大きい順に書かれており,符号はすべて正である.そこでウェブコミュニティ性については,表4b.に示すように,14j〜14mまでの上位5つの設問の回答そのものを合計するという新たなスケールを考え,これが5〜10となる回答者を「ウエブコミュニティ性:強」とし,11〜20の回答者を,「ウェブコミュニティ性:弱」と区分した.すなわち「ウェブコミュニティ性:強」とは,14j〜14mの5つの設問のすべてにおいて,「1.よくある」か「2.時々ある」のどちらかに回答した人々であり,「ウェブコミュニティ性:弱」はそれ以外の人々である.
表4 新たな区分の考え方 a.因子得点の構成
ウェブコミュニティ性の因子得点 : 14j,14k,14l,14n,14m,14o,14h,14i 情報利便性の因子得点 : 14b,14a,14d,14g b.新たなスケール
ウェブコミュニティ性 : 14j+14k+14l+14n+14m = 5〜10
11〜20→
→ウェブ・コミュニティ性 強
ウェブ・コミュニティ性 弱情報利便性 : 14b+14a+14d = 3〜6
7〜12→
→情報利便性 強
情報利便性 弱次に情報利便性については,14b〜14dまでの上位3つの変数を利用し,ウェブコミュニティ性の場合と同じ考え方で,表4b.に示すように,強弱のグループ分けを行った.
次に表4 b.のグループ分けを実際のデータに適用して表5を得た(1).グループ形成の傾向としては,8割強の人,つまり大部分の人は情報利便性を強く感じている.その人達197人のうちの46人が,さらにウェブコミュニティ性を感じている.ここではこのタイプをウェブコミュニティグループ(A)と呼ぶことにする.これは両方の指向性が強いグループで,全体の約2割の人数である.次にウェブコミュニティ性が弱いが情報利便性が強いタイプがあり,これを情報利便グループ(B)と呼ぶ.このタイプは全体の約6割が該当する最も大きいグループである.最後に両方の効用をともに強くは感じないタイプが約2割居り,ここではこれを低効用グループと呼ぶ.
表5 ウェブ効用のタイプと人数分布 ウェブコミュニティ性 強 弱 情報利便性 強 A:ウェブコミュニティG
46人(19.3%)B:情報利便G
151人(63.5%)弱 −
−C:低効用G
41人(17.2%)情報利便性は弱いがウェブコミュニティ性が強いというタイプは誰もいない,と言う点も注目される.これは情報利便性はインターネット利用者にはかなり普遍的な効用であり,ウェブコミュニティ性はそれに上積みされる効用であることを示している.
以下ではこれらの3グループについて,そのグループの傾向を見ていく.