4.ウェブ効用タイプとパーソナリティ
ウェブの効用タイプがインターネット利用行動を特徴付けていることを見てきたが,もう少しメディア利用から離れた,個人的性格ないしはパーソナリティなどの個人的傾向がどの様にメディア利用を規定しうるかは,興味ある問題である.この様な要因として先行的には情報欲求が検討されている(川浦1998).先行研究の場合にはテレビ,新聞,雑誌,CDなどの多様なメディアと情報欲求の関係が横断的に検討されている.今回の調査では先行研究にある情報欲求の項目の幾つかを変更し,ウェブ効用タイプとの関係を調べた.
情報欲求に関する設問は,例えば「A.世の中の出来事や流行は人よりも早く知りたい方である」に対して回答者が該当する度合を,「1.よくあてはまる」〜「4.まったくあてはまらない」の選択肢で聞いている.この設問に対する回答をウェブ効用タイプのグループ別に平均値で集計した結果を図8に示す.
同図は全体の平均が1に近い順に上から設問項目が配列してある.また非インターネット層も図中に記載されている.同図によるとウェブ効用タイプの3グループは,グラフ上では明確に分かれている.さらにウェブコミュニティGはすべての設問で出現が最も多く,低効用Gはすべての質問で出現が少なく,情報利便Gは中間にある.また設問によって分離は拡大したり縮小したり,様々である.
そこで因子分析を使って,議論を簡略化することを試みた.その結果を表8に示す.
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図8 情報欲求の平均値の分布
平均値の検定:**:p≦0.01,***:p≦0.001,****:Sig.≦0.0001
表8 情報欲求の因 子分析結果 因子(平方和,寄与率) 対応する変数(係数の大きい順↓ → ↓) 第1因子 (2.94, 24.5%)
情報追求度22f.詳しく知るに時間を惜しまない
22e.詳しく知るにお金を惜しまない
22h.欲しい情報は納得行くまで探す
22g.欲しい情報はすぐでも手に入れたい
22d.人に負けない詳しい領域を持ちたい
◎時間やお金を惜しまず,納得行くまで情報を追求しようとする度合を示す.第2因子 (2.63, 21.9%)
情報認知度22b.世の中の話題を人より詳しく知りたい
22a.出来事や流行を人より早く知りたい
22c.いろいろなことを知っていたい
22k.周囲の知ることを知らないと落ち着かない
22l.物事を分からないままにするのは我慢出来ない
◎諸々の事柄を,とりあえずは知っておきたいと言う度合を示す.第3因子 (2.00, 16.7%)
情報共有度22j.価値ある情報は多くの人に伝えたい
22i.自分の考えを多くの人に伝えたい
◎自分の情報を他人と共有したいとする度合を示す.(注)平方和と寄与率はバリマックス回転後の値である.寄与率の合計は63.1%である.
この様にして作成した因子がどの様な特性を持つのかを,因子得点と他の設問や変数との相関係数を求めることによって調べた.その主な結果を表9に示す.同表によると,情報追求度とウェブ利用は密接に関係し,情報追求度が強まるほどにウェブの利用度合が増すことが分かる(2).またCATVの専門番組などの選択的なテレビ利用度合も増加し,情報追求の熱心さという点では双方は共通している.
次に情報共有度であるが,この傾向が強いほどウェブコミュニティグループになりやすいことを示し,ウェブ利用と関係を持つ因子であることが分かる.
最後は情報認知度であるが,この因子はインターネットとは関係なく,地上波テレビ放送と密接に関係している.特に民放の総合編成局の視聴度合,テレビ視聴時間の長さと強い関係を持つ因子である.
表9 情報態度の因子と様々な変数との相関 a.情報追求度 b.情報認知度 c.情報共有度 情報追求度が強いほど・・・・
・ウェブを見る回数が多い ***
・ウェブを見る時間が長い ***
・定期的に見るサイトが多い ***
・情報利便性が強い ***
・掲示板記入時間が長い **
・掲示板閲読時間が長い *
・用件閲読の傾向が強い ***
・テレビ視聴時間が少ない ***
・CATV等非地上波放送のチャンネルレパートリーが多い ***
・年齢は若い **
・高学歴である ***情報認知度が強いほど・・・
・インターネットでテレビ視聴時間が減らない *
・テレビ視聴時間が長い **
・TBS,テレ朝などの民放局をよく見る ***
・地上波放送のチャンネルレパートリーが多い **情報共有度が強いほど・・・
・ウェブコミュニティ性が強い *
・環境閲読の傾向が強い ***
・年齢が若い ***Peason *:p≦0.05,**:p≦0.01,***:p≦0.001,****:p≦0.0001
そこで情報追求度を横軸,情報共有度を縦軸として,ウェブ効用タイプの3グループの散布図を作成したのが図9である.3グループは情報欲求の因子によって有意に分離して位置づけられ,情報欲求がメディアの利用を規定していることを示している.すなわちウェブコミュニティGは情報追求度,情報共有度ともに強く,情報利便Gは情報追求度は強いが情報共有度は平均的であり,低効用Gは情報追求度は平均的だが情報共有度は弱い.この3グループ以外の非インターネット利用者はここには記入されていないが,情報共有度は平均的,情報追求度はさらに弱いところにある.この結果は情報欲求がインターネット利用行動を規定しうる量であるものとして,興味が持たれる点である.
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図9 情報態度の因子スコア平均値の散布図
平均値の分離は,縦方向も横方向もp≦0.05で有意
インターネット・ウェブの効用に着目し,利用と満足の方法で利用者のタイプ分けを行った結果,特徴ある3つのグループが形成された.これらはまとめると以下になる.
利用者全体の2割弱であるウェブコミュニティGは,インターネットの利用を満喫しているグループである.この人々はウェブに長く滞留し,いわば生活文化的な価値を伴う場としてウェブを生活環境的に利用する人々である.その結果として,生活時間の再配分が起こり,他の様々なメディアの利用が減少するという構図が可能である.したがってテレビからインターネットへの移行で考えると,テレビではコミュニティ的な要素は弱いので,このメディア移行は,従来メディアに代替して起こるものではなく,新たな価値を持つ生活を実現するものとして起こると考えられる.したがって等機能的な代替ではない移行である.おそらくテレビのコンサマトリー的な利用が減少することとなろう.
これに対して情報利便Gは6割強のインターネット利用者が該当するが,インターネットを情報活動に便利なツールとして使い,機能的な利便性のみに魅せられた人々である.このグループの利用の仕方は,用事が済めばインターネットを終了する用件閲読が中心である.この限りにおいては,例えばテレビのコンサマトリー的な利用に影響を与えにくく,結果としてはテレビからの移行は低水準となる.
最後の低効用Gは2割弱のインターネット利用者が該当するが,インターネットにはあまり好感を持たず,本来なら触れたくないが仕事の立場上から利用することを強いられていると見られる人々である.このグループの存在は,インターネットの普及の広範さを示しているが,同時に誰にも等しく受け入れられる汎用的なメディアが存在しにくいことも示している.
これまではウェブ効用タイプとインターネット利用行動の関係を述べてきたが,同時にこの中でメディアの移行ないしは棲み分けを左右しうる要因,もう少し一般化するとメディア利用を規定する要因についても述べてきた.現段階ではまだこれらの要因の抽出は不十分で,調査結果から問題提起している段階である.今後はこの種の要因の探索・明確化を進め,さらにはそれらの要因を利用したメディア移行(例えばテレビからインターネットへの移行)やメディア選択のメカニズムを研究することが関心の持てる課題である.これらの研究を通じて,多メディア時代のメディア利用やメディア効果の仕組みをよりよく理解できるようになると思われる.
なお本調査のデータは,東京都日野市という一地域で得られたものであるが,最近の他地域の類似調査でも同様な傾向が得られていることを付け加えておきたい.
謝辞 目次へ戻る
この調査研究の実施においては,駒沢大学川本勝教授を代表とするニューメディア研究会のメンバーの各位から様々なご教示を頂いた.ここに謝意を表します.
1.区分の方法については,直接に因子得点を用いて,ウェブコミュニティ性が強弱のグループ,情報利便性が強弱のグループを作り,表5の形式で4つのグループを作る方法もある.しかしこの場合は因子得点は標本内の相対的な関係を示すものであるために,調査のナマの回答からグループを特徴付けることが難しくなる.このためにこの方法は採用しなかった.
2.情報追求度は,実はインターネットの利用度合と密接に関係する指標である.例えばインターネットの利用・非利用の判別を,この指標1つで判別率60%(正閏相関係数0.267)で判別出来る.興味あることだが,この量は実は学歴とも密接に関係する.中卒,高卒,短大・専門卒,大学・大学院卒の4つの区分で平均値を求めると,弱→強に単調に傾向が強まり,平均値の分離はp=0.0000で有意である.教育の効果の一つは,情報追求度を高めることと理解することが出来る.
- 川浦泰至(1998):「情報欲求と情報行動」 『広告月報』,1998年1月号,42-47頁
http://www8.plala.or.jp/revir/works/1998/aor/aor1.html- 川本勝他(2003):『地域情報化と社会生活システムの変容に関する実証的研究』
;平成11〜14年度科学研究費補助金(基盤(A)(1))研究成果報告書- ゴーブル,F 小口忠彦訳(1972):『マズローの心理学』産能大出版部 1972 第3章〜第6章を参考にした.
- 橋元良明,三上俊治,吉井博明(2001a):『インターネットの利用動向に関する実態調査報告書 2000』, 2001.1 通信総合研究所 144頁
- 橋元良明他(2001b):「2000年日本人のインターネット利用に関する調査研究」 『東京大学社会情報研究所調査研究紀要』No.15(2001.3),59-144頁
- 原由美子,重森万紀(2002):「インターネットユーザのテレビ観」 『放送研究と調査』 2002.6,14-27頁
- 三矢恵子,荒牧 央,中野佐知子(2002):「広がるインターネット,しかしテレビとは大差」 『放送研究と調査』 2002.4,2-21頁
- 八ッ橋武明(2001):「インターネットの利用に伴うメディア移行メカニズムの研究」 『情報研究』(文教大学情報学部紀要) No.26(2001.12),181-200頁
http://www.bunkyo.ac.jp/~yatsuha/kenkyu/kenb2/kenb2idx.html- Ferguson,D.A. and Perse,E.M.,(2000):"The World Wide Web as a Functional Alternative to Television.",Journal of Broadcasting & Electronic Media, 44(2), pp.155-174
- Kaye,B.K., and Johnson,T.J.,(2002):"Online and in the know:Uses and Gratifications of the Web for Political Information.",Journal of Broadcasting & Electronic Media, 46(1), pp.54-71