まとめ                                                目次へ戻る
 これまで述べてきた分析の結果をまとめて今後の課題について考えてみたい。加入決定過程の分析では以下の点が明らかになった。

@現在のケーブルテレビの加入決定は世帯単位で行われ、しかも世帯主や主婦が主導するコンセンサス型で、家族に消極者がいると加入には至りにくい。
Aケーブルテレビには様々な効用があり、加入者はその幾つかに反応して加入している。今回の調査では、多チャンネル指向の層が二割、映像向上・アンテナ不要指向の層が二割、その混合型指向の層が四割、地域等指向の層が一割であった。調査地域では都市難視が強い傾向にあったので、映像向上を挙げた世帯は多かった。
B加入世帯と非加入世帯の壁は必ずしも厚くはないようだ。アンテナ不要、番組内容認知、衛星放送加入などの実益が見えれば加入に至る層が、ある程度の規模で存在すると考えられる。
C利用者の加入意向と言う点では、ケーブルテレビと現在の衛星放送とは競合してはいない。「地上波→ケーブルテレビ」と、「地上波→衛星放送→ケーブルテレビ」の二つのパスはそれぞれの母集団に対して同程度の比率で存在しうると見られる。
  またケーブルテレビの様々な効用評価と推薦度の分析からは次の点が明らかになった。
D知人への推薦の可否では、約三割強の加入者は「躊躇なく勧める」だが、約半分は「勧めるが若干躊躇する」で、一割強は「勧めたくない」となっている。
E推薦に対して強く効く効用の項目は、否定的な面では「基本料」と「加入料」で、割高との評価である。他方肯定的な面では、「広告が少ない」や「色々な番組が選べる」がある。映画・音楽やニュースなどの専門番組は前面には出てこない。
E効用を大きくまとめてみると、推薦度に効く順序は、多チャンネル効用、局サービス効用、料金感、代替効用の順である。

 今回の調査は数多くあるケーブルテレビ局の一つを取り上げたものであるが、コンセンサス型の加入決定過程は、多くのケーブルテレビ局に共通して存在するものではないかと思われる。と言うのは、ケーブルテレビ局へのヒアリング調査に際しては、大方の経営者から「なかなか加入して貰えないが、一度加入すると止めないのが不思議だ」と言う話を聞く。今回の調査結果は「家族に反対者がいないから、止める世帯がない」ということで加入の安定的継続性を説明している。この様な状況が生まれる背景には、世帯利用という位置づけ、そして魅力の決定力が小さい、にもかかわらず費用が割高である、と言う構図があると考えられる。これらをクリアーした世帯だけしか加入者になれないということであり、これが低加入率の源泉と思われるためである。

 そうは言っても残されている課題は多々あるし、一つの入り口が開いてきた、という印象の方が強い。今回の調査では、衛星放送からケーブルテレビへの移行の可能性を示したが、計測結果の事実として示すことは出来なかった。それはケーブルテレビの非加入世帯のサンプルに、集計可能な程度の衛星放送加入者が含まれるとは考えなかったためである。しかし衛星放送加入者はかなり増加し、無作為抽出のサンプルでも調べられる規模になってきた。これを踏まえると、地上波テレビ、衛星放送、ケーブルテレビの間でのメディア選択の問題を実証的に扱うことが出来る。どの様な人が、何を重視して、どの様なテレビ・メディアを選択するのか、これは人々の情報行動の観点で興味ある問題であるだけでなく、規制市場から自由市場へ変化しつつあるテレビ産業にとって新しく重要度の高い問題領域であろう。この観点からすれば、研究領域は著しく拡大しつつあると理解される。


次へ進む