最近BSテレビの普及は著しく、加えて多チャンネル・ケーブルテレビ、CSテレビのサービスもあり、さらに今後はCSディジタルテレビが開始されるなど、テレビ・メディアの選択性が増加しつつある。人々がこれらのメディアをどの様に選択するのか、メディアの棲み分けがどの様になるのかは、情報行動面で興味ある問題であるだけでなく、各メディアの順調な発展を促すためにも重要な知見である。他方、1980年代中頃から始まった30〜40チャンネルの番組を提供する多チャンネル・ケーブルテレビ(1)は、専門チャンネルを付加価値とする点では、多メディア時代の画期的な出発点と見ることが出来る。この種のケーブルテレビ局は1989年に始まった通信衛星による番組配信事業で誕生を促進され、今日に至っている。しかしこの様にして誕生した多くのケーブルテレビ局は、特に地上波の多い大都市圏では、概して加入者の伸びが遅く、事業経営は厳しい状況にある。
そこで筆者はこの様な問題を解く鍵の一つは、加入に関する受容実態の知見にあると考え、普及過程の観点から加入に的を絞って、
を明らかにするための調査を行った。そのうちでも1と2に関する点については、既に報告をしている(八ッ橋(1995))。今回は判別分析を利用した3の結果について、冒頭に述べた問題意識を背景にしつつ、ここで報告する。
- 加入と非加入の意志決定過程
- 加入者の満足状況
- 加入層と非加入層の違い
今回の報告ではケーブルテレビの加入・非加入だけでなく、BSテレビの加入・非加入も検討対象に入れている。当初は意図しなかったが、BSテレビは加入者が増加し、無作為抽出のサンプルでも調べられる規模になってきた。これを踏まえ、地上波テレビ、BSテレビ、ケーブルテレビの間でのメディア選択の相違をもたらしている要因を検討した(2)。ケーブルテレビは地域性を帯びた事業である。したがって今回報告する一地点での調査結果で普遍性を主張するつもりはないが、興味ある知見も得られており、問題提起の意味合いも含めて報告を行う。
なお多チャンネル・ケーブルテレビの加入者と非加入者の比較については、戸村(1992)、池田(1995)がある。これらのついては後に触れることにする。
調査は、ケーブルテレビの多チャンネル・サービス加入世帯と非加入世帯を対象とし、設問は部分的には共通化した。世帯主/配偶者のテレビ視聴態度、ケーブルテレビ/地上波テレビの評価、情報機器所有、都市難視状況、ケーブルテレビへの加入/非加入決定のプロセス、ケーブルテレビ/地上波テレビの視聴状況などである。加入に係わる項目を調査対象としたため、調査は世帯主を回答者とした世帯調査(視聴状況等の一部は個人調査)である。なお調査項目の設定に際しては、事前の加入者5名とのグループインタビューでの知見とともに、西野等(1993)を参考にした。
調査対象のケーブルテレビ局としては、地上波のチャンネル数の多い首都圏に着目し、かつ営業年数が比較的長いケーブルテレビ局として、(株)横浜ケーブルビジョン(YCV)を選んだ。YCVは1980年代中頃に各地で開始された電鉄系のケーブルテレビ事業の1つで、相模鉄道(株)が親企業となっている。対象エリアは横浜市旭区・泉区で、相模鉄道沿線の新興住宅地と若干の旧市街地が混在し、起伏に富む丘陵地である。このため都市難視は比較的強く、また住宅地開発の時期に伴う住民世代のライフサイクルの影響で、高齢世帯が多いと見られる。調査時点での対象世帯数10.8万戸、多チャンネル・サービスの加入率は約8%、営業年数は6年である。サービスは、映像14チャンネル、音声9チャンネル、加入料・工事費は7.5万円、基本料は3千円/月である。サービスや料金の水準は首都圏の各地の多チャンネル・ケーブルテレビの平均像である。
調査の方法は、郵送法によるアンケート調査である。サンプルはYCVエリア内の多チャンネル・サービスのケーブルテレビ加入世帯(以降加入世帯)と非加入世帯である。エリア内の地域を特定し、加入世帯は465票(抽出率50%)、非加入世帯は838票(抽出率6.5%)で無作為抽出し、発送・回収した。有効回収数は加入世帯211票(45.1%)、非加入世帯224票(26.7%)である。なお調査エリア内の加入率は6.7%であった。