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3.判別分析による要因の抽出

 前節で述べてきた夫婦のTV視聴態度(5つの因子スコア)、都市難視度、情報機器所有(5つの因子スコア)、世帯主のCATV評価(5つの因子スコア)に加え、世帯主の年齢、学歴、収入、世帯のテレビ利用台数、世帯主のコスト感3項目(ケーブルテレビ加入者と非加入者に共通する設問部分)、ケーブルテレビ非加入世帯の世帯主のテレビ評価(11項目)の34項目を用いた。なお変数選択に際しては、戸村(1992)、池田(1995)を参考にした(4)。

 ケース1〜4について判別分析を行った結果を表7に示す。判別分析はステップワイズの方法で行い、それぞれケースに該当する20〜30程度の変数から判別への寄与の大きい変数を選び出している。該当しない変数は表中に”−”で示した。変数欄は、この様にして選ばれた変数を中心に記載されており、選ばれなかった変数は一部を除いては記載していない。また変数欄には、変数の方向の欄を設け、各変数の変化の方向とその意味を示している(5)。また各ケースの欄には、対象とするグループの判別を行った結果として得られた、判別関数の係数と、判別関数値と該当する変数の相関係数を示している。これらの係数の解釈は次のようになっている。


 
表7 各ケースにおける判別分析の結果
変数 (注1) 変数の方向 (注2) ケース1CATV
非加入(+) (注3) VS 加入(−)
ケース2
地上波(−) VS BS(+)
ケース3
ペイ非加入(+) VS ペイ加入(−)
ケース4
スターチャンネル(−) VS WOWOW(+)
判別係数 相関係数 判別係数 相関係数 判別係数 相関係数 判別係数 相関係数
F2.年齢 年齢増:+
(注4)
(注5)
       
(1) -0.670
(2) -0.643
F8.学歴 学歴高:+                
F9.収入 収入増:+
(6) -0.230
(5) -0.265
           
Q5.TV視聴態度                  
因子1.夫・常時走査視聴 傾向強い:−        
(3) 0.483
(2) 0.390
   
因子2.妻・走査視聴 傾向強い:−        
(6) 0.422
(4) 0.345
   
因子4.夫婦従属視聴 傾向強い:−                
因子5.夫婦深夜視聴 傾向強い:−    
(4) -0.336
(2) -0.308
(1) 0.637
(1) 0.410
   
Q7.難視度 難視度大:−
(4) 0.297
(4) 0.321
(3) 0.349
(3) 0.308
(4) -0.482
(5) -0.273
   
Q19.情報機器所有                  
因子1.ビジネス通信指向 指向強:+
(7) -0.211
(6) -0.247
           
因子2.電話活用指向 指向強:+        
(5) -0.463
(3) -0.346
   
因子3.パーソナル情報指向 指向強:+                
因子4.高級テレビ指向 指向強:+    
   
(2) 0.565
(1) 0.674
因子5.ビデオ指向 指向強:+
(5) -0.239
(7) -0.125
           
Q192.大画面TV (注7) 所有 :+
(1) 0.846
(1) 0.802
Q14〜16 CATV評価(CATVのみ)  
(注6) 
             
因子1.多CH効用 好評大:−
   
(3) 0.531
(3) 0.354
因子2.コスト感 不評大:+
(2) 0.528
(6) 0.214
   
因子5.代替効用 好評大:−
       
Q16.コスト感(非CATV・CATV比較)                  
Q16-1.CATV加入初期費用 不評大:+
(1) 0.777
(1) 0.570
   
Q16-2.CATV基本料(毎月) 不評大:+
(3) 0.318
(2) 0.416
   
Q16-4.BS受信料 不評大:+ 
(2) -0.635
(3) -0.295
   
N16 TV評価(地上波・BS比較)
N16-8.コマーシャル
不評大:+
(2) 0.384
(4) 0.288

グループ 非加入 加入 地上波 BS 非ペイ ペイ スターチャンネル WOWOW
判別関数重心値
0.515
-0.745
-0.275
0.698
0.370
-1.203
-0.854
1.174
分析サンプル数(注8)
185
140
113
42
69
20
12
13



固有値
0.387
0.195
0.456
1.121
Wirks'λ
0.721
0.837
0.687
0.471
判別式の検定 Sig.
0.0000
0.0001
0.0000
0.0087
正準相関係数
0.528
0.404
0.560
0.727
正判別率
72.6%
72.3%
75.3%
92.0%

(注1) 判別に利用した変数のうち、ケース 1〜ケース 4 に係数が現れてきた変数を中心に記載している。
(注2) 判別分析ではデータが標準化される。該当する変数のデータが標準化された場合、変数が+または−がその変数のどの様な方向となるかを示している。
(注3) 判別分析にかける2つのグループを示している。+ないしは−は、それぞれのグループの判別関数の値の重心が正なのか負なのかを示す。(注2)に述べた変数の方向の正負と、判別係数の正負から、着目した変数がどちらのグループに帰属させるように働くかを知ることが出来る。
例えば、ケース 1 では、「F9.収入」は、+で収入増である。判別式の係数は -0.230 である。したがって収入増は、判別関数値を減少させる。その結果、CATV加入のグループ(判別値の重心は負)への帰属が促進される。この様にして、着目する係数が判別に際してどの様な効果を持つかを知ることが出来る。
(注4)この判別分析では、サンプルの帰属に際して寄与の大きい係数のみを抽出している(ステップワイズ法)。変数間に強い相関がない場合は、変数は標準化されているので、係数の絶対値の大小は、帰属への影響力の大小を示す。各ケースともに上位から○番号で絶対値の順位をつけた。
(注5)この相関係数は判別関数値と変数の相関係数で、グループ内相関係数の平均である。係数間の順序と相関係数の順序が変わるのは、変数間に相関があるためで、相関が強い場合は大きく変わる。本分析では大きい順序変化は生じていない。
(注6) 2つのグループの比較では共通に利用できる変数を用いる。本来的に共通利用できない変数の場合には、この注のように、− を引いている。
(注7) Q19 情報機器所有の「因子4.高級テレビ指向」は、BSチューナー付きテレビ を含んでいる。この変数は目的関数の様なもので判別に決定的に効き、これを含めると判別分析の意味がなくなる。そこで ケース 2 では、「因子4.高級テレビ指向」を利用せず、その代わりに 「Q192.29"以上のテレビ」を変数に利用した。
(注8) 利用した変数において欠損値・無回答のないサンプル数である。

 例えばケース1の場合、ケーブルテレビの非加入と加入の判別分析の結果として得られた、7個の変数の係数を示している。この係数を用いた判別関数では、調査で得られたケーブルテレビの加入者と非加入者のサンプルの帰属を、図9に示す様に予測している。図では判別関数値を横軸に、サンプルの出現頻度を縦軸に書いている。サンプルの帰属の予測は次のようになっている。なお採用した変数に関する無回答や欠損値のあるサンプルは、分析対象からは除外されている。


図9 ケーブルテレビの加入・非加入の判別結果の分布


 
判別関数値  <  ・・・ ケーブルテレビ加入
判別関数値  ≧  ・・・ ケーブルテレビ非加入

この判別では、採用された変数において欠損値や無回答のないサンプルが分析に利用されており、加入世帯と非加入世帯の判別結果は表8の様になっている。分析の対象となった325のサンプルは、236サンプルが正しく予測され、正判別率は72.6%である。また各グループの重心位置はケーブルテレビ加入の場合は -0.745、非加入の場合は 0.515 である。これらはケース1の備考欄に記載されている。
 

表8 CATVの加入と非加入に関する判別
区分 実績 判別
加入 非加入
加入世帯
140
(100%)
101
(72.1%)
39
(27.9%)
非加入世帯
185
(100%)
50
(27.0%)
135
(73.0%)

 

 次にこの様な判別関数の係数を用いると、変数の方向と合わせて、次のようなことが分かる。例えばケース1では、「F9.収入」は、+で収入増である。判別式の係数は -0.230である。したがって収入増は、判別関数値を減少させる。その結果、CATV加入のグループ(判別値の重心は負)への帰属が促進される。さらに係数の絶対値の大小は、「帰属促進の程度=判別に際しての変数の寄与の程度」を表す。この様にして着目する係数が判別に際してどの様な効果を持つかを知ることが出来る。

 次にケース欄の相関係数に触れる。この相関係数は判別関数値と変数の相関係数である。判別分析では、変数間にある程度以上の相関があると単独変数としては扱い難くなり、係数の絶対値の大小を判別への寄与の大小とは言い難くなる。他方変数間の相関が小さい場合には、判別関数の係数の大小と相関係数の大小がほぼ同様な傾向を示す。この双方の係数の順序の異同が、係数の絶対値の大小を寄与の程度を表すものと理解していいか否かの目安になる。本分析では若干の順序変化が表れているが、大筋としては係数の絶対値の大小を判別への寄与の大小と見てよいと思われる。

 上記の様な意味合いを表6が持つとすれば、この表から次のような判別の傾向を言うことが出来る。

3−1 ケース1:CATV加入世帯 VS CATV非加入世帯

 多数の変数のうちで最も大きく効いているのは、コスト感の変数群である。ケーブルテレビの加入初期費用(加入料・工事費)が最も大きく、次いでBS受信料、ケーブルテレビの毎月の基本料となっている。加入料、基本料はともに不評の度合いが高まれば、非加入側へのシフトを促す。他方BS受信料の場合には判別係数が負であり、不評度が高いほどに加入側へシフトする。これはケーブルテレビの加入世帯は約半分がBS視聴を希望するが、そうでないものも居る。にもかかわらずケーブルテレビ加入者にはすべてBS受信料の支払いが義務づけられるためと見られる(6)。

 なおコスト感は収入との相関は弱く、むしろテレビの視聴態度や情報機器所有との相関があり、コスト感の背景は単純の様には見えない(7)。

 2番目に効く変数群としては、都市難視を挙げることが出来る。都市難視の度合いが高いほど、ケーブルテレビの加入が促進されている。難視度の高いところに住んでいる世帯では、ケーブルテレビへの関心故にでなく、テレビを見れるようにするために加入している層がある。

 3番目に効く変数グループとしては、ビデオ指向、ビジネス通信指向、収入がほぼ同程度の寄与をしている。ビデオ指向の内容はVCRとビデオカメラで、番組の録画利用とともに、ビデオ撮影・編集にも積極的な情報活用型の指標である。ビジネス通信指向は職業(専門職、自営業、経営者・管理職など)でこの傾向は強く、ビジネスを通じての情報交換に馴れ、情報入手に積極的な傾向を表す指標と見られる。これらの情報行動における傾向および収入は高いほど、加入が促進される。

 ケーブルテレビの加入・非加入のこれらの要因の効果を見てくると、コスト感が非常に強く効いて、個別的な情報行動の傾向を覆い隠してしまっている。加入におけるコストネックが鮮明であると言ってよいであろう。コスト感がもっと低下される加入環境が設定されれば、第3番目に見てきた情報行動における要因が前面に出て、加入・非加入の層の特徴が現在以上にはっきり見えてくるであろう。

3−2 ケース2:地上波テレビ世帯  VS  BSテレビ世帯
 地上波テレビとBSテレビを分けている要因は、ケーブルテレビの場合に較べるともっと単純である。4つの変数が採用されているが、大きくは2つに分かれる。第1番目は大画面の高級テレビ指向とでも言うべき傾向である。テレビをもっと楽しみたい、娯楽として重視したいと言う傾向がBS加入を促進している。第2番目ではコマーシャル嫌い、都市難視、夫婦深夜視聴の3つが同程度に効いている。コマーシャル嫌い、夫婦深夜視聴の傾向はともにBS加入を促進している。他方、都市難視の強まりはBS加入を抑制している。図7から想定されるように、都市難視は本来BSに加入するであろう層をケーブル加入に向かわせ、そのためにBS加入層が減少するためと考えられる。
 なおこのケースでは、コスト感は現れてこない。2つのグループ間でも有意差はない。BS受信料は有意差を生じないコスト水準としては参考になる値である。
3−3 ケース3:ペイ非加入世帯 VS ペイ加入世帯
 ペイ加入か非加入かを分けている要因は6つ挙げられているが、大きくは2つに分けられる。第1番目は視聴態度の夫婦深夜視聴である。夫婦がともに深夜視聴をする傾向が強いと、ペイ加入が促進される。あと5つの要因は同程度の寄与と見られるが、視聴態度における夫・同時走査視聴と妻・走査視聴が強いとともにペイ加入が促進される。ペイ加入には夫か妻または双方のテレビ好きが関与していることを示している。また電話活用指向(コードレスホン、留守番電話の所有)が強まってもペイ加入は促進される。いわば情報環境とでも言うべき電話による情報交換に馴れた人々には、ペイチャンネルも情報環境充実の一手段になっているものと思われる(8)。これに対してコスト感の不評さが増すとペイ加入は抑制される。もともと利用コストに不満のある層は、ペイには加入しないと言うことである。また都市難視の強まりも同様にペイ非加入を抑制するが、これは図7に見るように、都市難視がペイ非加入のケーブルテレビ加入者を増加させるためである。
3−4 ケース4:スターチャンネル加入世帯 VS WOWOW加入世帯
 ケーブルテレビの基本料に追加的に料金を払って見るペイチャンネルには、スターチャンネルとWOWOWの2つがある。この2つの選択層がどの様に違うのかを見ている。もともとサンプル数が少なく分析の対象として残ったのは25サンプルだが、判別率は92%と高い。分析の結果、年齢、高級テレビ指向、多チャンネル効用の3つが採用された。年齢は高まるほど、さらに多チャンネル効用を評価する世帯ほどスターチャンネルが選ばれやすく、他方で高級テレビ指向が強いほど、WOWOWが選ばれやすい。スターチャンネルは洋画の専門チャンネルであり、それに対してWOWOWは映画・スポーツ・音楽を売り物にしており、それぞれの特長に対応した視聴者層の存在を示している。

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