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まとめ



 本報告では、ケーブルテレビの加入決定要因を統計的に抽出する試みを述べてきた。米国の先行研究では、加入要因に関するまとまった見方はなかったが、今回の報告では、結局のところ大きく見れば、加入意向(番組視聴意向、画質向上意向)、コスト感、世帯主の先有傾向(環境テレビ視聴)、世帯の合意という4点から、加入と非加入が区別されるという結果となった。ケーブルテレビの採用が個人決定ではなく、世帯決定であることは、テレビが世帯で果たす役割を考えれば、素直に理解できる結果である。またその他の3点についても、相当に誰でも納得のいく、または当たり前の結果である。しかし従来は議論がまとまっていなかった点を考えると、逆に当たり前の結果が出てきたことに、方法論としての妥当性が示されていると言うことが出来る。

 さらに興味ある発見がある。ケーブルテレビ加入層に「環境テレビ視聴」と命名した先有傾向が存在することは、従来は全く議論がなかったものである。「環境テレビ視聴」と言う概念そのものも今後研さらに明確化する必要があるが、他方ではメディアの採用問題一般としても、先有傾向は興味あるテーマであり、今後の研究が望まれる。

 さらに複数地域間の比較の成果を考えると、今後の研究発展の可能性は大きく、魅力が感じられる。要因のウエイトが地域特性やケーブルテレビの普及段階でどの様に変わるかも、興味が持たれる問題である。

 また判別関数がもたらす判別値は、ケーブルテレビの採用ポテンシャルとでも言うべき概念の指標となるので、方法論としてはテレビ放送メディアの棲み分け研究の有効な手段となる可能性がある。さらにこの方法の適用はケーブルテレビだけにとどまるものではない。考え方は他のメディアにも適用可能で、採用ポテンシャルの概念は様々なメディアの採用問題を扱うための有力な分析手段となる可能性がある。これらの点で、方法論としてのさらなる研究が望まれる。

(注1)調査対象の未検討層から「2.1 家族の賛否」のデータを得ることが出来ないので、判別分析をやむを得ず2段階で行っている。
(注2)本報告は、平成九、十年度科学研究費補助金を受けて行った成果(八ッ橋(1999))をとりまとめたものである。
 
 

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