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5.まとめと今後の課題

 人々の情報利用にはそれなりの目的意識があって情報を入手・利用する場合と、目的意識が無くても出会った情報を利用する場合がある。これまでは前者の場合、すなわち情報ニーズがある場合に、人々のメディア依存がどの様に異なるのかを述べてきた。特にインターネット環境にある人と無い人ではどの様にメディア選択が異なるのかが、論点の中心であった。結果的には様々なことを明らかにすることが出来た。ここではそれをまとめ、さらに今後の課題を述べてみたい。

 主な結果は以下のようなものである。

  1. メディア選択の視点からすると、人々の情報利用は環境監視ニーズの情報利用と個人関心ニーズの情報利用に分けて考えることが妥当である。両者におけるメディアの利用のされ方 は大きく異なる。
  2. 環境監視ニーズの情報利用には主にマスメディアが利用され、インターネットは利用度合が低く、したがってインターネットの有無はメディア選択にはあまり影響しない。
  3. 個人関心ニーズでは概してインターネットへの依存は大きく、したがってインターネット環境にあるか否かによって、メディア選択は大きく変わる。
  4. 比較的多く利用されるメディアは、地上波テレビ放送、新聞、雑誌・本、インターネット、家族・友人との会話、の5つである。
  5. 個人関心ニーズにおいては、インターネット環境下にある場合も無い場合も、この5つのメディア依存比率の和はほぼ一定値である。
  6. 個人関心ニーズにおいては、非インターネット環境からインターネット環境へ移行する際に は、地上波テレビ放送、新聞、家族や友人との会話の3つの合計への依存を減らし、インタ ーネットと雑誌・本への依存性を高める方向で、メディア依存の変化が起きている。
  7. そのメディア依存の変化の中心はインターネット依存の増加で、増加の程度は各情報ニーズの書籍・本への依存と同じ傾向にある。つまりインターネットは書籍・本が果たしているのと同じ役割を果たしている。
  8. インターネット依存の程度は、従来の書籍・本に近い水準にある。あえて量的に示すならば、従来の書籍・本の依存の0.9倍程度の水準にある。
  9. 雑誌・本からインターネットへの移行は、大勢としては進展していないが、雑誌・本のヘビーユーザの中には、インターネットの利用を増やし、ある程度は雑誌・本の依存を減少させている傾向が垣間見られる。
  10. 個人関心ニーズは概してインターネットの影響を受けやすいが、受けやすさは情報ニーズの種類によって異なり、中には受けにくいものもある。
 これらの結果は、今後のメディアの棲み分けの研究の枠組みとして興味ある知見になっていると考えられる。顕著な変わり方が浮き彫りにされているために、今後はより精緻で重点化した調査・データ収集が必要である。また放送と通信の融合化する時代において、放送に適する情報サービス、通信に適する情報サービスなどの観点からのメディアの棲み分け研究が起こりうる。

 もう一つ、インターネット環境下では家族・友人との会話への依存が非インターネット環境下よりも少ない。この分だけネットワーク依存が増すことが期待されるが、この減少はメディアコミュニティの利用で代替されている可能性がある。もしそうなら情報源としてのメディアコミュニティの役割は注目すべきものであり、今後の研究が期待される。

 最後に、今回の調査は平成13年度文教大学情報学部共同研究費によって行われたものである。調査費の支給について謝意を表したい。


【参考文献】   目次へ戻る

  1. 総務省「情報通信白書 平成14年版」2002.7 p.4
  2. 橋本良明他「インターネットの利用動向に関する実態調査報告書 2000」

  3. 通信総合研究所  2001.1 p.94
  4. 八ッ橋・川本・三上他「インターネットと生活メディアの変容」第18回情報通信学会報告

  5. 2001.6.17 東洋大学(白山)
  6. 八ッ橋武明「インターネットの利用に伴うメディア移行メカニズムの研究」情報研究

  7. (文教大学情報学部紀要)第26号(2001.12)p.181-200
    この研究から、茅ヶ崎市のインターネット利用率は他地域よりも高いことが分かっている。
  8. 田崎篤郎・吉井博明・八ッ橋武明「メディア・エコロジーの現状 −帯広市−」2001.8

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