CATVの地域コミュニケーションの経営効果
第21回情報通信学会大会資料(04.6.20)
八ッ橋武明 文教大学情報学部
三上俊治 東洋大学社会学部
1.はじめに
ブロードバンド化の進展で、CATVはISPとの競合関係が強まることが予想されるが、キャリアとしての競争以外には、地域番組制作が独自性の源泉として力になりうるか否か、関心が持たれる。またCATV事業者は地域番組の制作に注力しているところもある反面、そうでないところもあるなど、その努力の水準は様々である。その原因は、地域番組への注力がどの様な効果をもたらすかの認識が一定していないことにもあると考えられる。そこでCATVの地域番組による地域コミュニケーションの効用が視聴者にどの様に受け止められているのか、CATVのサービスの諸効用の中で、地域コミュニケーションの効用はどの様な位置づけになるのか、それが経営的にはどの様な意味を持ちうるのかの把握を試みた。
CATVの地域番組は図1に示す経路を経て利用者の評価を形成する。利用者の満足状況が高まると、図2に示す様々な効果が派生すると考えられる。ここでは*印を付けた項目について、把握を試みた結果を報告する。
図2 満足状況の経営効果に関連する着目点 (* 報告)
2.調査の概要
- 調査地域はコミュニティ番組の制作・放送ではもっとも活発な事業者の1つの中海テレビ放送のエリアを選択。
- サンプルは階層2段抽出で選挙人名簿とCATV加入者名簿から無作為に抽出して作成。
- 加入世帯については訪問先で家族構成員から無作為に調査対象者を選択。
- 調査は留置。2002年11月末〜12月中旬に実施。標本数と回収結果を表1に示す。
区分 | 母集団 | サンプル数 | 有効回収数 | 有効回収率 |
CATV加入者 | 8,538 | 854 | 588 | 68.9% |
非CATV加入者 | 17,103 | 455 | 231 | 50.8% |
3.加入満足度の構成と地域コミュニケーション効用のウエイト
(1)CATV加入の総合満足度
- 加入への満足度を「1.満足」〜「5.不満」の5段階評価で聞いており、結果は図3。
- 「1.満足」、「2.やや満足」の合計は6割強で、「4.やや不満」、「5.不満]の合計は1割弱であり、全般的には満足度は高い。
- 「1.満足」と「2.やや満足」を満足層、「3.どちらとも言えない」を中間層、「4.やや不満足」と「5.不満足」を不満層と3グループに分けて、以降で様々な分析を実施。
(2)CATVの諸効用の評価状況a.個別効用項目の評価
- CATVの利用がもたらしうる多くの効用の項目を列挙し、項目ごとに利用者がどの程度の効用を得ているかを調査。例えば「a.ケーブルのチャンネルによる映画番組がいい」に対して、「1.そう思う」〜「5.そうは思わない」の5段階で評価回答を得る。
- その結果から前記の3グループ別の平均値を求め、21の項目別に比較した結果を図4に示す。
- 項目の配列順序は、全体の平均値の評価が高い順に、図の上から下に向かって配置。
全般的な傾向から、利用者の満足度評価はこれらの様々な項目の総合満足度として形成されている可能性は高い。そこで因子分析で議論を簡略化することを試みる。
- 満足層はほとんどの項目で他の2つのグループより評価の平均は良好である。
- 中間層と不満層は全般には全体の左側(評価が低い側)にある。
- 中間層と不満層の評価はかなり入り組んでいる。中間層の方が良好な評価をしている項目は12あり、不満層の方が良好な評価をしている項目は9ある。
b.項目別評価への因子分析の適用因子分析の結果を表2に示す。
因子(平方和、寄与率) | 因子内容 |
第1因子(4.59,23.0%)
地域コミュニケーション効用 |
市民に地域の話題や市民の声、市民交流の促進に貢献するなどの
地域コミュニケーションの促進に関する効用 |
第2因子(3.42,17.1%)
専門番組効用 |
CATVの専門番組を視聴することの効用 |
第3因子(2.34, 11.7%)
非番組効用 |
美しい映像やアンテナ不用の利点の効用 |
第4因子(1.68,8.4%)
BS効用 |
BS放送を見ることが出来ることの効用 |
第5因子 (1.62, 8.1%)
区域外・選択効用 |
区域外再送信や多くの番組を選択できることの効用 |
第6因子(1.53,7.7%)
安値感 |
かかる費用を安く感じる程度(コスト感の逆) |
(注)平方和と寄与率はバリマックス回転後の値である。寄与率の合計は75.9%である。
- 6個の因子で、分散の約76%がカバーされる。
- 因子の概念は、地域コミュニケーション効用、専門番組効用、非番組効用、BS効用、区域外・選択効用、安値感で(費用を安く感じる傾向。コスト感とは逆)である。
c.満足グループ別の効用因子得点の平均値
満足グループ別の因子得点の平均値を図5に示す。
(3)効用因子得点を利用した総合満足度の回帰分析
- 満足層は、概してどの因子でも評が高い。しかし非番組効用では評価は平均値より若干下。
- 中間層は、地域コミュニケーション効用、安値感は中間の評価であるが、非番組効用は最も評価が高く、専門番組効用、区域外・選択効用では評価は最下位。
- 不満層は、地域コミュニケーション効用、非番組効用、安値感では最下位の評価だが、専門番組効用、区域外・選択効用では中間層を越えている。
- BS効用はどの層も同じ評価で差は小さい。
- 中間層と不満層の位置づけはかなり複雑である。
次に総合満足度を従属変数、効用因子得点を独立変数とする回帰分析を行った。効用因子得点は標準化データで、相互に独立なので、回帰分析の係数は直接に満足度への貢献度のウエイトを表すものとなる。結果を表3に示す。
因子 | 回帰係数等 |
fq18n61:地域コミュニケーション効用 | 0.341 |
fq18n62:専門番組効用 | 0.251 |
fq18n63:非番組効用 | 0.056 |
fq18n64:BS効用 | 0.036 |
fq18n65:区域外・選択効用 | 0.194 |
fq18n66:安値感(コスト感では負) | 0.167 |
定数 | 2.302 |
重相関係数 | 0.562 |
寄与率 | 0.315 |
回帰式の有意性p | 0.0000 |
4.加入後の効用評価の変遷寄与率の点でまだ未知の要素が大きいが、この改善が図れれば、満足度を様々な効用評価の総合値として表すことが出来るようになり、地域番組への注力の効果を議論出来るようになる。この点はかなり興味が持てることである。
- 寄与率が32%であり、まだ未知の要素が大きい。
- この範囲で満足度に効く順序:
地域コミュニケーション効用>専門番組効用>区域外・選択効用>安値感
地域コミュニケーション効用は、満足度への最大の源泉である。- 非番組効用、BS効用は満足度を構成する有効な要因ではない。
【参照ケース】首都圏のあるCATV調査データ(1999)への同様な分析例
表4 総合満足度の回帰分析の回帰係数 因子 回帰係数等 fq1561:多CH選択・番組(news,映画)効用 0.308 fq1562:映像効用 0.202 fq1563:アンテナ不用効用 0.173 fq1564:地域コミュニケーション効用 0.122 fq1565:多CH番組(スポーツ、音楽等) 0.103 fq1566:安値感(コスト感では負) 0.204 定数 2.180 重相関係数 0.520 寄与率 0.270 回帰式の有意性p 0.0000 この結果との比較のため、別の調査データに同様な分析を試みた結果を表4に示す。このCATVの場合には、中海テレビ放送ほどには地域番組には注力していない。地域コミュニケーション効用のウエイトの差は、コミュニティ番組に対する注力の差を反映していると思われる。
- 総合満足度に対する効用因子得点を用いた回帰分析では寄与率は27%である。
- 満足度に効く順序:多CH選択・番組(news,映画)>安値感>映像効用>アンテナ不用効用>地域コミュニケーション効用>多CH番組(スポーツ、音楽)
- 満足度に占める地域コミュニケーション効用のウエイトは小さい。
a.加入前の関心度評価CATVがもたらす様々な効用への関心度合を、加入者には加入前の時点の傾向、非加入者には調査時点で、聞いている。12項目について4段階評価で聞いているが、議論を簡単にするために、因子分析を適用した。その結果を図6に示す(5因子で寄与率87%)。
地域コミュニケーション関心、BS関心については両グループに有意差はないが、他の3つには有意差がある。特に多チャンネル専門番組関心、区域外放送関心の強弱が加入を左右していると考えられる。加入後の効用評価では、地域コミュニケーション効用は好評の度合が高いが、加入前の関心はあまり高くはない。加入後に評価が高まる可能性がある。
b.番組選択(番組を色々と選べること)効用の評価の変遷関心度評価で、番組選択関心層(4段階評価の「関心ある」「やや関心ある」)と非番組選択関心層(「関心ない」「あまり関心ない」)の2グループを作る。
効用評価で、番組選択好評層(5段階評価で「よい」「ややよい」)と非番組選択好評(「よくない」「ややよくない」「何ともいえない」)の2グループを作る。
そこで関心度評価の2グループと効用評価の2グループのクロス集計をウエイトバック下で行った結果を図7に示す。%値は、母集団を100%としたときの構成比である。地域の平均像を表す。その結果、次のことが分かる。
- 地域全体では、番組選択関心層は65.7%、非番組選択関心層は約半分の34.3%であった。
- 番組選択関心層65.7%のうちで31.4%が加入し、34.3%が非加入だった。他方で非番組選択関心層34.3%は、2.9%は加入で31.4%は非加入であった。
→番組選択関心層の方が加入比率が断然高い。- 番組選択関心層の加入者では、7.0%は関心大→好評度小であった。他方では非番組選択関心層では、2.9%の加入者のうちで1.8%が関心小→好評度大である。
→「関心大→好評度小」>>「関心小→好評度大」である。
加入後に非好評層がかなり生まれている。
c.地域コミュニケーション効用の評価の変遷b.と同様な集計を地域コミュニケーション効用について行った。その結果次のことが分かる。
- 地域全体では、地域コミュニケーション関心層は34.5%、非関心層は倍の65.5%であった。
- 地域コミュニケーション関心層34.5%のうちで12.7%が加入し、16.2%が非加入だった。他方で非地域コミュニケーション関心層65.5%のうちの21.4%は加入で49.2%は非加入だった。
→地域コミュニケーションではほぼ同様な加入比率である。- 地域コミュニケーション関心層の加入者では、3.4%が関心大→好評度小である。他方では非地域コミュニケーション関心層では、21.4%の加入者のうちで6.4%が関心小→好評度大へ移行している。
→「関心大→好評度小」<<「関心小→好評度大」である。
加入後に好評層が多く生まれている。
5.効用因子得点を用いた推薦度に対する回帰分析結果
総合満足度と同様な設問で、他者への推薦が出来るかどうかを調査。「推薦出来る」15.0%、「やや推薦出来る」33.5%、「どちらとも言えない」40.5%、「やや推薦出来ない」4.4%、「推薦出来ない」3.4%、「無回答」3.2%である。満足度よりは右に寄っている。この推薦度を従属変数、効用因子得点を独立変数とする回帰分析を行って、推薦度への効用の寄与具合を調べた。その結果を表4に示す。主な結果は下記である。
因子 | 強制投入方式 |
fq18n61:地域コミュニケーション効用 | 0.258 |
fq18n62:専門番組効用 | 0.277 |
fq18n63:非番組効用 | 0.091 |
fq18n64:BS効用 | 0.073 |
fq18n65:区域外・選択効用 | 0.137 |
fq18n66:安値感(コスト感では負) | 0.184 |
定数 | 2.461 |
重相関係数 | 0.493 |
寄与率 | 0.243 |
回帰式の有意性P | 0.0000 |
6.加入推薦の実績満足度の場合とは異なり、推薦度では専門番組効用が1番目、地域コミュニケーション効用は2番目に寄与がある項目であるのが注目される。
- 寄与率は0.243であり、未知の要素の寄与が大きい。
- 推薦度に効く順序:大きくは、専門番組効用、地域コミュニケーション効用、安値感の3つで決まる。
a.他者への加入推薦経験他者にCATVの加入を推薦した経験を聞いている。回答者588人のうちで「複数回推薦したことがある」が20.1%、「1回推薦したことがある」が12.9%、「推薦したことがない」が63.4%で、約1/3の加入者が他者への加入推薦を経験し、2割は複数回推薦している。
b.加入推薦の理由
それでは加入者が推薦した理由はどの様なものであったのだろうか。調査では推薦の理由を調べているので、その結果を図9に示す。それによると次のような順序である。
色々な番組(選択効用)>区域外>専門番組〜地域の情報>アンテナ>映像向上
回帰式の場合には、地域コミュニケーション効用は2番目であったが、ここでは3〜4番目となっている。
双方の傾向は一致しないが、地域の情報を推薦理由に挙げるのは比較的高い水準にある。
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図9 加入推薦の理由(複数回答)n=199c.推薦する人達
「地域の情報が得られる」を推薦理由に挙げた地域推薦層と、その他の非地域推薦層の2つのグループを作り、色々な集計をしてグループ差を調べた。その結果、地域推薦層は次のような人たちである。
d.推薦度と推薦実績
- 米子市や周辺の出来事をよく知っていると自認している人たちで、地域に根付いた活動をしている人たちが中心。
- 中海テレビへの依存が高いだけではなく、地域の情報を得るために様々なメディアをよく利用している人たちである。
- 世帯主や配偶者が多いが、有意ではない。
- 年齢も50代〜60代が多いが、有意ではない。
調査では「他者へ加入を推薦出来るか否か」を5段階で聞いている。その回答でグループを作り、グループ毎の推薦実績を集計した。結果は図10である。
推薦実績は、「勧められる」人は7割が、「まあ勧められる」人は5割が、「何ともいえない」人は15%である。この点では、「勧められる」「まあ勧められる」と回答した人までが相当な比率で、推薦実績を持っていることが分かる。
7.地域メディアにおける相対的順位
地域コミュニケーション効用について高い評価をする人とそうでない人では、地域メディアとしてのCATVの位置づけが変わるであろう。そこで「米子や近隣の情報を得る手段として何を利用しているか」について複数回答で調査をして、地域推薦層と非地域推薦層毎に集計した。結果を図11に示す。中海テレビの順位は、地域推薦層では第4位で6割強が選択。上位グループの末端である。この層は中海テレビのコミュニティ・チャンネルを、代表的メディアと同様に優先度の高いメディアと見ている。他方では非地域推薦層は3割強の選択で、優先度の高い地域情報源とは見ていない。効用評価の差が優先順位差に影響すると考えられる。
8.今後の課題
取りあえず試行的に可能性を探って、ある程度の手がかりが得られた段階である。今後は次のような項目を含めた分析が課題となる。【参考文献】
- 満足度評価の精度向上
- 推薦行動の結果としての加入促進効果の推定
- 加入中止の抑制効果
- 地域メディアのメディア・イメージやブランド性の問題
- 平塚・金澤(1996)「コミュニティメディアとしてのCATV」『放送研究と調査』1996.12 pp.22-33
- 川本勝(1995)「コミュニティチャンネルの社会的機能」『放送メディアの変容の社会的影響過程に関する研究』平成4,5,6年度科学研究費補助金研究成果報告書 pp59-71
- 川本勝,1975「コミュニティメディアとしてのCATVに関する一考察」『新聞学評論』23・24, 日本新聞学会 pp91-120
- 三上他(2003.5)「21世紀情報社会におけるメディア・エコロジーの基礎研究」平成12年度〜14年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(1))成果報告書(研究代表者 三上俊治)