CATVにおける地域コミュニケーションの加入効果(2)
第22回情報通信学会大会報告 2005.6.26 情報セキュリティ
大学院大学
八ッ橋武明 文教大学情報学部
1.はじめに
最近はブロードバンド化が進展し、ISPとCATV事業との競争関係が予見される。このためCATVが提供 する番組のうちでCATVにとって独自性を持ちうるコミュニティ番組の存在が興味ある論点と成りうる。ところでCATVのコミュニティ番組は、週1回制作 し、繰り返し放送されるものが多いが、中には日替わりで毎日放送されるものもあり、放送時間の長短も様々である。CATVの事業者は、コミュニティ番組へ の注力が加入増に貢献すると明言するところもあるが、そうでもないところも多い。コミュニティ番組への注力は様々で、この一因は、コミュニティ番組の経営 面への効果が不明確な点にもある。1.調査の概要コミュニティ番組が地域やCATV事業者にとってどの様な意義を持つものなのかについては、中海テレビ放送 のパブリック・アクセス・チャンネルやコミュニティ番組についての受容状況の報告(平塚他1996)、コミュニティ番組と利用者の地域活動の相関について の報告(川本1995)等がある。しかしコミュニティ番組に伴う地域コミュニケーションの効用が、CATV事業の経営にどの様な効果を持ちうるかについて の研究報告は見あたらない。
そこでCATVのサービスの諸効用の中で、コミュニティ番組による地域コミュニケーション効用はどの様な経 営効果を持つのか、特に推薦加入の効果に注目し、この点を調査データから探った。前回は予備的な報告を行った(八ッ橋他2004)が、今回は加入決定に強 く関与する(八ッ橋2000)との観点から世帯主を対象にした調査を行い、そのデータでさらなる検証を試みた。
調査は2004年4月に、米子市の中海テレビ放送エリアで行った。標本は選挙人名簿を用いた階層2段無作為 抽出で、20〜69才の世帯主を対象とし、調査は郵送法で行った。表1に発送数と回収数を示す。2.推薦行動の発生
表1 発送数と回収数等 母集団 発送数 不達数 実質標本数 回収数 有効回収数 有効回収率 7,675 1,535 82 1,453 436 425 29.2% 表2に、加入形態別の回収票の分布を示す。
表2 CATVの加入形態の分布 区分 世帯数 多CH加入数 再送信加入数 非加入数 母集団 7,675 2,792(36.4%) 925(12.1%) 3,950(51.5%) 有効回収票 425 134(31.5%) 56(13.2%) 235(55.3%) なお以下の分析では、再送信加入票は除外し、多CHサービス加入票と非加入票で行っている。
地域番組に伴う経営効果としては、直接的な加入理由の効果もあるが、普通は検証されにくい。そこで推薦行動 に伴う加入に注目した。推薦行動としては、表1と表2が考えられる。
図2 コミュニティ番組、地域コミュニケーション効用と推薦行動
3.コミュニティ番組の視聴状況
中海テレビ放送はコミュニティ番組の充実でよく知られているが、そこで放送されている中海4チャンネル、コ ムコムスタジオ、テレビ伝言板・災害情報、パブリック・アクセスの視聴状況を図3に示す。中海4チャンネルは毎日13%、週に1日以上45%、週に1日未 満も含めると7割弱で、同図に示している他地域例(八ッ橋1999)と比較すると、よく見られていることが分かる。
4.コミュニティ番組の役立ち具合
この様に比較的よく見られているコミュニティ番組が、他の地域メディアに比してどの様な位置づけになるのか を、メディアの役立ち具合の点から調べた。図4に示すように、【設問】で示す様々な内容の地域情報を得るのに最も役立っている手段は何かを【選択肢】の中 から1つ選ぶ質問をした。その結果をコミュニティ視聴者(中海4CHを1日/週以上見ている人)、低コミュニティ視聴者(中海4CHを見るのが1日/週未 満の加入者)、非CATV加入者の3グループに分けて集計した。結果の一部を図5に示す。12種類のメディアのうちで、常に多く現れてきたのは図中の5種 類であった。
図5 「F.地域の公共施設やレクレーション施設の情報を知る」上で最も役立っている手段
この図を見ると、コミュニティ視聴者は、4割弱が「4.中海のコミュニティ番組」を選んでおり、選択比率は 最も高くなっている。また他の低コミュニティ視聴者、非CATV加入者と比較すると、次のようなことが分かる。
- コミュニティ視聴者以外では、1位は新聞の地域面と行政広報誌への依存である。次いでテレビのローカル 放送、自治会回覧・掲示板となっている。
- コミュニティ視聴者のコミュニティ番組依存は、行政広報誌、新聞地域面、テレビのローカル放送からの移 行で生じていると見られる。
また3グループのメディア選択のランキングは、次のようになる。
1位 | 2位 | 3位 | |
コミュニティ視聴者 | 中海のコミュニティ番 組 | 新聞の地域面 | 行政広報誌 |
コミュニティ低視聴者 | 新聞の地域面 | 行政広報誌 | テレビのローカル放送 |
非CATV加入者 | 行政広報誌 | 新聞の地域面 | テレビのローカル放送 |
このランキングの傾向は様々な情報内容、メディア環境などによって変わる。そこで大枠の議論として、1位 →3点、2位→2点、3位→1点として、メディア別に合計値を出した。その結果を表3に示す。
情報内容 | 1.新聞の地域面 | 3.テレビのローカル 放送 | 4.中海のコミュニ ティ番組 | 6.行政広報誌 |
コミュニティ視聴者 | 21 | 7 | 20 | 8 |
低コミュニティ視聴者 | 25 | 11 | 4 | 13 |
非CATV加入者 | 20 | 12 | 0 | 22 |
同表によると、コミュニティ視聴者のメディア依存は、「1.新聞の地域面」、「4.中海のコミュニティ番 組」が高く、次いで「6.行政広報誌」、「3.テレビのローカル放送」の順、つまりコミュニティ視聴者では、地域情報に関する限り、中海テレビのコミュニ ティ番組は新聞の地域面と匹敵する役割を果たしていると見られる。5.加入推薦意向の要因と推薦行動しかし低コミュニティ視聴者は、「1.新聞の地域面」が最も高く、次いで「6.行政広報誌」、「3.テレビ のローカル放送」が同程度で続く。非CATV加入者は様相が異なり、「6.行政広報誌」、「1.新聞の地域面」が高く、次いで「3.テレビのローカル放 送」の順である。
また他の設問で、新聞の地域面、テレビのローカル放送、中海テレビのコミュニティ番組の3メディアに関する メディア・イメージを聞いているが、ここでもコミュニティ視聴者には中海テレビのコミュニティ番組が他の2者とほぼ同様な評価または信頼度を得ている結果 が得られており、この傾向が理解できる。
コミュニティ視聴者という多チャンネルCATV加入者の45%程度の人に、コミュニティ番組が代表的マスメ ディアと匹敵して受け入れられていることが分かった。
(1)加入推薦度CATVの加入者は様々な効用を評価し、好評の場合には知人へCATVの加入への推薦を行うことが考えられ る。そこでまず、推薦度を調べた結果を図6に示す。全般に推薦可能性は高く、65%は推薦可能であり、推薦難としているのは6%にすぎない。
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図6 CATVの加入推薦度(2)CATVの様々な効用の評価
次にCATVの加入がもたらす様々な効用を、視聴者がどの様に好意的に評価しているかを5段階評価で調べた 結果を図7に示す。
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図7 推薦度別のCATV効用評価の平均値
平均値の検定:*:0.01<p≦0.05,**:0.001<p≦0.01,***:0.001 <p≦0.0001,・・・・ここでの各点は、推薦層(図6で「推薦できる」か「やや推薦できる」を選んだ人で約65%)、中間層(「何 とも言えない」の約28%)、非推薦層(「やや推薦出来ない」、「推薦出来ない」の約6%)の平均値である。
(3)因子分析で見る効用評価の構造
- 推薦層は、全般的にグラフの右側にあり、多くの項目について良好な評価をしている。
- 全般的には、中間層は推薦層の左に、さらに非推薦層は最も左側(評価が低い側)にある。
- 「121a.多くのチャンネルで番組選択可能」と「121k.アンテナ不用」が例外的な傾向を示してい る。
- コミュニティ番組が関与する 122a、122b、122c、122d は、相対的には上位で、好評である。
図7では効用の項目が多く分かりにくいので、効用の構造を把握するために因子分析を行い、結果を表4に示 す。6個の因子を抽出した。
因子名 | 因子の内容 |
第1因子:地域コミュニケーション効用 | 市民に地域の話題や市民の声、市民交流の促進に貢献するなどの地域コミュニケーションの促進に関する効用 |
第2因子:専門番組効用 | ケーブルテレビの専門番組を視聴することの効用 |
第3因子:BS効用 | BS放送を見ることが出来ることの効用 |
第4因子:非番組効用 | 美しい映像やアンテナ不用等の効用 |
第5因子:安値感 | かかる費用を安く感じる程度(コスト感の逆) |
第6因子:域外・選択効用 | 区域外再送信や多くの番組を選択できるという効用 |
(注)各因子の寄与率の合計は74.0%である。
(4)加入推薦度の回帰分析6.被推薦の加入促進効果次にこの因子得点を説明変数、推薦度を従属変数として、回帰分析を行った結果を、表5に示す。この結果から 次のことが分かる。
(5)加入推薦度と加入推薦実績
- 加入推薦度に効く順序は、安値感を除外するとして、次のようになる。
地域コミュニケーション効用 > 専門番組効用 >非番組効用 > BS効用 > 区域外・選択効用- 大きくは、地域コミュニケーション効用、専門番組効用、非番組効用の3つでおおよそが決まる。
- 地域コミュニケーション効用は、専門番組効用と同程度の推薦度を生じている。
加入推薦度と推薦実績がどの程度に対応しているかを図8で調べた。推薦度と推薦実績の対応関係は強く、この 様に見ると地域コミュニケーションの効用が推薦行動に反映されているものと考えられる。
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図8 加入推薦度と推薦実績
χ2乗 ****
次に推薦行動がどの様な加入効果を作り出しているのかを述べる。調査では回答者の分布は図9のようになって いる。これを元に図10と図11を作成した。7.まとめと今後の課題
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図9 被推薦の有無とその影響
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図10 CATVの被推薦の有無と加入率
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図11 現状と無推薦想定時の加入率図10に被推薦者の加入率と、非被推薦者の加入率を算出した結果を示す。被推薦者の場合には約46%、非被 推薦者の場合には34%である。被推薦者は12%分だけ、加入率が高い。
もう一つの見方として、推薦行為が無かった場合の加入率の変化を想定してみる。図9で被推薦者の加入促進影 響あり39人が非加入になった場合を想定する(無推薦想定)と、加入者は95名、非加入者は268名となる。その結果、現状と比較すると、図11が書け る。加入率は約10%向上し、その向上の相当部分を地域コミュニケーションが促進すると見ることも出来る。
これまでは様々な調査データを利用して、CATVにおける地域コミュニケーションがもたらす推薦効果の可能 性を見てきた。効果の厳密な同定は難しいものの、ある程度は量的なイメージを持たせながらも推薦効果の可能性を提示出来たと思われる。この点と同時に興味 ある点は、多チャンネル・サービスの加入者の約半数にとっては、コミュニティ・チャンネルが地域情報の観点で、大手の新聞やテレビに匹敵する役割とメディ ア・イメージを確保していることが分かった点である。中海テレビのコミュニティ・チャンネルの定着ぶりからすれば予想出来たことではあるが、この点は様々 な研究を喚起する可能性がある。【参考文献】また残された課題としては、次の2点が挙げられる。
1.推薦度の回帰式の寄与率の向上
推薦度を表す回帰式の寄与率が28%というところで、まだ不確定要素が多いと見られる。他の要素が明らかにさ れ、寄与率が高まることが望まれる。
2.回帰係数と推薦理由の差
調査では、加入者の推薦実績における推薦理由を調べている。この傾向では、「ケーブルで色々な番組」、「区 域外再送信」、「専門番組」、「BS」、「アンテナ不用」、「地域番組」の純である。この傾向は回帰モデルが示すものとは大きく異なる。回帰モデルで最も 大きい寄与をする「3.地域番組」は大分下位にあり、最も小さい寄与となる「1.色々な番組」、「2.区域外再送信」が最も多く現れる。他方で、この順は CATVに関する関心順位に該当する。推薦理由は推薦側と被推薦側の一致があって成り立つと思われるので、その辺の効果があるものと思われるが、この辺の 確認が必要である。
- 中海テレビ放送http://gozura101.chukai.ne.jp/
- 平塚千尋・金澤寛太郎,1996.12「コミュニティメディアとしてのCATV」『放送研究と調査』 pp.22-33
- 川本勝,1995「コミュニティチャンネルの社会的機能」『放送メディアの変容の社会的影響過程に関す る研究』平成4,5,6年度科学研究費補助金研究成果報告書 pp59-71
- 八ッ橋武明・三上俊治,2004.6「CATVの地域コミュニケーションの経営効果」第21回情報通信 学会大会 平成16年6月20日 明海大学
- 八ッ橋武明,2000.8「ケーブルテレビの加入決定要因」マス・コミュニケーション研究 第57号 pp.78-94
- 八ッ橋武明,1999.8「テレビ放送メディアの移行と選択要因の研究」平成9,10年度科学研究費補 助金(基盤研究(C)(2))研究成果報告書 pp.1-118