『教育研究所紀要第7号』文教大学付属教育研究所1998年発行

看護職の生涯教育の現状と問題点

長吉 孝子

(文教大学付属教育研究所客員研究員・山梨県立看護大学短期大学部)


はじめに

科学・技術の発展は社会・文化に大きく影響し、医療現場そのものも大きく左右されてきた。高度化した新しい科学技術の医療現場への導入として、例えば、「がん治療」に対してコンピュータテクノロジーを駆使した文字・画像情報処理システム導入等がこれにあたる。一方、医療社会システムとして「救急医療・休日夜間診療対策」等があげられる。又、疾病構造の中の死因の中心が伝染病から成人病へと発症の前後が長い経過である、いわゆる慢性疾患が増加している。それとともに人口の高齢化や社会環境の変化に伴い、心臓疾患、脳血管障害、交通災害等の後遺症、精神障害に対するリハビリテーションの需要が増大し、その需要に対応するためリハビリテーションシステムの充実も挙げられる。又、女性の社会進出に伴った晩婚等の影響からか、出生数の低下に伴い少子化が信仰し、課程のあり方に変化を及ぼしている。こうした家庭のあり方によって、国民の所得水準の向上や拡大などといった社会のあり方の基盤である国民生活も変化してきた。又、健康への意識変化に伴う価値観から、衛生行政の分野においても集団に重点がおかれがちであった今迄の対応が、個々のニーズに対応したサービスが求められるようになった。その結果、看護はますます複雑性が高まっている。
しかし、こうした中でも相変わらず、看護基礎教育の現状は多様な教育体制で行なわれている。この体制において、平成9年度看護基礎教育カリキュラム改正が行なわれた。それは、@高齢化と長期慢性疾患々者の増加に伴って、在宅医療サービスに対応した訪問看護サービスの拡充や人々のセルフケア能力を高める教育的な働きかけの必要性が高まってきたこと、A医療の高度・専門化の進展に伴って、看護は従来にもまして緻密な観察、的確な判断と技術が求められ、また患者の精神的緊張や不安の緩和、患者や家族が自分の意志を表現することの支援の必要性が高まってきていること、B18歳人口の急激な減少と高学歴志向のなかで、看護の分野に優秀な人材を確保するためには、養成施設を魅力あるものとする必要があること、としている。このような教育視点に対応するためには、看護職に対する看護基礎教育後の教育を看護職者ら個々の学習や経験にまかせるのではなく体系的・組織的教育が重要と考える。今回、看護職の継続教育の中でも個人が所属している「場」で行なわれれる院内教育と院外教育で大きな責任を果たしていると考える看護婦の職能団体である看護協会での教育現状を調査し 、課題を明らかにした。


T・看護制度・看護基礎教育・看護継続教 育の変遷と現状

1・看護制度について

明治32年に産婆規則、大正4年に看護婦規則、昭和16年に保健婦規則と別々の規則として制定された。戦後連合国最高司令部(GHQ)の指導のもとに看護職の身分保障を中心として、昭和23年7月に保健婦助産婦看護婦法(以降、保助看法という)が制定された。
昭和25年10月に第1回甲種看護婦国家試験が実施された。昭和26年4月保助看法を一部改正し、看護婦の名称、業務の一本化において、甲種、乙種看護婦、既得看護婦を看護婦とし、看護制度審議会において准看護婦制度を発足させた。なおこの時保健婦・助産婦は看護婦資格+6ヵ月以上の養成期間とした。同年、日本助産婦看護婦保健婦会を日本看護協会と改称した。
昭和27年(1952年)に第1回保健婦・助産婦の国家試験が春・秋の年2回実施されるようになり、平成2年(1990年)から、看護婦国家試験も含めて、年1回の試験となった。
昭和37年(1962年)頃から看護婦不足が社会的問題となり、日本病院協会、日本看護協会共催で病院看護対策会議が開催され、検討が始められた。その結果、昭和40年(1965年)人事院において看護婦の病院勤務には二八体制(2人以上複数夜勤、月8回以内)が勧告された。又、昭和49年厚生省に潜在看護婦活用体制のためナースバンク設置が予算化された。その後潜在看護婦のために各県や看護協会主催の研修が開始され、看護婦不足解消の一助と期待され始めた。
昭和50年に本看護協会で、「看護制度に関する基本姿勢」として准看護婦養成廃止、看護教育の基礎教育課程を4年制大学に、そして免許の一本化を提示した。しかし、現在その実現には至っていない。
平成4年(1993年)、老人保健法の一部が改正され、老人訪問看護制度が開始された。それらに伴い、訪問看護ステーションが制度化され、在宅訪問の開始や介護保健制度が展開され始め、看護活動場面も地域や老人に向けての活動が求められ、保健・医療・福祉の連携を基本とした活発な活動が開始し始めた。

2・看護基礎教育について

看護基礎教育は、看護制度の中心である保助看法の中に位置づけられている。最初の看護職に関する教育は、現在の助産婦の養成であり、明治10年東京病院に産婆授産所が設立され、従来の営業者による教育が開始された。その後、最初の看護婦教育は、有志共立東京病院看護婦教育所、2年コースが明治18年にアメリカのM.E.リチャーズによって行なわれた。翌年、同志社病院の京都看護婦学校2年コース、桜井女学校付属看護婦養成所2年コース、明治20年医科大学第一病院看護婦養成所(東大医学部付属病院の前身)が発足し、それ以後毎年看護婦養成のための教育が行なわれた。
保助看法諸々の経過を経て、甲種看護婦を高卒3年以上の教育とし、じょく婦に対する療養状の世話、診療への補助、乙種看護婦は中卒2年以上とし、医師、歯科医師、又は甲種看護婦の指示を受け、甲種看護婦と同様な業務を行なう。ただし、急性かつ重傷の傷病者、じょく婦の療養状の世話を除く。保健婦は甲種看護婦+1年以上で保健指導を行い、助産婦も甲種看護婦+1年以上で、妊婦、じょく婦もしくは新生児の保健指導を行なう、とされていた。この年、高知女子大学家政学部看護学科として、初の4年制大学の看護基礎教育が始められた。昭和28年東京大学医学部衛生看護学科が設置された。昭和32年に4年制大学に保健婦教育課程が導入となった。
昭和39年高等学校職業教育の一環として高等学校衛生看護学科が開設された。その高等学校の教員を積極的に養成することを目的とした高等教育機関としては4年制大学と短期大学が設立し始めた。なお、現在の短期大学が昇格され大学化したり、又高等教育機関として看護教育が開設されていない県においては、看護系の大学の開設が行なわれる等、順次、看護大学での教育が始められるようになったことは、ようやく他の学問に匹敵する高等機関としての教育体制に追いついたと言っても過言ではない。しかし、一方では依然として専修学校や専門学校が存在していることは、看護教育の複雑さを示しているとも言えよう。
(看護基礎教育機関と看護職免許取得方法を図−11)に示す。)

図−1 基礎教育機関と看護職免許取得方法(略)


3・看護継続教育について

継続教育(Continuing Education)は、日進月歩の科学・技術、社会の急激な変化に照らし合わせ、安全かつ効果的な看護を保障するために必要なもので、それには図−22)のようなものが含まれる。

図−2 継続教育機関(略)

本来、継続教育は自主的な個人学習や現任教育(Inservice Education)、又正規の学校教育法に基づく卒後課程の大学院における学問的研究まで含めての広範囲な教育活動である。看護継続教育では専門職として看護婦の行なう看護の質の維持・向上・新たな能力を付加し、自己啓発を促すことが目標となる。3)
看護継続教育の中には図−2で示しているように、@卒後教育(Post Graduated)A現任教育(Inservice Education)を卒業した後の看護婦資格取得後の教育である。卒後教育としては、大学院研究科(修士・博士課程)での教育と公的に認められている施設、での教育である。大学院教育にしても、教育機関とした教育にしても、どちらも体系的・組織的に行なわれている教育と解釈することができるのではないだろうか。
もう一方の現任教育は、現在職業に従事している看護職者に対する教育で学習の場を院内とした時は院内教育、院外とした時は院外教育という。4)この教育を体系的・組織的という観点から評価すると、そ恩職場での教育を重視するためか、また看護基礎教育の多様さからか、「基準がないままに教育がおこなわれている」という感が拭いきれない。我が国において、看護の継続教育が何時から行われたかについてみると"わかりやすい看護教育制度資料集"5)によると、看護基礎教育における最初の教育が、現在の助産婦教育であったことからか、継続教育に関しても助産婦教育が最初であった.すなわち、看護基礎教育が始まってから10年経過後の明治19年(1886年)に「産婆学研究」のため、渡米しての継続教育が最初のようである。その後基礎教育の施設が毎年のように開設される中で明治40年(1907年)に日本赤十字社による1年間の指導者教育が開始された。そこでは、社会状況に反映されてのことか公衆衛生に関する教育、救急看護に関する教育、又基礎教育施設の開設に備えての為か、指導者のための教育が目立つ.看護基礎教育として短期大学・大学が開設された頃から成 人・小児・母性などの卒後教育が実施されるようになった.又、現在のような大学院設置以前から体系・組織的な教育がされているものとして図−2の教育機関とした国立公衆衛生院、厚生省看護研究研修センター、千葉大学看護学部付属実践研修センター、神奈川県立大学校、日本看護協会看護研修センター、日本赤十字社幹部看護婦研修所などがあり、それぞれ重要な役割を果たしている。高学歴社会において看護基礎教育である。高騰期間として多くの看護大学が開設されていく中で、看護継続教育についても昭和40年(1965年)東京大学医学部保健学科に大学院(保健学)が開設された。54年(1979年)千葉大学大学院看護研究科(修士課程)、63年(1988年)聖路加大学大学院看護研究科博士課程等と順次設置された。このように研究科での教育が実施されるようになり、専門職としての基盤が作られるようになった.准看護婦資格の廃止、看護職名称の一本化等々が言われている中で、継続教育の一環としての高等教育機関である
「大学院教育」を推進させることと同時に現在医療に携わり、役割を担っている看護職、すなわち現任教育の質の向上と整備を積極的に進めることが重要である。


U・看護卒後教育の現状と問題点

1・看護卒後教育に関する問題(仮設)の所在

継続教育では看護婦個々日々の実践経験を自らの成長の場として自己学習すること、加えて系統的な教育を段階的に受け、看護の役割が十分に果たせるように成長・成熟を記すチャンスが与えられることが必要となる。
現在行なわれている継続教育のうち、各県看護協会及び支部・日本看護協会・その他病院で実施される院内教育や研修の現任教育に視点を当て、問題点を整理してみると以下の点が挙げられる。
1・教育内容の系統立てや関連性が考慮されず、散発的な内容になりがちである。
看護教育の必要性が「看護婦不足」といった、現場の要求に添った教育からの考え方、又、看護職者の資格や業務を規定する保助看法に規定されている内容から脱しきれない現状に止まっている。各県看護協会及び支部・日本看護協会・各病院内で同じような項目で教育が行なわれているが、各病院毎で行なわれ、その関連性が見当らず、関連性をも持たせることによる効果が期待できない。
2・看護職者の資質向上や職務の士気高揚につながっていない。
教育・研修の関連や教育内容の系統立て等の不足から、教育・研修を受けた者は前向きかつ積極的に進めようと思っても、受講した個人に還元されるのみで終わっていることが大半である。教育・研修を受講した者が職場においてどのように起用されるかについての規程もなく、又その責任もない状況に原因があるのではないだろうか。
3・講師基準が明確ではない。
看護に関する教育内容の多くは経験が反映されるが、担当する講師の多くは「教育学」を基本とした学習がないままに個々の経験から進めるためか、内容の系統・組織立てが不足である。又、看護教育課程も多様である。「専門職」としての教育体系の遅れもあり、卒後教育のための的確な講師が育っていない。
4・専任の教育担当者がいない(教育担当者としての教育をうけていない)。
各県看護協会及び支部・日本看護協会に専任あるいは兼任の教育担当や係が置かれており「教育計画を立案」の立場にあるが、その個人は「教育」についての学習がないままにその役割を責任持って進めなければならない状況がほとんどである。
5・受講基準や受講条件がばらばらである。
日本看護挙愉快に置ける教育は会員でなければ受講できない。各県看護協会及び支部の場合は会員であることが前提である。しかし、項目によっては非会員の受講を見とめる県もあり、各県ばらばらである。
6・受講期間がばらばらである。
受講項目や内容が同じでも開催日数が異なっている。
7・学習したい看護職者すべてが教育・研修に恵まれる機会いが少ない。
「看護職者の人材不足」「医療の高度化・複雑化」「看護職者の定数化」「変則勤務」等からか、受講の機会が少ない。
以上、7つの問題(仮設)が挙げられる。

2・看護卒後教育の現状調査

1・目的
Uの1で挙げた7つの問題(仮設)のうち、この論文では、1,2,3,4 についての正当性を明らかにする。
2・方法
1)日本看護協会・各県看護協会(含む支部)における、平成8年度の教育計画の調査
2)300床病院以上の自治体病院(無作為抽出)、123箇所における平成8年度の院内・院外教育の研修計画書と研修状況アンケート調査
3)1)、2)から現状を把握し、問題点を抽出する。
3・調査期間 平成9年2月〜6月
4・用語規定とその用語間の関連
1)看護婦の継続教育
主として現任教育で職業を続けながら行なわれる教育と修士・博士課程のように大学院において組織的・系統的に行なわれる教育である。基礎教育終了後に続くもので資格取得後も看護婦として学び続ける「生涯学習」に繋がる幅広い概念である。
2)卒後教育(研修)
看護婦の基礎教育に対比させた教育(研修)で、看護婦免許取得後の教育や研修
3)現任教育
看護婦の資格を持ち、現在職業に従事している人に対して行なわれる教育や研修
4)院外教育(研修)
院内教育(研修)に対比させて行なう教育や研修で、所属している病院や病棟以外で行なわれる教育(研修)で、ここでは主に看護婦の職業団体である看護協会における教育(研修)をいう。
5)院内教育(研修)
院外教育(研修)に対比させて行なう教育や研修で、所属している病棟や病院で行なう教育(研修)をいう。
6)看護職
保健婦(士)、助産婦(士)、看護婦(士)准看護婦(士)を一括していう。
5・調査結果
1)資料入手率
(1)平成8年度看護協会教育計画書 100%
(2)平成8年度各県看護協会教育計画書(47都道府県中43の回答あり) 91.49%
(3)平成8年度自治体病院々内教育計画書 85.56%
(4)平成8年度自治体病院々内教育状況把握アンケート 73.17%
6・Uの問題点(仮設)の正当性を明らかにする。
(1)仮設 1・教育内容の系統立てや関連性が考慮されず、散発的な内容になりがちである。
平成8年度日本看護協会教育計画書からみると、日本看護協会と各県の看護協会(含む支部)は看護職の職能団体であり、各々で「現任教育」の中心としての役割を果たし、組織として連携されている。例えば、ニホンカンゴ協会員であるためには各県看護協会の協会員であることが前提とされる。現任教育の実際において連携されているかという点をみると、表−1の日本看護協会の「中央における教育計画書」と表−2の各県看護協会において実施された項目で「老人看護」をみると、日本看護協会計画書の看護実践領域として計画され、各県看護協会では43都道府県のうち、26の看護協会が実施している。開設項目のみでは、連携の有無は把握しかねるが「老人看護」の項目を開設していない県看護協会がある、ということであり連携までには至らないとともに、各県によって、開設項目が異なることを示し、日本看護協会との連携もとられていないと言えよう。又、各県の開設項目からみて「看護研究」については回答があった病院すべてにおいて実施されている項目である。その項目について調査対象とした病院々内研修項目表−3をみると、80%の病院が「看護研究」という項目を研修項目とし て入れている。表−2をみると各県看護協会の項目として「看護研究」が入っているが、その県内の病院において「看護研究」の研修項目が入っていない状況から、「関連性」がないと思われる。

表−1 日本看護協会「中央における教育計画書」(略)

表−2 各県看護協会における教育計画書(略)

表−3 各病院の研修項目(略)

(2)仮設 2・看護職者の資質向上や職務の士気高揚につながっていない。
看護職を「専門職」と位置づけ、変化しつつある社会の医療へのニーズに対応できる実践能力を必要とする現在の病院の状況から考えると、看護を担う者が自らの職務の研鑽に努力し、資質向上に努めることは必要欠くべからざるものである。そのために日本看護協会における教育・各県看護協会における教育・各病院における教育が各々の目標に基づき進められている。これらの教育を効果的に実施することが資質向上や職務の士気高揚につながると考える。そのためには、調査結果である日本看護協会・各県看護協会・各病院における教育の連携の有無及び各々の研修受講者に伴う諸条件、すなわち、受講条件・受講後の評価・受講後の起用がどのようになっているのか等関連してくる。しかし、ここでは受講後の表か・受講後の起用から考えてみる。
〈1〉受講後の評価から
調査結果を表−4に示す。「アンケート調査をする」「報告書を提出させる」等から考えると、受講者にとって効果的な研修であったか、どうかを評価するというより、研修を企画した側の評価である。自由記載の中に「評価基準をどのようにすればよいか」ということが挙げられている。評価基準がないために資質向上や士気高揚につながっているか、どうか判断ができない状況である。

表−4 受講後のアンケート(略)

〈2〉受講後の起用について
調査結果は90病院中31施設は無回答であった。これは、研修が「受講者を起用する」というまでに至るほど効果的なものではない、という回答であろうか。しかし、回答のあった約30%の施設は受講した研修項目に関連する内容の指導者や委員会委員への起用、受講項目に関連した指導者、又院外から研修依頼された場合の講師等に起用されたという回答があった。
(3)仮設 3・講師基準が明確ではない。
「講師選定」に対して基準を持っているかどうか、であるが、表−5の通りである。「基準がない」が70%である。院内教育・県看護協会・日本看護協会での教育を考えた時、その規模で講師をきめておくことも一案ではないだろうか。「基準がある」と回答した27施設の中には@婦長経験3年以上、A担当科の責任者、Bスタッフ教育は婦長・主任、主任教育は婦長、婦長教育は副部長、全体教育は院外講師、C院外教育を受けた受講者、D1時間12,000円以内で引き受けてくれる人、等があげられていた。又、「院内」「院外」の講師のうちどちらが多いか、の質問に対して「院内が多い」が75.79%であった(表−6)。
院内教育で、実践に関した内容に主眼をおく場合は「院内」講師の方が適任である、とも言えよう。

表−5 講師選定基準
選定基準が「ある」 27施設(30%)
選定基準が「ない」 63 (70%)

表−6 院内・外どちらの講師が多いか
院内講師が多い 72施設 (75.79%)
院外講師が多い 63 (22.99%)
無回答 1 (1.05%)

(4)仮設 4・専任の教育担当者がいない(教育担当者としての教育をうけていない)。
教育担当者が「いるか」「いないか」を質問した。県看護協会においては専任教育担当者がおかれ、教育全般にわたって教育に関する事柄を引き受けている。院内の教育担当者について回答のあった90施設すべてに「教育担当者」が「いる」という回答であった。担当者は「専任か」「兼任か」については表−7の通りである。「教育担当者は誰か」の質問については表−8の通りであり、看護副部長が専任あるいは兼任で担当しており、「教育担当者」であるという明確な表現になっていない病院がほとんどである。急速に変化しつつある社会における医療へのニーズに対応できる実践能力を必要とする現在の病院から考えると、単なる経験の積み重ねによる学習ではなく資質の高い看護を提供するためには意図的・系統的に準備された教育が必要である。そのためには看護の卒後教育においても、教育基礎論等の学習背景をもった専任の教育企画担当者を置くことが望ましい。

表−7 教育担当者は専任か兼任か
専任の教育担当者がいる 36施設(40%)
兼任の教育担当者がいる 51 (56.67%)
教育担当者がいるが専任・兼任の回答なし 3 ( 3.33%)

表−8 教育担当者は誰か

担当者
専 任
兼 任
副看護部長 24施設 (27.59%) 25施設 (28.73%)
教育婦長 6 ( 6.91%) 20 (22.99%)
その他 6 ( 6.91%) 6 ( 6.91%)


3・調査結果からの問題点

Uの1・で整理した7つの問題点(仮設)のうち、4つについて考察をのべた。調査の中で新たに、次の3つの問題が判明した。
1・教育後の受講者の教育評価の評価基準がない。
日本看護協会・看護協会における受講者の評価については調査しなかった。病院調査での院内教育の教育評価は表−4であり、院外教育の教育評価は表−9の通りである。この評価についても、先に「受講者の士気高揚」に繋がっているかどうかで述べたように、教育計画を立案した立場からの評価であり、受講者側にとって効果的であったかどうかの評価になり得ていない。
2・受講料の基準がさまざまである。
日本看護協会の受講料については、表−10の通りである。この表から見ると、2,000円〜50,000円というように幅がある。又、計画書に受講料が明示されていない県看護協会も17県あり、受講料を徴収しているかどうか不明である。

表−9 院外教育評価

1 報告書を提出させる 83施設(92.22%)
2 病棟で発表させる 61施設(67.78%)
3 院内で発表させる 42施設(46.67%)
4 なにもしない 3施設(3.33%)
5 その他 7施設(7.78%)
6 無回答 1施設(1.11%)

表−10 受講料

2,000
3
8,000
1
31,390
1
3,000
1
9,000
2
36,000
1
4,000
4
11,000
1
45,000
1
4,500
3
13,000
1
50,000
1
5,000
1
16,000
1
記入なし
17
6,000
4
23,000
1

3・継続教育を行なうための、組織・設備が整っていない。
看護婦の継続教育を組織・設備を整えて実施するとはどのようなことを考えていけば良いのか、まず組織としては、院内・院外教育の目的を明確にし、効果的にするためにどのようにするか、受講者をどのように決めるか、どのような教育項目・内容が必要か、予算はどうするか等の基準を作成し、教育企画を立案することが必要である。設備は院内において考えると、場所・参加人数・参考図書等物理的についての物理的内容から人的についても含んで考えていくことが必要である。
以上、仮設で証明した7点(今回紙面の都合上、4点の証明である)と調査後に新たに出された3点の問題を整理してみると、以下のようである。
@教育内容の系統立てや関連が考慮されず、散発的な内容になりがちである。
A看護職者の資質向上や職務の士気高揚につながっていない。
B教育担当者の基準がない。
C受講条件・受講基準が明確ではない。
D講師基準がない。
E受講期間がばらばらである。
F受講機会が少ない。
G受講後の効果の評価基準がない。
H受講料がさまざまである。
I継続教育をおこなうための組織・設備が整っていない。
これらの問題を解決しながら、卒後教育を考えていくことが必要である。

おわりに

何時の時代においても、基礎看護教育卒業直後の看護者の多くは、就職して患者や同僚、又他の医療従事者との人間関係、看護技術の未熟さ、医学知識の未熟さ等医療全般にわたって不確実な要素があまりにも多いことに直面する。私立化し、経験を積んでいくに従って、卒業直後の不安が「何故、あんなに不安だったのか」と思うほどであったり、むしろ自信さえ持ち始めるようになる。未熟さが自信に変化するプロセスにおける経験を、ただ単なる個人の経験として見過ごすことではなく、体系的・組織的に「教育的システム」として基礎教育と卒後教育の関連性を持たせていくことが、生涯教育を意義あるものにしていくことが必要である。

引用・参考文献
1)稲田美和他 1996年 看護管理シリーズ7 「継続教育」 日本看護教育出版会
2)岡本包治著 1996年 「現任教育計画」 実業教育出版
3)「継続教育のあり方と構造 看護婦に求められる能力と教育内容」 1990.7 看護展望 メヂカルフレンド社
4)門脇豊子他編 1997年 「看護法令要覧平成9年度版」 日本看護協会出版会
5)川島みどり 1995年 「看護現任教育」 医学書院


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