生産管理論 2001年度中間試験問題

解答上の注意

問題1

文教工芸では,高級アンティーク家具修繕を行っている.家具の修繕には「分解作業」,「補修作業」,「組立・仕上作業」の3つの工程があり,それらに順に実施し,修繕作業を終える.各工程には専門の職人が一人ずつしかおらず,ひとつの工程で同時に2つ以上の修繕依頼品を扱うこはできない.

さて,休み明けに早速4点の依頼が届いた.作業見積もりを行った結果,各依頼家具の修繕に必要な各工程での必要日数は以下の表の通りとなった.

  分解作業 補修作業 組立・仕上作業
家具A 11日 4日 5日
家具B 11日 2日 9日
家具C 5日 1日 10日
家具D 9日 5日 7日

以下の問いに答えよ.

(1) 家具A→家具B→家具C→家具Dの順に修繕作業を実施したとする.その時の各工程での作業状況を図示したガントチャートを描け.
(2) 4つの家具の修繕順は何通りあるか?
(3) 4つの家具の修繕に要する総経過時間をなるべく短くしたい.どのような順序で修繕を行えばよいか.提案せよ.また,その案での総経過時間も求めよ.


問題2

ある工場では,毎日1kgの産業廃棄物が排出される.この産業廃棄物は,工場内の特殊保管庫で一時的に保管され,工場からの依頼に応じて専門処理業者により一括処理される.専門業者は工場からの依頼があると, すぐに処理作業を行い,依頼された量の産業廃棄物をすべて工場外に搬出する.

この産業廃棄物の保管や処理に要する費用は以下のようにまとめられる.なお,1ヶ月は30日,1年間は360日で換算する.

特殊保管庫の機能維持費 産業廃棄物1Kgを1年間保管し続けると10万円の費用がかかる.この費用は時間と量に比例する.例えば,半年間1Kgを保持した場合は,5万円であり,1年間80Kg保管し続けた場合は800万円の費用がかかる.
処理業者へ支払う費用 産業廃棄物の量にかかわらず処理依頼1回当たり50万円がかかり,さらに,産業廃棄物1Kgあたり1万円を請求される.例えば,産業廃棄物40Kgの処理を依頼した場合は,

50万円+40Kg×1万円=90万円

請求されることになる.

以下の問いに答えよ.

(1) 現在は過去の慣習に従い, 特殊保管庫に40Kgの産業廃棄物が溜まった時点で,業者に処理を依頼するようにしている.現在の方法で産業廃棄物を管理した場合,特殊保管庫内の産業廃棄物量の変化の様子を横軸を1年間の時間経過,縦軸を産業廃棄物量にとしたグラフで表現せよ. なお,開始時は特殊保管庫内の産業廃棄物の量は0と仮定する.
(2)

現在の方式で産業廃棄物の保管と処理にかかる年間の総費用を求めよ.

(3) ある一定量が特殊保管庫に貯まった時点で処理を依頼するという方式は簡便なので続けたいのだが,「ある一定量」を40Kgにする根拠は見当たらない.そこで,保管に必要な年間総費用を最小にするように見直しを行ってみたい.適切な「ある一定量」を求めよ.
上で提案した「ある一定量」が特殊保管庫に貯まった時点で,業者に処理を依頼しることにした.

ところで,産業廃棄物の保管に関し新しい規制が制定され,50Kgを超す量の保管をする場合は,50Kgを超えた時点で必ずある薬品を注入する処理を行わなくてはならなくなった.50Kgちょうどの時点で業者に処理を頼む時は薬品の注入は必要ない.この薬品の注入には1回当たり22万円の費用がかかる.

(4) 新しい規制の導入により,産業廃棄物の保管に必要な年間の総費用はどの程度増加する求めよ.
(5) 新しい規制の導入により,小問(2)で提案した「一定量」を変更する必要はあるか?必要がある場合は,新たな「一定量」を求めよ.必要が無い場合は,その根拠を示せ.
   

問題3

(問題3と問題4のどちらか一方を選択し解答しなさい)

各枝に正の重みが与えられたグラフがある.このグラフ上の全点を張る木の中で,枝の重みの総和が最小なものを「最小木」とよぶ.この最小木は「クラスカル法」と名づけられている以下のアルゴリズムで求められることが知られている.

クラスカル法
ステップ1
(初期化)
集合Eを与えられたグラフの枝集合とし,集合Tを空集合とおく.
ステップ2 集合Eが空集合になるまで以下の(*1)〜(*2)の操作を順に繰り返す.
  (*1)集合Eで重み最小の枝をひとつ選ぶ.選ばれた枝をeとする.集合Eから枝eを除く.
(*2)枝eを集合Tに加えた時に,集合Tに閉路が存在しない時,集合Tに枝eを加える.集合Tに閉路が存在する時は何もしない.
ステップ3 現在得られている集合Tが最小木になっている.(終了)

次の問いに答えよ.

(1) 図1で与えられたグラフの最小木を求めなさい.答えは,グラフを図示し,最小木を構成する枝を太線にすることで示しなさい.

図1 グラフ

(2) 与えられたグラフの点数がn個,枝数がm本である時,最小木を求める問題の入力サイズを求めよ.
(3) クラスカル法をできる限り効率よく実行したい.どのような点に工夫を加えると効率よく実行できるか.工夫を加えるべき箇所を挙げ,その方法を説明せよ.
(4) 上記で提案した工夫を加えた上でクラスカル法を実行した際の,クラスカル法の最悪計算量を評価せよ.ただし,評価結果は漸近計算量で表現せよ.
(5) n=1,000,000(点数が百万),m=3,000,000(枝数が三百万)のサイズのグラフ上で最小木をクラスカル法で求める.1秒に1億回演算可能なコンピュータを用いて導出を試みた場合,おおよそどの程度の時間で最小木を導くか求めなさい.なお,必要ならlog102=0.3010とみなし利用してよい.

 

問題4

(問題3と問題4のどちらか一方を選択し解答しなさい)

図2のような距離関係にある4つの場所を順に回って,出発した地点に帰ってきたい.

以下の問いに答えよ.

(1) 家から出発し,家→競技場→学校→公園→家と順に回って,家に戻ってきたとする.移動に要した総距離を求めよ.

図2 4つの場所間の距離

(2) 家から出発し,3つの場所を順に回り,家に帰ってくる方法は何通りあるか.
(3) 家から出発し,3つの場所を順に回り,家に帰ってくるルートのうち,総移動距離を最小にするルートを求めよ.その際,どのようにそのルートを導出したのかの過程と,そのルートが最短である 根拠を必ず明記せよ.
(4) 順に回ってきたい場所の数が家を含めてnヶ所の時,(3)で用いた方法の最悪計算量を評価せよ.
(5) 小問(3)で用いた方法で最短のルートを導出する.n=16のとき,1秒間に1億回の演算が可能なコンピューターを用いて計算を行った場合,おおよそどの程度の時間で最短ルートを導くのかもとめなさい. 必要ならば,16!=20922789888000,15!=1307674368000として,利用してよい.

作成: 根本 俊男(文教大学情報学部経営情報学科)
  e-mail: nemoto@shonan.bunkyo.ac.jp
実施: 2001年11月6日

配点と講評