卒業研究論文

レジに準備すべき釣り銭の提案

文教大学 情報学部 経営情報学科 4年
小田倉 友紀

第1章.はじめに

  
1-1 研究動機
私がアルバイトをしているスーパーのレジでは、毎日、不足する硬貨・紙幣がほぼ決まっているので、 現在の開店前に用意する釣り銭の枚数に疑問を感じた。 現在よりもより良い釣り銭の準備方法があるのではないかと考え、 どの金額をいくら用意すればよいか、新たな最適案を提案したい。

  

1-2 研究意義
営業中の両替は、クリスマス、バレンタインなど、忙しくなる時期、両替に行くことよって売り場が手薄になると、 お客様を待たせることになってしまい、サービス業として致命的である。そこで両替に行かなくて良いよう、 レジに予め用意する釣り銭の枚数を提案したい。
この研究によって、両替の手間を一切省くことができ、また、無駄な両替をすることもなくなると考えている。
無駄な両替とは、例えば千円札を補充した後に千円札が入ってきて、その時点で両替しなくても良かった場合を指す。

  

1-3 最適の定義
ここで言う最適とは、最初に用意する枚数をいかに少なく抑えるか、と言うことであり、 最後に残る枚数は問題にはしない。途中で釣り銭を切らさず、かつ、準備する枚数が低い程、最適であると考えている。 と、いうのも防犯上、レジにはなるだけ高額を入れておきたくないという理由の為である。
そこで、最適な釣り銭の準備枚数を私がアルバイト先で得たデータ(消費者行動)から、 開店時に用意する釣り銭の最適案を提案したい。また、より現実に近くする為に、 支払い時の硬貨、紙幣の使用制限はせず、クレジットカード、各種ギフト券(商品券)の使用も適用する。



第2章.現状の分析

  
問題点
ここでは、現在、つり銭の設定がどのようにされているのか、 また、現状の問題点について述べる。 現在、開店前のつり銭は、事務側が設定した枚数が常に準備されている(表1参照)。 この枚数がどのような根拠で設定されているのかは不明である。 また、準備金は、どこのレジも皆一緒であるが、売り場によって単価、売上にバラつきがあるので、 このままの設定で良いのだろうか。
ところで、事務側が設定した枚数というのは、予め事務から渡されるレジカードに 準備金のデータが入力してあり、その入力された枚数がそれぞれ支給される仕組みになっているので、 勝手に釣り銭を用意することは不可能である。しかし、レジカードはレジごとに用意されており、 事務側が承諾すれば各々、準備金の設定を変更することはできる。

表1.現在の開店時における準備金の初期設定
金種 準備する枚数 金額
5,000円札 4枚 \20,000
1,000円札 20枚 \20,000
500円玉 20枚 \10,000
100円玉 1本(50枚) \5,000
50円玉 1本(50枚) \2,500
10円玉 2本(100枚) \1,000
5円玉 1本(50枚) \250
1円玉 1本(50枚) \50
合計 \58,800

よって、問題点は現状の準備方法ではデータに基づく根拠が一切なく、 レジごとの差も全くないという点にある。用意する枚数も日ごとに改善されることもないので、 それぞれの売り場で毎日、同じ金種が不足するという事態が起こってしまっている。



第3章.アプローチ

そこで、最適なつり銭の準備枚数を求める為に、 どの金種をどの程度用意すべきなのか、私がアルバイト先で実際に収集したデータ (合計金額、支払い金額と枚数(表3参照))を用いてExcel によるシミュレーション実験(3-2)をし、 開店時に用意する釣り銭の最適案を提案したい。

3-1 観察によるデータ収集
売上データとして扱う、主な商品単価(表2)と、 合計金額とそれに対して支払う金額、及びその発生確率(表3)は以下の通りである。

表2.主な商品単価
主な商品単価
\200 \400 \1,000 \2,500 \3,300 \4,500 \6,000
\300 \500 \1,500 \2,800 \3,500 \4,900 \6,900
\350 \600 \1,900 \2,900 \3,900 \5,500 \7,900
\380 \980 \2,200 \3,000 \4,300 \5,900 \9,800

表3. 合計金額と支払い方法、及びその発生確率

 

3-2 モデルの設定
 
・支払い時の硬貨、紙幣の使用制限はしない。
(700円の支払いに、100円玉7枚でも、500円玉1枚+100円玉でも可)

・クレジットカード、各種ギフト券(商品券)の使用も適用する。
(お金同様の扱いだが、釣り銭に使用できない為)

・少なくなってきた金種で払ってもらえるような要求はできない。
(支払い方法はあくまでお客様自身の意思による)

・釣り銭は必ず最小枚数で返金する。
(最小枚数とは、例えば釣り銭が60円の場合は、必ず50円玉+10円玉で返金する)

・ただし、お客様に嫌がられるので2000円札は除く。
(釣り銭として使用しない)

制約:機械の都合上、1〜100円玉は50枚単位でしか用意できない。
また、5円棒金と1円棒金はいずれかの組合せでペアにして用意する。
≪5円1本+1円1本、5円2本、1円2本≫
(例えば5円2本+1円1本で用意することはできない)



第4章.プログラミング

ここで、第3章のデータを用いてのプログラミングをしてみたがところ、 乱数による合計金額を出すことはできたが、余りにも多様すぎるパターンの為、合計金額に応じた支払い金額のプログラムが困難となった。 また、Excelの限界でプログラムエラーになってしまう。

表4.合計金額を出すプログラム

第5章.アプローチの変更

乱数を用いたシミュレーション実験がExcelの限界でプログラムが困難なので、 他の方法によるアプローチを考えなければならない。 第4章のプログラムは第3章で述べたように、実際に売り場で収集した500件のデータから出したものなので、 もとの500件の売上げデータの並び替えを繰り返してシミュレーションを試みた。



第6章.実験

  
ここで、観察から得た500件のデータをもとに、1日の売上件数(顧客数)を変化させ、無作為抽出を繰り返した。 クリスマス、バレンタイン、年間で最も忙しい時期を500件、新学期、父の日、母の日など、贈り物の時期でほどほどに忙しい時期は250件、 その他の平日では100件として考えている。実験のモデルは第3章で述べたもので、以下では、1日の売上件数が500件(6-1)、250件(6-2)、 100件(6-3)と設定し、各実験ごとに実験結果と考察を述べる。

6-1-1実験
収集したデータ500件によるシミュレーション実験(1日の売上件数:500件)を行う。

表5. 1日の売上件数:500件におけるシミュレーション実験のモデル

6-1-2実験結果
  
何度か実験を繰り返すと以下のような結果が得られた。

金種(円)

   1,0000

5,000

2,000

1,000

500

100

50

10

5

1

平均不足枚数(枚)

0.00

16.67

0.00

29.67

4.00

99.33

2.67

2.33

52.67

1.67

最大不足枚数(枚)

0

18

0

43

7

111

7

7

60

5

6-1-3実験結果の検討
では、6-2-2から得た結果から、制約をふまえて、 用意すべきつり銭の枚数を考えると以下のようになる。

表6-1. 1日の売上件数:500件における最初に用意すべき枚数
1本=50枚

金種(円)

5,000

1,000

500

100

50

10

5

1

用意する枚数

平均値

17枚

30枚

4枚

2本

 

1本

 

1本

 

2本

 

2本

安全値

18枚

42枚

7枚

3本

制約をふまえた合計金額(円)

平均値

85,000

30,000

2,000

10,000

 

2,500

 

500

 

500

 

100

安全値

90,000

42,000

3,500

15,000

合計:130,600円<154,100円>
※実験結果からは1円は1本で十分であるが、制約から2本になる。
※同様に1円玉〜100円玉も制約によって用意する枚数が50枚単位で繰り上がっている。

この結果が本当に最適と言えるのだろうか?いや、最適ではない。 何故なら、500件のデータでシミュレーションをしたが、1日の売上件数が500件とは限らないからである。 売り場単価の特色上、必要枚数にバラつきがあるのは、あり得ることである。 (10,000円札、2,000円札の必要枚数が”0”なのは、釣り銭として出て行かない為)
そこで、時期によっても売上件数は変化するが、様々なパターンで実験を試みた。

6-2-1実験
収集したデータ500件によるシミュレーション実験(1日の売上件数が250件の場合)を行った。

6-2-2実験結果
何度か実験を繰り返すと以下のような結果が得られた。

金種(円)

   10,000

5,000

2,000

1,000

500

100

50

10

5

1

平均不足枚数(枚)

0.00

8.33

0.00

23.67

3.00

53.00

4.67

1.33

28.83

2.83

最大不足枚数(枚)

0

15

0

52

7

71

11

6

40

7

6-2-3実験結果の検討   
では、6-2-2から得た結果から、制約をふまえて、用意すべきつり銭の枚数を考えると以下のようになる。>

表6-2. 1日の売上件数:250件における最初に用意すべき枚数
1本=50枚

金種(円)

5,000

1,000

500

100

50

10

5

1

用意する枚数

平均値

9枚

24枚

3枚

2本

 

1本

 

1本

 

1本

 

1本

安全値

15枚

52枚

7枚

制約をふまえた合計金額(円)

平均値

45,000

24,000

1,500

10,000

2,500

500

250

50

安全値

75,000

52,000

3,500

合計:83,800円<143,800円>

6-3-1実験
収集したデータ500件によるシミュレーション実験(1日の売上件数が100件の場合)を行った。

6-3-2実験結果
何度か実験を繰り返すと以下のような結果が得られた。

金種(円)

   10,000

5,000

2,000

1,000

500

100

50

10

5

1

平均不足枚数(枚)

0.00

5.10

0.00

15.60

3.50

27.40

3.00

2.20

12.70

1.70

最大不足枚数(枚)

0

13

0

32

7

45

8

6

24

7

  

6-3-3実験結果の検討
では、6-3-2から得た結果から、制約をふまえて 用意すべきつり銭の枚数を考えると以下のようになる。

表6-3. 1日の売上件数:100件における最初に用意すべき枚数
1本=50枚

金種(円)

5,000

1,000

500

100

50

10

5

1

用意する枚数

平均値

6枚

16枚

4枚

1本

 

1本

 

1本

 

1本

 

1本

安全値

13枚

32枚

7枚

制約をふまえた合計金額(円)

平均値

30,000

16,000

2,000

5,000

2500

500

250

50

安全値

65,000

32,000

3,500

合計:56,300円<10,880円>


ここで、売上件数別の最適案と現在の初期設定をまとめると、以下のようになる。

表8.開店時における準備金の初期設定一覧
1本=50枚

金種

5,000

1,000

500

100

50

10

5

1

 

現状

用意する枚数

4枚

20枚

20枚

1本

1本

2本

1本

1本

58,800

合計金額(円)

20,000

20,000

10,000

5,000

2,500

1,000

250

50

1日の売上件数:500件

用意する枚数

平均値

17枚

30枚

4枚

2本

 

1本

 

1本

 

2本

2本

 

130,600

安全値

18枚

42枚

7枚

3本

制約をふまえた合計金額(円)

平均値

85,000

3,0000

2,000

1,0000

 

2500

 

500

 

500

100

 

154,100

安全値

90,000

42,000

3,500

15,000

1日の売上件数:250件

用意する枚数

平均値

9枚

24枚

3枚

2本

 

1本

 

1本

 

1本

1本

 

83,800

安全値

15枚

52枚

7枚

制約をふまえた合計金額(円)

平均値

45,000

24,000

1,500

1,0000

2500

500

250

50

143,800

安全値

75,000

52,000

3,500

1日の売上件数:100件

用意する枚数

平均値

6枚

16枚

4枚

 

1本

 

1本

 

1本

1本

 

56,300

安全値

13枚

32枚

7枚

制約をふまえた合計金額(円)

平均値

30,000

16,000

2,000

5,000

2,500

500

250

50

108,800

安全値

65,000

32,000

3,500





第7章.最適案の実証

ところで、第6章で得た結果が本当に最適案なのだろうか。 結果的にはある程度、納得のいく数字が得られたと考えているが、実際にはどうなのだろう。

7-1 最適案の適用
第6章で得た結果をもとに、それぞれを最適案を1日の売上件数によって、 それぞれ実際に適用して最適案を適用した。
本来なら、開店時に最適案の枚数を用意すべきなのだが、先にも述べた通り、現実問題として不可能なので、 現在、開店時に用意されている金額と営業中に両替した金額の合計金額と、最適案と比較する。


表8. 実際の 1日の売上件数(100件,150件,200件)の現金有り高と最適案の比較

7-2 考察
第6章で得た最適案を実際に適用すると、いずれの場合も、両替後の合計金額と閉店時の現金有り高から、 必要枚数を導き出した場合、最適案は必要枚数を上回っており、また、現状では常に1本余分にあった10円棒金が解消されている。
一概に、この案を適用すれば絶対につり銭が切れないとは言い切れないが(両替に行かなければ、その段階でつり銭切れを起こしていた 可能性もある)、現段階ではこれを最適案として提案したい。



第8章.おわりに

     
実際に適用して、ある程度は満足の行く結果を得られたが、まだ現実とはかけ離れていると考えている。 なぜなら、私が観察して得たデータをもとにしているので、データ収集時に支払わなかった組合せ方法が欠如している上、 合計金額のパターンもこれ以上の組み合わせになるはずである。実際はもっと多様なパターンの合計金額、支払方法になる。
今後の課題として、もっとより多くのデータの収集をし、シミュレーション実験をしたいと考えている。時間帯や時期(給料日前後)などに よってもお金の出し方に特徴がでてくるので、より細やかなデータを取り入れられれば、と考えている。 また、今回は安易にExcelを用いたが、プログラムが重くなってしまい、プログラムの限界や、不都合がでてきた。
もっとプログラムの勉強をし、また違うソフトを使用できれば、と思う。



謝辞、参考文献

  
根本先生を始めとして、同じ研究室のメンバーからのアドバイスや鋭い意見など、とても参考になり、励みになりました。 この場を借りて簡単ではありますが、感謝の意を述べたいと思います。本当にありがとうございました。

  

参考文献   
坪井達夫,『仕事で使うExcel2,000』エーアイ出版株式会社,1999   
横田“セール時における釣り銭準備問題”文教大学 根本研究室 卒業論文(1998)   
http://www.bunkyo.ac.jp/~nemoto/lecture/seminar2/98/yokota/ronbun/index.htm
  
プログラム   
根本俊男,“乱数を用いたシミュレーション”2,000年度レジュメ   
http://www.bunkyo.ac.jp/~nemoto/lecture/simulation/99/monte1.htm