はじめに 〜 3.ホームページの開設状況 まで           元へ戻る



はじめに

 インターネットの一般的な用途は、アプリケーションの観点からすると、WWW、電子メール、ニュースグループやFTPなどに対応して様々な種類が存在する。しかし人々の意志疎通を中心としたコミュニケーションの観点に立つと、用途は大きくは他者のホームページ・アクセスにおける情報収集、電子メールやニュースグループによる情報の授受、それにホームページ開設による情報発信の3種類に分けることが出来よう。

 日本では1995年からインターネット・サービス・プロバイダーが急速に増え始め、家庭からのインターネット・サービスの利用が進展し始めた。そして利用者は急速に増えつつあり、利用層は拡大し、利用の一般化が進みつつある。これらの状況下で、多くの人はインターネットが個人ユーザにどの様に利用されているかについて関心を持ち、色々な調査結果が報告されている(1〜5)。この中心的なテーマは、ホームページアクセスや情報収集・電子メール利用において、利用者がインターネットをどの様に利用しているか、という利用実態を明らかにすることである。拡大しつつある利用に対応して、既存メディアとの代替効果(3)や、利用者層の一般化に向けて初期段階とは大分変わりつつあること(6)も報告されている。

 インターネットの受信を中心としたこの種の利用の仕方に対して、もう一つ残されている従来にない新たな機能は、発信を中心とした利用であるホームページの開設である。インターネット利用者の一部の人たちは様々な目的のもとに自分のホームページを開設し、社会に対して自己の広報を行う様になって来ている。不特定の人々に対して簡単に、かつ能動的に個人広報が出来るホームページの開設は、従来は存在しなかった手段である。また草の根的なレベルでの社会の新たな関係、ないしは広く考えればそれを起点としての新たなコミュニティの形成を促進しうると言う点では、興味深いものがある。ホームページの進展は、社会構造を変えうる力を潜在的には備えていると言ってもよいだろう。また情報化社会の画一的管理可能性に対峙して、社会の多様性を保証する最も代表的な手段の一つと言うことも出来よう。

 この様な観点に立つと、個人ホームページがどの様に開設され、どの様なコミュニケーションが実現しているかの実態は、今後の個人ホームページとその社会的影響を考える第1歩としては関心が持たれる資料となる。個人ホームページ関係の調査としては、まだ川上等がオンラインによるインターネット利用者調査(4)の中で、開設・利用に関する状況を報告しているもののみに留まっている。これ以外には調査は見当たらず、継続的なコミュニケーションの成立と言う側面に視点が置かれたデータはない。そこでわれわれは96年12月に、一般の個人がホームページを開設し、それがどの様なコミュニケーションを実現しているかを調査した。調査の対象範囲は狭く、必ずしもサンプル数は多いものではないが、公表されている関連データが乏しい状況では紹介の価値があるものと考え、ここに調査結果を報告する。

1.調査の概要

 調査は大学周辺地域のインターネット・サービス・プロバイダーに加入し、個人ホームページ(以降では時としてHPと省略)を開設している人を対象に行った。方法は調査票の送付と回答ともに電子メールで行った。調査時期は96年12月1日から1週間である。サンプル数と有効回収数を表1に示す。有効回収数は約30%である。なお同表には知ることの出来たプロバイダーへの加入数を示している。その数と調査対象数との傾向を見ると、2つのプロバイダーについては、加入数460人に対してHP開設者は48人であり、初期加入者は約10%の人がHPを開設していることが分かる。

表1.1 調査のサンプル数と回収数
サービス・プロバイダー 調査対象数 有効回収数 有効回収率 プロバイダー加入数
藤沢インターネット
ネット16さがみ
Wellmet
33
15
106
11

27
33.3%
40.0%
25.5%
260
約200
非公開
合計 154 45 29.2%
(注)1. 調査対象数はそれぞれのプロバイダーにおいてHPを開設していた人数である。
     2. プロバイダー加入数は、96年11月末時点の各プロバイダーの加入者数である。

表1.2 質問項目
フェース :  年齢、性別、職業                           
開設行動 :  開設時期、開設目的                          
閲覧反応 :  閲覧者反応の有無、反応のメール通数、反応のメールの継続性
作成維持活動: HP作成者、HP更新頻度、作成難易、情報内容ポリシー,     
画像扱い、外部リンク依頼の有無、リンクサイトの種類、HP作成注意点
開設の評価 :  公開の満足度、目的達成度                                                  
その他 :  自由記述                                                                    

 また主な質問項目を表1.2に示す。開設行動とその後に成立したコミュニケーション行動(HPを閲覧した人が電子メールでどの様に反応(連絡)をしているか)、HPの作成・維持のためにしている活動、それに開設者の満足度や目的達成度を聞いている。
 なお今回の電子メールを利用したアンケート調査では、調査票を送信してから早いもので3時間後に返送されている。遅いのでも一週間程度で、返送されるものはほぼ出そろった。その即応性については非常に注目すべきものがある。

2.回答者の横顔

  調査結果を説明するに先立ち、回答者の横顔を説明しておく。まず回答者の年齢を図2.に示す。20歳代が6割弱を占める。次いで30歳代の約18%となっている。他の調査(1〜4)に見るインターネットの初期段階の利用者は20〜30歳代が極めて多く、今回の調査もその傾向を反映しているが、20歳代が特に多いことが特徴的である。

     図2.1 回答者の年齢(N=45)

      図2.2 回答者の職業(N=45)

 次に図2.2に職業を示す。学生と技術・デザイン系の会社員が非常に多く、この2つで70%強となる。これもインターネットの初期の利用者の特徴で、コンピュータ関係の技術者、コンピュータに親しんでいる学生が多く含まれている。
 なお回答者の性別は、男性が73.3%、女性は20.0%、無回答は6.7%であった。男性が多いのは初期加入者の特徴であるが、他の利用者調査では女性が10%前後であり、この場合には女性が比較的多くなっている。

3.ホームページの開設状況

(1)ホームページ開設の時期
 回答者が初めてホームページを公開した時期を図3.1に示す。プロバイダーがサービスを始めた時期は、95年10月、95年12月、96年2月なので、初期の立ち上がり状況をカバーしている。棒グラフの1本の棒は、2ヶ月間のホームページ開設者数である。最後の96年11月〜12月は2人であるが、調査時期が96年12月の初めなので、ほぼ1ヶ月分のデータであり、実際にはこの倍程度はあったであろう。
 


 
                図3.1 ホームページ開設時期(N=45)

  このグラフが示している特徴は、初期段階では半年程度で開設者数はピークを迎え、その後に減少に転じていることである。従ってホームページ開設者が今後どの様に増加し続けるかを考える際には示唆的である。と言うのは、ホームページ開設者数は単純に「プロバイダー加入者数」に比例して増え続けると言うことはありにくい、ことを示しているからである。

 他方でこの時期のHP開設者数の母体とも言うべきプロバイダー加入者数は、各社の説明によると、毎月ほぼ一定の増え方で増加していると言う。表1.1によると、96年12月時点での、(HP開設者数)/(プロバイダー加入者)は、10%程度と推定される。したがって、図3.1の示唆を踏まえれば、ホームページ開設者がプロバイダー加入者の10%を越えることは起こり難いであろう。ホームページ開設まで含めてインターネットを自宅で利用したいと思っていた人は、初期段階から早々にプロバイダーに加入し、ホームページを開設していく。その後開業から1年程度たつと比較的その種の人は少なくなって行く。その時点で加入者の約1割がホームページを開設しており、その後の加入者がホームページ開設者に転じていく比率はより小さいものとなろう。なお大手プロバイダーのrimnetでは、96年6月時点でのホームページ開設者の加入者に対する比率は、6〜7人に1人の割合としており(rimnet 2)、この場合は約15%程度と見られる。

 この様に見てくるとホームページを開設し、自ら情報発信している人は少数派で、大部分の人が他人のホームページを見て回るだけ、または電子メールなどの他の機能を利用しているだけと言うことになる。多くの人がROM(リード・オンリー・メンバー)に留まることを示している。パソコン通信の電子会議の研究(7)によると、パソコン通信の加入者に対する会議室の発言者の割合は、おおよそ10%強の水準にあり、比較的似通った数値である。ホームページ開設者もパソコン通信での発言者も自ら情報を発信することに変わりなく、この数値をみる限り、積極的に情報発信する人々は比較的限られていることを示している。現段階で10%であるから、インターネットがより一般化した時期では、さらに小さい比率となろう。

(2)ホームページ作成の目的
 次に、ホーム開設の目的を見ていく。ホームページはそもそも、情報発信するためのツールである。情報発信するからにはそれなりの目的があるはずである。その目的に対する回答を図3.2(複数回答)に示す。
 1番多かったのが「取りあえず作ってみた」というので17件。次に多かったのが「自分を世界にアピールしたい」、「同じ趣味の仲間を増やしたい」、「知らない人とコミュニケーションを図りたい」、「他の人の役に立ちたい」がほぼ同程度の10〜12件。「流行しているから」というのは少なく5件だった。「取りあえず作ってみた」という回答が一番多かったのは、やはりインターネットというメディアはまだまだ新しいのと、ホームページを開設した人でもまだ始めてから間もない人が多いので、そのような感覚をもつというのは当然の結果かもしれない。

           図3.2 HP開設の目的(N=45)
 

 しかし注目すべき点は「同じ趣味の仲間を増やしたい」と「知らない人とコミュニケーションを図りたい」という、「自分のコミュニケーションの場を広げたい」意欲であり、人とのつながりを得たい、新たな関係を作りたいという意図が含まれている。かなりの人がそう思っているという点が注目に値する。

(3)作成者と難易感
  開設したホームページを誰が作成したかと言う点では、「1.すべて自分」と「2.ホームページ作成ソフトを利用」とで合わせて96%であり、他人の力には頼らず殆ど自分だけの力で制作していることがわかる。

 またホームページ作成の難易感については、ホームページづくりは「1.非常に簡単」が27%、「2.まあ簡単」が47%で、簡単と思っている人が合計72%いる。他方で難しいと感じた人は20%いる。多くの人が独力で比較的簡単に作っている反面、苦労をしている人も若干は含まれるのが現状である。「2.回答者の横顔」でも述べた、初期のインターネット加入者はコンピュータに詳しい人が多い、と言う点を勘案すると、大部分の人はコンピュータ能力の高い人で、しかし中にはWindows95のブームで生まれた比較的初期のコンピュータ利用者で、技術は不慣れだが情報発信はしたい、と言う人たちも含まれていると言うことであろう。


次へ続く

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